第513話 クエスト攻略法

 アレンたちが神界にやってきて6日が過ぎた。

 神界にある神界人の王国であるシャンダール天空国の天空王にアレンたちが会いに行ってからだと3日が過ぎた。


 3日前、門番に連れられ何人もの役人に会い、貴族に会い、天空国の内務大臣と話をするに至った。

 内務大臣は天空国の内政を取り仕切る、天空王、宰相に継ぐ3番目に偉い立場らしい。


 王都に入って初日で内務大臣まで会うことが許されるのは、霊晶石の価値がそれほど高いとも言える。


 しかし、その日のうちに「はい。では天空王に謁見させましょう」とはならなかった。

 話は取り次ぐと内務大臣に言われ、日程が決まれば連絡すると言われたので霊Aの召喚獣を内務大臣の部屋に置いてきた。

 霊Aの召喚獣を見て内務大臣から「れ、霊獣!?」との恐れおののく反応を頂いた。


 天空王への謁見はまだ日にちが掛かりそうだ。


 クレナたちがレベル上げを続けているので亜神級の霊獣をこの時期に狩るわけにはいかない。

 神界での情報収集と、スキル上げ、竜人たちの強化を進める辺りに専念することにした。


(さて、もう、5大陸同盟の会議が始まるんだが。こっちの準備が整ったな)


 会議が明日に迫る中、アレンたちは霊障の吹き溜まりにいた。

 キールは細長い銀色の花瓶のような杯(さかづき)を両手に持っている。

 エルメア教会にお願いをしていた「聖水」の準備が整った。


 アレンたちは霊獣グラハンの穢れを清めにやってきた。


「そのまま、動かないようにしてくれ」


「ああ、分かった。早くやってくれ」


 アレンの言葉にドゴラが相槌を送る。

 耐久力の高い2人が、霊獣グラハンが暴れないように抑え込む。

 青白い炎に包まれたグラハンの体だが質量はあるようだ。


『き、貴様ら、何をするか!!』


「ほら、キール。しっかり頼むぞ」


「分かった。しっかり押さえてくれよ」


 アレンほどの度胸があるわけでもないキールは、2人がかりで抑え込むグラハンにゆっくり近づいた。

 枢機卿曰く、エルメア教会が誇る最高の聖水を杯からゆっくりと頭や胸元に零していく。

 聖水は日の光を浴びて、キラキラと輝きながら霊獣となったグラハンの体を清めていく。


『ぬぐ!! 何をする! か、体が! ぐああああ!?』


(効いてる、効いてる。いいよ、いいよ!!)


「ちょっと、アレン、何か苦しんでいるわよ!!」


「アレン君、ちょっとあんまりかな?」


 霊獣グラハンは両手で頭を抱え、とても苦しそうにしている。

 かつての英雄に対する所業かとセシルも、今回も一緒についてきたヘルミオスも引いている。


 キールが杯の中の聖水を全てグラハンにかけ終わる。


「よしよし、これでグラハンゲットなるか」


 聖水もかけたばかりで汚れなくて良いだろうとアレンはいそいそと聖獣石を収納から取り出してグラハンに押し当てた。


『霊獣の穢れが清められていないため、聖獣石に入れることができません』


「おい、何だ。まだ駄目なのか」


 陸に上げられた鯉のようにビチビチと痙攣するグラハンを見てガッカリする。


 雲の地面に横たわり痙攣する霊獣グラハンは、まだ「穢れ」があるようだ。

 聖獣石に入れることができず、アレンはガッカリする。


(こういう答えが分からないクエストが一番難しいんだけど)


 難しい仕様からヌルゲーに移行する中、前世の健一からアレンに転生した。

 ヌルゲーでは、正解の分からないクエストはなく攻略サイトも充実していた。

 どこに行かないといけないのか、何をしないといけないのか困ることはなかった。


 しかし、現状、アレンはグラハンの「穢れ」を取る方法が分からない。

 エルメア教会秘蔵とも言える最高の聖水をかけて、今のような状況だ。


(いや、考えろ。魔導書は俺がグラハンを召喚獣にできると踏んでログを流したんだ。方法は必ずあるはずなんだが。俺ができてまだやれていないことか)


