第508話 霊獣ダニエス戦

 アレンたちは、守人長のアビゲイルに案内されて霊障の吹き溜まりの奥地へと向かう。

 今回も全員に「浮遊羽」をつけて、地上数メートルの場所を飛んで移動する。


 移動しながら、アレンはあることに気付く。


(そういえば、この森はかなり広いぞ。何で居場所が分かるんだ)


 万里眼で全域を見たが数百平方キロメートルの深い森だ。

 歩いて横断しようと思ったら1カ月は掛かるだろう。


「強い霊獣は吹き溜まりの中を移動しないってことですか?」


「いや、移動はするのだが、よくいる縄張りのようなものがあるのだ」


 力のある霊獣たちは与えられた定位置がいくつかあり、その箇所を転々と移動していると言う。

 今向かっている先は、目当ての亜神級の霊獣がかなりの確率でいる場所だとか。

 長年、守人として吹き溜まりの霊獣から人々を守ってきた経験の蓄積なのだろう。


 アレンは、万里眼を使い、吹き溜まり全域にいる霊獣の場所を抑えている。


(まもなくか、中々の制約だな。万里眼だけではお目当ては見つけられないと)


 アレンの鑑定眼、追跡眼はクワトロが対象の100メートル以内に近づかないと発動しない。

 万里眼で森の中を見渡せても、特徴のある霊獣が多すぎる中、霊獣の知識があまりにも少ない。

 どれがお目当ての霊獣なのか、案内をしてくれるアビゲイルたちに教えてもらうに限る。


 100メートルもないところまでやってきた。


 小一時間もしないうちにアレンたちは移動を止める。

 亜神級の霊獣がすぐ先にいるので、このまま戦闘に入るようなことはしない。


「マクリス、ロイヤルガードとロイヤルオーラを掛けてくれ」


『任せるのら~』


【魚Sの召喚獣マクリスのロイヤルガードの効果】

・体力、耐久力3000上昇

・体力、耐久力10パーセント上昇

・全ダメージ30パーセント減少

・体力秒間200回復


【魚Sの召喚獣マクリスのロイヤルオーラの効果】

・体力、魔力10パーセント上昇

・攻撃力、知力5000上昇

・全攻撃ダメージ30パーセント上昇

・クールタイム50パーセント減少


 光の雨が降り注ぎ、アレンたちに力が湧いてくる。

 特技「ロイヤルガード」と覚醒スキル「ロイヤルオーラ」の効果は重なる。


 キールやロザリナにもバフを掛けるように指示をして、補助魔法全開にしていく。


 アレンたちがバフでステータスを強化していく中、吹き溜まりの森の上空で、ダンジョンマスターのディグラグニの声が聞こえる。


『お! メルル。霊獣を狩ってるじゃねえか!!』


「うん、ディグラグニも手伝ってくれるの?」


『もちろんに決まってるだろ。これで、俺も亜神に成れるのか。お前らに協力してよかったぜ。自分に感謝だ』


 なんか上空で自らの欲望に正直なダンジョンマスターの声がするなとアレンは思う。


「じゃあ、いくよ。ディグラグニオオオオオオオオオオオオオオン!!」


 クワトロの万里眼がメルルのタムタムがディグラグニと合体する様子を捉える。

 上空を飛ぶタムタムのさらに上空に魔法陣が現れ、真黒に輝くディグラグニが現れる。

 全身のパーツが分割され、タムタムの体を覆っていく。

 漆黒の体に真紅のタムタムの体がちらりと見え、デザイン的にも色合い的にも強者感が溢れている。


「マジかよ……」


 一緒に飛んでいたガララ提督が絶句する。

 ゴーレム使いという中央大陸の人々からは、常識の範囲外にいるガララ提督だが、それ以上の衝撃だ。


 神界に達したアレンたちの仲間であるメルルはとうとうディグラグニすら仲間にしたのかと驚きを隠せない。

 ガララ提督の仲間たちも同じ心境のようだ。


(それにしても、ディグラグニが亜神ね。亜神ならメルルをエクストラモードにできるのか? ディグラグニとの交渉がまた1つ増えるな)


