第326話 チームキール① 南へ

 キールたち3人は南に向かって移動している。

 メルルのタムタム(モードイーグル)から降り、召喚獣に乗って移動している。


 メルスを先頭に、召喚枠の節約のためにクレナとキールは2人で鳥Bの召喚獣に乗っている。


 メルスがいるので、連絡要員兼戦闘要員の言葉が話せる霊Aの召喚獣は出していない。


 南の方角は東と西の方角と違い、エルマール教国から離れているため、こちらには応援は来ない予定だ。

 虫Aの召喚獣に王台と産卵をさせながら、数を増やし続けている。


 既に移動を開始してから2日目になったが、光の柱は延々と伸び続け終わりが見えない。


「なかなかつかないね!」


 クレナが数時間置きに同じ言葉を発する。

 後ろでキールが「そうだな」と同じ返事をする。

 すると先頭で飛んでいるメルスが止まった。


『ここで休むぞ』


 メルスは日が傾き始めたので、ここで野営をすると2人に伝える。


「うん」


「分かりました。メルス様」


 2日移動したが、今日も光の柱の終着点が分からなかった。

 暗くなり始めた草原にクレナたちは降りていく。

 この辺りは見晴らしの良い草原だ。


 メルスは無言で手のひらを目の前に突き出す。

 すると、目の前に真っ黒な闇の塊が現れ、そこからゴトゴトと薪が落ちる。


 これはメルスの特技「天使の輪」によるアレンの「収納」のスキルだ。

 アレンはメルスには天使の輪の管理者権限を最大まで付与している。


 アレンの魔導書の収納と、中身はリンクしており、アレンがいるときと同様に収納から、あれこれ取り出すことができる。

 アレンとメルスは収納を通して荷物の受け渡しもできる。


 鳥Aの召喚獣の特技「巣ごもり」を使えば、アレンとメルスはいつでも、お互いのところに行くことができるので、収納を利用したアイテムの受け渡しはそこまで便利ではないし、活用方法も見当たらない。

