第505話 霊獣戦②

 数千の霊獣たちを倒すと、ひと際大きな霊獣が森林の中から姿を現した。

 全長10メートルは超えているだろうか、巨大な樹木ほどではないが、竜人の守人たちが守る柵の意味があるのかと思えるくらいの巨躯だ。


 大木のようだが、手足が生えてこちらに向かってくる。


(木とか石の霊獣が多いな)


 魔王軍との戦いであまり見なかった植物系の霊獣が多く感じる。

 目の前の大型の霊獣もそのようだ。


 【名 前】 なし

 【年 齢】 282

 【種 族】 マンドラドレイク

 【体 力】 6480

 【魔 力】 0

 【霊 力】 1240

 【攻撃力】 5500

 【耐久力】 5320

 【素早さ】 2600

 【知 力】 2780

 【幸 運】 0

 【攻撃属性】 木

 【耐久属性】 木


 クワトロの特技「鑑定眼」を使うと、ステータスはAランクの魔獣相当のようだ。


「セシル、フォルマールは木の姿をした霊獣の動きを封じろ。火が弱点だぞ」


「ええ、フレイムランス」


 使い勝手の良い火魔法レベル2を使い、数十にもなる火の槍が霊獣の体全体を燃やし尽くす。

 

「ふん!」


 セシルの火魔法を浴びてもだえ苦しんだところで、フォルマールの矢が木の霊獣の顔の部分を爆散させる。


(ふむふむ、竜人たちは霊力を使ってスキルを発動させていると)


 クワトロの万里眼があらゆる情報をアレンにもたらす。

 竜人は弓を使い霊獣に攻撃を加えているが、霊力がそのたびに減っていっていることが分かる。

 6時間置きに回復する霊力を使用してスキルを使っているようだ。


 激しい戦闘が続いているが、アレンの中であらゆる分析と検証が進められていく。


(クワトロの目のスキルは同時に4つまでか)


 クワトロの特技、覚醒スキルの効果も調査を進める。

 クワトロの目が4つあることにも理由があったようだ。

 その他、覚醒スキル「不死鳥の羽」には聖珠ポイントが必要なことなど、昨日から分かってきたことも多い。


【クワトロの特技、覚醒スキル】

・鑑定眼、追跡眼、万里眼は同時に4つまで発動できる

・一度に鑑定できる対象は最大4

・対象を4人まで追跡眼で追跡すると、クワトロの目による特技はこれ以上発動しない

・覚醒スキル「不死鳥の羽」には聖珠ポイントが5つ必要


 仲間たちの指示を行い、仲間たちの攻撃が足りない部分は後方に控える竜Aの召喚獣に攻撃させる。

 アレンの知力とクワトロの特技で、万を超える霊獣の軍勢相手に当たり前のように対処ができるようになる。


「霊獣をたやすく倒していくぞ……」

「矢でなぜあれほどの威力がでるのか」


 守人たちのいる場所に待機させていたハトの姿をした鳥Fの召喚獣が、守人たちの声を拾う。


 苦戦することなく、霊獣たちを倒していく。


(倒しても基本的に体は残るんだな。ダンジョンとは違うのか)