 エクストラモードは現在、ドゴラ、クレナ、シアの3人だ。

 どうも神としての格が上がらないと、人々をエクストラモードにできないらしい。

 霊獣狩りでディグラグニが亜神や神に至れば、仲間がもう1人エクストラモードになれるのかと考える。


 メルルのエクストラモードへの交渉にどう話を持っていくかと、悪い顔が止まらない。


 アレンの思考が進む中、タムタムのステータスはディグラグニの強化外骨格を手に入れ、ステータスは10万を超える。


 タムタムのディグラグニとの合体もバフかけも終わったところで、さらに進攻を開始する。


『ギュルルルル!!』


 吹き溜まりの奥で、特異な鳴き声が聞こえてくる。


 万里眼で確認すると下半身はサソリのようだ。

 ケンタウロスのように上半身があり、両手はサソリの爪がある。

 体全身が青白い炎に包まれており、深く息を吐いているのか、口元からも青白い炎を漏らしている。


 下半身部分のサソリの顔からのようだ。


(強いな。随分な年だが、これまで長らく狩られていないからか)


 アレンは鑑定眼を発動し、霊獣のステータスを鑑定する。

 亜神級とあって、これまでのどの霊獣よりも強い。


 【名 前】 ダニエス

 【年 齢】 8290

 【種 族】 ソウルクラッシャー

 【体 力】 98700

 【魔 力】 78900

 【霊 力】 64500

 【攻撃力】 99700

 【耐久力】 96700

 【素早さ】 87800

 【知 力】 59700

 【幸 運】 0

 【攻撃属性】 呪、毒

 【耐久属性】 氷、雷、毒、物理耐性


(やばい、攻撃属性「呪」がある。だが、ステータス的に勝算はあるぞ)


「……やはり、あらぶっているな」


 アビゲイルが眉を顰め、緊張感が伝わる口調で告げる。


「分かるのですか?」


「ここは目的の場所ではない。随分行動範囲が広くなっているぞ」


 目的の場所はもう少し先であった。

 随分距離があったのだが、ここまでやってきてしまっているようだ。

 少し前に話を聞いたネスティラドという霊獣が躍動していることと関係があるのかと思う。


「敵は1体、陣形を取りつつ攻めるぞ。各自持ち場についてくれ」


「ドゴラ、無理に攻撃を直撃させるな。常に後退する陣形で行くぞ」


 攻撃属性に「呪」があった。

 呪属性は受けると、呪われてしまい傷の完治ができなくなったりする。

 完治させるには、「聖水」が必要で、中には聖水でも効果が薄い、強力な呪いも存在する。


 ドベルグは強い呪いを受けてしまい、片目が回復せず今でも眼帯をしている。

 今のところ、ドベルグの目を完治させる方法は見当たらない。


 攻撃を受けることは避けるため、前衛、中衛、後衛は定位置に固定せず陣形だけ維持する作戦を取る。


「遠距離攻撃を主体に行くぞ!!」


 アレンは鳥Fの召喚獣の特技「伝達」を使い戦いの号令を上げる。


『ギュロロロォ!!』


 さらに近づくと、霊獣ダニエスがアレンたちに気付き、両の爪を掲げ突っ込んでくる。


「ソフィアローネ様、お下がりを! むん!!」


 すごい勢いで突っ込んで来る霊獣ダニエスに対して、弓矢を射る。

 この弓は「天魔の弓」という名前で、試しの門攻略中に手に入れた最高ランクの弓だ。

 発射に矢は要らず、魔力を1000消費して、魔力の矢を放つ。


 魔力消費が、スキルの威力に大きく依存する世界で、通常のスキルに魔力が1000上乗せされるのは大きい。

 魔力を大量に使うが、その分大きな威力を発揮し、S級ダンジョンでは高い耐久力を誇るアイアンゴーレム相手にも大ダメージを与えてきた。


 霊獣ダニエスの人間部分の心臓付近に光り輝く矢が吸い込まれていく。


 キン!!


