第121話 剣聖ドベルグ②

 クレナの指導をしている剣豪の担任がなぜ今話したと、クレナを叱責する。クレナはまっすぐドベルグを見つめている。そこに何のためらいも後悔も感じられない。


「クレナか。クレナよ、何故スキルを求める」


 隻眼となった1つの瞳でクレナを見つめながら、ドベルグはスキルを求める理由を聞く。


「はい! アレンには大きな夢があります! 私も一緒に叶えたいからです!!」


「あれん?」


 誰だそいつはという顔をする。


「ああ、前言っていたそこの黒髪の少年だよ」


 ヘルミオスがドベルグにアレンを指さしながら耳打ちをする。

 ドベルグは一瞬アレンを見た後、視線をクレナに戻す。


「ヘルミオス、シルビア、我はクレナという少女の相手をする故、後は任せるぞ」


「あ~はいはい」


 ヘルミオスが手をパタパタと振り了解した。


「クレナ、スキルを教える故こっちに来い」


(おお、いい人だ。教えてくれるのね)


「はい!!!」


 クレナが笑顔で答える。生徒が座る集団から立ち上がり、ドベルグとともに集団から離れていく。ドベルグが教官に模擬戦用の刃を引いた剣を持ってこさせているようだ。



 まだ、生徒の質問タイムは続いている。質問をする生徒。クレナとドベルグの様子を見る生徒と様々だ。


 クレナに模擬戦用の剣を持たせ、ドベルグ自らも剣を持つ。


「打ってこい」


「え?」


「スキルを使い、我を屠ってみよ」


「分かりました!!」


 スキルのやり方を具体的に教えるのかなとアレンは見ていたが、どうやら戦いながら使えるようになれ系の訓練のようだ。


(現在のクレナが前線に30年以上いるドベルグにどれだけ通じるかで、クレナの未来を見ることはできるかな)


 これは貴重な情報だとアレンはクレナのステータスを確認する。


 【名 前】 クレナ

 【年 齢】 12

 【職 業】 剣聖

 【レベル】 30

 【体 力】 1240

 【魔 力】 474

 【攻撃力】 1240

 【耐久力】 872

 【素早さ】 838

 【知 力】 494

 【幸 運】 595

 【スキル】 剣聖〈1〉、斬撃〈1〉、剣術〈5〉

 【エクストラ】 限界突破

 【経験値】 14,570/30,000


・スキルレベル

 【剣 聖】 1

 【斬 撃】 1

・スキル経験値

 【斬 撃】 0/10


 クレナの攻撃力は、この2ヵ月と少しの間に4桁に達した。ダンジョンでは、基本的に攻略を優先させているため、魔獣を狩るのは最小限にしている。主なレベル上げの要因は今では3ヵ所回れるようになった、C級ダンジョンの最下層ボスの経験値だ。


 クレナが一気に速度を上げ、少し離れたところに立つドベルグに向かっていく。そして、手加減のない一撃を、剣を上からたたき込むようにドベルグに振り下ろす。


「ふあ!」


 しかし、ドベルグは容易に剣を受け、そして撫でるようにクレナの体を受けた剣ごと吹き飛ばす。


「どうした? 使えるようになるまで付き合うゆえにな。スキルを使ってこい」


 どうやら、スキルが発動するまでこの訓練をするようだ。


(あれだな。どうしたらスキルが出るか一切言ってないのだが。これが正解なのか?)


 ほどなくして、質疑応答の時間は終わり、この広い格闘場の闘技台に散らばり剣の振り方などの指導を受け始める。槍や斧使いの生徒もいるが一緒に教えてくれるようだ。


 アレンも剣術について剣聖に習う予定であったが予定を変更する。アレンはセシルとともにクレナのスキル発動の訓練を見つめる。ドゴラは斧の指南を受けるため、闘技台の離れたところに移動した。



 それから2時間が経過する。


「どうした? さっきから同じことをしているぞ。それではいつまでたってもスキルは使えぬぞ」


「は、はい!」


 吹き飛ばされ、必死に立ち上がろうとするクレナにドベルグは声を掛ける。助言することなくただただクレナを吹き飛ばす。



 さらに2時間が経過する。1時過ぎから始まったクレナの訓練は、休憩なく4時間ぶっ通しだ。クレナが剣をドベルグに叩きこみ、無造作に吹き飛ばされ続けている。


「疲れたならやめても良いのだぞ? 1年くらいかけてゆっくり覚えるのだな」


「だ、大丈夫です!」


(やはり、スキルを覚えるのは1年くらいかかるのか)


 剣や斧のスキルは1年くらいかけて覚えるようだ。しかもまだ授業で習わない。これだと、今からなら丸2年かかるかもしれない。


「セシル」


「なに?」


「魔法のスキルはもう教えているの?」


「もちろんよ。ようやく魔法が使えるようになった子もいるわよ」


 キールも2ヵ月で回復魔法を覚えたと言っていた。攻撃魔法や回復魔法は2~3ヵ月ほどかけて覚えるのかとアレンは考える。


(剣士は誰でも覚えることができる剣術のスキルがある。しかしスキルの体得速度は遅い。魔法使いはスキルである魔法がないと何もできないから覚えるのが早いと。よく分からない調整がかかっているな。何か原因はあるのか?)