 前世の幼少期に遊んだゲームがヒントもなく随分クリアに時間を要してきた。

 前世の記憶も、現状できることも、総動員して考える。


 アレンの前世の健一流のクエスト攻略方法は、クエストを提示した製作者側の意図を考えることだ。

 現状を3つのパターンに整理する。


①現状ではクエスト達成の条件を満たしていないが、今後条件が満たされる

②既にクエスト達成の条件を満たしているが、方法が分からないだけである

③現状でもクエスト達成の条件を満たしていないが、今後も条件を満たすことはない


 魔導書のログから、クエスト提供者の思考を逆算する。

 アレンは③はあり得ないと考える。

 アレンにできないなら、魔導書に召喚獣にできない霊獣についてログを流す必要はない。

 恐らく①②だろうが、できれば②でクエスト達成条件が分からないだけであってほしいというのは願望だ。

 ②であるなら、まだやれることがあるとクエスト提供者は考えているに違いない。

 魔王が現在進行形で世界を滅ぼそうとする中、アレンには守りたい者たちが大勢いる。

 アレンが思考の中に入っていると、ソフィーが話しかけてくる。


「どうしましょう。困りましたわね」


 仲間たちもグラハンを仲間にする方法を考えてくれているようだ。

 グラハンの近くまで歩み寄ったソフィーはいい方法はないかと考え込む。


「とりあえず、別の方法を模索しよう」


 アレンたちはグラハンの召喚獣化を一旦諦め、霊障の吹き溜まりを後にする。


 5大陸同盟にアビゲイルにも来てもらう。

 S級ダンジョンにいるクレナとハクについても同様に会議に参加させるため連れてくる。

 アビゲイルも連れて、3パーティー全員で人間世界にあるローゼンヘイムに転移した。


 アレンだけではなく、ヘルミオスもガララ提督も同様に5大陸同盟の会議には、今後どのように魔王と戦っていくのか発言を求められている。

 彼らとも一緒にローゼンヘイムに向かった。


(転移は楽だよね。魔法神イシリスから召喚獣の転移の仕組みを流用してもらったのかな)


