第382話 出発式
アレンたちは、ヘビーユーザー島の中央にある山に向かう。
山の上には神殿があり、その神殿の一番上の階層には巨大な火鉢が鎮座し、火の神フレイヤが祀られている。
今日は、アレン軍全軍が集まる日だ。
アレン軍が島の開拓やダンジョンの攻略を始めて2か月近く経過した。
一度だけアレンのパーティーと100人以上配下を持つ隊長以上の幹部連中が集まって会議をした。
しかし、全軍が集まっての会議はまだしていない。
5大陸同盟の会議も無事に終わり、アレン軍は既に世界的に認知された軍となった。
今日は1つの区切りとしてアレン軍の出発式のようなことをしたいと思っている。
召喚獣を出してグシャラやバスクと戦えるほど、神殿は大きい。
学園都市やS級ダンジョン、島の運営など一部の兵を残して5000人を超えるアレン軍の全軍を1つの広間に集めることができる。
なお、火の神フレイヤに失礼がないように神殿を使わせてもらうことの許可は取ってある。
同じ階層では失礼と思い、火の神フレイヤを祀る巨大な火鉢のある階層の、1つ下の階で行う。
しっかり気を使い、火の神フレイヤには気持ちよくなってもらわなくてはならない。
ペロムスや名工ハバラク、各町の町長もこの場に立ち会う。
何をしていくのか、どういう組織を動かしていくのか見届けてもらう。
「では、アレン軍の総帥になったアレンだ。これからアレン軍の出発式を行うぞ」
(総帥感出ているかね?)
町長とか、高齢のエルフとか、この島にはアレンの何倍も何十倍も生きた者たちがいる。
とりあえず、無難に敬語で話していたのだが、それは止めるように色々なところから意見が出てきた。
軍のトップとしてあまり丁寧すぎる口調は控えようと思う。
アレンの口調にソフィーが「その調子ですわ!」という視線で見つめている。
アレンの横にはアレンの仲間たちが、そしてアレンの目の前には5000人を超える軍が列をなして並んでいる。
その列は格の順に並んでおり、各種族の将軍が列の先頭に並ぶ。
将軍の後ろには隊長格が並ぶ。
アレンは壇の前に立ち、5000人を超えて並んでいるが兵には座ってもらう。
立ったまま話を聞くのはつらいだろうという配慮だ。
なんか、学校の始業式を思い出す。
アレンは校長になったつもりで話をすることにする。
5000人の生徒とはずいぶんなマンモス学校だなと思う。
「では、まずは5大陸同盟でアレン軍の立ち位置の確定について話をする」
とりあえず、アレン軍は世界的に認められましたよという話から始める。
「それは助かる。5大陸同盟軍との連携が捗ります」
ルド将軍がアレンの話の意味を理解する。
アレンが総帥となりアレン軍の存在が世に認められたということは、今後の活動がとてもやりやすくなる。
ルド将軍は他の国からも将軍として扱われる。
今後、5大陸同盟軍との連携があるのか分からないが、立場に合った対応をしてくれるだろう。
「しかし、理解を示さない国もいるのでは?」
ルキドラール将軍が、全ての国が理解を示さなかったらどうするのかという話をする。
「分かり合う必要も相手にする必要もない。攻めてくるなら戦うぞとだけ伝えたらよい」
アレンは拡声の魔導具で皆に伝わるようにはっきりと言った。
「……なるほど」
アレンの言葉でルキドラール将軍はその意味を理解する。
立場は固まったので、その通り動くだけで協力的でも友好的でもない国とは、相応の対応をしろということだ。
「しかし、横暴になる必要もない。将軍や隊長はその辺りを部下に指導してくれ」
そう言うと、最前列にいる将軍や隊長格がアレンに頭を下げる。
各国が協力をとりつけ、バウキス帝国から魔導技師団及びゴーレム使いのドワーフたちがくることになった話をする。
「みんな私のことが知りたいのね」
「自己紹介であるな」
そう言って2人は立ち上がった。
