第512話 王都ラブールへ
広間で待ってしばらくすると族長が戻ってきた。
天空王に謁見をお願いする手紙を書いてくれた。
受け取るとそのまま天空王のいる王都へ向かうことにする。
族長から手紙を貰うと、早速メルルのタムタムに乗って移動を開始する。
目指すはこの北アメリカ大陸のような逆三角形の天空の大陸中央にある王都だ。
アビゲイルと一緒に天空王へ会いに行く。
「アレンよ。我もやはり、天空王に会わないと駄目なのか?」
昨晩に話がついているのだが、何もしていないのに天空王に謁見するのは恐れ多いと思っているようだ。
「何を言っているんですか。是非、ご同行くださいね」
(アビゲイルさんたち、竜人が活躍するのはこれからだと思うけど。力を得ても役目を忘れないならだけど)
竜人の立場を代表しているのだから来て当然なのだろうと、操縦席に集まって早々口を開いたアビゲイルに言う。
アビゲイルは「そうか」と黙ってしまう。
アレンたちの装備品や転職ダンジョンを手伝い、神界の竜人たちは力を得るだろう。
今回、天空王に会うのは不服かもしれないが我慢してほしいと思う。
一度広い操縦室にアレンたちは集まったが、特にこの場で話す作戦もない。
移動を開始して早々、ドゴラがアレンの元にやってくる。
「アレン、ブロンを出してくれ」
「ああ、ブロン出てこい」
『……』
部屋の隅にブロンを出す。
成長レベルを上げステータスを上げ、さらに特技「身を守る」で耐久力が2倍にできる石Dの召喚獣はスキル上げの良い訓練になる。
移動を開始して早速ドゴラが練習用の斧を魔導具袋から取り出した。
さらに、魔法具も魔力上昇のものに変更し、最大魔力を上昇させる。
ドゴラの魔導具袋は食料と訓練用の武器などで埋め尽くされている。
ガン
ガン
「余も付き合うぞ」
シアも魔導具袋から訓練用のミスリルのナックルと魔力が上昇する指輪や首飾りなど魔法具に装備を変える。
カン
カン
シアもドゴラの訓練に付き合うようだ。
(この速度なら天空王のいる王都まで数時間といったところか)
万里眼を使って、速度と天空王の王都の位置から到着時間を概算する。
アレンは魔導具袋から土などの回復薬の生成セットを取り出して、操縦室の隅で草Bの召喚獣から天の恵みを生成し始める。
学園にいたころやS級ダンジョンを攻略していたころは、草Dの召喚獣から魔力の種を生成していたのだが、もっぱらスキル経験値稼ぎは天の恵みが主流となった。
魔力の種と天の恵みでは魔石がDからBに変わり、魔石が100倍の値段になるのだが、最大魔力が数万に達するアレンたちパーティーでは、こちらの方が効率が良い。
アレン軍の活動も形になり、ペロムスによる商売も軌道に乗っており、今では節約せずに天の恵みを生成できるようになった。
生成した傍からアレンは天の恵みを消費する。
この神界では魔力が回復しないので、アレンがドゴラとシアの傍にいて2人の分まで魔力を回復してあげないといけない。
なお、この数日で霊力について分かったことがある。
霊力の分析は、神界に来て最優先に検証してきた。
【霊力の検証結果】
・Bランク級の霊獣から単体で霊力200回復の霊石を1つ落とす
・Aランク級の霊獣から単体で霊力200回復する霊石を2つから5つ落とす
・Aランク級の霊獣が落とす霊石の効果範囲は半径50メートル
・6時間で霊力が最大値回復する
・霊力の最大値は魔力の最大値と同じ
・草Fの召喚獣の特技「アロマ」、覚醒スキル「ハーブ」は霊力回復の短時間効果はない
・霊力でもスキルは発動する
・霊力を消費してもスキル経験値を獲得する
・霊力を消費して得られるスキル経験値は同じ
(魔力がない世界で竜人たちはスキルを使っていたからな。霊力でも魔力の替えが効くと。ただ、霊力でスキル経験値稼ぎは得策ではないな)
霊力の回復薬をアレンは生成することができない。
神技という特別なスキル用に、霊石は貯めておこうと考える。
「フン、フンッ」
息を切らしながらドゴラが甲高い音を石Dの召喚獣に発しながら無心で大斧を振るう。
霊獣ネスティラドの戦いで一切歯が立たなかったことに思うことがあるようだ。
神界に連れてきてよかったと思う。
S級ダンジョンの最下層では経験することができない戦いができたようだ。
(羨ましいな。いや、これは贅沢な悩みか)
ジャガイモ顔のドゴラを見ながらアレンは思う。
アレンはレベルが140と仲間たちの中で誰よりも高い。
カンストしたドゴラやシアは99でこれ以上レベルは上がらない。