 職業による知力の差なのか、原因は分からない。



 さらに2時間が経過する。魔道具で出来た灯りが闘技台を照らす。既に勇者と剣聖の指導は終え、教官やヘルミオス、シルビアとアレンとセシルとドゴラが、いつ終わるか分からない、クレナの訓練を見つめている。


 ここにいないキールには、鳥Gの召喚獣を使い、今日は訓練が終わりそうにないからC級ダンジョンには行けないと伝えてある。


「どうした? 日が沈んでしまったぞ。本気で切り込んで来んか!!」


「は、はい!!」


 既に疲れて朦朧とするクレナに一切疲れを見せないドベルグが檄を飛ばす。まだどうやってスキルを使えるかなど一言も言ってはいない。



 さらに2時間が経過する。8時間ぶっ通しの訓練だ。


「へば!!」


 クレナがまた吹き飛ばされる。何百回目かもう誰も分からない。フラフラしながら必死に立ちあがろうとする。もう足に力が入らないのか、立ち上がれない。


「お前の友との夢はその程度の夢なのか?」


「ち、ちがう!」


 立ち上がれないクレナにドベルグが声を掛ける。


「違わぬわ!! 見よ!! お前の体を!! たったこの程度で立てぬではないか!!!」


「違う!! アレンはずっと頑張ってきた!!!」


 そういって、髪もくしゃくしゃになったクレナが今一度立ち上がった。


「では向かってこい! 剣で証明せよ!!」


「は、はい!」


 歩くよりもゆっくりな速度でドベルグにクレナが向かっていく。


「こい、スキル発動だけを考えよ。全てをぶつけてこい」


「……」


 朦朧としたクレナはもう返事をしない。吹き飛ばされた先からゆっくりドベルグの元に、歩くよりも遅いその速度で向かっていく。そしてうつむいたまま剣を振り上げる。


 そして、剣を頭上に掲げ振り下ろしたのだ。


 ブンッ


 あまりにゆっくり振り下ろされると思っていたその剣がこれまで以上の速度を持った。それはダンジョン攻略でも一度も見せたことのない速度であった。


 クレナの剣戟は容易にドベルグが構えた剣を叩き切り、ドベルグの肩を切りつける。


 ピシ


 クレナの剣は肩で止まるが、あまりの衝撃でドベルグの足元の闘技台にヒビが入る。


 一気に降ろされた剣はドベルグが持っていた模擬戦用の剣を叩き切り、ドベルグの肩に食い込む。ドベルグは鎧を着ていないが、剣はドベルグの服で止まった。


「見事だ。それがスキルだ。忘れるでないぞ」


「や、やった……」


 クレナはドベルグの前で倒れた。


「「「クレナ!!」」」


 様子をずっと見てきたアレン、セシル、ドゴラがクレナの元に駆けつける。アレンはクレナを抱きかかえる。気を失ってしまったようだが、その顔は安堵の表情をしている。


「もう、何でスキル見せて教えてあげないんだよ? その方が早いのに」


 ずっと待っていたヘルミオスがドベルグに問う。


「ヘルミオスよ。誰でもお前のように何でも器用に覚えるわけではないのだ。この娘は、頭で考えられるようには思えなかったからな。それにしても1日でものにしたか。思ったより早いな……」


 ドベルグは1日では無理だと思っていたようだ。不思議そうな顔をしながらクレナを抱きかかえるアレンを見ている。


「「「ドベルグ様!!」」」


「ぬ?」


 クレナの剣を受けた肩から血がにじみ出ていることに気付いた教官が慌てて駆けつけた。


「あれれ? 怪我しちゃったね。ヒール」


 ヘルミオスがドベルグの肩に回復魔法を掛ける。


「怪我をしていたか。人から切られたのは久々だな。新たな剣聖はそれほど育っていたのか」


「いや、あれくらいのステータスとスキルじゃ切れないって、えええ!!!」


 ヘルミオスの目が淡く光り出す。ドベルグの出血に疑問を持ちながらクレナを鑑定しているようだ。そして、驚きの声が闘技台に木霊する。


「どうした、ヘルミオス?」


「いや、この子のステータスがすごいことにってあれ? あれれ? 気のせいだったみたい。ごめん」


「そうか……」


(クレナのステータスがどうしたって?)


 アレンも魔導書でクレナのステータスを確認する。体力は満タンだが、魔力が2減っているなと上から順に見ていく。


(おお! スキル経験値が増えている!)


・スキルレベル

 【剣 聖】 1

 【斬 撃】 1

・スキル経験値

 【斬 撃】 2/10


 とうとうクレナのスキル経験値が増えたことに喜び、「ありがとうございました」とドベルグにお礼を言う。


 クレナの足元には柄の部分が粘土のように拉げた、鋼鉄製の模擬戦用の剣が落ちていたのであった。

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