第506話 霊獣グラハン①

 アレンたちは森林から湧いて出てきた霊獣たちを狩りつくし、霊障の吹き溜まりの奥地へと向かうことにする。


 守人長アビゲイルと斥候担当をしている竜人が参加する。

 星2つで「偵察」の才能を持つ竜人で、名前はボンゴラというらしい。


 斥候系の才能は星によって敵発見能力が向上する。

 また似た才能で盗賊系の才能がある。


 パーティーを組むなら盗賊系、戦争で有用なのは斥候系らしい。

 盗賊系より斥候系の方が情報収集の点では優れているらしい。

 ただし、アイテム収集の面では盗賊系が優れており、一緒に冒険するなら盗賊系だ。

 なお、罠の発見や解除は斥候も盗賊も両方できたりする。


【斥候系と盗賊系の星の数による才能名】

 星1つ:斥候、盗賊

 星2つ:偵察、強盗

 星3つ:密偵、怪盗


(さて、ボンゴラを見つめていても始まらないな。指示を出してと)


「メルルは、ガララ提督たちと一緒に上空から付いてきてくれ。指示はポッポ越しにするからな」


「うん、分かった」


 メルルやガララ提督らは全長が大きすぎるので、森林内を歩いたり飛んだりして探索するには向かない。

 だからと言って、ゴーレムを降臨させずに探査すると、もしもの時に機動力や瞬発力を失う。

 上空を移動させて、霊獣が出たときに遠距離攻撃を使ってもらうことにする。


 鳥Fの召喚獣の特技「伝達」は半径3キロメートルに伝わるし、覚醒スキル「伝令」なら半径100キロメートルに指示を伝えることができる。

 上空に広く展開されてもすぐに連携が上手くいかないということはないだろう。


「じゃあ、アビゲイルさんとボンゴラさんは私たちの隊列の中央にお願いします」


 道案内だと言って、竜人2人を最前列に置くわけではない。

 最前列には守りと機動力でドゴラ、シア、探索能力に優れたロゼッタを置く。

 そのすぐ後ろにクレナ、イグノマスが付く。


 中央にはアレンとロザリナがおり、その後ろには後衛たちがいる。


 その後ろに剣王、聖騎士たちが後衛を守り、最後尾にハクがいる。

 前方後方にも霊Aの召喚獣をそれぞれ2体ずつ配置して、さらに守りを固める。

 

 なお、ヘルミオスのパーティーは10人なのだが、職業と名前は現在このようになっている。


【ヘルミオスのパーティー「セイクリッド」の才能、名前】

・英雄王:ヘルミオス(※才能は英雄王だが、勇者扱い)

・剣王:ドベルグ、シルビア

・聖騎士王:ベスター

・聖王:グレタ、イングリッサ

・魔導王:リミア、ローラ

・弓王:グミスティ

・怪盗王:ロゼッタ


 ヘルミオスが星6つの才能で他4名は星4つだ。

 性別はヘルミオスとドベルグ以外女性だ。

 女性陣の年齢は25歳前後らしい。


 S級ダンジョンで手に入った魔法具やアレンが提供したオリハルコンの装備をしている。

 ノーマルモードの最高値と言っていいほどのステータスがヘルミオスのパーティーにはある。


 準備も整ったので、体長15メートルのハクよりも大きな木々が生い茂る森の中に入っていく。


 日の光が弱くなり、やや涼しさを感じる中、アビゲイルとボンゴラの2人の緊張感がアレンにも伝わってくる。


「あまり、緊張しないでください」


「お、おう。躍動が聞こえたら注意してくれ」


「躍動?」


「ネスティラドの躍動だ。ネスティラドを見て生きて帰ったものはいねえんだ」


 ボンゴラはガチでビビっている。

 ネスティラドという霊獣はかなり遠くまで躍動という名の衝撃音のようなものを鳴らしていると言う。


 アレンは2人の竜人に落ち着くように言う。


 この世界はステータスが絶対の世界だ。

 だからと言って、ステータスが倍の差があっても即死することは基本的にないことをアレンは経験で知っている。

 即死さえしなければ、この人数だ。

 回復することも、戦術を練る時間も十分作ることができる。


「分かりました。慎重に行きましょう。陣の中から出なくても大丈夫です。移動しても問題ないですか?」


 特にビビっている斥候担当のボンゴラを落ち着かせる。


「ああ、この先に大きな大木がある。そこにグラハンと言う名前の大天使級の霊獣がいるはずだ」


(たしかに、そこには大きな霊獣がいるな)


 歩いて1時間程度の場所に強そうな霊獣がいることをアレンは万里眼で捉えていた。


 クワトロの特技「浮遊羽」を発動し、雲の上、数メートルのところを飛んで移動することにする。

 そこまで時間をかけずに、大天使級の霊獣に会うことができるだろう。


「それにしても、霊獣とは何でしょうね」


 ソフィーは中衛にいるアレンたちの下に歩みを進めた。

 フォルマールも危ないですよと前に出る。


(そういえば何だっけ。聞いてなかったな)


