第501話 シャンダール天空国
雲上の道を通った先にある門を開いた先は大きな街があった。
街の名前はボアソと言うらしい。
「なんか、雲の上に普通に建物が建っているわね」
木製や石製の建築物があり、神界に住む人がポツポツといるようだ。
雲が盛り上がった場所もあったりと、見なれない光景が広がっている。
(ここにいるのは竜人と神界人か。竜人は審判の門を過去に越えてきて移り住んだ者たちかな)
巨大な門の先から数十人のアレンたちがやってきた。
何者だと竜人と神界人の視線がアレンたちに集まる。
【神界人の特徴】
・獣耳も尻尾も鱗も翼もなく、耳も長くない
・色白で美男美女が多い
・茶髪のくりくり毛、ブラウンの瞳
・白いフワフワとした古代ギリシャのような服を着ている
アレンたちの様子を門番たちも見つめている。
「この時期に、審判の門を越えてくる者がいるなんて……」
「……ちょっと、族長に連絡をしてくる」
アレンたちの背後で、2人の門番が族長への報告が必要だと話をしている。
(ん? 報告だと。クワトロ、報告に行く竜人に「追跡眼」発動だ!)
『承りましたわ』
アレンは「何の報告だ」と、クワトロに特技「追跡眼」を使わせる。
クワトロはアレンたちのいる場所から何キロメートルも離れているのだが、難なく特技「追跡眼」の対象として門番を視野に捕捉する。
(おお、門番の後ろにいるような感じだな)
共有したアレンにも特技「追跡眼」によって得られた情報が入ってくる。
門番の後ろ数メートルのところからずっと追尾するように、対象を追跡できる。
特技「追跡眼」 の効果の検証もかねて「族長への報告」とは何なのか確認することにする。
アレンがクワトロに指示をする中、ソフィーが地上では見ない物を発見する。
ゴリゴリゴリッ
「これは何でしょうか」
門の前はちょっとした広場になっており、その先を歩いていると太さ10メートルほどの電柱のような棒が、地面に突き立った状態でグルグルと回っている。
ソフィーがこれは何だと首をかしげる。
「お! なんか面白そうだな。って、うあわああ!?」
ルークが面白がって巨大な棒に抱き着くと、回転の力でゴロゴロと吹き飛ばされる。
人を1人、2人、簡単に吹き飛ばすほどの力強い勢いで回っているようだ。
「なんか、前世で見た風車のように見えるな。頭に羽はないな。回転の力で水を流しているのか」
クワトロの視線で、回る柱の先端を見る。
雲の地面に突き刺さった柱の上には水路が設置されていた。
柱の回転で動力を得て、上空に設置された水路が水を運んでいる。
運ばれた水は上空に設けられた水路を通り、別の回転する柱や、大きな建物の外壁から中に運ばれていく。
よく見ると回転する柱がこの広い街にいくつも点在している。
中には回る柱が突き刺さった建物もある。
アレンは魔導書に収納した「水」を雲上の地面に零してみる。
結構な量を流してみたのだが、水は雲上の地面に全て吸収された。
(神界では、水路が随分高いところにあるんだな。水は雲上の地面だといくらでも吸収するからこんなことをしているのか)
この水路のお陰で神界の街は立体的に感じる。
アレンが前世で健一をしていたころ、景観を良くするため電線を地面に埋めようとする流れになっていたことを思い出す。
神界では逆の発想のようだ。
「何か気になることあったの?」
セシルが思いのほか、アレンが回る柱に関心を示したため、何が気になるのかと尋ねてくる。
「いや、何でこの柱は回転しているんだろうって思ったんだ。モグスケいけるか?」
『合点承知でゲス』
口調に個性を感じるモグラの姿をした獣Fの召喚獣を召喚した。
成長レベル9まで上げたら会話ができるようになった。
アレンの指示により、獣Fの召喚獣はザザザッと柱の近くの雲上の地面を掘り進めていく。
掘り進めること数百メートルのところで、共有した視界が雲の終わりを発見した。
(なるほど、大陸のように巨大だが、あくまでも雲の上と。あれは風車か)
