第215話 英雄王

 剣聖の上位職は剣王だった。

 前職の剣聖レベル60のステータスを半分引き継いでいるため驚異的なステータスになっている。


「ほうほう」


 クレナが手をグーパーしながら、自らの力の変化を確認している。


『うんうん、ステータスがいきなり変わったからね。今までと勝手が違うから注意するんだよ。では次はドゴラ君ね。ドゴラ君は狂戦士だね』


「「「狂戦士!!!」」」


(何だろう。ワクワクが止まらないな。狂戦士か、バーサーカーなのか)


 アレンの中で斧使いはバーサーカーのイメージがあるので、狂戦士と言う職業がかなりしっくりくる。


「狂戦士か。悪くねえな」


 ドゴラもニヤニヤが止まらないようだ。「狂戦士」と言う言葉には少年心を擽る魔力のようなものがあるのだろう。


 ドゴラが精霊神の腰振りの転職モーションで光り輝く。


 【名 前】 ドゴラ

 【年 齢】 14

 【職 業】 狂戦士

 【レベル】 1

 【体 力】 661

 【魔 力】 358

 【攻撃力】 871+1000

 【耐久力】 573

 【素早さ】 362+1000

 【知 力】 241

 【幸 運】 392

 【スキル】 狂斧〈1〉、渾身〈1〉、斧術〈6〉

 【エクストラ】 全身全霊

 【経験値】 0/10


・スキルレベル

 【狂 斧】 1

 【渾 身】 1

・スキル経験値

 【渾 身】 0/10


 指輪は攻撃力+1000、素早さ+1000を装備している。


 ドゴラのレベル1のステータスも魔導書のメモに記録しておく。

 星1つのドゴラはあと2回転職することになる。


『次はセシルさんかな。セシルさんには2つの選択肢があるよ。賢者と大魔導士だけど、どちらがいいか選んで』


(お!? 魔導士から職業が分かれたぞ。職業のツリーが枝分かれする感じか)


「え? 大魔導士だけじゃないのね。そう。う~ん。どっちがいいかしら?」


 セシルが悩みだす。


「もし、どっちでもいいなら大魔導士がいいかな。回復役なら、ソフィーもキールもいるし。俺も回復できるし」


 アレンは、セシルには大魔導士になってほしいと言う。


 賢者は回復魔法と攻撃魔法と補助魔法が使えるという。

 大魔導士は攻撃魔法一択だ。


 アレンのパーティー内に十分回復役がいるので、セシルには攻撃魔法特化で成長してほしいと言うことだ。


(まあ、覚える魔法の種類がノーマルモードだと4つしかないからな。これがエクストラモードになって種類が増えるなら別だけど)


 ノーマルモードの賢者だとスキルが足りず、攻撃も回復も半端になることを心配している。


「そう? アレンが大魔導士の方がいいなら、それがいいわ」


 セシルは元々なるつもりでいた大魔導士を選ぶ。


『大魔導士ね。じゃあいくよ』


 そう言って、精霊神はセシルを大魔導士に転職させる。


 【名 前】 セシル=グランヴェル

 【年 齢】 14

 【職 業】 大魔導士

 【レベル】 1

 【体 力】 514

 【魔 力】 868+2000

 【攻撃力】 330

 【耐久力】 421

 【素早さ】 510

 【知 力】 1195

 【幸 運】 480

 【スキル】 大魔導〈1〉、火〈1〉、組手〈3〉

 【エクストラ】 小隕石

 【経験値】 0/10


・スキルレベル

 【大魔導】 1

 【火魔法】 1

・スキル経験値

 【火魔法】 0/10



 指輪は魔力+1000を2つ装備している。


(ふむふむ、セシルは体力や耐久力が低いからな。転職で体力や耐久力の底上げがされるのは助かるな)


