第456話 メルルの願い②

 メルルの前に、ダンジョンで転移をサポートする管理システムのような物体が浮いている。

 魔導盤が変形したものはダンジョンのキューブ状の物体よりも一回りほど小さい。


『ワタシハタムタム』


 戸惑うようにタムタムは自らの名を復唱する。


『まあ、最初は「傀儡人形」だからな。こんなもんだろ。成長すれば、そのうち上手く意思を表現できるようになるぞ』


「おお!!」


 タムタムは、最初は片言しか話せないようだ。


(この魔導盤には、いや、魔導キューブに石板を入れるへこみが各面にあるぞ)


 アレンはこのキューブ状の物体になった魔導盤を魔導キューブと名付けることにする。


『各面に5枚、全部で石板も30枚つけることができるはずだ』


 アレンの心を読むようにディグラグニが答える。


 ゴーレム用の石板をつける場所は1面5枚ずつある。

 6面全てで30枚はめることができることを意味し、これまでの20枚から30枚に増加した。


「おお! 一緒に動く!!」


 メルルが歩くとメルルの頭上に浮く魔導キューブも連動して動くようだ。


「さて、メルル。色々検証するぞ。タムタムも降臨させたいしな」


「そうだね!」


「おい、アレン。これから検証を続けるのか」


 アレンがメルルと詳しく検証しようと声をかけるとドゴラがやってくる。


「もちろん、そうだ。結構長くなるぞ」


 アレンの検証は長くならないと言っても数時間はかかる。

 長くなると言ったら半日に及ぶ。


 タムタムに魂が宿った意味も知りたいし、ディグラグニから大量の石板を貰った。

 検証したいことは山ほどある。


「じゃあ、1つ前の階層に戻ってやろうぜ。俺はスキルを鍛えたい」


 干し肉を食べ、喉を潤すために魔導具袋からモルモの実を取り出して食べているドゴラはスキル上げをしたいと言う。


「ああ、そうだな」


『おい』


 その言葉で横にいたメルスの表情が険しくなる。


「ん? どうした、メルス」


『いや、何でもない』


 ドゴラがスキルを鍛えるということは、メルスは天の恵み、魔力の種の生成作業に戻るということだ。


 最下層ボスの間から、最下層の間に移動する。

 ここも天井は100メートル以上ある巨大な空間なので検証するには十分だ。


「アレン殿、無事でしたか」


「ああ、問題なく討伐できました」


「おお! ダンジョンマスターをということですね。素晴らしい」


 アレンたちが最下層ボスの間から戻ると勇者軍の将軍たちが駆け寄ってくる。

 今日は最下層ボスのゴルディノを倒した後、ディグラグニに挑戦すると伝えてあった。


 勇者ヘルミオスは5大陸同盟に参加するため、ラターシュ王国に移動している。


 勇者軍の将軍たちへの対応はキールに代わってもらう。


「じゃあな。また、細かい戦術が変わるようなら聞かせてくれ」


「ドゴラもありがとう」


 仲間を守るため誰よりも攻撃を受けたドゴラは、メルルの言葉に背を向けたまま手を振って答えた。

 アレンが召喚した石Dの召喚獣も設置済みだ。

 ドゴラはいつもの気力が尽きて意識を失うまでスキルの修練をするコースに突入するようだ。

 アレン軍や勇者軍が石Dの召喚獣の前に倒れているドゴラを回収して、寝室に運ぶのはいつものことだ。


 アレンたちに少し遅れてディグラグニもこの階層にやってきた。

 初めてディグラグニを見た者も多いので、一瞬勇者軍の兵たちが固まってしまう。


『メルルよ。魔導具袋の機能を持たせてある。もう石板をはめ込まなくていいぞ』


 メルルに助言を言ってくれるようだ。


「え? おお!!」


 ガチャガチャ


(無数のキューブを管理する手間がなくなるな。いや、戦闘中の石板の交換を手動でしなくていいのはそれ以上の恩恵か)


 キューブ上の物体が空中でガチャガチャと動きながら、自らの部品を広げ体積を大きくする。

 広がり大きくなった魔導キューブは中に漆黒の闇があった。

 これは収納の魔導具や魔導書の収納と同じ仕組みのようだ。

 メルルの手元にやってきた魔導盤に、魔導具袋にある石板を全て流し込むように入れる。


『メルル、石板を意識してはめてみろ』


「は、はい。ディグラグニ様」


『おい、敬語はやめろ』


「わ、分かったよ。ディグラグニ」


 勝者は敗者に対し敬語は許さないというディグラグニの強い意思を感じる。


 キュイイイイン

 ガチャガチャ


 魔導キューブが回転しながら、部品を広げたりしながら中から石板を取り出し一瞬ではめ込んでしまった。


『ふむ、機能に問題なしだ。試しに作ってみたが上手くいったな。まず、タムタムを降臨させろ』


「分かった。タムタム、降臨!!」


『ハイ、メルルサマ』


「おお!!」


 魔導キューブが回転し、前面が光ったかと思うと、魔法陣が地面に現れ、頭から朱色に輝くタムタムが降臨する。

 魔導キューブが降臨の演出をするのだが、タムタムの見た目は変わらない。


「メルル、何か変わったことはないか? タムタムのステータスを見せてくれ」


「うん!」


 ブン!