成長限界のないアレンはステータスも順調に上がっているのだが、アレンとドゴラが武器を持って戦えばドゴラが勝つだろう。
ステータスの高さも大事なのだが、アレンには近接戦に必要なスキルがない。
レベルアップをしてステータスが上がるのだが、活かしきれない状況が続いている。
上位魔神や亜神級の霊獣が出てくる中、ステータスごり押しで戦える相手は随分減ってしまった。
クワトロの万里眼や鳥Fの召喚獣を使えば、戦況の指示はお手の物だ。
前世から培った戦術と、圧倒的な知力による情報分析能力は召喚士という職業にあった戦闘スタイルだ。
(それでも俺は自らの力で戦いたいんだけどな。いや、バランス的にこれはない物ねだりか)
わがままな願望であることは分かっている。
ジャガイモ顔のドゴラが躊躇わずネスティラドへ向かっていく様が羨ましいと思っただけだと自らに言い聞かせた。
『……』
操縦室の壁に立てかけられた神器カグツチを見る。
刃の部分がユラユラと赤く光っており、その場に火の神もいるようだ。
「フレイヤ様」
『む? 何だ?』
アレンは火の神フレイヤに確認したいことがある。
「フレイヤ様は霊獣を狩って、神力が増えたらカグツチに込める攻撃力を増やしていただけますか?」
ドゴラの放つ攻撃は、ステータス、スキル、そして武器の攻撃力に依存する。
神力を欲しそうにする火の神にも、働いてもらわねばならぬ。
霊獣ネスティラドのように強い霊獣がいるならなおさらのことだ。
『ぬ? まあ、そうだな。捧げる供物には対価を払わねばならぬな』
「ありがとうございます。頑張って上位神になれるよう頑張ります」
『それはかなり難しいぞ。それに、上位神には上位神の務めがあるのだ。神々をまとめ上げねばならぬ』
無理ではないが、詳しくは言わないが、果てしなく霊獣を狩らないといけないように聞こえる。
さらに、上位神になるのは面倒だと火の神は言う。
(なるほど。力は欲しいがこれ以上出世したくないと。なんだか昇進したくない会社員みたいだな)
力を持つ神にはそれ相応の責任が付きまとうようだ。
神々の世俗的な考えは、どこか人間らしさを感じさせる。
神器カグツチの威力向上について、約束が取れた。
数時間が経過する。
アレンたちの目にシャンダール天空国の王都が見えてきた。
資源が少なさそうな神界において、都がそのまま3段階層になっている。
「なんか、天空で高い建物立てる必要があるのかしら」
人間世界が下界に見える空高くに存在する神界において、さらに高さを際立たせる王都の構造にセシルは疑問が沸いたようだ
「神界の威信ってやつじゃないのか。王様はいい都に住んでいないと」
(さすがにそこまで大きな建物じゃないな。全長10キロメートルもないし)
建造物としてはかなり大きいが、バウキス帝国やプロスティア帝国の帝都に比べたら見劣りする。
両帝国とも帝都の直径は100キロメートルあった。
人口が億に達する両国と違って、シャンダール天空国は神界人と竜人合わせて1000万人に満たないらしい。
【王都の構造】
・1階層は直径10キロメートル
・2階層は直径3キロメートル
・3階層は直径1キロメートル
各階層は1キロメートルほどの柱で支えられており、街は柱を多く使った構造をしており、光は下の階層に入ってくるようだ。
少し離れたところでアレンたちはタムタムから降りて、大中小の1階層が一番大きい3層構造の1階層の入り口に向かう。
入口には神界人の門番がいた。
(竜人はいないのか。ああ、そういえば王都から竜人は仕事しないからって追い出されたと言われていたな)
竜人の族長の言葉を思い出す。
この数千年の長い年月、新たな審判の門を潜り抜ける者たちはいなかった。
お陰で力ある竜人がおらず、霊獣を十分に狩ることができず、竜人は自らの役割を果たせなくなった。
天空王は竜人を見限り、王都から竜人を追い出して随分経つらしい。
ズカズカと門番に向かっていく。
どこに入るにも門番がいるなと思う。
「貴様ら止まれ! お前ら神界人ではないな!!」
(思った以上の感じだな)
「はい。人間世界よりやってきましたアレンと申します」
「なんだと? ああ、人間世界、そうか、審判の門を超えたという話は本当だったか」
どうやら、アレンたちが審判の門を超えたという話は本当だったと門番たちが口々に言う。
アレンたちが審判の門を超えて3日目になるのだが、ここにやってくるかもしれないという話が耳に入っていたようだ。
「はい。そうです。中に入れていただけませんか?」
中に入らないと霊晶石を天空王に渡せない。
「竜人ではないのだな」