 フォルマールの放った光る矢は、霊獣ダニエスの胸に当たると砕け散るように消えてしまった。

 全くダメージを与えられなかったようだ。


 【名 前】 フォルマール

 【年 齢】 70

 【職 業】 弓王

 【レベル】 60

 【体 力】 3736+2400

 【魔 力】 1949

 【霊 力】 1949

 【攻撃力】 3965+2400

 【耐久力】 2960+2400

 【素早さ】 3428+2400

 【知 力】 1566

 【幸 運】 1972+2400

 【スキル】 弓王〈6〉、遠目〈6〉、火竜撃〈6〉、強弓〈6〉、剛弾〈6〉、打起〈2〉、弓術〈6〉

 【エクストラ】 光の矢


 【武器】オリハルコン製:攻撃力20000、命中率50パーセント

 【防具】精霊法衣:耐久力6000、魔法耐性上昇、ブレス耐性上昇

 【指輪①】攻撃力5000、攻撃力5000

 【指輪②】攻撃力5000、攻撃力5000

 【首飾り】攻撃力3000、攻撃力3000

 【耳飾り①】物理攻撃ダメージ7パーセント、体力2000

 【耳飾り①】物理攻撃ダメージ7パーセント、体力2000


(そこまで攻撃が通じないステータス差じゃないはずなんだが)


 フォルマールのステータスは、魔法具師のカサゴマによる魔法具の強化によってかなりの強化ができた。

 試しの門を攻略中に魔法具使いの神技が手に入った影響はとても大きいと考えている。

 その結果、圧倒的なパーティー全体の強化につながった。


 マクリスらの強力なバフを貰っても、亜神級の霊獣にダメージを与えられなかった。


「ちょっと、私に任せなさい! メガファイヤ!!」


 距離を詰めてくる霊獣ダニエスに対して神技を発動させたセシルが、攻撃を開始する。

 神技を発動し、知力と魔力が1万上昇したセシルの火魔法レベル3がダニエスの体を炎で包み込み吹き飛ばす。


 召喚獣になったばかりのクワトロと違い、後衛用の聖珠は10日に1回生成するマクリスによって十分ある。

 セシルの魔力と知力の向上、クールタイム減少効果はとても大きい。


 クールタイムを計算し、複数の属性の魔法を交互に放ちながら、ガンガン後方に押し込んでいく。


「ソフィーもメルルたちもこのまま遠距離攻撃で削り倒せ」



「分かりましたわ、アレン様、風の精霊ゲイル様、強靭な風の刃で敵を切り裂いてください!!」


 ソフィーは風の精霊ゲイルを顕現させ、全てを切り裂く風の刃に霊獣を包み込む。


『おら、俺に信仰値を寄こせや!!』


 上空でディグラグニの欲望丸出しの叫び声がする。


「うん!! タムタムも行くよ!!」


『はい、メルル。殲滅します』


 ディグラグニの強化外骨格を纏ったタムタムが超長距離攻撃を連射する。


『ギュロ!?』


 態々呪いを受ける攻撃を直接受けるような近距離の戦いを行う必要はない。


 ガララ提督のゴーレムたちも攻撃を開始する。

 石板をバルカン砲などの遠距離攻撃主体にし、命中精度の高い遠距離攻撃を加え続ける。


 出発前、この吹き溜まりの木々は大切だとアビゲイルから聞いたような気がするが、爆音と共に草木の生存できない焼け野原に変えていく。


(よしよし、このまま体力を削り切るぞ!!)