 タムタムの水晶部分が光りステータスが照射される。


 【名 前】 タムタム

 【規 格】 傀儡人形

 【性 能】 H

 【操縦者】 メルル

 【ランク】 ヒヒイロカネ

 【体 力】 25000+1000+3600

 【魔 力】 25000+1000+3600

 【攻撃力】 25000+1000

 【耐久力】 25000+1000+3600

 【素早さ】 25000+1000

 【知 力】 25000+1000+3600

 【幸 運】 25000+1000

 【機 能】 強化〈1〉、収納

 【規格値】 0/10,000


(完全にタムタムは成長します。本当にありがとうございました)


 タムタムのステータスには【規格】【性能】【機能】【規格値】という欄が追加された。

 今の規格は「傀儡人形」のようだ。

 また、機能には強化〈1〉とあり、全ステータスが1000増えている。

 収納はディグラグニが言っていたとおり、石板を収納させるためのものだろう。

 丁寧に今の規格の下に【性能】の「H」が表示されている。

 これは、規格値が上限まで上がれば、今後成長していくことを示唆していそうだ。


(規格の経験値の数値がすごい勢いで上がっているな。経験値をためるには魔力消費か?)


 規格が次のバージョンになるには、スキル経験値同様に魔力消費が必要なようだ。


【ゴーレムを動かすのに必要な魔力(秒間)】

・アイアンゴーレム 魔力1

・ブロンズゴーレム 魔力2

・ミスリルゴーレム 魔力3

・ヒヒイロカネゴーレム 魔力5


【大型、超大型石板使用、併用時の魔力消費倍率】

・大型用石板使用 2倍

・超大型用石板使用 3倍

・大型、超大型石板併用 5倍


 大型と超大型用石板を併用しているヒヒイロカネゴーレムのタムタムは、秒間25の速度で規格経験値が溜まっている。

 規格経験値には、魔力消費が必要なようだ。


『次に渡した石板の説明をするぞ』


「うん!」


(随分親切になったな。検証の時間が省けるぞ)


 ディグラグニが教えてくれるおかげで、半日コースと思われた検証の時間が大幅に削れる。

 何かがディグラグニの態度を変えたようだ。


【ダンジョンマスターディグラグニがくれた石板】

・強化外骨格用石板(スキル名詳細:ディグラグニオン)

・分隊用石板(スキル名:ペンタポッド)

・陽電子砲用石板(スキル名:グランレイザー)

・短距離転移用石板(スキル名:テレポート)

・放射状重力波用石板(スキル名:ラウンドバースト)


『まずはタムタムに乗り込め。グランレイザーは俺を装着しないと使えないからな。乗ったら俺から装着しろ』


「分かった!」


 分隊用石板と陽電子砲用石板は、強化外骨格用石板を使用し、タムタムを強化しないと使えないらしい。

 メルルはタムタムの中に乗り込む。



『いいか掛け声は、ディグラグニオンだ! ちゃんとディグラグニオンっていうんだぞ!!』


 そう言って何故かディグラグニは姿を消した。

 魔導キューブに早速強化外骨格用石板をはめ、使用するように指示をする。


「分かった。ディグラグニオオオオオオオオオオオオオオオン!!」


 メルルは叫びながらタムタムの水晶の中で大きく拳を掲げる。


 ギュウウイイイイン


 天井に魔法陣が現れ、魔法陣の中からゆっくりとディグラグニが姿を現す。


(いや、さっきまでいただろ)