 以前、メルスから魔法や特技について魔法神イシリスから助言を貰っていたような話を聞いている。

 鳥Aの召喚獣の覚醒スキル「帰巣本能」など、魔法神イシリスから技術や魔導を流用したものが結構あるようだ。


 首都フォルテニアの世界樹の麓にある女王の住まう神殿に転移してやってきた。

 女王が住んでいるのだが、王城ではなく精霊神を祀っているので神殿となっている。


 神殿の目の前の入り口に巣を設置していたため、階段を上がり城の中に入ろうとする。

 天空王の王都とは違い、英雄扱いを受けるアレンたちは神殿内をほぼフリーパスだ。


 高床式になっているため、階段を上がり建物内に入ろうとする中、ソフィーは振り返り街並みを見つめた。

 無言の時が満たされる中、仲間たちも足を止め何も言わない。


 ソフィーの見つめる先には、建物も道路もきれいに整備された首都フォルテニアの街並みが広がっている。

 行き交うエルフたちは笑顔が溢れ、世界樹の麓で生を謳歌している。


「……皆さん、ありがとうございます。たった2年でここまで復興することができました。本当に感謝しております」


 アレンが14歳のころ、数百万の軍勢にローゼンヘイムは蹂躙された。

 首都フォルテニアは魔王軍の支配下に置かれ、エルフたちは大陸の南へと必死に逃げた。

 大陸南端のネストの街は、重傷を負いながらも命からがら逃げ延びた者や家族を失い泣き叫ぶ子供たちで溢れていた。


 アレンたちは中央大陸も危険な状況の中で、ソフィーたちエルフを助ける選択を選んだ。

 エルフたちと協力して、指揮官であった魔神レーゼルを倒し、魔獣たちを大陸から一掃した。


 奇跡を見つめるようにソフィーは街並みを見つめた後、あふれる涙を振り払い気丈な表情を見せた。

 魔王はまだ健在で、これから世界を相手に5大陸同盟の盟主の娘である王女として振舞わなくてはならない。


 弱音は世界の一体感を失いかねない。

 神殿に入るなり、神官のエルフたちがやってくる。


「アレン様方、会議の待合室にご案内します」


 魔導具の時計を見ると結構な時間だ。

 5大陸同盟の会議まで時間がなかった。


「ソフィー、会議まであまり時間がないようだ。フォルマールと一緒に女王に挨拶をしたらどうだ」


「ええ、ありがとうございます。では、フォルマール」


「は!」


 会議の前に話したいこともあるだろう。


 ヘルミオスとガララ提督もこの場で別れる。


 ソフィーとフォルマールが女王の間に向かう中、待合室に案内してもらう。

 待合室には既にやって来たペロムスやグランヴェル伯爵たちなど見知った人たちがいる。

 ペロムスの父で、クレナ村の村長のデボジもいる。


「やあ、アレン。どうだった? 新たな召喚獣はできたかい?」


「いや、駄目だった。作戦を考えないとな。お? 結構似合っているな。だが、式はまだ何日も先だぞ」


「いや、着ておかないと」


 ペロムスは慣れないエルフの衣装なので前もって着ておきたいと言う。


 威厳溢れる態度が懐かしいフィオナの父チェスターは不安顔だ。


 この5大陸同盟の会議の後、このローゼンヘイムで延びに延びたペロムスとフィオナの結婚式が執り行われる予定だ。

 親族として御両家の家族も待合室に待機しているわけだ。

 フィオナは別の部屋で、ペロムスの母や、自らの母と一緒にいるらしい。


「ちょっと、これはやりすぎではないのか?」


 チェスターはデボジを見ながら同意を求める。


「そ、そうですな。我らはグランヴェル伯爵が式に出席していただけるだけでも……」


 デボジは開拓村の村長だ。

 これくらいの立場で、村長の子供が結婚するなら領都で領主が盛大に結婚式を挙げてくれるものだ。


 グランヴェル伯爵は領主として盛大に結婚式を挙げたかった

 アレンの友人ということもあり、ペロムス自身は廃課金商会の本店をグランヴェル領に置き、多額のお金を納税している。


 しかし、大貴族となったグランヴェル伯爵はなんだかんだ言っても王家と仲がギクシャクしており、元貴族関係の寄親に当たるハミルトン家くらいしか招待しようがない。

 もっと盛大にと検討する中、ソフィーが結婚式をローゼンヘイムでしたらどうかと持ち掛けてくれた。


 エルフの女王がエルフ流の結婚式をしてくれるとソフィーが提案する。

 グランヴェル伯爵もそれは助かると考える中、その女王が他の盟主や連合国の国たちにも声を持ち掛けていく。


 ペロムスはプロスティア帝国の騒動で亡くなったベク元獣王太子の働きを証言し、アルバハル獣王家の尊厳を守った功績はとても大きいらしい。

 ゼウ獣王子だけでなく、ムザ獣王自らも式の参加を表明している。


 バウキス帝国についても、自国の豪商人たちがププン3世皇帝に対して、ペロムスと商業的な関係を結びたいので是非参加すべきだと陳情がやまない。

 ププン3世からお呼ばれしたとあれば結婚式に堂々と豪商人たちも参加できる。

 そのポポン3世についても、金の匂いを嗅ぎつけたのか、式の参加を表明している。


 5大陸同盟の会議の後、式典が行われる旨、会議の公式な議事録の中にも載っている行事の1つとなっている。

 すごい勢いで参加国が増えており、そのあたりの調整も全てローゼンヘイムが窓口となり行ってくれているらしい。


 グランヴェル伯爵の「是非、盛大に」という思いがペロムス、フィオナの両家とは全然違う方向に暴走した形となる。


 オレンジの髪と目をした鮮やかなロザリナが、ペロムスを見て眉をひそめる。


「エルフの服も装飾品も地味でダサいわ。ちょっとペロムス、じっとしていなさい」


 素朴で自然的な物を大事にするエルフの装飾品も服装はロザリナが普段着るような派手さはない。

 ロザリナはソフィーが傍にいても自分が思ったことを口にする性格だ。


 ペロムスに動かないよう指示をして、用意された装飾品などを使い少しでも映えるようにしていく。


「ありがとう」


「いいのよ。終わったら、フィオナも見てあげるわ」


 だから、5大陸同盟の会議には出席できないとロザリナがアレンに目で訴えた。


 コンコン


 時間が来たようだ。

 エルフがノックした後、5大陸同盟の会議が始まるのでお越しいただくよう案内される。


「じゃあ、ペロムス行ってくるぞ」


(さてと、5大陸同盟会議か。始めますか)


「ん? アレン」


 ペロムスやフィオナの式の準備はロザリナに任せることにする。

 当初は参加に消極的であったアレンにかつてないほどのやる気が満たされていく。

 横にいたセシルが言葉にできない若干の違和感をアレンに感じたのであった。





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