 アレンもメルスから確認していなかった。


「……霊獣ってえのは、力を持った者が輪廻の転生の中で道を踏み外した存在だど」


 道案内をしてくれるボンゴラが癖のある口調で、神界に住む竜人たちの中で脈々と語られる霊獣の話をしてくれる。


 神々の力によって、全ての生き物も魔獣も、生が終わるとき魂は新たな命の循環の中に入っていく。

 そして、別の生き物として新たな生を手にすることができる。


 しかし、生前の力が強かったり、何らかの理由で生への執着が強すぎて循環の中から外れた者が出てくる。

 溜まる霊障の力を借りて、魂の形となって様々な霊獣として彷徨うことになるらしい。


(俺も転生してやってきたからな。元々あった命の輪廻の中に組み込まれたから赤ちゃんとして生まれてきたのか)


 アレンは自らの誕生秘話を聞いたような気がする。


「守人とは神界において、道を外した霊獣たちの魂をあるべき道に戻すことを使命としている」


 アビゲイルも自らの役目を捕捉して説明してくれる。


「ちなみに霊晶石を神界人が求める理由は?」


「それは知らない。最近では審判の門を開いていないからな。天空王が霊晶石を求めてきたことは数千年ないぞ」


 守人の役目に霊晶石の入手はないらしい。


(守人に霊晶石狩りを無理やりさせて、霊獣から自分らを守る者たちがいなくなると困るとかそんなところかな)


 審判の門を越えていない竜人ならきっと天使級の霊獣にも苦戦するだろう。

 霊晶石が必ず手に入ると言われる大天使級の霊獣を狩るには力不足に感じる。


「皆、警戒を。奥に何かいるわよ!」


 ロゼッタは前を向いたまま拳を掲げる。

 学園でも習う斥候が行う基本的なジェスチャーで「隊列よ、止まれ」の意味だ。

 ロゼッタは学園を卒業前に脱走していると聞いているが、学園で習ったことは今も体に叩き込まれているようだ。


 ドゴラが背中に掛けた神器カグツチと、オリハルコンの大斧を握りしめ戦闘態勢に入る。

 他の仲間たちもそれぞれの武器を持ち臨戦態勢に入った。

 アレンは鳥Fの召喚獣を使ってメルルやガララ提督たちに警戒を怠らないように連絡する。


 大木の前には青白い炎に包まれた骸骨が立っていた。

 青白い炎はアレンたちがやってきたことに気付いていたようだ。

 片手に大剣を、もう片手には盾を握っているように青白い炎がかたどっていた。


『儂の名は剣聖グラハン! 貴様ら何用か!!』


 剣聖グラハンと名乗る霊獣は戦闘態勢に入っている。


(む? こいつは魔神級か。結構な強さだ。耐性もモリモリだ。ん? グラハン? あれ、誰の名前だっけ)


 【名 前】 グラハン

 【年 齢】 1056

 【種 族】 ソウルセイバー

 【体 力】 38300

 【魔 力】 23000

 【霊 力】 12800

 【攻撃力】 36400

 【耐久力】 33900

 【素早さ】 28700

 【知 力】 26700

 【幸 運】 0

 【攻撃属性】 雷、氷

 【耐久属性】 基本四属性、物理耐性


 ステータスがいくつも3万台に乗っている。

 大天使級の霊獣は魔神級の強さがあるようだ。

 「ソウルセイバー」という種族もカッコいいと思う。


 アレンはグラハンという名前に聞き覚えがあることを思い出す。

 転生したということは、かつて名を馳せた騎士か何かと学園の頃の授業を思い出そうとする。

 ただ、かなりマイナーなのか授業中出てきたか思い出せない。


(いや、授業じゃないぞ。この数ヶ月の最近の記憶だ。何故忘れた)


「囲むような陣形を!」


 アレンが思い出そうとする中、ヘルミオスの号令で、仲間たちが戦闘態勢に入る。

 思い出せないが、アレンも霊晶石が欲しい。

 相手は強いと言っても魔神級だ。

 この人数でボコったら時間の問題だと思う。

 アレンも戦闘態勢に入ろうとしたその時だった。


 ブンッ


 目の前に魔導書が勝手に現れた。

 いつもの手紙のような文面ではなく、焦っているのか表紙のログに誰かが書き込んでいる。


『グラハンを救済してください。霊Sの召喚獣になれる逸材です』


「ぶっ!?」


 誰が書き込んでいるのか知らないが大事なことはもっと早く教えてほしい。


「どうしたの、アレン!」


 アレンの変な声に後ろにいるセシルが反応する。


『行くぞ! 儂の剣の錆びにしてくれる! 身を持って味わうが良いぞ!!』


 大剣を握りしめ、霊獣グラハンが突っ込んで来る。

 合わせるようにドゴラが正面から走り出した。


「おら!!」


『ぬぐあ!?』


 最前列にいるドゴラが神器カグツチで受け止め、そのまま霊獣グラハンを豪快に吹き飛ばした。


「ちょっと待て、そいつは仲間だ!」


「はぁ? アレン何言ってんだ!!」


 ドゴラは理解できなかったようだ。


(俺も何を言っているのか分からない)


