第294話 ゴルディノ戦⑦

 超合体ゴルディノはセシルのエクストラスキル「小隕石」を受け、体が崩壊し、中から真ゴルディノが姿を見せた。


 体長は初めて出現した時に比べ、約3分の1の30メートル程度と小さく、体は細身ですっきりしている。

 ミスリルゴーレム同様に、回転する輪っかのようなものが頭にあり、空中に浮いている。


 そして真ゴルディノの目が光ったかと思うと、アレンたち全員が光に包まれ、力が抜ける感覚に襲われた。


「補助が全てかき消されました! 補助の掛け直しを! 身を守る補助から優先してください!!」


 アレンは最悪の状況に大声で指示を出す。

 そして、自らも消されてしまった魚系統の特技や覚醒スキルの掛け直しを図る。


『ふははは! 我がこの姿を見せたのは初めてだぞ! 我の真の姿を見れたことを誇りに思って死んでゆくがよい!!』


 真ゴルディノは高らかに勝利を宣言する。


 アレンの仲間たちも状況が分かったようで、補助を掛け直そうとする。

 しかし、真ゴルディノは手からビームシールドとビームサーベルを出し、アレンたちに一気に距離を詰めてくる。


「うぉおおおおお!!」


『ふん! 鬱陶しいわ!!』


「「「がは!!」」」


 超合体ゴーレムの1体が仲間たちを守るため、抱きかかえるように道を阻む。

 しかし、両腕をビームサーベルで粉砕され、轟音と共になぎ倒され中にいるドワーフたちが悲鳴を上げる。


『何度掛けても同じことだ!!』


 再び目が光り、体の補助が抜ける感覚になる。

 真ゴルディノによる補助かき消しのスキルを使われたようだ。


(補助は何度でも消されるのか。一瞬で効果範囲も広いし最悪の状況だな。ここはもう広めの空間か。ならすべきことは1つか)


 ここは戦いを続行するか、退散するかの判断をしないといけない。

 この場所は元々通路であったが、セシルのエクストラスキルによって両脇の通路の壁が粉砕され、かなり広めの空間だ。


「ツバメンたち!!」


『『『ピピ!!』』』


 アレンはまだ、戦いは終わっていないと判断した。

 アレンはこの状況で最も有効な作戦を考え実行に移す。


「皆を3つに分けます。それぞれで補助の掛け直しを! 帰巣本能!!」


 アレンはこの状況から勝利へと導くため、パーティーを分散させる。

 前衛、後衛、中衛のバランスを考え、種族を混合させ安定感を優先させる。


 アレンの作戦で3パーティーになる。


 回復役はヘルミオスの聖女2人、キール、獣人2人だが、キールを単独にし、聖女と獣人のペアにする。

 聖女と獣人の回復役の補助は重なることと、パーティーの均一化と安定のための措置だ。


「これで、ゴルディノの補助無効攻撃は分散されました! 敵はこれ以上回復できません。体力を削り切れれば、私たちの勝利です!!」


 視界が一気に変わる中、円の中央に浮くアレンの叫ぶような作戦を聞く。

 まだ、戦えることを知る。


『無駄よ! 無駄無駄!!』


「ぐっ!!」


 鳥Aの召喚獣の加護「飛翔」により、空中に浮いたアレンが全体に聞こえるように叫んでいると、真ゴルディノがアレンを狙う。

 ビームサーベルで薙ぎ払われ、防いだ左腕が大きく粉砕され吹き飛ばされる。


「アレン!!」


「問題ありません! 俺を狙っている間、補助を掛けてください!!」


(1撃で体力が半分以上持っていかれますので、余裕が出来たらキールさん補助を下さい。死んじゃいます)


 アレンは空中で踏み留まり、仲間たちの補助を掛ける時間を稼ぐ。

 天の恵みを使い、完全に粉砕された自分の左腕を修復させる。

 この場所なら、魚系統の召喚獣の特技と覚醒スキルも仲間たちに満遍なくかけることができる。


『まだ無駄なあがきを繰り返すのか。大人しく貴様の仲間たちが死んでいく様を見守るがよい!!』


 補助を掛ける3パーティーのうち1パーティーに襲い掛かる。


「こいよ、おらあああ!!」


『ふん! 雑魚め!!』


「ぐは!」


 ドゴラが全力で切りかかるが、ビームシールドで防がれ、ビームサーベルで返り討ちにされる。

 他の獣人も同じようだ。

 守りを優先して補助を掛けているため、攻撃が通らなくなってしまった。


 真ゴルディノの大きさは3分の1になったが、元のゴルディノより強くなったようだ。

 ビームシールドを駆使するため、攻撃は通らず、ミスリルゴーレムのように空中を凄い勢いで移動する。


 この状態で、補助を一切必要としない超合体ゴーレムは唯一の救いだ。

 超合体ゴーレムがそれぞれのパーティーを守るため、膠着状態が続いていく。


 しかし、状況は刻一刻と真ゴルディノに有利な状況になっていく。

 攻撃を受ける度に超合体ゴーレムは石板を消費していくため、すでに直す事のできなくなった部分も出てきた。


 その前に超合体のタイムリミットが近づきつつある。

 超合体になって1時間がそろそろ経過する。


 ステータスも高く、壁役の超合体ゴーレムがいなくなれば、後衛や中衛に死人が出てきてしまう。


(さて、ここは決断の時だぞ)


