第504話 霊獣戦①
アレンたちは守人長アビゲイルの頼みを聞くことにした。
「これから、この場にたくさんの霊獣が向かってくるということですね」
クワトロの特技「万里眼」でもかなりの数の異質の存在がこちらになだれ込んできているのが分かる。
「そうだ。千や二千で利かない数の霊獣たちだ!!」
霊獣の吹き溜まりと呼ばれる霧が立ち込め、鬱蒼とした森林の中から飛び出てきた斥候担当の守人は言う。
斥候担当の守人の言葉を聞いて、要塞の上にいる多くの守人たちは青ざめている。
これから数千の霊獣と戦わないといけないことを想像しているようだ。
「しかし、この状況で、助勢していただけるとは助かる」
「数十人程度の人数で何だというのだ」
「しかし、彼らは審判の門を越えたという話らしいぞ」
アレンたちが何なのか分かった守人たちから期待や絶望の声が溢れる。
「えっと、では」
(要塞戦か。久々だが、随分心もとない砦だな。クワトロにはもう一度、敵数の把握に万里眼を使わせてと。えっと、もう5分も時間がないな)
守人たちの期待も不安も他所に、アレンの思考は一気に戦闘モードへ移行していく。
最初に思ったことは自らの足場となっている塞だ。
木を組んだ10メートルを超える要塞だが、随分脆弱に思える。
ブロッコリーやレタスを大きくしたような植物の森からこれから霊獣がたくさんやってくるだろう。
中央大陸の要塞だと30メートルを超えるものもあり、ローゼンヘムの要塞だと50メートルに達する要塞もあった。
この神界は、雲の上にあるからか随分資源に乏しいようだ。
霊障の吹き溜まりを囲む木の柵についても、魔獣から守るなら十分とは言えない。
ソフィーに土の大精霊を顕現させ、守りを固めるには、もう時間があまりない。
霊獣と思われる存在がすごい勢いでこちらに向かってきている。
「……僕やガララ提督の戦力を含めた戦い方を考えてね」
アレンが戦い方を考えていると、ヘルミオスが口を挟む。
「ぬ、まあ、そうだな。アレンに任せるぞ」
ガララ提督もヘルミオスの意見に賛同する。
アレンの思案する表情から、あまり準備に時間がないことが分かったようだ。
この場にいるのはアレンのパーティーが、神界を目指して頑張ったお陰だ。
S級ダンジョンの頃から、アレンのやり方に疑問を持つ者はこの3パーティーに1人もいない。
一切、遠慮することなく、指示するようにとヘルミオスは言う。
「ありがとうございます。皆さまの戦力使わせてもらいますよ」
思案するアレンに対して、アビゲイルが歩み寄る。
「アレンと言ったな。我らは戦いの準備が整いつつあるぞ。お前たちはどうするのだ?」
どこか戦う場所がほしいなら提供するとアビゲイルは言う。
砦の上に陣を組み、守りを固めつつある。
「では、私たちは降りて霊獣と戦います。そのまま、要塞の守りをお任せします」
アレンは深い森と要塞の間にできた空間を見つめる。
「な!? 地の利を捨てるのか!!」
アビゲイルは要塞から降りて戦うという言葉が信じられないと叫ぶ。
(いや、地の利と言えるほどの塞じゃないし。それに、守人はたぶん戦力にならないからな)
アレンは門番のカタクチや守人長のアビゲイルの鑑定を終えている。
守人を含めて、彼らを戦力に入れていない。
【名 前】 カタクチ
【種 族】 竜人
【年 齢】 20
【職 業】 槍使い
【体 力】 528+300
【魔 力】 0
【霊 力】 280
【攻撃力】 784+300
【耐久力】 660
【素早さ】 772
【知 力】 423
【幸 運】 521
【攻撃属性】 無
【耐久属性】 無
【名 前】 アビゲイル
【種 族】 竜人
【年 齢】 36
