第12章 魔王軍の進撃と古代の魔法

第683話 合流

 仲間たちと共に原獣の園の獣神ガルムの神殿で試練を受けたシアを迎えた。

 試練に1ヵ月要したので、8月の上旬に入った。

 アレンはあと2ヵ月ほどで17歳になる。


【アレンの年齢と主な出来事】

・00歳 アレン誕生

・01歳 魔導書獲得

・08歳 グランヴェル家従僕

・12歳 ラターシュ王国学園入学

・14歳 ローゼンヘイム参戦

・15歳 S級ダンジョン攻略、教祖グシャラ討伐

・16歳 プロスティア帝国侵入、審判の門攻略、神界攻略中

※一部年齢をまたがっているもの有り


 アレンたちはシャンダール天空国にある霊獣のいくつかある霊獣の吹き溜まりの中で、目的のある場所に、鳥Aの召喚獣の覚醒スキル「帰巣本能」で転移した。


 獣神ガルムを威圧するために召喚したSランクの召喚獣はカードに戻す。

 同じく威圧するためにやってきた、竜王マティルドーラとハクは空中を旋回した後、雲の地面にゆっくり着地する。


「立派な要塞だ。……なるほど、随分様変わりしたではないか」


 久々にやってきたシアは要塞内の床石に立ち、左右どもまでも伸び、遥か天まで建つ外壁を見上げた。

 高さ50メートル、幅はキロに達しそうな距離がたった1つの岩盤を切って作ったように見えるのは土の精霊の力によるものだ。


 視界のどこまでも続く要塞の外壁はあるところで90度に直角で折れ、シアの背後まで巨大な外壁が、ぐるっと口の字に囲っていることが分かる。


 原獣の園にはなかった雲の地面と、竜人たちがちらほらと外壁の中に建てられた建物から出てくる。

 アレンが転移したのはシャンダール天空国にある霊障の吹き溜まりの前に築かれた要塞であることが、シアにも分かった。


 だが、以前、グラハンを仲間にした霊障の吹き溜まりの要塞は、木材を多く使用した簡素で急ごしらえとも言うべき侘しいものであった。


(中央大陸でもこれほどの要塞はそうそうないからな)


 岩石から石材をくり抜き組み立てるのが要塞作りで一般的なのだが、この外壁にはつぎ目が全く見えない。


「ここの要塞も改築が終わったからな。ソフィーのお陰だ」


「張り切りましたわ! 霊石を集めてくれたせめてもの感謝です!!」


 シャンダール天空国にある霊障の吹き溜まりからは霊獣が発生する。

 どれだけ狩っても無限に沸いてくるのだ。

 これまで竜人たちが要塞を築き、守ってきたのだが、多くの犠牲を払ってきたという。


 天空国に住む竜人たちの中で10万人を超える守人たちが原獣の園で霊獣を狩りに来てくれたのだが、要塞に残された竜人もいる。

 神界には900万人に達する竜人たちがいるらしいのだが、霊獣を狩る守人の数にも限界がある。


 霊石を集めてくれたお礼も兼ねて、吹き溜まりから霊獣たちが跋扈しても残された仲間たちが困らないようソフィーにお願いして要塞を築いてもらった。


 ソフィーの魔力は、各種装備と仲間たちのバフもあれば、霊力と魔力は30万を超える。

 魔力をどれだけ込めたかで、土の精霊が作り出す要塞の強度は変わってくると言う。

 霊力も込めると精霊の力はさらに威力を増す。


【ソフィーが顕現できる精霊たち】

・火の幼精霊サラマンダー

・水の幼精霊ケルピー

・風の幼精霊エアル

・土の幼精霊コルボックル

・水の精霊ニンフ

・風の精霊ゲイル

・土の精霊ピグミー

・木の精霊ドライアド

・水の大精霊トーニス

・雷の大精霊ジン

・空間の大精霊ジゲン

・光の大精霊ライト


 仲間たちも改めて、ソフィーの建てた強固な要塞を眺める。

 

