第95話 倉庫戦②

「おい、マーカス!!!」


「おら!!!」


 マーカスの身を案じるヘルゲイに、鉄球を投げつける。正面から投げたため剣で簡単にはじかれる。


「こ、このクソガキが!!」


 アレンは収納からドゴラから貰った短剣を取りだす。


(ふむ、人間相手に剣を持つが、なんのためらいもないな。いや館で襲撃されたときもそうだったし、今更か)


 これから殺し合いをしようというときに驚くほど落ち着いている自分がいる。


「ガキが怖かったりするのか?」


 館で切り合ったヘルゲイを挑発する。


「このクソガキが」


(ブロンいまだ、奴を押さえろ!)


「なんだこいつは!?」


 挑発を受け、剣を持って切りかかるヘルゲイを挟むように石Dの召喚獣が現れる。囲い込むようにして特技「身を守る」を使う。


(よしよし、ベアーを倒すにも3回攻撃しないといけなかったからな。これでターンを稼げるぞ)


 マーカスを倒している間も、共有した鳥Gの召喚獣がヘルゲイと獣Dの召喚獣の戦いを見ていた。ヘルゲイが獣Dの召喚獣をどれくらいで倒したか把握済みだ。ヘルゲイの攻撃力では石Dの召喚獣が身を守れば、簡単に倒せない。


 その隙に魚Dの召喚獣を召喚しアレンと召喚獣にバフをかける。


(よし、あとはチュー奴の力を奪え! スパイダー糸をだせ!!)


 2体の虫Gの召喚獣が、身動きが出来なくなったヘルゲイを襲う。そして、虫Dの召喚獣が糸をまき散らしさらに動きを拘束する。


(ふむ、やはり虫Gの召喚獣も効果あるのか。対人でも召喚獣のデバフは効果があると。それにしても、今魚Dの召喚獣のバフでセシルが光らなかったな。戦闘に参加していないから仲間認定しなかったのか)


 初めての対人戦で分からないことが多い。


(殺し屋がいるみたいだし、さっさと始末するか)


 セシルに魚Dの召喚獣のバフの効果はなく、虫Eの召喚獣のデバフもかからなかった。どういう判定なのか分からないので検証したいが、敵はここにいない1人も含めて少なくとも4人いる。さっさと3人目のヘルゲイは倒しておきたい。


 石Dの召喚獣2体に囲まれたヘルゲイの肩から渾身の力を込めて短剣で切りつける。


「ぐっ! くそ!!」


(硬い、いや俺が弱すぎるのか。この短剣の性能もあるかもな。攻撃力を上げて力で押し切るか? 素早さで数打ったほうがいいか)


 攻撃力750ではヘルゲイの耐久力は高く攻撃が通らない。剣が肉に食い込むが致命傷にはならないようだ。ヘルゲイは剣士系の職業なのか耐久力がかなりある。


 初めて人間を切ったのだが、ステータスにより耐久力のある世界だ。何か不思議な力が働き致命傷にならないことに違和感がある。


 戦いはアレンが圧倒している。素早さ偏重にしていたため、アレンの攻撃が決まり続ける。体格もアレンよりかなり大きいことも災いし、石Dの召喚獣で身動きが取れないのでほぼ一方的だ。


「ゲハ!!」


 最後に腹をけり上げ、倉庫の壁に吹き飛ばす。意識を失って首が項垂れている。


 その時、魔導船内にアナウンスが流れる。


『皆さま大変お待たせしました。この魔導船バホラ号はまもなく、カルネルの街に到着します。魔導船は降下を始めておりますので、席を立たないよう、よろしくお願いします』


(なんとか倒せたが、もう時間がないな。セシルの拘束を解かねば)


 今までにない揺れを感じる。魔導船が下降を始めたことを体で実感する。セシルは拘束されたままだ。このまま、カルネルの街に着いてしまえば、逃げ場を失ってしまう。


「セシルお嬢様、今拘束を解きますね」


「んんん」


 この召喚獣による戦いを最初から最後まで見ていたセシルが驚愕している。アレンはそんなことは気にせず、紐を引きちぎろうとしたその時、


「おいおい、なんだこりゃ? なんでガキにやられてんだ? 依頼主の子飼いはずいぶん弱ええんだな?」


 そこに現れたのは、カルネル子爵が雇った暗殺者ダグラハだ。見たことのないアレンの召喚獣たちにかなり警戒をしている。


 アレンはとっさにセシルを縛る紐から手を放し、石Dの召喚獣を新たに召喚しようと体を振り向いたその時であった。


「ゲフ!!」


「んんん!!」


 アレンがものすごい勢いで蹴り上げられたのだ。横腹を蹴り上げられ、あばらも何本も折られ壁に叩きつけられる。


(やばい、こいつは斥候タイプか? くそ速いぞ。一瞬こいつ消えなかったか?)