「はい、竜もいっしょにいるのですが、少し別の場所にいます。呼んできた方が良いですか?」
クレナとハクはS級ダンジョンでレベル上げ中だ。
アレンが当たり前のように門番と会話を始めた。
いつも器用にこなすなとキールが感心しているようだ。
「いや、その必要はない。今日は何用で天空王が住まう王都ラブールへやってきたのか」
「実は族長から天空国王陛下にお会いするための手紙を頂きまして」
「ん? 何故、竜人ごときが天空王陛下に会えるという手紙が書けるのか。無礼であろう?」
門番は竜人を代表するかのようにアビゲイルを睨んだ。
族長の行動は神界人の天空王に対し失礼な行動だったようだ。
(なるほど、これが竜人の置かれた立場か)
族長の話では、竜人はこの神界に数百万人いるらしい。
族長はその数百万人の長に当たる。
竜人の族長は、ダークエルフの里のオルバース王よりも多くの竜人をまとめ上げている。
それでも「王」を名乗れず、族長と呼ばれているのも、神界での立場の低さが理由だろう。
「たしかに。大変失礼しました。ですが、事情がございまして」
こんな門番と揉めても仕方ないと丁寧な態度に終始務める。
アビゲイルと一緒に霊獣を狩りに行って「霊晶石」を手に入れたあたりを話したところで、門番の表情が一変した。
「お、おお? おおおお!! 天空王陛下に霊晶石を献上しに来たのだな!! 何故それをすぐに言わない!!」
理解に数秒かけた後、アレンがどうしたいか理解できたようだ。
「そのとおりでございます。お目通りかないませんでしょうか?」
「では、大臣に取り次いであげるぞ。こっちについてくるのだ」
(これって手紙はいらなかった説が濃厚だな)
族長に待たされたあげくに渡された手紙に何か効果があったようには思えない。
竜人の立場を少しでもあげるために必死だったのかもしれない。
扉は門番によって開かれ、神界人のいる1階層の街並みが広がっている。
ここでもグルグルと回る柱がいくつも街中に刺さっており、神界人の生活を支えているようだ。
大通りに向かって歩こうとしたところで、門番に手を引かれる。
「え? こっちでは?」
「違う。天空王陛下に会いたいのだろう。そこは平民街だ。貴族街に案内するから、こっちの転移室に来るのだ」
街に入っても意味がないようだ。
門を開けた先の大通りにはいかず、外壁沿いにある個室に案内される。
何やら門番はゴソゴソと鍵を開け、部屋の扉を開放する。
床には何やら紋章のようなものが描かれている。
「神界には転移装置のようなものがあるのですね」
勉強になりますとアレンは言う。
「そうだろう。これは以前の礼に魔法神イシリス様から頂いたものだ」
「それは素晴らしいですね。神界人は神の御業を頂けるのですね」
「そのとおりだ。神界人のすばらしさが少しは分かったようだな」
とりあえず褒めちぎっておく。
(魔法神イシリスが神界人の活動を手伝っているってことか)
何やらいい話を聞いたような気がする。
門番に言われるままに部屋の中央にある紋章のようなデザインの部屋の中央に立たされる。
数百人は十分入れるほどの広さの転移する部屋だ。
「ん? 霊石ですか」
「そうだ。転移には霊石が必要なのだ。天空王陛下にしっかり献上するがいい」
綺麗に並んで立つアレンが部屋の隅に何やら装置を発見する。
その装置にはアレンたちが手に入れたものと同じ霊石がはめられていた。
霊石が輝いたかと思ったところで、転移が終了した。
「移動したということですね」
「そうだ。ここは2階層の貴族街だ」
1つ上の階層に一気に転移したようだ。
外が見えるが、建物の随分中央の辺りのようだ。
門番の神界人に案内されて王都内を進んでいく。
「これって3階層は王族、2階層は貴族、1階層は平民みたいな感じになっているのかしら」
「多分そうみたいだ。部外者はまず2階層の貴族に話を通す必要があるってことだろう」
セシルは1階層よりも並ぶ街並みの建物も神界人が着る服もどこか豪華なことに気付いた。
神界人には天空王という名の王が君臨して、身分の違いがはっきりしているようだ。
王都内は3層構造になっているため、随分立体的な建築構造なのだが、門番の進んだ先に豪邸がある。
この2階層の有力貴族の家のようだ。
「少し待っていてくれ」
門番は豪邸の中に入って話をつけてくれるようだ。
今のところ、族長に渡された手紙の効果は何1つない。
こうしてアレンたちは神界の天空王の住まう王都ラブールに到着したのであった。
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