 見た目が巨大な要塞だが、強度は岩盤や鉱石などとは比べ物にならない。

 Sランクの魔獣でも魔神でも容易に破壊できないだろう。


「これはアレン殿!」


 弧の字に囲むように作られた要塞の内庭とも呼ぶべき場所には、いくつもの建物が立てられている。

 要塞の中央に建てられた建物の中から守主を務めるアビゲイルが出てきた。

 どうやら、アレンたちの到着に気付いた守人がアビゲイルを呼んでくれたようだ。


「ああ、アビゲイルさん。お迎えありがとうございます。そちらのお話の方は済んだのですか?」


「とんでもない。ああ、そうだな。人選について粗方に話が付いたぞ」


「ありがとうございます。ルキドラール将軍への情報提供も必要ですね」


「うむ」


 アビゲイルに迎えられ、アレンが提供した石材で作られた建物の中を会話しながら進んでいく。

 1ヵ月ほど獣神ガルムの試練を受けたシアだけが意味が分からなかった。

 耳を立てて、アレンとアビゲイルの話から状況の理解を進める。


 通された会議室でアレンたちは円卓に輪になって席に着いた。


「アレン軍にアビゲイル殿も入るというわけか?」


 シアは理解した話をアレンにぶつけてみる。


「いや、アビゲイルさんにはアレン軍に参加する竜人たちの選定と調整を竜神の里の神官たちと調整をしてくれていたんだ」


「ほう?」


 アレンは合流したシアに現在の状況を説明する。


 元々はエルフ、ダークエルフ、獣人で結成を目指し、ドワーフのゴーレム使いや魔導具師も参加したアレン軍だが、アレンの活動の範囲や世界の貢献もあって、規模は随分拡大した。


