第170話 夜襲②

 セシルのエクストラスキル「小隕石」が発動する。


 クレナに続いてパーティー2人目のエクストラスキル発動だ。


 「小」がついた隕石は数十メートルの大きさの巨大な岩だった。どの辺が「小」なのか疑われる。

 赤熱した巨岩が、魔獣13万が眠る魔王軍ティアモ攻略部隊の本陣に襲い掛かる。

 落下する隕石の真下にいた魔獣は消滅し、その威力は地面を捲り上げ巨大なクレーターを作り上げていく。

 地面にへばりついた魔獣達はなすすべもなく、粉砕され、焼き尽くされていく。


 衝撃音と共に数えきれない悲鳴が上がり、阿鼻叫喚の様を呈している。大型の魔獣も多いのか、1キロメートル上空にまで随分声が届くなと思う。


(まじか、ログが追い付かないんだが。1万近く殺したんじゃね? これが完全な状態のエクストラスキルか。クレナも見習ってほしいぜ)


 範囲攻撃魔法な上に、敵がかなり密集していたという条件が重なり、とんでもない被害をもたらしたようだ。


 魔導書の表紙に出た魔獣を倒したことを示すログが目に追えない速度で流れていく。


 アレンの仲間で初めてエクストラスキルを発動したのはクレナだが、完全な状態でエクストラスキルを発動したのはセシルが初めてだ。


「お疲れ。クレナ達も向かっていくぞ」


「ふう、やったわ。エクストラスキルは1日1回っていうのが残念ね」


 エクストラスキルはかなりガチャ要素が高くて、同じ職業であっても効果は様々だ。

 そして、セシルの場合、1度に全魔力を必要とし、魔力が満タンでないと発動もしない。


 実に魔導士らしいエクストラスキルとなっている。


 エクストラスキルのクールタイムは1日のものが多いらしく、クレナもそうだが1日1回しか発動できない。

何でもクールタイムを短くする装備や、直ちにスキル再使用を可能とする消費アイテムなどが存在するというが、伝承レベルで眉唾物の話だという。


 なお、セシルは2年近くに渡るダンジョン攻略で稼いだ金貨5000枚を使い、知力を1000上げる指輪と魔力を1000上げる指輪をオークションで落札している。全財産を装備に変える辺り、セシルの金銭感覚はアレンに近いようだ。



 セシルのエクストラスキルを合図に、先頭にクレナとドゴラ、続いてキールとソフィーが、竜Bと獣Bの召喚獣を伴って魔王軍の群れに突っ込んでいく。


 竜Bの召喚獣達が範囲攻撃で一掃し、クレナ、ドゴラ、獣Bの召喚獣が、Aランクなど竜Bの攻撃で倒し切れなかった魔獣を協力して倒していく。


「うまくいっているみたいだ。あのあたりは獣系の魔獣が多かったからな」


「そう、うまくいったのね」


 魔王軍は単一系統の魔獣だけで構成されているわけではない。

 ゾンビや骸骨が剣を持ったような死霊系、大型の熊や狼などの獣系、オーガやトロルなどの巨人系、バジリスクやワイバーンなどの竜系等、その種類は様々だ。


 様々な魔獣が系統ごとに固まっており、現在攻撃している魔王軍本陣の東側には獣系統が多かった。


 クレナ達の目標は敵の数を1体でも減らすことだ。それも重傷を負わせるのではなく、確実に殺して魔王軍の数を減らすことである。


 死霊系は止めが刺しづらく、オーガやトロルなどは割と体力が高いうえ自己再生のようなスキルを持っている。


 しかし、獣系は攻撃力があるものの比較的倒しやすい。倒しやすくても、そうでなくても1体は1体。戦争は数なので、敵の数は減らすに限る。


 しかし、それはクレナ達に課された目標であって、アレンとセシルの目標は別にある。

 それがこれから始まる。


「アレン、始まったんじゃない?」


「ああ、あの辺りだな。ほら天の恵みだ」


「ありがと」


 ここは魔王軍本陣の真上1キロメートル上空だ。


 セシルの小隕石で起きた火災の中で、魔王軍側も事態に気が付いたのか、かがり火が一気に燃え始める。


 しかし、魔王軍を照らす灯りはそれだけではない。

 魔王軍の中にいる回復役が回復魔法を使い、味方の回復を始めたのだ。

 範囲魔法を使っているのか、かなり高いところにいるアレン達でも回復魔法の光を捉えることができる。


(バンバン回復魔法使っているな。どれどれ誰が使ってるんだ?)


