第383話 授与式

 自警団のレイブン団長が、部下の自警団の団員に指示をし、集まったアレン軍の兵たちの前に荷物を置いていく。


 何となく何をしているのか分かった。

 兵たちの職業や軍位に合わせて座る位置なども指定されていたが、これのためだったのかと思う。

 何故か前に座る者との間の距離を空けるなと思っていた。

 皆の列の前にそれぞれの荷物が置かれてくるので、なんとなく今から何が始まるのか分かったようだ。


「では、アレン軍の本格的な活動を祝して、授与式を始める」


 全員の前には武器や防具が並んでいた。

 ステータスを上昇する指輪もある。

 ゴーレム隊には、ザウレレ将軍にヒヒイロカネのゴーレムの石板を、残り99人にはミスリルのゴーレムの石板が無数に置かれている。


 アレンたちはこれまでに28000体ものアイアンゴーレムを狩ってきた。

 その結果多くのアイテムや武器を手に入れることができた。


 木箱約25200個、銀箱約2800個、金箱25個を出すことができた。

 これはアレンたちがエルマール教国に救難信号を元に向かう前からのも含めた合計だ。

 確率を見ると銀箱は木箱の10パーセント程度の確率、金箱は0.1パーセント程度の確率のようだ。


 金箱から出たもの

・ステータス2000上昇の首飾り3個

・オリハルコンの塊1個

・魔導具(キューブ)3個

・アダマンタイトゴーレムの石板8個

・アダマンタイト以外の武器5個

・アダマンタイト以外の防具5個


 銀箱から出たもの(概算)

・ステータス5000上昇の指輪1400個

・魔導具(大、特大)140個

・アダマンタイトの武器280個

・アダマンタイトの防具280個

・ヒヒイロカネゴーレムの石板560個

・アダマンタイト以外の武器45個

・アダマンタイト以外の防具45個


 木箱から出たもの(概算)