 あれこれ試行錯誤をして、真ゴルディノの体力を削ろうとしたが、殆ど削れていない。

 まだ、獣化している十英獣も他の仲間たちも近距離攻撃ではほとんどダメージを与えられていない。

 石Bの召喚獣による反射攻撃などが成功しても、機動力が高くて次から躱されてしまう。


 既に5階層に飛んだ場所に転移できるキューブ状の物体に通ずる「巣」の設置は完了してある。

 アレンの判断1つで戻ることも、仲間だけ逃がすことも可能だ。


(残念だが、あと数分で超合体が解けるな。精霊王の祝福はまだ使っていないから、せめてそれだけでも試すか? いやその間に死人がでるな)


 全員のステータスを3割増やし、エクストラスキルをもう一度使えるようにする、「精霊王の祝福」がまだ残っている。


 この状況で上手くいくか分からない上に、そんなことをしている間に撤退するタイミングを失うかもしれない。


 死人が出てもしょうがないので残念だが、また最下層ボスに挑戦する時間はある。

 初戦で気付いた問題点もあるので、再挑戦で戦おうと思ったその時だった。


「やれやれよね。あまり人前で見せると稼業に支障が出るんだけど、仕方ないわね。私がエクストラスキルでどうにかするから、後は皆でなんとかしなさいよ」


 ため息を一つついたあと、怪盗ロゼッタが口を開いた。


(ん?)


 共有した鳥Bの召喚獣がロゼッタの声を拾う。


「あれ、ロゼッタってお宝を盗むエクストラスキルじゃなかった?」


 何を言っているんだと横にいるヘルミオスが言う。

 同じパーティーのヘルミオスにも、この状況に活路を見出せるスキルをロゼッタが持っているとは思えないようだ。

 このような状況で真ゴルディノ相手に何ができるのだと、他の仲間たちもロゼッタを見る。


「まあ、見てなさい。ヘルミオス。この貸しは高くつくわよ。アレン! 私がこのデカブツの力を奪うからその隙に何とかしなさい!!」


「皆、ロゼッタが何かするぞ!!」


 アレンとメルスだけ、この場の中央にいる。

 全体に聞こえるように、これからロゼッタが何かすると伝え守りを優先するように伝える。


 そんな中、怪盗ロゼッタの体が陽炎のように屈折していく。


『ははは! 賊ごときに何ができると言うのだ! 何をしても全てかき消してくれるわ!!』


 一歩前に出た怪盗ロゼッタを真ゴルディノがあざ笑う。


「いいわ。あなたのそのスキル。ちょっと私に貸してくれないかしら。ローバーハンズ!!」


 怪盗ロゼッタが一瞬笑みを浮かべたかと思うと、空中に向かって手を伸ばし何かを掴んだ。


「「「な!?」」」


 仲間たちが驚愕する中、大きく振りかぶり掴むしぐさをしたロゼッタが上体を起こす。

 そのロゼッタの手の中には光り輝く何かが浮いている。


「ふう。何よこれ。あなた素敵なものを持っているじゃない? これで目がピカピカできなくなっちゃったわね~。ふふ」


『な!? き、貴様。それは!! わ、我のスキルを奪ったな!! 許さん!!』


(スキル奪い取ったぞ! マジか!!)


 真ゴルディノも何をされたのか直ぐに分かったようだ。

 ロゼッタへと一気に距離を詰め、奪われたスキルを取り返そうとする。


「ちょ、ちょっと!」


 真ゴルディノに狙われ、片手に光る球を浮かせて怪盗ロゼッタが焦り始める。


「ガードブレイク!!」


 距離を詰める真ゴルディノに合わせるように、剣聖ドベルグが飛び掛かり大剣を振り下ろす。

 完全にこのタイミングを見計らっていたようだ。

 もしかしたら、仲間がエクストラスキルを失敗したときにフォローするために機会を窺っていたのかもしれない。


『がは!!』


 剣聖ドベルグの一撃でビームシールドが腕ごと粉砕される。


(好機が来たぞ!!)