 演出感が半端ないなとアレンは思う。


 ディグラグニの体のパーツはバラバラに分かれ始めた。

 パーツがそれぞれタムタムに装着されていく。


「トンデモなくかっこいいな! なるほど、強化外骨格か。メルル、ステータスを俺たちにもわかるように!!」


 一瞬何の演出だと思ったが、それを超える感動がアレンを襲う。

 漆黒のアダマンタイトのディグラグニに覆われたが、一部朱色に輝くタムタム。

 見た目だけだが、明らかに強そうなことは分かる。


 水晶の部分から光を照射し、アレンたちに分かるようにディグラグニを纏ったタムタムのステータスを見せてくれる。


「ほい、って、おお! タムタムのステータスが10万超えたよ!!」


 興奮するメルルは水晶に表示されたステータスを見つめる。

 とんでもない数値が表示されていた。


 【名 前】 ディグラグニ・オン・タムタム

 【規 格】 傀儡人形

 【性 能】 H

 【操縦者】 メルル

 【ランク】 ヒヒイロカネ

 【体 力】 100000+1000+3600

 【魔 力】 100000+1000+3600

 【攻撃力】 100000+1000

 【耐久力】 100000+1000+3600

 【素早さ】 100000+1000

 【知 力】 100000+1000+3600

 【幸 運】 100000+1000

 【機 能】 強化〈1〉、収納

 【規格値】 8,200/10,000


『どうだすげえだろ。魔力を馬鹿みたいに使うからな。そこだけ注意してろよ』


「ほ、本当だ」


 水晶に表示されたメルルのゴーレムのステータスの魔力残量が、秒間で250ずつ減っていく。

 スキルも何も使用しなくても魔力消費がとんでもないようだ。


『次はペンタポッドを出してみろ』


「うん、ペンタポッドたち出てこい!!」


 水晶の中でメルルは力強く叫び大げさなポーズを決めると、タムタムの水晶部分から光線のような物が照射される。

 辺りに照射される中、5つの物体が具現化を始める。


 【名 前】 ペンタポッド

 【体 力】 50000+1000+3600

 【魔 力】 50000+1000+3600

 【攻撃力】 50000+1000

 【耐久力】 50000+1000+3600

 【素早さ】 50000+1000

 【知 力】 50000+1000+3600

 【幸 運】 50000+1000

 【機 能】 リペアエナジー、砲台変形


 メルルが水晶の中から降りて、アレンに状況を説明してくれる。


「これはすごいな。自らを回復させる特技を持つ分隊を5つ出すことができるのか。もう無敵だろ。デバフも通じないしな」


 ゴーレムにはデバフが通用しない。

 ゴーレムにはバフの効果はない。

 しかし、ステータスを上げる方法は強化用石板をはめるなどで限られているが、それでも圧倒的なステータスだ。


『お、さすがに魔力消費が高いな。ん? 新たな規格に変わるぞ!』


「え? タムタム?」


 規格経験値があっという間に1万に達したようだ。


 【名 前】 ディグラグニ・オン・タムタム

 【規 格】 カラクリ人形

 【性 能】 G

 【操縦者】 メルル

 【ランク】 ヒヒイロカネ

 【体 力】 100000+2000+3600

 【魔 力】 100000+2000+3600

 【攻撃力】 100000+2000

 【耐久力】 100000+2000+3600

 【素早さ】 100000+2000

 【知 力】 100000+2000+3600

 【幸 運】 100000+2000

 【機 能】 強化〈2〉、出力〈2〉、収納

 【規格値】 0/100,000


 規格が傀儡人形からカラクリ人形にモデルチェンジしたようだ。

 ステータスが強化され、ステータスが1000から2000増加に変わる。

 また、出力〈2〉という新たな機能が追加される。

 なお、見た目は変わらない。


『その「出力」っていうのは、ゴーレムが扱うスキルの効果を高めるぜ』


 タムタムに纏っているディグラグニが出力の効果を教えてくれる。


「おお! タムタムが強くなった」


『ハイ、メルルサマ。タムタムハツヨクナリマシタ』


 まだまだ片言の言葉しか使えないようだ。

 しかし、メルルはタムタムの言葉に違和感があったようだ。


「ねえ、タムタム、僕らは相棒だ。『様』はいらないよ!」


『リョウカイシマシタ。ワタシノアイボウ、メルル!』


「うんうん」


 なんとなく、ディグラグニが敬語を嫌う理由が分かったような気がする。

 意思の疎通ができるようになり、これまで以上にタムタムとの一体感をメルルは感じているようだ。


「あれこれ教えてくれて助かる。ディグラグニ」


 メルルがタムタムにかっこいいポーズを教え始めた。

 強化外骨格から通常の状態のディグラグニに戻ったので、アレンは改めて礼を言う。


『当たり前だ。俺が初めて魂を与えたゴーレムだからな。俺の石板をはめていたら質問に答えるからな。何かあったら連絡をくれ』


 何でも、魔導キューブに強化外骨格用石板をはめたらディグラグニと連絡が取れるらしい。


「随分親切に教えてくれるんだな」


 助かるには助かるが、随分な気持ちの入れようだ。


『俺は魔法神イシリス様に作られた傀儡人形だ。だが、この体にも魂があると信じているぞ』


 ディグラグニは胸の水晶の部分に手を当て、自らの存在を語る。


「?」


 何の話だろうとアレンは考える。


『俺には魂がある。そうだ、魂はあるんだ』


(ああ、ディグラグニの琴線に触れたのか)


 メルルの願った「ディグラグニのように魂を与えてほしい」はディグラグニの心を動かしたようだ。

 自らの存在を語るディグラグニには遊び半分な態度はみじんも感じられなかった。

 タムタムにかっこいいポーズを教え込むメルルとタムタムを見ながら、ディグラグニは何か遠くを見つめる。

 まるで自らの決断に誤りがないと言い聞かせるようだなとアレンは思うのであった。

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