「皆攻撃を止めて距離を取ってくれ。どうやらこいつは俺の召喚獣になれるようだ!」


 アレンは鳥Fの召喚獣の特技「伝達」を使い、大きな声で叫んだ。

 メルルやガララ提督も遠距離攻撃しないように制止させた。


 天空王から船を借りるための霊晶石狩りだが、こんなところに自らの召喚獣になりうる霊獣がいた。

 これだから受けるクエストを選り好みすると後々苦労する。


『なかなかやるようだな。儂の剣を最後まで受け切れると思うなよ!』


「ちょ!? おい! これのどこが仲間だ!!」


 霊獣グラハンの大剣を受けるドゴラが抗議の声をアレンに上げる。


(う~む? どうするか。完全な敵対関係だな。とりあえず、弱らせるか)


「すまないが、殺さない程度に弱らせてくれ」


 敵対行動を取る敵を仲間にするには体力を削るに限るとアレンのゲーム脳が囁く。


「ボンゴラよ。これは何が起きているのだ……」


「守人長。わてにもわからねだ……」


 守人長アビゲイルはこの場の状況が分からなかった。

 アレンたちが手加減をして霊獣グラハンの体力を減らし始めたことだけは理解した。

 その理由は一緒にやってきたボンゴラも首を振って理解ができないと言う。


『なんという強さだ。多勢に無勢だ。無念……』


 流石の魔神級の強さがあっても体力の自己回復もできないようだ。

 この状況なら時間を掛けたら問題なかった。

 クワトロに鑑定眼を使ってもらい、霊獣グラハンの体力が減っていくのを見ながら仲間たちに攻撃の指示を出す。


 ゆっくり時間を掛けて攻撃を加え、体力が1000切ったところで、霊獣グラハンが地に膝を着き動かなくなった。


「よしよし、大人しくなったな」


 アレンは腰を低くし、聖獣石を持って、大人しくなった霊獣グラハンの下にジリジリと歩み寄る。


(グラハンゲットだぜ)


 ゴリゴリッ


 仲間たちも、アビゲイルたちも見つめる中、アレンはバレーボール大の大きさの聖獣石を霊獣グラハンの顔に擦り付ける。


『貴様ら……、儂を騎士として殺してくれぬか。帝国への忠誠に偽りはなかったのだ!!』


「上手くいかないな。どうやったら仲間になるんだ?」


 マクリスやクワトロのように聖獣石の中に入ってくれない。

 魔導書を見ると何度も同じ内容の文面がログに流れている。


『霊獣の穢れが清められていないため、聖獣石に入れることができません』

『霊獣の穢れが清められていないため、聖獣石に入れることができません』

『霊獣の穢れが清められていないため、聖獣石に入れることができません』


 穢れが多いらしい。


『この計画は全て儂の独断で決めたこと。我が一族は何の関係もないことだ!』


 会話がかみ合わない。


「えっと、剣聖グラハン、帝国、独断の計画って、ああ……!!」


 アレンは霊獣グラハンの会話から召喚獣にする方法を探る。

 その中でアレンの記憶を呼び起こす単語が流れてくる。

 とうとう1つの答えを導きだすことに成功した。


「アレン君、どうしたの?」


 仲間たちが困惑する中、ヘルミオスが陣形を離れてアレンの下に寄ってきた。


(そうだ。ヘルミオスから聞いたんだよな)


「ヘルミオスさん、ちょっと聞いていいですか?」


「うん? なんだい」


 アレンはいつも不思議なことをするくらいは納得しているようだ。


「恐怖帝を殺した騎士って、名前何でしたっけ」


 数か月前、アレンはヘルミオスにギアムート帝国の恐怖帝の墓である帝陵の調査をお願いした。


「ん? ああ、って、ああ! 親衛隊のグラハンだね」


 ヘルミオスもアレンの理解に追いついた。


 ヘルミオスはアレンに帝陵の調査について、アレンに報告する時、恐怖帝を殺した騎士の名を確かに伝えていた。


「みんな聞いてくれ、このグラハンって霊獣はどうやら恐怖帝を殺した騎士のようだ」


 仲間たちが驚愕する。

 アレンは恐怖帝を殺した騎士の名を思い出すのであった。

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