 強くてニューゲーム仕様な転職だということは分かった。

 お陰で、弱点となるステータスの底上げができて助かると魔導書を見ながら分析をする。


「私大魔導士になれたの? ちょっと見せなさいよ。大魔導士よ! なれたわ!! ぐふふ」


 アレンの魔導書を覗き込むようにして、自分が大魔導士になれたかセシルが確認をしている。

 夢にまで見た大魔導士になれて嬉しいのだろう。


 仲間達がキャッキャと自分らの転職をアレンの魔導書で確認しているのだが、当然仲間達以外は魔導書が見えない。何やっているんだろうと、女王も将軍達も様子を窺っている。


『次はキール君だね。キール君も選択が2つある。聖者か武僧だね』


「俺も2つあるのか。う~ん」


(なるほど、攻撃もできる武僧か、回復特化の聖者なのか)


「キールは金の亡者なんだから、聖者がいいんじゃないのかしら?」


 アレンはセシルの言葉に納得する。

 キールはお金が大好きなのは、アレンの仲間達の共通の認識だ。


「あ? セシル、どういう意味だよ!」


「言葉通りの意味だけど」


「まあ、そうだな。キールは回復特化の職業の方が助かる」


 セシルに賢者ではなく、大魔導士を選んでもらったように、キールには回復特化の聖者になってほしいとアレンは言う。


(雑魚狩りなら、オールマイティーな職業の方が楽だと思うが、魔神戦はそうはいかないからな)


 魔神はとても強く、ヘルミオスや精霊神の助力に、ここ一番でエクストラスキルを使えたドゴラや、エクストラスキル時にスキルを使えるようになったクレナのお陰で、奇跡的に勝てた。


 いくつもの奇跡が重なったおかげの勝利だが、今後も奇跡が続くとは限らない。


 奇跡も大事だが勝率を上げるには、各々の職業を特化して成長させることが大事だとアレンは考えている。


「そっか。じゃあ、聖者にします」


『聖者ね。じゃあ、転職するよ』


 精霊神はキールを聖者にする。


 【名 前】 キール

 【年 齢】 14

 【職 業】 聖者

 【レベル】 1

 【体 力】 394+1000

 【魔 力】 750

 【攻撃力】 299

 【耐久力】 421

 【素早さ】 480

 【知 力】 661+1000

 【幸 運】 602

 【スキル】 聖者〈1〉、回復〈1〉、剣術〈3〉

 【エクストラ】 神の雫

 【経験値】 0/10


・スキルレベル

 【聖 者】 1

 【回 復】 1

・スキル経験値

 【回 復】 0/10


 指輪は体力+1000、知力+1000を装備している。


「おお!」


 キールも聖者になってかなりうれしそうだ。

 自分のステータスの変化を、体をポンポン叩きながらキールが確認している。


「よしよし、これで全員の転職が終わったな」


(全員、今ある職をさらに特化させた感じだな。連携的には今の感じと同じかな)


・クレナ 剣王

・セシル 大魔導士

・ドゴラ 狂戦士

・キール 聖者

・ソフィー 精霊魔導士

・フォルマール 弓豪


 アレンが仲間達を見る中、精霊神が口にする。


『まだ終わっていないよ。もう1人いるよ。ヘルミオス君』


 アレンが仲間達を見る中、精霊神が口にする。


「え? 僕かい?」


(お? 勇者も転職させてくれるんか? 魔神討伐手伝ったご褒美的な)


『魔神を倒すのに手伝ってくれたお礼もそうだけど、ヘルミオス君の転職はエルメア様の御意志だね。ちょっと代わるね』


「え? 創造神様が僕の転職を? って代わる?」


 ヘルミオスも転職するのかと思いながらも、ヘルミオスと精霊神の会話をアレン達は黙って聞いている。


 代わるとは何なのかと思いながらも精霊神を見ていると、今までフワフワしていたモモンガ姿の精霊神が、中空で無気力な状態で静止した。


『私は創造神エルメアです。勇者ヘルミオスよ、我が子らを守るためよくここまで戦ってきました。本当にありがとうございます』


「「「な!?」」」


(ふぁ? 創造神エルメアが精霊神ローゼンに乗り移ったぞ!)