 アレンは何か有効なアイテム受け渡しの方法はないか模索中だ。


 アレンから渡された召喚産の各種回復薬がそれぞれ入った袋を地面に置いて、クレナと一緒に野営の準備をする。

 メルスがいるのに召喚産の回復薬袋をいくつか持っているのは、メルスが倒れて消えてしまったとき。

 もしくはメルスがクレナやキールを置いてどっか行ってしまった時の保険だ。


 ないとは思うが、人数が少ないので、こういった保険の回復薬をアレンのチームも含めていくつか持たせている。


「よし、火は俺が起こすからってどうした? クレナ?」


「しっ!」


「?」


 学園にいたころから野営は慣れている。

 拠点での暮らしも共同作業であったが、ダンジョン内で宿泊する時も皆で手分けしながらの野営準備だ。


 メルスが出した30センチメートルくらいのごつごつした石を組んで焚火の準備をしていたクレナが視界の悪くなった草陰の何かに反応した。


 どうしたのか聞こうとしたが、キールは静かにと言われてしまった。


 ここは魔獣もいるし、クレナたちは邪教徒を追ってここにやって来た。

 何かいたのかと固唾を飲んでいると、クレナは腰に差しているナイフに手を当てる。


 一瞬口角が上がったような気がしたが、クレナはナイフを抜いてすごい勢いで走り出した。

 そして、草原の土が盛り上がったところ目掛けて飛び上がり、ナイフを突き立てる。


『ピキー!』


 甲高い悲鳴が響く。


「へへ、捕まえた! 今晩はお肉だ!!」


「お、おう」


 首から血をぼたぼた流して絶命した角ウサギの角を、クレナは笑顔で握りしめている。


 クレナは慣れた手つきで角ウサギをばらして、同じくメルスの収納から出してくれた木の枝に、塊肉を突き立てて焚火に当てて炙り始めた。


「うまそう。ぐふふ」


 15歳になって、せっかく女性らしくなり始めたのに、やっていることは野生児なのな、とキールは口に出すことなく、心の中で留めておくことにする。


 ソフィーが近くにいても、クレナの野生は消えることはなかった。

 なお、アレンを締め上げているセシルは、貴族の感じはあまりない。


「それで、メルス様、まだつかないんですね」


『そうだな。ああ、前も言ったが、私に「様」は不要だ。それに敬語も不要だ』


 第一天使でも何でもないただの召喚獣と扱えとメルスはたまに言う。


「さすがに見習いとはいえ、神官なのに。分かった、もう止めるよ」


 メルスが難しい顔をしたのでキールもさすがに止めることにする。

 本当に嫌なようだ。

 メルスなりのけじめなのか何なのか分からない。


 キールはエルメア教会の見習い神官という立場だ。

 普段、何となくメルスに話しかけるのは、アレン、クレナ、ドゴラ辺りが多い。

 元クレナ村の野生児のクレナとドゴラは元第一天使と聞いても、「そうなのか」と一切気にしなかった。

 次点でメルル、ソフィーと言った感じだ。

 ソフィーは「アレン様」同様に「メルス様」と呼んでいる。

 メルスから様をつけるなと言われても気にしないようだ。


 ソフィーは確固たる自分がありすぎて頑固なところもある。


 キールは注意されたので「様」を止め、普通に話しかけることにする。


『そうだな。このまま行けば明日には南端に達するのではないのか。そこまで巨大な大陸ではないからな』


「そうなのか。南端には何があるんだ。ソフィーのところみたいに、砂漠がある感じはしないけど」


 キールは火で温めたフカマンやらを食べながら、これからの話をする。

 アレンにチームリーダーを任せられたので、南に何があるのか知っておきたい。


 なお、移動して2日目のチームキールだが、チームソフィーが既に昨日からダークエルフの里ファブラーゼや砂漠で活動を始めている事についてメルスから話を聞いている。


 ソフィーに同行している霊Aの召喚獣はメルス「も」アレンと同様に共有しているからだ。


 召喚獣を共有したら、召喚獣で見聞きしたものを同時に見ることができる。

 しかし、アレンが共有した召喚獣の視覚の情報が自動的に、メルスに伝わるわけではない。

 同じくメルスが召喚獣を共有して、アレンが見ることはできない。


 そのため、召喚獣の視覚を共有するためには、アレンもメルスもそれぞれ共有する必要がある。


 1体共有するのに知力200必要なのはアレンと同じなので、強化して知力が22000あるメルスの最大共有数は110体だ。

 メルスは既に召喚してある全ての召喚獣と共有は済ませている。


『そうだな。ここから先も草原が確か続いたはずだ。たしか、カルバルナだか、カルロネアだかの国があるはずだ』


「もぐもぐ、どっちなの。ってキール、お肉焼けてるよ。ほい」


 『カルバルナ』なのか『カルロネア』なのか、クレナはいい感じに焼き目のついた角ウサギの肉にかぶりつきながら、会話に参加する。


 そして、キールの分もと枝付き肉を突き出してくる。


「クレナありがとう。ん? カルバルナ、カルロネア? 2つの国があるのか?」


 キールはクレナから貰った肉を食べながらクレナと同じ感想を持つ。


 なお、神官見習いのキールは肉を食べているが、エルメア教の教えで別に肉を食べてはいけないなんて戒律はない。

 お酒も飲んでも良い。

 暴飲暴食は止めようというくらいの緩い感じの教えがあるだけだ。


 そんなこともあって、神官も酒は飲むし、肉も食べる。


『いや両方だ。仲の悪い「カルバルナ」と「カルロネア」という2カ国があった記憶がある』


 連合国の南端には仲の悪い名前の良く似た2つの国があるらしい。


「ほうほう」


 クレナは食べることに集中することにした。


「なんだか、またややこしい話になるんじゃねえのか」


 昨日、ソフィーたちが砂漠に点在するオアシスの街を助けるため、地図を手に入れるのにダークエルフの王オルバースとひと悶着があったことを聞いている。


『そうだ。たしか、カルバルナ王国が別れて2つの国になったはずだ。この10年くらいの間に分裂したはずだぞ』


 最近分裂した2つの国にこれから向かうようだ。


 どうやら、自分らがこれから行く所にも何か大きな問題があるのかと、焚火を見ながらキールは思うのであった。

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