地面を掘り進めた先には、5つの大陸が見える。
眼下に地上の人間世界が広がっていた。
アレンたちのいるアメリカ大陸ほどもある巨大な国であるシャンダール天空国は、雲の上にあり、人間世界の遥か上に存在するようだ。
柱の先端は雲の先まで伸び、巨大な風車が風に当たり回転をしていた。
この回転で得た動力を、シャンダール天空国の住人たちは生活に活用しているようだ。
よく見たら、地上の大陸はゆっくりと動いていることが分かる。
どうやら、シャンダール天空国のある雲はゆっくりと天の上を移動しているようだ。
(上空にこんな巨大な雲なんて見たことないんだがな)
人間世界と神界の間には、無の世界という虚無の空間が存在するらしい。
視界的には雲の下には人間世界が広がっているのだが、このまま飛び降りてもたどり着けないだろう。
「なるほど、まだまだ、探索してみよう」
アレンは納得したので、門を離れて街の内部に向かうことにする。
クワトロの万里眼だと、どうもこの辺りの門の付近は街の外れで何もないようだ。
少し歩いたところでにぎやかな声が聞こえてきた。
「お! 市場だ!!」
ルークが真っ先に反応する。
神界人と竜人がごった返した市場が広がっている。
ルークは果物らしきものを木箱に並べているところに足早に向かう。
アレンたちもルークのいる、日よけのテントのようなものを上部に設けた出店に足を進めることにする。
「あいよ、何にする? って、見慣れないけど、もしかして、下界からやってきたのかい?」
「そうだぞ。おっちゃん、モルモの実も売ってんだな」
ルークが店主と思われる竜人と当たり前のように会話をする。
(店主は竜人か。才能はなさそうだな)
【名 前】 ゴボチ
【種 族】 竜人
【年 齢】 48
【体 力】 64
【魔 力】 40
【霊 力】 0
【攻撃力】 43
【耐久力】 40
【素早さ】 27
【知 力】 15
【幸 運】 29
【攻撃属性】 無
【耐久属性】 無
アレンは当たり前のように鑑定する。
「もちろんだ。何でも売ってるよ。それは1つ金貨1枚だよ」
「ぶっ!? 俺がガキに見えるからっておっちゃん、ふざけているのか! たけえよ!!」
ふざけるなとルークは拳を握りしめ抗議をする。
「はぁ? 坊主、何言ってんだ?」
店主はルークの抗議がよく理解できなかったようだ。
(たしか、クレナ村では銀貨1枚でモルモの実が4つ買えたような)
農奴だったころ、怪我を負った父のロダンのために村の市場まで買い出しに行ったのは良い思い出だ。
「そうですか。とりあえず3つください」
アレンは魔導具袋から金貨を3枚取り出して店主からモルモの実を3つ貰う。
「あいよ」
アレンは3つのモルモの実を受け取ると1つはルークに渡す。
人間世界の金貨は通用する様だ。
もう1つは手を差し出してきたのでドゴラに渡す。
シャリシャリ
「普通にモルモの実だぞ!!」
アレンが口に出す前にルークがただのモルモの実だと言う。
ドゴラもそうだなと頷いている。
魔導書に入れて見るが、何の変哲もないただのモルモの実だ。
高価だから魔力の回復など特別な効果を期待したが、そんなことはなかった。
「おい、アレン、ちょっと来てくれ。あれもこれも高いぞ!!」
キールが何か叫んでいる。
どうやら店先に並べられた武器の値段を聞いて、ルークと同様に驚いているようだ。
(出店の武器か。こういうのってあまりいい物、置いていないんだが神界ではどうなんだ)
アレンが叫ぶキールの下に行く。
日除け用のテントを天井に掲げ、布の上に武器を並べてあるようだ。
こういうフリーマーケットスタイルの店は、あまり良い物に出会えたことはない。
武器を買うなら、大きな街の一等地に構えたような店に限ると経験から知っている。
キールが握っているのは変哲もないただのスタッフだ。
グランヴェルの街で買えば、金貨3枚もしないだろう。
「普通のスタッフだな」