 今までと明らかに違う声質だ。中性的な声が、体に染みるように聞こえてくる。

 

「いえ、私の為すべきことをしたまでのことです」


 ヘルミオスが、創造神の乗り移った精霊神に対して謙虚に受け答えをする。


『ヘルミオスよ。あなたには苦難な道を与えてしまいましたね。あなたにも転職の機会を与えます。英雄王となり、今後も我が子らを守ってあげてください』


「英雄王?」


 そこまで言うと、精霊神の手がヘルミオスに向けられる。

 そして、温かい光がヘルミオスを包み込む。


 光が消えても、ヘルミオスに変化はないが、きっと「英雄王」への転職が済んだのだろう。


『ヘルミオス君の新たな職は「英雄王」だね。はは』


 ヘルミオスの様子を仲間達が確認する中、精霊神の口調が元に戻る。

 ヘルミオスの転職を済ませたら、創造神は精霊神の中からいなくなってしまったようだ。


(なるほど、星5つの勇者の上は、星6つの英雄王か。創造神なら星6つまで転職できるのか?)


 アレンは魔導書にヘルミオスの転職を記録する。


「僕が英雄王か……」


 転職が終わり英雄王になったヘルミオスが、何か考え事をし始める。そして、アレンを見つめる。


「どうしました? ヘルミオスさん」


「前、アレン君が言ったことを思い出したんだよ。そっか、絶望の先を超える方法ってあるんだなってね」


(絶望の先か、学園武術大会でも聞いたな)


 苦難の中でヘルミオスが魔王軍と戦っていると、アレンは察している。


 ヘルミオスは、転職して新たな職を手にするアレンの仲間達を見て、こういうふうに強くなる方法もあるんだと思った。

 そして、ヘルミオス自らも英雄王という新たな職業に就くことができた。


「そうですよ。だから、楽しみながらあの手、この手を模索しないといけないんですよ。でないと、絶望の先は越えられません」


「楽しみながらか。アレン君らしいね」


 ヘルミオスがそう言ってほほ笑んだ。


(勇者が強くなってくれて助かる。人間側の強化ができたから中央大陸は任せていられるな)


 アレンはこれからローゼンヘイムを離れて中央大陸に戻る予定だ。

 中央大陸に戻った後やることがある。


(メルルとも合流して今後のことも話し合わないとな)


 それはバウキス帝国に行ってS級ダンジョンを目指すことだ。

 当面の目標である装備を揃え、仲間達の転職を進めていきたい。


「女王陛下。バウキス帝国はどうなったのでしょうか?」


 アレンが女王にドワーフが治めるバウキス帝国の状況を確認する。バウキス帝国も100万の魔王軍の軍勢に攻められていたはずだ。


 アレンの仲間のメルルも戦っていると思われる。


「心配はございません。戦況はバウキス帝国側に優位に進んでいると、バウキス皇帝からの連絡も少し前にありました。これもエルフの霊薬のお陰であると」


「それは良かった」


 そこまで言ったところでエルフの女王が困った表情を示す。


「ただ、エルフの霊薬がもっと欲しいと言われております」


(ほう、バウキス帝国は欲を出してきたな。それはちょうど良い)


 アレンの仲間達が、アレンの表情が悪くなっていることに気付く。良くないことを考えている前触れだ。


「エルフの霊薬がほしいなら、飲んでほしい条件があるとお伝えください」


(これはすんなりバウキス帝国に入る方法が手に入ったと見て良いな)


「え? わ、分かりましたわ。そのようにバウキス皇帝に話をしておきましょう。アレン様、いかがされますか? ローゼンヘイムにはしばらくいらっしゃるのですか?」


 できれば、勝利に導き、エルフ達を救ってくれた英雄達のために何か催しをしたいと女王は言う。


「いえいえ、魔王軍との戦いは終わっておりません。私達がすべきことはたくさんあります。そのためにも、明日にでも中央大陸に戻りたいと思います」


(フォルテニアのことがバレる前に帰らねば)


 そうですかとエルフの女王も残念そうに返事をした。


 こうして、魔王軍が率いる数百万に及ぶ魔獣と、それを束ねる魔神や魔族との戦いは、ローゼンヘイム側の勝利と言う形で終わった。


 そして、バウキス帝国のS級ダンジョンへの攻略に向け、アレンは仲間と共に強くなるため、行動を開始するのであった。





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