 鳥Dの召喚獣の夜目を使い、何者が回復魔法を使っているのか確認する。ネクロマンサーみたいな、ローブを着て髑髏の杖を持つ魔獣が回復魔法をかけまくっている。

 他にも何種類か回復魔法を使える魔獣がいるようだ。


 鳥Fの召喚獣を召喚して覚醒スキル「伝令」を使い、アレンが確認した映像ごとセシルに情報を伝える。

 覚醒スキル「伝令」は、アレンが直接もしくは召喚獣の共有で見た光景を、情報として仲間に伝えることができる。


「あの髑髏杖が回復しているみたいだな。俺はこっち側を潰すから、セシルはあっちをお願い」


「分かったわ。場所は定期的に教えてね」


 アレンは返事と共に、行動を開始する。


(おら、死にやがれ)


 確実に倒すために10体ほどまとめて生成した石Eの召喚獣は自然落下を始め、回復魔法を掛けている中心付近に向かって降り注ぐ。


 体力がそこまで高くないのか、ネクロマンサーはアレンの攻撃で爆死していく。


 これがアレンとセシルの目標だ。クレナ達の目標は敵の数を減らすことであり、倒しやすい敵と戦ってもらっている。


 アレン達の目標は敵の回復役を潰すことだ。回復役を1人でも減らせば、それだけ今後の戦いを有利に進めることができる。


 回復役、指揮官、遠距離攻撃が可能な敵を優先して叩くことが、効率よく戦闘するための定石だと考えている。


「結構、コツが掴めてきたな」


「私もよ」


 セシルも自信を滲ませつつ、生成した大きな岩の塊を容赦なく落としていっている。

 魔石の消費もなくガンガン落とせるのは羨ましく感じる。


(Eランクの魔石はなるべく節約して使わないとな。だんだんうまくなっていっている気がする。成長を感じるぜ)


 石Eの召喚獣は1体9個のEランクの魔石を消費する。どの程度の数で倒せるか分からなかったため10体まとめて落としていたが、そこまでの数はいらないようだ。

 ネクロマンサーを倒す時のコツが掴めてきたので1箇所1~2体に変更し、あっちこっちに位置を分けて石Eの召喚獣を落としていく。


(ドラドラが3体やられたな。こっちにも補充してっと)


 クレナ達は接敵して戦っているため、召喚獣の数が減ると負担が大きくなる。

 竜Bの召喚獣は減ったら直ぐに作成、強化した状態で上空から援軍として向かわせる。


 そうやってクレナ達の支援もしながら、回復役を倒し続けていると、魔王軍もアレン達に気付いたようだ。


「何か飛んできたわよ!」


「ガーゴイルだ。グリフ上昇しろ」


『『グルル!!』』


 翼の生えた石像の魔獣がアレン達に気付いて、何体も迫って来る。

 アレンは鳥Bの召喚獣に指示を出して上昇を開始する。


(遅いな。我がグリフの相手ではないな。くらいさらせ!)


 共有してグリフの視界も確認しつつ、ガーゴイル達を石Eの召喚獣で爆撃していく。


「よし、上がってくる魔獣がいたら速攻で倒そう。俺らの方が高い位置にいるから、断然有利だしな」


「そうね」


 アレンはいつも楽しそうに魔獣と戦うのねとセシルは思う。


 その後もガーゴイル以外に死霊系など空を飛べる魔獣が何体か迫って来るが、撃墜しつつ、魔王軍の回復役の数を削っていく。


「む!」


「どうしたの?」


「いや、前方の3万の軍勢に動きがあった」


(もう動かすのか。これからなのに)


 魔王軍の本陣は13万の軍勢だ。しかし、その前方には3万の軍勢がティアモの北門側で待機している。


 既に万単位の犠牲が出ており、無視できない相手であると魔王軍は思ったのか、3万の軍勢をクレナ達に向かわせたのだ。


 クレナ達が本陣と3万の軍勢に挟まれる形になる。


 アレンは鳥Fの召喚獣の覚醒スキル「伝令」を使い、鳥Dの夜目で見た状況をクレナ達全員に映像として伝える。


 そして、竜Bと獣Bの召喚獣が時間を稼いでいる間にアレン達の元に向かうように指示をする。


 すぐにアレンの肉眼でも、やって来るクレナ達の姿が確認できた。


「いっぱい倒した!」


「そうだな」


 獣系の魔獣を切りまくったのか、クレナの全身が返り血で真っ赤に染まっている。


「こっちも結構倒したわよ」


「うんうん、セシルのエクストラすごかった!!」


 地上で見てもすごい迫力だったとクレナは言う。セシルは「でしょ」となんだか嬉しそうに答える。


「これは、敵陣営にかなりの打撃を与えたことになりますわね」


「うん。だが、どうも足りないようだ」


「「「足りない?」」」


 アレンは、女王たちと共に待機させた霊Bの召喚獣が見聞きしているティアモの状況を伝える。

 今現在、天の恵みを使い負傷者の回復を、手分けして行っている。

 既に夜襲に向かってから2時間ほど経っているが、流石にそれだけの時間では回復が間に合わないようだ。


「このままだと、明日攻められた時にはまだ万全な状態じゃないな」


 アレンは説明する。今回復を急いでいるネストの街もそうだが、半日かそこらでは怪我人全員の回復は間に合わないし、回復してから隊列を組み直すのにも時間がかかると思われる。


(この辺の時間感覚をしっかり持たないとな)


「じゃあ、どうするの?」


「南の方に5万の軍勢がいるみたいだから、これからそっちにも夜襲を掛けようと思う。まだみんなやれるよな?」


 ネットゲームでまだログオフしないでねみたいなノリで仲間達に確認する。


「ああ、行けるぜ」


 ドゴラも全身を鮮血で真っ赤にしながら返事をする。

 ティアモの街南にいる5万の軍勢にアレン達は向かう。

 こうして夜が明けるまでアレン達の魔王軍への夜襲が続いたのであった。

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