クワトロの鑑定眼では、スタッフの効果まで分からないが、魔導書の中に入れても特別な名前がついていないことが分かる。
現在キールが装備しているスタッフに比べたら価値がないと言っていいほどだ。
「そうだろ。これが白金貨5枚とかいうんだぜ」
「……要らないんなら、返してくれねえか」
愛想の悪い竜人の店主が手を差し出したので、何の変哲もないスタッフを返してあげる。
「どう思うよ?」
アレンに自分の感覚が間違っていないかキールが確認してくる。
「確かに高いな。白金貨なんて久々に聞いたぞ」
アレンたちが住んでいる人間世界にも白金貨が存在した。
その上には光金貨も存在する。
あまりに高価なので国家事業や街のインフラを作るときにしか見ないような希少な通貨だ。
白金貨はアレンが前世でいうところの白金(プラチナ)で、光金貨は金剛石(ダイヤモンド)で出来ている。
【硬貨の価値比較】
・光金貨1枚
・白金貨100枚
・金貨1万枚
・銀貨100万枚
「ちょっと、広い市場なんで皆で手分けして何かないか見てみようか」
アレンの言葉でワラワラと散っていく。
小一時間ほど回って予想は確信に変わったが、何もかもが人間世界の数百倍の値段がする。
(なんかこの状況に既視感があるな。それにしても店主は竜人ばかりと)
アレンは前世のゲームで、立ち寄った街が制作者の遊び心か、回復薬も何もかもがとんでもない値段の村があったことを思い出す。
市場の中央で散った仲間たちと情報を共有することにする。
「これってどういうことでしょうか。神界の人々は買い物に困らないのかしら」
ソフィーが難しい顔をしている。
「多分、この神界は雲の上ということもあって、物が不足しているんだろう」
もしくは白金貨や光金貨が手に入り易いかどちらかだと言う。
アレンは自らの分析の状況を仲間たちに語る。
この神界は雲の上に在って、物資の供給がとても少ないのだろう。
雲の上なので鉱山がないので鉱石もとれない。
土がないので穀物や果物を生産するのも大変なのだろう。
(とりあえず、霊力回復薬は白金貨20枚か)
購入は控えたが、1つ金貨にすると2000枚で霊力回復薬が売ってあった。
前世の価値に変換すると金貨1枚10万円と予想しているので、2億円もする。
アレンの財力であれば買えないわけではないが、買うのをためらう値段であることは間違いない。
「なるほどね。アレンって、お金にも詳しいわね」
セシルが納得したようだ。
たしかに、雲の上というだけで不便なこともあるだろう。
「それでどうしますの?」
ソフィーはこのまま市場を回り続けるのかと聞いてくる。
「そうだな。あまりめぼしい物もないし……」
高いことは分かったがどうしても必要な物もなかった。
(ようやく来たか)
話をしながら、アレンは背後を意識をする。
アレンの用事がある竜人がアレンの背後にやってきていた。
「すまないが、そこの者たち。族長のソメイ様がお会いしたいと言っておられる」
「族長がでしょうか?」
アレンが振り向くと、門番をしていた竜人だ。
この竜人には追跡眼を使っているので、足取りやここにやってきた経緯もアレンは知っている。
「そうだ。すまないが、こちらに来てくれぬか?」
門番は族長のところに案内すると言う。
「ええ、まあ、いいですよ。ちょっと、仲間たちを全員呼んできますね」
アレンはヘルミオスやガララ提督のパーティーも呼びに行く。
ガララ提督やロゼッタが神界のお酒が高すぎてプリプリと怒っていた。
酒を飲まないアレンにとって興味のない話だが、メルルの絶望した顔を見るとドワーフにとっては死活問題なのかもしれない。
仲間を全員呼んで3パーティーが連れられて小一時間ほど歩いて移動する。
大きな建物が連れて来られた先にはあった。
「族長の館だ。どうぞ入ってくれ」
アレンたちを呼んだ族長の館に入っていくのであった。
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