 鑑定眼によると霊獣ダニエスの体力は、攻撃手数の圧倒的暴力によって削られ続けている。

 ステータス差が大きいため、そこまで一気に倒しきれないが、距離を詰めさせなければどうということもない。


 アレンもマクリスに特技「フリーズキャノン」を使わせ、ガンガン体力を削る。


 このまま、倒せると思ったその時であった。


『ギュルロロロ!!』


 霊獣ダニエスが大きく鳴き、サソリ部分の体を屈ませ、重心を低くした。

 アレンはこの行動から次に何をするのか容易に想像できる。


 主に近接戦を得意とする敵が体を低くするときにやることは1つしか思いつかない。

 予想通り、両手のハサミを前に突き出し、一気に突っ込んでくる。


「ミラー、全反射だ。はじき返せ!!」


 アレンは成長レベル9まで上げた石Bの召喚獣を召喚する。


『……』


『グルオ!?』


 成長レベル9まで上げても霊獣ダニエスにステータスは及ばない。

 それでも8万ほどに達する耐久力で、ダニエスの体当たりを大きな円状の盾で受け止める。

 そして、威力を倍増させてダニエスに反射させた。


 かなりの致命傷であったようだ。

 ダニエスは体中から青白い炎が血の様に噴出する。


 クワトロの特技「鑑定眼」でも体力は3分の1以下となった。

 それでも数本砕けたサソリ部分の足でよろめきながらも立ち上がろうとする。


 その状況に遠距離攻撃をする後衛のために守りに徹していた2人の前衛が動き出す。

 エクストラモード組のドゴラとシアだ。


「シア、止めさすから、かき乱してくれ」


『ああ、分かった、ドゴラ。ビーストモード!! グルオオオオオオオ!!!』


 ドゴラの言葉にシアがスキル「ビーストモード」を発動する。


 少し距離を取るドゴラを置いて、獣と化したシアが突っ込んでいく。


『ギュルルル!!』


 猛然と走るシアに合わせるようにサソリ部分の尾の先端にある巨大な針で攻撃しようとしてくる。


『獣王爆砕拳!!』


 巨大な針の先端を避け、シアは針の攻撃に合わせるように攻撃スキルを発動する。

 オリハルコンの拳が針を爆散させる。



(おお! シアも順調に強化されているな。ビーストモードも優秀と)


 審判の門攻略の前に、獣神ガルムによってエクストラモードになったシアはS級ダンジョンでレベルとスキル上げに励んでいた。

 この3カ月の特訓と、魔王軍の拠点襲撃作戦によってレベルがカンストした結果、亜神級の霊獣であってもそこまで苦戦しないようだ。


 エクストラモードに達したシアのスキル「ビーストモード」は成長を遂げていた。


【ビーストモードの効果】

・発動時間は1時間

・消費魔力は1万(1万以下は全魔力だが、効果は下がる)

・対象者の攻撃力5000、素早さ5000、物理ダメージ10パーセント上昇

・対象者周囲半径50メートルの獣人に対して、攻撃力3000、素早さ3000、物理ダメージ5パーセント上昇、効果1時間

・スキルレベルが1上がるごとに、自らの攻撃力5000、素早さ5000、物理ダメージ10パーセントずつ効果が上昇する

・スキルレベルが1上がるごとに、獣人たちの攻撃力3000、素早さ3000、物理ダメージ5パーセントずつ効果が上昇する

・スキルレベルが1上がるごとに、獣人を強化できる対象周囲を100メートルずつ広がっていく


 ドゴラが神器カグツチを上段に持ったまま全魔力を集中させる中、シアが縦横無尽に霊獣ダニエスの人間の上半身部分の両腕にある巨大な爪を破壊していく。


『ドゴラ、準備ができたぞ!!』


 獣と化したシアが大きな声で叫ぶのと同時にドゴラが突っ込んでいく。

 ドゴラの攻撃が当たりやすいよう、シアは霊獣ダニエスのサソリ部分の足も1本2本と破壊し、機動力を奪う。


「全身全霊!!」


『ギュッラッピャ!?』


 ドゴラのスキル「全身全霊」は霊獣ダニエスの頭から下半身のサソリ部分まで真っ二つに切り裂いた。


(ドゴラ、シアコンビなら亜神級もいけるのか。体力削った状態だったけど。経験値はと?)


 アレンのレベルが上昇したことを示すログが魔導書に流れている。


『霊獣を1体倒しました。信仰値10億を取得しました。霊力1億を取得しました。神力1億を取得しました。転職ポイント5ポイントを取得しました。レベルが140になりました。体力が1500上がりました。魔力が2400上がりました。攻撃力が840上がりました。耐久力が840上がりました。素早さが1560上がりました。知力が2400上がりました。幸運が1560上がりました』


「ぶっ!? レベル10アップ」


 亜神級の霊獣ダニエスを倒すとアレンのレベルが一気に10上がった。


『ウオオオオオオオオ!! 亜神になったぞおおおおおお!!』


 アレンが驚く中、上空ではディグラグニの絶叫が広がるのであった。

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