 霊獣について分かったことがある。

 霊獣は倒しても、光る泡となって消えず、世界に残り続ける。

 霊石を回収しようかと思ったが、魔石のように霊獣の体内から取り出さないといけないようだ。


 アレンの考察を他所にひと際大きな霊獣が森の中から出てきた。


『………』


 無言でこちらに向かってくる。


「天使級のゴーレムまで出てきたぞ!!」

「何故だ、吹き溜まりのもっと奥にいるギガントストーンまで……」


 竜人たちが、何が起きているのか口々に言う。


 【名 前】 なし

 【年 齢】 282

 【種 族】 ギガントストーン

 【体 力】 12080

 【魔 力】 0

 【霊 力】 2420

 【攻撃力】 9800

 【耐久力】 14300

 【素早さ】 7600

 【知 力】 11300

 【幸 運】 0

 【攻撃属性】 土

 【耐久属性】 土、火、物理耐性


 大木を揺らしながら、巨大な人型のゴーレムの姿をした霊獣が、踏みしめるように前に前に進んでいく。


 殲滅速度は既に霊獣のやってくる速度を凌駕している。

 3パーティーの集中砲火で、現れたギガントストーンは無言で倒れてしまう。


「アレン、沸きが止まったわね。もうやってこないの?」


「ああ、砦までやってきたのはこれで最後のようだ」


 5000近い霊獣を倒したアレンが戦いの勝利を宣言する。


「おお!! レベルがいっぱい上がった!!」


『ギャウ!!』


 転職してレベル1になってしまったクレナもハクも、レベルが上がり、力が戻ってきた。

 クレナが大剣をブンブン振って嬉しそうだ。


「クレナ、ちょっと霊石を見てみたい。ちょっと、この石の霊獣の胸元を開けてみてくれ」


 魔獣の魔石がある場所を開けてみるように言う。


「分かった!!」


 アレンの指示に、クレナがひょいっと巨大な石の霊獣の胸元に飛びあがり、ガンガンと大剣で突き胸元をこじ開ける。


 クレナは何かをつかみ、アレンの下に駆けてくる。


「おお、これが霊石か」


 クレナがキラキラした霊石と思われる物を霊獣から取り出してきてくれた。

 こぶし大ほどの大きさで、水晶のように透明だ。

 アレンの下にヘルミオスやガララ提督が戦況の確認のためにやってくる。


「終わりってことかな?」


「はい。ここでの戦いはこれ以上なさそうです」


 ここから森林のかなり深くに入り込まないと霊獣はいないとヘルミオスとガララ提督に言う。

 アレンが3パーティーに霊獣から霊石を回収するように願いしようとする。

 すると、アビゲイルがやってきた。


「御助力感謝する。これほどの数の霊獣を狩りつくすとは……。先ほどの非礼をお詫びする」


 圧倒的な力により守人も含めて誰1人犠牲を出さず、今回の事態を収束させたことは奇跡だったという。


「いえいえ、死者が出ないで良かったです。このような霊獣と日々戦っているのですね」


「ああ、そうだ。それが我ら竜人たちの使命だからな」


 アビゲイルは自らの使命を口にする。

 族長から昨晩聞いた話では、何万年か知らないが、遥か昔から、竜人は審判の門を超えて神界に至ったらしい。

 それから、神界人に従う形で、自らの使命を全うしているようだ。


「ほう……。そうだな」


(ん? フォルマールは何か思うことがあったのかな)


 ハイエルフを守護する家系にフォルマールはいるらしい。

 女王を守護する家系がいくつかあり、フォルマールもその1人で、今なお王女のソフィーの傍にいるのはそれが理由だ。

 パーティーの中で唯一、神界の冒険にも魔王討伐にも興味がない男なのかもしれない。

 そのフォルマールがアビゲイルの生き様に共感し関心を示した。


(さて、いくつかの種類の霊獣を狩れたな。霊獣にはランクがあって、天使級とか、亜神級とかもいるんだっけか)


 大方、霊獣を狩りつくしたので、アレンは考察結果を整理する。


 アレンは霊獣の存在を聞いてから、メルスであったり、昨晩泊めてくれた族長から霊獣の強さをランク分けして教えてもらった。


 この神界には魔獣もおらず、冒険者ギルドも存在しないようだ。

 神に仕える神界人と、霊獣から神界人を守る竜人だけがこの雲の大陸に住んでいるらしい。


【霊獣のランク】

・霊獣:ソウルイーター、マンドラドレイク

・天使級の霊獣:ギガントストーン

・大天使級の霊獣

・亜神級の霊獣


 ただの霊獣ならBランクからAランクの魔獣程度の力があるらしい。

 ソウルイーターはBランクで、マンドラドレイクはAランクの魔獣相当だろう。

 天使級と竜人が叫んでいたギガントストーンは、魔獣だとSランク相当だと思われる。


「おお、このように大きな霊獣を狩れたのはいつぶりだろうか」

「これで族長様の館を建て替えられるな」

「馬鹿を言うな。これは全てあの者たちが狩ったのだろう……」


 竜人たちが倒れた霊獣たちを羨ましそうに見ている。


「……すまない。これは確かにお前たちが倒した霊獣だ」


 声が大きかったのかアレンやアビゲイルにも守人の竜人たちの声が届く。


「いえ、少し数が多いです。霊石を回収していただけるなら、残りは提供します」


 霊獣の素材などいらないとアレンは言う。


「ほ、本当か!?」


 霊石以外いらないとアレンは言う。

 アレンの判断にキールが反応した。


「おい、それはやりすぎだろ。たしかに守人たちも戦っていたみたいだが、ほぼ俺たちが倒しただろ」


 守人たちはたしかに弓や攻撃魔法などで戦いに参加したものもいた。

 だが、市場を調査して、神界は物の値段がとても高い。

 神界を冒険していく上で、今回倒した霊獣の体が素材となるなら、あまり安い取引をしない方がいいとキールは言う。


「物資なら、メルスを通じて全て人間世界から調達するから問題ないぞ」


(この魔導書はかなり有用だと)