「帰巣本能! 補助を掛けてください! ソフィーは精霊王の祝福を!!」


 今が好機と捉え、全員に速やかに補助を掛けるため、アレンは3パーティーに散っていた仲間たちを1箇所に固める。


「はい! アレン様。精霊神ローゼン様お願いします」


 仲間たちが補助を開始する中、ソフィーが全魔力を使い、エクストラスキル「大精霊顕現」を使用する。


『はは。戦いは終盤だね』


 そう言って肩に乗る精霊王は宙に浮き、腰を振り始める。

 光り輝く雨粒のようなものが辺り一面に降り注ぐ。


「補助を早く! エクストラスキルはもう一度使えます!!」


 精霊神の使うスキル「精霊王の祝福」については、仲間たち全員に説明は済んでいる。

 ここ一番で使うと言っているので、全員が最後の機会であることを知る。


『ふざけおって! そんな準備をさせる暇を与えると思ったか!!』

 

「「俺らが時間を稼ぎます!」」


 既にボロボロになった2体の超合体ゴーレムが真ゴルディノに立ちふさがる。


「お前らだけに任せるわけないだろ! メルル、歯を食いしばれよ!!」


「うん!!」


 もうボロボロになった超合体ゴーレムは限界に来ていた。

 しかし、自分らを奮い立たせ、真ゴルディノに向かう。

 ガララ提督も仲間に玉砕させまいと真ゴルディノに突っ込んでいく。


 命を懸け補助を掛ける時間を稼ぐようだ。


『調子に乗るなああああ!!』


 何度も吹き飛ばされ、限界が超合体ゴーレムたちに来たようだ。

 1体また1体と全身が崩れ、倒れてしまう。

 崩壊したゴーレムの胸の水晶から出て、ドワーフたちがワラワラと後衛の元に駆けて行く。


 そして、ガララ提督の乗る超合体ゴーレムにも凶悪なビームサーベルが襲い掛かる。

 凶悪な一撃を受け、後ろにのけ反りながらも、メルルは魔導盤を使い全力で操作をする。


「メガトンパアアアアアンチ!!」


 しかし、メルルの死力の一撃は、ビームサーベルで防がれてしまった。

 薙ぎ払われ、そして最後の1体になったガララ提督やメルルの超合体ゴーレムも限界を迎える。


 崩壊した超合体ゴーレムの水晶部分からメルルたちは投げ出される。


『ふん、死にぞこないどもめ。止めだ! む?』


 真ゴルディノが超合体ゴーレムから出て来たメルルたちを始末しようとする。

 アレンが帰巣本能で後方に移動させたため、真ゴルディノがメルルたちを見失う。

 

「いや、もう十分だ。皆ありがとう」


 アレンは剣を握りしめ、感謝の言葉を口にする。


「そうだな。十分だね。これ以上は必要ないよ」


 ヘルミオスも剣を構え、余裕をもって言った。


『ソウダ。モウムカッテイイヨナ? グルル!!』


 獣化したゼウ獣王子はナックルを握りつぶすほどの力を籠め、前かがみになり真ゴルディノに相対する。


 まばゆい光にアレンたちは包まれている。

 既に全ての補助が掛かり終わった魔法の輝きだ。


『そ、それで勝ったつもりか!!』


「ソフィー。動き回ると倒しづらいから、動きを封じて」


「はい。アレン様。風の精霊ゲイル様、お力をお貸しください」


『うん。分かったよ。ママ』


 ソフィーは魔力を回復させ、少年のような風の精霊を顕現させる。

 何故かこの風の精霊はソフィーのことを「ママ」と呼ぶ。


 魔力が5000増えるリングを2つ着け、精霊王の加護を貰い、補助も重ねたソフィーの全魔力が吸われていく。


 体を這うように、目視できるほどの風の縄のようなものが真ゴルディノの体を縛り付ける。


『な!? こ、こんなもの』


 しかし、全魔力を籠めても何秒も動きを止めて置けない。

 だが、それだけで十分だった。


 全員がその攻撃を合図に襲い掛かる。


 グシャ!!


『グアアア!!』


 アレンが飛翔し、全力で目に剣を叩き込む。

 精霊王の加護を受け、ヒヒイロカネのボディなどお構いなしの攻撃力だ。


「これで、もう目を光らせることはできないと」


 顔の上に足をかけ、さらに剣を叩き込んでいく。


 獣化した獣人たちも襲い掛かる。

 全身に武器が叩き込まれる。


「神切剣!」


「覇王剣!」


『がは!! 我がこのような相手に』


 エクストラスキルを発動したヘルミオスと、エクストラスキルで限界突破したクレナの剣が真ゴルディノの胸深くに叩き込まれた。


 ズウウウウウウン!!


 力を失った真ゴルディノが地面に落ちる。


『ゴルディノを1体倒しました。経験値40億を取得しました』


(なんだか、最後まで悪役感満載だったな)


「どうやら、倒せたようです」


「「「おおお! 勝ったぞ!!」」」


 アレンの勝利の宣言に、仲間たちは歓喜の声を上げる。

 ようやく最下層ボスを倒したアレンたちであった。

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