・ステータス3000上昇の指輪14000個

・魔導具(小、中)1400個

・ヒヒイロカネの武器2800個

・ヒヒイロカネの防具2800個

・ミスリルゴーレムの石板5600個

・ヒヒイロカネ以外の武器700個

・ヒヒイロカネ以外の防具700個


 まず、分かっていたことだが金箱はかなり出にくいということだ。

 1000箱に1箱しか出ないかそれ以下の確率だ。


 金箱の中身だが、ステータス上昇の首飾りが3つ出た。

 最下層ボスのゴルディノの討伐報酬の虹箱のステータス3000上昇よりは劣るもののこれはかなり助かる。

 効果は体力、知力、耐久力だったので仲間たちに装備させてある。

 アダマンタイトの体用石板は全て揃えることができた。

 特大は出たが、超特大の石板はまだ出ていない。


 そして、オリハルコンの塊は、エルマール教国に向かう以前に1個だけ出たが、それ以降は出ていない。

 たまたまなのかもしれないが、1パーティー1つの設定があるのかもしれない。

 しかし、金箱から多くの魔獣や植物の素材で出来た武器や防具が出た。

 お陰でフォルマールの弓、セシルの杖、キールのロッドを更新した。

 さらにアダマンタイトのような重装備を装備しないシアとルークを加えた5人の防具が更新された。

 5個しか装備がなかったため、一番死ににくいアレンの装備は後回しにした。


 セシルの魔法はネックレスと杖が更新されたおかげで威力上昇が止まらない。

 耐久力のないキールのネックレスと防具による耐久力の上昇はとても助かる。


 金箱のお陰で、おそらくドゴラが盾を外したことを圧倒的に上回るほどパーティー全体の守りが強くなったと思う。


「あ、あの、これは?」


 ルキドラール将軍が代表してアレンに質問をする。

 高価な武器や防具なのは分かっている。


「それは皆が、今後装備してもらう武器と防具だ。アレン軍からの支給品だと思ってもらって構わない。軍職に応じて、用意した」


「支給品……」


 将軍はルド、ルキドラール、ブンゼンバーク、ザウレレの4人だ。

 隊長は編成の結果20人、部隊長50人、小隊長500人ほどいる。

 隊長は500人を、部隊長は100人を、小隊長は10人を概ね束ねている。


 その他、魔導技師団はララッパ団長の下に2人の副団長がいる。

 自警団のレイブン団長の下には、副団長のリタとミルシーがいる。


「ん? 俺もか?」


 レイブンが支給品の対象になっていることに気付いた。


「え? 貰えるの?」


「私たちもですか?」


 運ばせていた団長のレイブンと、副団長のリタとミルシーにも別の者が用意する。


 銀箱から出た武器と装備を、将軍、隊長、部隊長、団長、副団長に用意する。

 小隊長については全員ではないが、出た銀箱の武器と防具は配り切った。


 銀箱から出たステータスが5000上がる指輪は数があるので、将軍、隊長、部隊長、小隊長、団長、副団長に加えて、一部の役職のない兵にも配ることができた。


「これを身に着け、今後は戦ってくれ」


「ありがとうございます。このような武器や防具を貸与いただき、感謝の言葉もありません」


 兵たちの前にあるのは売れば一生遊んで暮らせるほどの武器や防具、そして指輪だ。

 アダマンタイトの剣など金貨数千枚はするし、ステータス上昇の指輪はもっと高い。

 将軍に渡された装備3点になると金貨何万枚になるのか。


 アレン軍に参加し、給金が倍になった者も多い中、自分らでは絶対に装備できない。

 もしくは何十年働けば買えるのかというほどの装備が並ぶ。


 自然とお礼の言葉が、ルキドラール将軍の口から出た。


 1人でそれだけなら5000人強いるこの人数なら金貨5000万枚を超えるだろう。

 それは、世界最大の金満国家であるバウキス帝国の国家予算に匹敵する額だ。

 当然ローゼンヘイムの国家予算なら数倍になる額になる。

 当然貸与されたものだと思った。


「貸与ではないぞ。それらはあげるので基本的に皆のものだ。ああ、今回アダマンタイトの武器や防具など準備できなかった兵については、準備出来次第交換だ」


 今回の授与式に間に合わなかった兵についても、順次銀箱からでた武器や防具、指輪に変えていく。


「し、しかし。我らはまだ何の戦果も挙げていませぬ」


 手柄も挙げていないのに、こんないいものは受け取れないとラス隊長が言う。

 自警団副団長のリタ以外は貰えるものだと思わなかったらしい。


「そうか。ならば、俺らアレン軍の方針を伝えておくぞ」


「え? 方針でございますか?」


 方針なら、随分話を聞いたと兵の皆は思ったようだ。


「今回、転職ダンジョンについても安全に安全を重ねたお陰で、1人も死なずにここまでこれた」


 転職ダンジョンについても安全策を取り、通常のA級ダンジョンなどの攻略にも48人という大人数で攻略させている。

 そして召喚獣も手伝わせており、天の恵みなどもしっかり配っている。

 安全マージンをしっかりとってこれまでやってきた

 お陰でアレン軍発足から1人も死者は出ていない。


「はい」


 質問をしたラス隊長はその話を真摯に聞いている。

 この短い期間であるが、確かに少し安全に力を入れすぎではという思いもあった。


「はっきりと言うぞ。皆の命に比べたら目の前のものはガラクタだ」


「「「ガラクタ!?」」」


 一瞬そうなのかと考えようとした。

 しかし、兵たちには目の前のものがお宝にしか見えない。


 大国の国家予算に匹敵する武器や防具が並ぶので、とてもガラクタには見えない。


「ラス隊長よ、もし仲間が危ない目に合っていたとする。目の前のアダマンタイトの槍を、エクストラスキルを使い投擲すれば助かるかもしれない。お前ならどうする? 投げれば遥か彼方に飛んでいき回収できないかもしれないぞ」


 理解できないようなのでアレンは具体的な話をする。

 鹿の獣人ラス隊長は転職し槍聖となった。

 エクストラスキル「ブレイブランス」は全魔力を籠めた槍の投擲だ。


 何度か放っている様子を見ているが、魔獣を簡単に貫通し、遥か先まで槍は飛んでいってしまう。

 たまに回収できないことがあったので、ラスは投擲用の槍を持っていたりする。


「当然投げます。それで助かるなら」


 仲間の命と槍の価値なら仲間の命を選ぶとラス隊長は即答する。


「では、自らの命だったらどうする? その時貸与された金貨数千枚の武器であった時、絶対に躊躇わず投げることができると言い切れるか?」


「……なるほど。そうでしたか」


 ラス隊長は目の前のアダマンタイトの槍を見ながら答えた。


「そういうことだ。命を懸けるときがそれでもあるかもしれないが、それはこんな武器や防具のためであってはいけない」


 アレンの言う命よりも軽いという言葉の意味がラス隊長に理解できた。

 借りたものなら、一族郎党が一生働いて弁償しても返し切れないものだったとき、自分の命を天秤にかけてしまう。

 戦場で紛失したら返さなくても良いとあっても迷いが生じるだろう。

 必死の状況で迷いは命取りになりかねない。


 ステータス数千の戦いの中では、1秒の判断の遅れで生死が分かれてしまうこともある。

 どんなに高価な武器や防具であっても命を優先させ、切り捨てよとそういう意味だ。


 高価な武器や防具を渡すのか貸すのかを、どちらを選んだ方が自分らの命を守れるかを基準に決めたことを、ラス隊長は悟った。


「このラス。アレン軍に命をかけます」


 ラス隊長は自然とその言葉が出た。

 命を懸けるとはこういうことなのかもしれない。

 その言葉と共に一気に将軍も含めて全ての兵が一様にアレンに頭を下げる。


(む? だからそうではないのだが)


 だから命は大切にしてほしいと言おうと思ったが、そういう状況でもないようだ。

 しばらく、その忠誠を受け止め、授与式はお開きとなる。

 夜からは4つの町でそれぞれ、ヘビーユーザー島の4つの町が完成したことを記念して、お祭りをすることになっている。


 兵たちが大事そうに武器や防具を持って、その場を後にする。


「おい、アレン総帥よ」


 若干ぶっきらぼうだが、肩書だけ丁寧な口調で名工ハバラクが声をかけ、アレンの元にやって来る。


「はい、ハバラクさん」


 アレン軍の兵ではないので、丁寧な口調でアレンは対応する。


「頼まれていたものがようやく1つ出来たぞ」


「おお!! 助かります!!」


(ワクワクしてきたぞ!)


 そう言って、アレンは心躍る。

 お金では買えないものがどうやら完成した様であった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る