 鳥Gの召喚獣でダグラハの位置を捕捉していたので、セシルのほうを見ていてもダグラハの位置は分かった。召喚獣の共有越しの視界では召喚も指示もできないため、振り向く必要があったが、その時間がダグラハにとって遅すぎたようだ。


 共有した召喚獣の視線からも消えるほどの勢いで壁に蹴り上げられた。


「なんだその表情は? スキル受けたことねえのか? まったく、こんなガキにやられやがって」


 ダグラハが召喚獣と距離を取りながら、ゆっくりと腰に差したレイピアを抜き取りアレンのほうに近づいていく。


(スキルだと? 今スキルを使ったのか。いや検証は後だな。これは、戦うという選択肢はないな。ならば方法は1つだ)


 この1撃で相手の強さが尋常でないことが分かった。命の草で体力を全快させる。


 そして、


『おい、いつまでぐずぐずしている!!!』


「な!? 子爵がなぜここに!?」


 部屋の隅の死角から叫んだ鳥Gの召喚獣の声にダグラハが反応する。特技「声マネ」によりカルネル子爵の声で、動揺を見せる。


 その瞬間に、虫Dの召喚獣の特技「蜘蛛の糸」がダグラハの体に巻き付く。すかさずセシルのほうに駆け寄る。短剣を収納させ、セシルをお姫様抱っこし駆け抜ける。


「くそが! なんだこいつらは!!」


(蜘蛛の糸はあまり効果はないか。ブロンたち、壁になれ)


 アレンは扉をぶち破り、そのまま廊下に逃げだすが、ダグラハがすぐそこまで来ている。一瞬後ろを向いて2体の石Dの召喚獣を召喚する。この通路は縦2メートル程度、横も3メートルもない。石Dの召喚獣を出すと、召喚獣を倒さないと先に進めない。


 既に召喚してあった虫GやDの召喚獣たちも足止めをしようとダグラハに群がる。

 その間に全力で階段を駆け上がる。


(む、1体のブロンがやられたな。もう時間がないぞ。このまま乗客のいる場所に逃げ込むか。いやそれで今無事になっても後がないか。ならば)


 アレンが今いるのは、魔導船の外壁か何かを点検するため外に出る扉だ。扉の小窓から外を見ると、ゆっくり地面に向かっていることが分かる。魔道具か何かで発着地に激突しないよう灯りが照らされているので、地面がよく見える。


 セシルを床に置き、アレンは扉をこじ開ける。突風が吹き荒れるなか下を見ると、まだまだ100メートル以上地上から離れているようだ。


「セシルお嬢様、すみません。ちょっとここから飛び降りますが、御心配ございません」


「んんんん!!!!」


 セシルが何を言ってるんだと声にならない苦情を申告する。


(カード構成も変えて耐久力を上げてと。ブロンだと体力も上げれるんだが、そんな時間はないな)


 獣Fのカードから、耐久力が上がる虫Dにカードの構成を変えていく。石Dの召喚獣は合成に時間がかかるので虫Dの召喚獣で我慢する。


「大丈夫です。たぶん耐久力的に問題ないはずです。ステータスは嘘をつきません」


 よく分からない名言が飛び出す。


「んんんん!!!!」


 セシルは倉庫で目覚めたとき以上の抗議を体全身で示す。しかし、そんな抗議も空しく、アレンはセシルをがっしり掴んで落とさないように抱きかかえる。 念のため、セシルを収納に入れてあるマントで包んでいく。


「では、アレンいきます!」


 セシルが涙目で止めろと必死に訴える中、アレンは満天の夜の下、魔導船から飛び降りたのであった。


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