「そうだ。簡単でいいので、自己紹介をしてくれ」
簡単にララッパ団長とザウレレ将軍に皆の前で挨拶をさせる。
まだ、2人がやって来たことを知らない兵たちも多い。
するとララッパ団長が軽快な動きでアレンの前にある壇上に飛び上がる。
「いいこと! 私が魔導技師団団長のララッパよ! 魔導具のことなら任せなさい!!」
「「「おお! 団長流石です!!」」」
ビシっと決めポーズを取ってララッパ団長が自己紹介を始めた。
配下のドワーフたちが拍手喝采をしながら騒ぎ立てる。
なかにはどこに用意していたのか、ラッパのような物ではやし立てる者までいる。
少しでもララッパ団長の良さを引き立てたいようだ。
「おお、素晴らしい!」
メルルがララッパ団長の決めたポーズに感心しているようだ。
アレンのために用意した壇に上がるとは何事かとソフィーが反応する。
しかし、個性も大事だとアレンが視線を送り、ソフィーに静観するようにという。
次に、ララッパ団長が皆に背面を見せながら片足からゆっくり壇上から降りると、次はザウレレ将軍が壇上に上がる。
2人ともドワーフなので、体格のデカい獣人が座っているのより小さかったりする。
皆に見えやすいのかなと思って止めたりはしない。
「吾輩がザウレレである。ゴーレム隊が皆の壁となろうぞ」
ちょび髭を触りながらポーズをきめるザウレレ将軍が自己紹介をする。
挨拶が終わると、おっかなびっくり片足から壇上を降りていく。
そして、アレンに対して「これは何?」という視線が集まっていく。
「個性豊かな仲間が加わってくれた。歓迎してやってくれ。次に各軍の将軍格についてだ。聞いていると思うが、各種族のトップは将軍にする」
元は大将軍であったエルフのルキドラール将軍は降格して将軍になるし、ルド隊長は将軍に昇格する。
また、アレン軍は軍、隊、部隊、小隊に分けることにする。
それぞれを将軍、隊長、部隊長、小隊長が統率する。
なお、魔導技師団は、ゴーレム軍の下部組織となる。
そして、全体の転職状況についても、報告をする。
獣人とエルフは全員転職が済んだ。
エルフはS級ダンジョン目指してA級ダンジョンの攻略を進める。
獣人でまだ、S級ダンジョンに行くまでの攻略が済んでいない者も同じだ。
そして、既にS級ダンジョンに行ける者も基本的にダークエルフの育成に努める。
近距離戦闘が得意な獣人がいた方が、ダークエルフたちの危険も少ないし、種族を超えた連携の練習になる。
「それが終われば、連携してアイアンゴーレムを狩ってもらう予定だ。これは魔神との戦いに備えた訓練だと思ってくれ」
恐らくあと2、3か月もすれば、ダークエルフの転職が完了する。
その辺りでエルフと獣人については、アイアンゴーレム狩りを開始してもらう。
これは魔神との戦いを想定してのものだ。
アイアンゴーレムはステータスが25000ほどあって、魔神よりやや弱い。
エクストラスキルなどを連携すれば、獣人やエルフであっても倒せるとアレンは認識している。
魔神戦の練習を兼ね、スキル上げをしながら、今まで赤字であったアレン軍の活動資金も稼げるようになる。
エクストラスキルで倒すということは、クールタイムの関係からアイアンゴーレムはあまり倒せないだろう。
しかし、それほどの数を狩れなくても十分に軍の活動資金を黒字に持って行けるはずだ。
「あとは余らの処遇であるな」
「ああ、シア」
「ん? 処遇? シア様が何かするのですか?」
ルド将軍がなんのことだという話をする。
昨日の晩まで話し合ってきたことを皆の前で話をすることにする。
まずはパーティー内で意見をまとめようと話していたので、その他の者たちは知らない。
「俺たち廃ゲーマーのパーティーがアレン軍を動かすこともある。なので、それぞれのパーティー内での役割を決めておくことにした」
