第135話 分断

「ドゴラ、セシル!!」


 ドゴラとセシルがBランクの魔獣との戦闘中に姿を消した。ドゴラが足元にある転移罠を踏んでしまった。セシルも巻き込まれて2人だけが、同じ階層のどこかに飛ばされてしまった。


(やばい、よりによってあの2人か)


 回復役もいないドゴラとセシルが、この広大な迷宮のどこかに飛ばされてしまった。辺りにはBランクの魔獣が徘徊している。


 アレンはすぐに行動に移す。召喚獣隊は常に3部隊が経験値と魔石の回収に動いているのだが全てしまう。削除し、ホルダーを開け霊Cの召喚獣の作成を始める。


(まずはどこにいるか発見して、回復薬をもっていかないと)


 クレナにまだ生きているサイクロプスのとどめを任せて、アレンは魔導書を動かし始める。既に作成が済んでいる霊Cの召喚獣から順次飛ばしていく。


 霊Cの召喚獣は、アレンの指示の下、ダンジョンの壁を透過し真っ直ぐ直進して行く。手には命の葉と、魔力の種をいくつか握らせている。

 通常の回復薬は壁を透過できないが、草系統の召喚獣で作成した回復薬は透過できる。


「アレン、どうするんだ? 俺たちも探しに行くのか?」


「いや、このまま闇雲に探してもしょうがないから、まずは位置の確認とマリア達を応援に行かせることを優先しよう」


 既にBランクの魔獣を倒して、アレンの側にいるクレナとキールも心配そうだ。


(一応、ドゴラとセシルにも回復薬を渡しているからな。あとバフの効果もまだ消えないはずだ)


 ドゴラとセシルには全体体力回復の命の葉と、全体魔力回復の魔力の種を10個ずつ渡してある。もちろん、ここにいるクレナとキールにもだ。今回のことを想定してのことではない。


 アレン自体が意識を失うことも、死ぬことも想定しての行動だ。冒険に絶対はないので、アレン離脱後に仲間がダンジョンから帰還できるようにするための保険だ。


 そして、Bランクの魔獣を倒すため、パーティー全体に魚系統の特技及び覚醒スキルを使っている。なお、魚系統のバフは半径50メートル以内にいれば有効だ。


・魚Cの特技「サメ油」

 クリティカル率、魔法暴走率上昇。効果は24時間。


・魚Dの覚醒スキル「まき散らす」

 物理攻撃及び魔法攻撃一定確率無効。10パーセント程度。効果は1時間。次のスキル発動までのクールタイムは1日。


・魚Cの覚醒スキル「サメ肌」

 一定確率でのクリティカル、魔法暴走発生。効果は1時間。10パーセント程度。クールタイムは1日。



 敵からの攻撃は必ず受けるわけではない。一定確率で回避するのだが、この「回避」は、敵の素早さやスキルレベル、そして攻撃を受ける側の素早さなどが勘案され発生する。


 回避するとダメージを受けない。

 なお、魔法については、計算式が物理攻撃と違うようで、物理攻撃に比べて結構攻撃を食らう。


 魚Dの召喚獣の特技「飛び散る」は、物理攻撃と魔法攻撃の回避率を上昇してくれる。魔獣の素早さやスキルレベルなどは分からないが、体感でもわかる程に上昇する。


 そして、魚Dの召喚獣の覚醒スキル「まき散らす」はそんな敵の攻撃を絶対的に1割無効にする。敵がどんなに素早くても、敵がどんなに強力な魔法を使っても10回に1回は当たらない。1時間で効果が切れてしまうが、正直ぶっ飛んだ能力だと思う。


 そして、会心と暴魔という概念が物理攻撃や魔法攻撃にある。ダメージが2倍になるのだ。これも攻撃する相手の素早さやスキルによって、その発生率は変わってくる。急所を攻めた時も発生しやすいようだ。


 ダグラハに切られまくったときは、会心の攻撃を食らいまくった記憶がある。


 そして、魚Cの召喚獣の覚醒スキル「サメ肌」は、そんな会心と暴魔が絶対的に1割発生するようになる。敵がどんなに素早くても、当たった攻撃の1割だ。


 先ほど、オークキングとサイクロプスへの攻撃時に4つのバフを掛けたばかりだ。


 霊Cの召喚獣を四方八方に飛ばして30分が経過する。


 「おらああああああああああああああ!!!!」


 「フレイムバースト!!」


(いた!! あっちか!!!)


 霊Cの召喚獣が壁を透過して進んだ先でドゴラとセシルの声が聞こえる。

 見つけた場所は行き止まりになっている小部屋だった。


 真っ先に目に入るのは、血だらけになりながら、セシルを背に戦うドゴラの姿であった。


 ドゴラを囲むように3体のBランクの魔獣がいる。2体のバジリスクキングと1体のオーガのようだ。どうやら、小部屋に追い詰められているようだ。


 既にこの30分で回復アイテムを使い切ったのか、額からの血で片目がふさがっている。


 ドゴラは斧を片手で握りしめ、7メートル近い巨躯のオーガと交戦中だ。その後ろでセシルが魔法で応戦している。


(やばいな。マリア、ポルターガイストだ!!)