【職 業】 錘聖
【体 力】 1461+900
【魔 力】 0
【霊 力】 860
【攻撃力】 2080+900
【耐久力】 1471+900
【素早さ】 2080+900
【知 力】 902
【幸 運】 912
【攻撃属性】 無
【耐久属性】 無
特技「鑑定眼」にレベル表記が何故かないのだが、スキルレベルもカンストしていないのは間違いない。
装備もミスリル製がいいところだ。
ここにいるほとんどの守人たちがBランクの魔獣にも苦戦する。
守人長のアビゲイルでAランクの魔獣を倒せるか疑わしいと分析する。
戦力に入れるというより、護衛の対象と考えてよさそうだ。
「上部の守りはそのまま守人たちにお任せします。私たちは前面に出ますので、倒し損ねた魔獣たちはお願いします」
笑顔でアレンはアビゲイルに依頼する。
「そうか。無理するでないぞ」
厳しくなったら無理することなく、この木組みの要塞に上がってくるようにアビゲイルは言う。
「ありがとうございます。それともう1つ大事なことがあります」
「む? なんだ?」
アレンが改めて言うので、アビゲイルが緊張の表情を見せる。
「私の才能は召喚士。これから数多くの召喚獣を召喚します。守人たちには攻撃をしないよう声掛けをしていただけたらと思います」
「しょうかんじゅう?」
初めて聞く言葉のようだ。
(出てこいオロチたち。俺らの抜けた穴をカバーしてくれ)
『あい、分かったぞ!! グルアアアアアアアアアア!!』
「な!?」
守人たちが恐怖に顔を歪ませる。
アレンは霊障の吹き溜まりと要塞を挟んで反対側に、王化した竜Aの召喚獣を召喚する。
元々全長100メートルであった竜Aの召喚獣は3倍の300メートルに達する。
5つある首と合わせて、塞上部に大きく展開する。
さらに10体ほどの竜Aの召喚獣に、同じく10体ずつ虫Aの召喚獣を召喚させる。
守人たちの絶叫が広がっていく。
攻撃するなと言っておいたが、あまりの恐怖で固まってそれどころではないようだ。
「守りは召喚獣に任せるとして、私たちは下に移動しましょう。クワトロ、浮遊羽を使って」
『はい。皆さまに自由の翼を!!』
アレンたちのいる場所のはるか上空にいるクワトロがアレンたち3パーティー全員に特技「浮遊羽」を発動する。
3パーティー全員が素早さが1万上昇し、自由自在に空を飛べるようになった。
(さて、浮遊羽は対象者の魔力を吸ってしまうからな。この辺の魔力管理もしっかり考えないとな)
浮遊羽の発動中、対象者の魔力を秒間1ずつ消費する。
数千から数万に達するアレンたちの魔力であるが、スキルや魔法でも魔力を消費するので、魔力切れにならないようタイミングを見て天の恵みを使い魔力を回復させないといけない。
「降りたら、私とヘルミオスさんのパーティーが前面に出ます。ガララ提督のパーティーは後方に下がって、遠距離攻撃を主体にお願いします」
メルルも含めてデカいゴーレムたちは要塞の上空から遠距離攻撃をするように言う。
ソフィー、フォルマール、セシル、キール辺りも後方に下げる。
ヘルミオスのパーティーの後衛職たちも後方に下げる。
そんなことをしていると、すぐに時間が過ぎた。
「きたぞおおおおおおおおおおおおお!!」
アビゲイルが要塞の上で、ひと際大きな声で叫んだ。
深い霧のせいで森林の手前の方しか見えない中、既に距離を詰めていた。
無数の異形の存在がアレンたちの前に現れた。
開けた場所に出てきた霊獣たちの姿は、既に万里眼でとらえた通りの姿をしていた。
ゴーストの姿をした霊獣、石や木の姿をした霊獣などいるが、魔獣のように種族があり統一感があるように思える。