アレン軍ができて2か月になる。
まだまだ成長途中で本格的な活動はもっと先のことになる。
そんな中、アレンは総帥だが、アレンのパーティーは軍内において、どういう立場にあるのか皆にはっきりと伝えていく必要がある。
これからどういう形で軍を動かすか色々な方法があるだろう。
アレンたちパーティーを除いて、軍だけで活動することもある。
しかし、アレンたちパーティーが指揮をして軍を動かすことも十分に想定される。
この時誰がどういう立場にあるのか知ってもらう必要がある。
それぞれ1人ずつ発表させることにする。
「私が特攻隊長のクレナ! よろしくね!!」
いの一番に待っていましたとばかりにクレナがその場で立ち上がり、皆に指をびしっと差して名乗りを上げる。
壇上にこそ上がらないものの、ララッパ団長の影響を受けているようだ。
仲間たちに発表させたのは以下の通りだ。
アレン軍関係
・アレンは総帥
・ソフィーは軍師
・フォルマールは軍師補佐
・シアは前衛隊の大将軍
・ルークは後衛隊の大将軍
・メルルはゴーレム軍の大将軍
・クレナは特攻隊長
ヘビーユーザー島の町
・ペロムスは市長
・セシルは市長補佐
火の神フレイヤの
・ドゴラは使徒
・キールは神主
一通り、それぞれの立場が明確になったので、今回の決定はそれぞれの能力にあった立場であることを説明する。
もしもの時は、アレンのパーティーでそれぞれの立場の者が指揮をすることになる。
クレナは指揮するより、自らが先陣を切って動いた方がいいだろうという話だ。
ソフィーは軍全体の作戦を考える軍師という立場にした。
ペロムス1人で町を束ねるのは大変だろうからセシルに補佐として助言させる立場にした。
キールについては、火の神フレイヤの信仰を集めるため神殿の責任者とする。
ドゴラに信仰が集まっても、フレイヤの力になるらしいので、使徒というか御社というかそういう存在だ。
ドゴラからは「何か俺だけ適当じゃねえか」と言われた。
それぞれに従ってほしいという言葉で締めくくる。
アレンのパーティーメンバーの立場を理解しているアレン軍の皆は理解できたようだ。
オルバース王の子供であるルークを大将軍にしてくれて、ブンゼンバーグ将軍も嬉しそうだ。
「これで終わりなのかしら?」
ララッパ団長がそろそろ研究に戻りたいという顔をする。
魔導具の研究施設も建設中だ。
神殿が広いのでここでも良かったのだが、この神殿は基本的に不可侵の状態にした方が、信仰が集まりやすいと考える。
名工ハバラクたち鍛冶屋の職人集団のある山の麓の近くに、魔導具研究所を作った。
鍛冶職人には必要な、魔導具で出来た工具もあるようだ。
併設してしまった方が、島の運用としてはちょうどいいだろうということになった。
研究自体はそこでやってもらって、後は神殿の地下にあるこの島を動かすための装置の研究もしてもらう。
魔導具使いも結構忙しいが、魔導具使いにも転職して、規模のより大きい魔導具を扱ってほしい。
魔導具使いについても人数を分割させてダンジョンにも通い、転職をしてもらう予定だ。
ララッパ団長の言葉に、ずっと待っていたレイブンが反応する。
「そろそろ持ってきていいのか?」
「ああ、お願いします」
「ん? 俺にも敬語はいらないぞ」
自警団団長レイブンが、アレン軍の話を少し離れたところで聞いていた。
そろそろこの階層の下の階層に用意したものを持ってきてもいいのかという話をする。
そして、自分にも敬語は不要だとレイブンは言う。
8歳のころ、冒険者ギルドで色々教えてくれたレイブンへの発言はすぐには変えられないなとアレンは思う。
何事だろうとアレン軍が見つめる中、傭兵団がどんどん荷物を運んでくるのであった。
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