『はい皆殺しデス!!! ポルターガイスト!!!』


 霊Cの召喚獣が覚醒スキル「ポルターガイスト」を発動する。すると100個の灰色のバレーボール大の球が現れ、一気に魔獣達に向かう。

 1個1個が特技「サイコ」と同じ威力がある霊Cの召喚獣の全体攻撃だ。消費魔力は100。クールタイムは1日のスキルだ。


 3体のBランクの魔獣を皆殺しにする。そして、命の葉でドゴラとセシルを回復させる。


『無事ですか?』


「……ああ、ちょっとやばかったけどな。助かったぜ」


 ぜーはー言いながら、ドゴラが援軍に安堵する。


『もうすぐ助けに来ますので、ここで動かずに待機を……』


『『ブルルッ!』』


 マリアが言い切る前に、目の前に新たな魔獣が現れる。どうやら近くにまだ魔獣がいたようだ。ノシノシとヒュージボアが2体やって来る。


「……ここで魔獣を倒しながら、待機ね」


 セシルがワンドを握りしめ呟く。こういう状況であるが、セシルの顔に恐怖はないようだ。


(やばいな、戦闘は続くぞ!!! マリア達、場所を変更だ)


 四方八方に散った20体の霊Cの召喚獣に向かう場所を指示する。全く別の場所を探している霊Cの召喚獣は一度カード化し、手元に戻し再召喚してから向かわせる。


「ドゴラとセシルは無事だ」


「本当か!」


「場所が分かったから、これから3人で向かう!」


「うん、分かった!」


 3人とも鳥Cの召喚獣に乗り込み、走り出す。


「クレナ、キール、韋駄天を使うからしっかりフランに捕まって。フラン達、韋駄天を使って!」


『『『キュウウウウイ!!!』』』


「わ!?」


「な!?」


 韋駄天は鳥Cの召喚獣の覚醒スキル。

 効果は1時間の間、推定時速300キロメートルで走ることができる。次の覚醒スキル発動までのクールタイムは1日だ。


 掛け声と共に、鳥Cの召喚獣の大腿部がかつてないほどの強張りを持ち走り出す。首を地面と平行にし、一気に駆け抜けていく。90度カーブでも減速せず突っ切っていく。

 横から慣性がかかるが、鳥Cの召喚獣の背中の羽を握りしめ進んでいく。


 キールが「こんなの無理だ!」と言うが、鳥Cの召喚獣の誘導はアレンがするから振り落とされないように伝える。


 今回も罠対策のために3体の鳥Cの召喚獣が先行して進む。魔獣が出てくるが、無視して無理やり進んでいく。


 魔獣の動き、道順の確認、霊Cの移動など無数のことがアレンの頭の中で処理されていく。


(無事にたどり着いてくれよ)


 そして、ドゴラ達の場所が分かってもアレン達は壁を通過できない。韋駄天を使えば目的地に直ぐに着けるかといえば、そういうわけにはいかない。迷宮となっているので、ぐるっと回り込まないといけないことも考えられる。


 しかし、調べている暇はない。多少道を間違えても直進したときの方向は分かっているので、韋駄天の移動速度でカバーする。



 そして、移動を開始して1時間ほど経過する。


 道がかなり入り組んでいて、とても真っ直ぐは進めなかったので、進む道を修正しながら進んでいく。目的地は決まっているので時間の問題だ。


(お、いたいた。よかった)


「うらああああああ!!!」


 ドゴラがBランクの魔獣オーガを切り倒すところで、皆が合流する。


 ドゴラとセシルの周りには20体もの霊Cの召喚獣が浮いている。既に回復薬を持って万全の状態になっている。


「良かった、無事だったか?」


「ああ、まあ飛ばされたときにはやばいと思ったが。すまなかったな。俺が罠を踏んだばかりに」


 ドゴラから謝罪がある。自分のせいでパーティーに迷惑をかけてしまったと思っているようだ。

 謝罪など不要と、皆で無事でよかったと声を掛け合う。


「だけど、今回は結構やばかったな。やはり罠探知できる斥候入れたほうがいいのかな」


 アレンはここに来るまでに思っていたことを口にする。今回、罠を探知できる職業を入れていたら回避できたかもしれない。


「ん~、どうだろ。ここまで進んで今更感はあるけどな」


(まあ、確かにそうだな)


 キールはこれから6人目を入れるのはどうかと言う。学園の生徒だと、これからC級ダンジョン3つの制覇から協力しないといけなくなる。


「私とキールが戦闘時に後ろに下がり過ぎていたわね。アレンの真後ろ程度にするわ」


 ドゴラと一緒に飛ばされたセシルも反対のようだ。戦闘時の立ち位置の調整をするようだ。


・魔法陣はそれなりの大きさがあるので、その範囲内で常に固まって動く

・霊Cの召喚獣を常に複数体召喚し、前方のクレナ、ドゴラの辺り、後方のセシル、キールの辺りに常にいるようにする

・回復薬を多めに各自所持する


 罠解除だけのために1人入れてもといったところだろう。

 とりあえず斥候を入れることは保留となった。


「さて、ちょっと道を逸れてしまったが攻略に戻るか」


「「「おう!」」」


 アレンの掛け声と共に、A級ダンジョンの攻略は進んでいくのであった。

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