【現在のアレン軍の構成】

・エルフ3000人

・獣人3000人

・ダークエルフ2000人

・ドワーフ3000人

・魚人3000人

・鳥人2000人

・竜人2000人


 人間界を救い、世界に関わってきたアレンへの協力の手を各国が出してきた。

 参加する兵たちは才能の星の数はほとんどが『3』で、転職を済ませた剣聖クラス以上の精鋭部隊だ。


 最近では鳥人と竜人も部隊の参加の要請があった。


 アレンが幻鳥レームの神鳥への神格化への段取りを進めてくれたからだ。

 鳥人自体は他の種族に比べてもそこまで多くはないのだが、それでもそれなりの数の兵を出してくれた。

 幻鳥レームを神にしたいという思いが王家にとってかなり大きかったのだろう。


 星2つの兵は、転職ダンジョンで既に転職を済ませ、軍への編成を急いでいる。


 なお、魔王軍から救った魚人の国であるプロスティア帝国は兵を送った女帝ラプソニルは、どうもアレンのパーティーのイグノマスの監視を兼ねているようだ。

 平民コンプを爆発させたイグノマスはラプソニルの父であり皇帝を殺し、内乱を成功させている。

 今でこそ、内乱の影には研究長シノロム率いる魔王軍の影があったのだが、行ったことに許されるものではない。

 アレンたちに掴まり、野心を買われ、パーティーの仲間になっているのだが、どうもイグノマスを完全に信頼していないようだ。

 十分な数の兵を送り、その見返りも兼ねて、イグノマスの行動を監視させ、アレンたちに恩を売る形をとったのは皇帝の器だろう。


 さらに、バウキス帝国は元々数百人規模であったゴーレム使いと魔導技師団であったが、軍と呼べるほどの人数を寄こしてきた。


 転職ダンジョンで星3つの魔岩将の人数が帝国内に増えたこと。

 アレン軍や勇者軍などの活躍により、十分な数のミスリルゴーレムの石板が揃ったこと。

 こういった背景で、アレン軍に兵を出すのに十分な余力ができたのだろう。


 ただ、打算無き善意ではない。

 バウキス帝国としても、アレン軍への投資に近い考えのようだ。

 アレン軍が魔王を滅ぼせば、兵を送った国が覇権を握りやすい。


 そんなバウキス帝国はアレン軍だけでなく、勇者軍と連携を進めるガララ提督の軍にも多くのゴーレム使いを派遣している。

 流石は大国といったところで、抜け目の無さを感じる。


「アレン軍はますます活躍するというわけだな。ん? ガララ提督たちはいないな……。まだ大地の迷宮にいるというわけか?」


 シアはアレンの話を聞きながら、この場にガララ提督とパーティー「スティンガー」のメンバーたちがいないことに気付いた。


「どうぞ、こちらはお茶と菓子でございます」


「助かる。だが、菓子よりも肉を頂きたい」


「畏まりました。ご用意させます」


 この要塞にいるのは戦うための兵たちだけではない。

 仕事を求めて多くの竜人の平民たちが要塞で働いている。

 アビゲイルの世話役の1人がシアたちに対してお茶と菓子を運んできたのだが、菓子よりも肉が食べたいと、獣神ガルムとの試練で体力が消耗したばかりのシアは希望を口にする。


「アレン軍に続々と合流しているわけだな」


「そういうことだ。竜人たちも軍に参加してくれるって話になったんだ」


 アレンは霊石集めの協力を依頼するためにも、竜人たちへの恩返しにこの要塞を築いた。

 さらに言うと、竜人の部族間の協力関係や、原獣の園で手に入れた神界では高価な素材の取引を惜しみなく竜人たちに還元させた。


 随分、感謝をしてアレン軍にも兵をという話が出たのだが、竜神マグラの里の竜王マティルドーラが待ったをかけた。

 その話になると、窓の外からヌッとマティルドーラが会話に参加する。


『人間界の問題故にな。魔王に好き勝手させるわけぬは行かぬというわけよ』


 あくまでも人間界の話なので竜王マティルドーラが竜神の里から兵を出すべきだと、アビゲイルの案である守人からアレン軍という案を否定する。


 アレンが竜神マグラを召喚獣にしたことで、自らの行動に対して決断があったようだ。

 これ以上神界でやることもないと、アレンがいない場合、竜王マティルドーラがアレン軍を率いる役を務めると言う。


「む? 竜王がか?」


 シアは湯気の出るお茶を啜ると肉食獣のように険しい顔をアレンに向けた。


「何か不満か?」


「軍が増えるのは喜ばしいことだ。だが、アレンよ。余の右腕であるルドがいるのだが……」


「ああ、その辺はルドさんも納得している。年長者を選んだからな。マティルさんもそれで納得してくれた」


 シアが幼少の頃から従っているルドではなく竜王マティルドーラを選んだとアレンは言う。


『ふんっ。きやすいがまあ良い。種族が多いと我も大変よな』


「ほほう?」


「……シアさん。これは理解してください」


 ソフィーが分かった感を出してお茶を啜りながら、顎に親指と人差し指を当て、分かった感を出して何も分かっていない。


「む? 分かっておる。既にエルフとダークエルフで揉めたのであろう。新たな問題を起こすつもりはない」


 シアの言葉にソフィーはホッとしているようだ。


 アレン軍はあらゆる種族が参加することになり大きくなり過ぎた。


 軍結成当初は、アイテムや情報の収集、5大陸同盟軍の強化などを目的にしていたのだが、アレンの活動範囲の広がりと共にあらゆる種族を迎え随分と大きくなった。


 アレンたちが一同に集まり、今後の活動について話が続くのであった。




あとがき

―――――――――――――――――――――――――――――――――

12章を開始しました。

ストックがないため不定期更新です。


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コミカライズ版ヘルモード最新話はこちらで読むことができます。

⇒https://www.comic-earthstar.jp/detail/hellmode/

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