 メルスが作った天の恵みなどの回復薬は、今なお魔導書に入れられ続けていることをアレンは知っている。

 アレンの推測通り、人間世界にいるメルスと神界にいるアレンの間で魔導書を通じて物資のやり取りができるようだ。


 アレンの魔導書は縦横30センチメートルの大きさの物しか入らないが、魔導具袋の収納は余裕だ。

 水や食料や野営設備の補充を魔導具袋に入れて、それを収納すれば、城くらい大きな物資量でも、アレンは受け取ることができる。


 アレン軍に指示をして、道中の補給物資が足りなくなった時のために準備中だ。

 何を買うにも高い神界で買い物をする必要はないと言う。


(まあ、神界でしか手に入らない武器や魔法のアイテムがあったら、話は変わってくるけど)


「な、なるほど。まあ、ヘルミオスさんやガララ提督がそれでいいなら……」


 キールはそこまで食い下がらない。

 ヘルミオスもガララ提督も別にこんなことでお金を稼ぎたいわけじゃないと言う。

 ヘルミオスもガララ提督も何も言ってこない。


「そ、そうかすまないな」


 守人長のアビゲイルが礼を言う。


「それで1つお願いがあります」


 ただ、大盤振る舞いの取引をしたわけじゃなかった。


「む? 何だ?」


「先ほど、族長からの手紙にもあった霊晶石がどうもないようです」


 族長からは天使級から霊晶石が手に入る。

 しかし、天使級の霊獣だと確実に手に入ることはなく霊石の場合があると言う。


 クレナが霊獣ギガントストーンからとってきたのは霊石だった。


(今回倒したギガントストーンはギリギリSランクといったところだったからな。多分ステータス的にももっと強い霊獣を倒さないといけないのだろう)


 だから、強い霊獣のいるところに案内人を出すようにアビゲイルに言う。


「ほ、本気か?」


「もちろんです。ちょっと、私の目的のために必要なのです」


「……分かった。斥候と我が案内しよう」


 守人長のアビゲイルが案内してくれると言う。

 アビゲイルは砦に上がり、守人たちと話をしている。

 霊石を回収することや、足の速い熟練の斥候に声をかけているようだ。


(さて、まだやることがあるぞ)


 守人長が準備している間に検証しておきたいことが1つある。

 これから強い霊獣を狩りに行かなくてはいけない。


「クレナ、セシル。霊力が十分溜まっているぞ。神技を使ってみてくれ」


 神技の効果も検証せずに、強敵と戦うような自殺行為のようなことはしない。


「分かった。神技発動!」


 クレナが神技発動状態になる。

 クレナには「竜気」と「竜騎一体撃」の2つの神技があるのだが、まずは神技発動をいうスキルを使って、神技が発動できる状態にしないといけない。


(ここまでは同じと)


 アレンはクレナとセシルにあれこれ指示をして、試してみる。

 分かったことを魔導書に記録していく。


 残りの仲間たちは休憩したり、ドゴラやシアは石Dの召喚獣相手にスキルを使ったりと特訓を始めた。


「竜気(ドラゴンオーラ)! おお、何か強くなった!!」


『ギャウ!!』


 セシルの神技「知力強化」と同じでクレナとハクの神技「竜気」はステータス上昇効果があるらしい。


(こんなもんか。神技は成長すると。だから竜王とアステルはあんなに強かったのか)


 神技を発動するとクレナとハクの神技経験値が増える。


・神技経験値

 【竜気】 10000/100000


 魔導書に整理した霊力や神技を確認する。


【霊力と神技】

・霊力は最大魔力と同じ量しか溜まらない

・神技発動は霊力1000消費する

・神技発動しないと神技は使用できない

・神技発動の効果は1時間継続する

・竜気は霊力10000消費する

・竜騎一体撃は全霊力を消費する

・竜気はレベル1で攻撃力と素早さを1万上昇させる

・霊力を使用すると、それぞれの神技経験値が溜まる


(霊石をどれだけ集められるかって感じか)


「アレン、守人長がこっちにくるわ。準備が整ったみたいね」


 検証が終わるころにあちらの準備も終わったようだ。


「そうだな、セシル。これで、ネスティラドと戦えるぞ」


 するとアレンの意識にメルスの言葉が流れ込んでくる。


『おい、ネスティラドとは戦うな。絶対に勝てないぞ』


 アレンとメルスは共有をしている。

 アレンはメルスの視界や音を共有することができるが、反対にメルスもアレンを共有している。


「待たせたな」


「ありがとうございます。先陣はお任せください」


「む? まあ、助かる」


 アレンの言葉にアビゲイルは反対しないようだ。

 アレンたちの強さは先ほどの戦いで十分に分かったようだ。


 アレンはアビゲイルが「鼓動がどうのこうの」と言っていたが、その辺の話も道中で聞きたい。

 こうしてアレンたちは、霊障の吹き溜まりの奥地に「霊晶石」を取りに向かうのであった。


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