大きさも2、3メートルから大きい者で5メートルに達すもの者まで様々だ。
「殲滅だ! ドゴラ、シア、イグノマスは前進あるのみ! クレナはレベル1だから少し下がれ」
アレンのパーティーの前衛3人については、最前で戦うように指示を出す。
(雑魚だな。特殊な攻撃があるかもしれないな。敵のスキルまでは分からないし)
【名 前】 なし
【年 齢】 860
【種 族】 ソウルイーター
【体 力】 2000
【魔 力】 0
【霊 力】 420
【攻撃力】 2700
【耐久力】 1000
【素早さ】 2400
【知 力】 2000
【幸 運】 0
【攻撃属性】 氷
【耐久属性】 水、氷、物理耐性
アレンは霊獣の1体を鑑定する。
特技「鑑定眼」の結果からも、今ワラワラと出てきた霊獣たちはBランク程度のステータスだと判断する。
ソウルイーターは青白く燃える食虫植物のウツボカヅラのような姿をしていた。
全長は3メートルほどでそれなりに大きい。
「おっしゃあああ!! 行くぞ、フレイヤ!!」
ドゴラは相棒であり、自らの契約者である火の神フレイヤに声をかける。
『霊獣狩りであるな。ワラワの煉獄の炎を思い知るがよい!!』
(ん? なんか火の神がメッサやる気を出している件について)
ドゴラが握りしめる強大な両手斧の形をした神器カグツチは赤い輝きを示す。
この両手斧は火の神フレイヤの神器が武器として形となったものだ。
「うらああああああ!!」
『ウアアァアアアァ!?』
ドゴラの一撃でゴーストの姿をした霊獣は2つに分かれ、霧のように四散した。
『ソウルイーターを1体倒しました。経験値3000を取得しました。信仰値3000を取得しました。霊力300増えました。神力300増えました』
(お? 色々取得したな。信仰値はハク用かな?)
魔獣を狩っても、経験値しか取得するものがなかったが、霊獣だと得られるものが大きいようだ。
たしかに、メルスの言う通り、倒した瞬間にアレンたち全員の霊力が回復した。
神器を持つというハクに限っては、信仰値と神力がログで流れた分だけステータスの数値が増えていく。
『おおっ……。旨いぞ。旨いのじゃ!! ワラワの使徒ドゴラよ! もっと狩るのじゃ!!』
「あ? お、おう……」
(この世界の神も、経験値が高くて美味しいことを「旨い」と表現するのか)
神器カグツチ越しにも明らかな火の神フレイヤの大きな興奮が伝わってくる。
ドゴラはフレイヤの興奮に困惑しているようだ。
アレンは前世で、色々な種類のモンスターや魔獣をゲームで倒してきた。
火の神フレイヤの興奮で、時間単位での経験値効率や倒しやすさなどで、旨味のある敵もいれば、旨味のない敵も思い出す。
霊獣たちは森林の奥からどんどん出てくる。
特技「万里眼」を使った際には、5000体ほどだったので、まだまだ出てくるだろう。
「よし、後衛やゴーレムたちも遠距離で加勢を!」
鳥Fの召喚獣の特技「伝達」を使い、3パーティーが広範囲に広がっても一気に指揮ができる。
鳥系統の召喚獣がアレンの指揮を強くサポートする。
アレンたち3パーティーの一斉攻撃が始まった。
後衛もゴーレムも霊獣たちを爆散させていく。
アレンの魔導書には霊獣を倒したログが流れていく。
(ふむふむ、Bランク相当の魔獣がほとんどだな。奥にもっとデカいのがいるんだが、様子見か)
クワトロの特技「万里眼」は霧深い森林の奥に巨大な敵影を捉えている。
「て、敵が殲滅されていく」
「化物だ……。これが審判の門を越えた者たちの力か……」
竜人が驚く中、更なる戦いが続いていくのであった。
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