第613話 ギランの試練②信仰調査

 アレンは信仰調査を行うと言う。


 レームシール王国の王家や宰相が戸惑いを覚え固まる中、セシルが最も先に口を開いた。


「信仰調査って何よ?」


「言葉のとおりだ。国民がどの神に祈りを捧げているのか、確認するための調査だ」


(国勢調査みたいなものだな。国民の信仰を調査なんてしたら前世だと大変なことになりそうだけど。いや、まあ、そんなことはないか。国ごとの宗教ごとの信者の割合とか俺もみたことあるし)


 これから行うのは鳥人が信仰する神、幻獣、聖獣などを確認する行為だ。


 前世で、国が信仰を確認しようものなら、炎上になりかねない行いなのだが、これも1つの手法だと考える。

 実際、アレンは健一だったころ、どの国がどれくらいの割合で、宗教は何かなど一覧や表などを見た覚えがある。

 それは生まれた日本についてもそうだし、全世界の各宗教の割合なども勉強した。

 何らかのアンケートなり、調査の手法があったのだろうが、自分の行いについても許されるものだと言い訳をする。


「また、例のアンケートみたいなことをするの?」


 セシルは精霊の園で、精霊たちに行ったアンケートを思い出す。


 その時はアンケートと称して、神界から人間世界に向かうため、契約させる流れになっていた。

 また、神に喧嘩を売るつもりなのかとセシルは警戒を怠らない。


「ただの聞き取り調査だ。もちろん、その結果をもって、今後の行動が変わってくるからな」


「その後の行動についても聞いておきたいわね……」


 セシルは決して油断しない。

 アレンの行動は最悪の結果のさらに上を行く。


「して、どのような調査を行いたいというのだ? その話をこの場でするということは、我ら王家の協力を求めていると思うのだが」


 ウーロン国王がアレンの思いをくみ取る。


「ご協力ありがとうございます。質問を返す様で申し訳ありませんが、この国はどれほどの人口をかかえていますでしょうか」


「国王陛下、国内のことでしたら、私が対応します。レームシール王国の人口は3000万人になります。人族ほどは多くはありません」


 国王が答えようとしていたところ、宰相が代わりに発言をする。

 このような気配りができるところが、宰相たる所以なのだろう。


(エルフよりも多いくらいか。まあ、そんなに大きな国じゃないしな)


「でしたら、3000人を人口比率で調査していただけると助かります」


 王国民を1万人に1人調査する。


「人口比率……平民、王族と貴族、あとは農奴か。人口比で考えるなら農奴はほとんどいないようなものでしょうか」


 宰相はアレンに答えつつ、自らの思考を整理する。

 このレームシールという王国は、王政で身分制をとっているが奴隷がいない。

 これは1000年前の恐怖帝の時代の影響を強く受けた結果だ。

 ただ、職業としての農奴はいないのだが、罰則などで一時的に農奴になった者はいる。

 だが、職業農奴ではないので、刑期を全うすれば平民となるし、農奴の子供も平民だ。


「そうですね。現在、労務に当たる農奴はかなり少ないはずです。国民性の話になりますが、おおらかな方も多いもので……」


 宰相から農奴についても説明を受ける。

 

 鳥人は光るものと歌が好きでおおらかな国民性だと言う。


「あとはそうですね。身分もですが、できれば老若男女の年代で分けて頂けると助かります」


「ふむ、しかし、時間がないのでしょう。その信仰調査の内容にもよりますが、あまり細かいとお時間を要しますよ」


「老若男女と言いましたが、そこまで多くの年代を細かくとる必要はありません。それに問はたったの2つでシンプルなものです。何か書くものをお貸しいただけませんか」


「用意させましょう」


「は!」


 騎士と一緒に待機している役人がアレンに羊皮紙を渡す。


 アレンは役人にお礼を言うと、さらさらと信仰調査内容を書いた。


「アレン、こういうので分かるの?」


「そうだ、セシル。これで良い」


「ふむ、見せてください」


 宰相が手を伸ばしたので、渡してあげると横の国王も長い首で覗き込む。

 どうやら、国王には覗き込み癖があるようだ。


【信仰調査の問①】

 あなたの信仰する神様はいますか?

 もっとも信仰する神様を10柱、順に書いて教えてください。

 ※神様は聖鳥でも構いません。


【信仰調査の問②】

 あなたは日々、何回、神に祈りを捧げますか。

 問1の書いた神様の横に、祈った回数を数字を書いていってください。

 1日1回以下の頻度の神様については、何日に1度か書いてください。

 例えば、5日に1度の場合は1/5、月に1度の場合は1/30とご記載ください。


「それで集計なのですが、問①、問②それぞれ分けて集計頂けると助かります」


 問②が回答しやすいよう、問①の羊皮紙にまとめて記載するようにしたが、問①と問②は求めているのものは別なので、それぞれ集計するようにお願いする。


【問①の集計方法】

 最も信仰する神様を10ポイント、次を9ポイントと、10ポイントから1ポイントまでのポイントで神々が何ポイント獲得したか集計する。

 集計の際、3000人全員のそれぞれの神様のポイントは合算し、高ポイント順にとりまとめる。


【問②の集計方法】

 神様への祈りの回数1回を1ポイントとし、神々が何ポイント獲得したか集計する。

 集計の際、3000人全員のそれぞれの神様のポイントは合算し、高ポイント順にとりまとめる。


「ほうほう、これくらいの問いなら通信の魔導具でも、口頭ですぐに連絡できますね」


「はい、ただ、それでも羊皮紙だけでもそれなりの数を用意していただかないといけません。調査にかかった費用などは全て、当方が負担させて頂きたいと考えております」


 無理な依頼であることは重々理解しているため、手間賃も費用もこちらで負担するとアレンは言う。


「その必要はありません。このような調査、我が国ではしたことがありません。貴重な情報となるでしょう。それに、これはレーム様を神へ至らせるのに必要なことなのでしょう?」


「はい、そのとおりです」


「でしたら、率先して対応に当たらせていただきます。ふむふむ、レーム様のためであるなら非常事態条項を使い、王命を発令し、20の都市に分け、残り600人については王城と王都で別に取りまとめさせ、魔獣からの被害状況確認の手法を使えば……3日以内には……」


(この宰相、頭の回転が速くて話が早いわ。アレン軍に欲しいな)


 信仰調査を最短で行うため、宰相は指でなにやらパチパチしながら、計算をしている。


「そうだの、そうだの、宰相の言う通りだ……」


 先ほどから頭を上下に揺り動かす国王はかなり眠たいようだ。

 朝からの勤めで国王は疲弊しているようで、こんな深夜に呼び出して申し訳ない。


「ウーロン国王陛下、すぐに法務大臣に王命発出の素案を作らせます。明日には王命を頂きたいのですがよろしいでしょうか!」


「うげは!? そ、そうだな。よきに計らうのだ!!」


 国王はその場で飛び上がり、どこから出たか分からない声を上げる。


「そういうことです。アレン様、明日には王命を発出し、3日あれば調査結果を各都市から報告させましょう。とりまとめ結果も含めるとさらに2日は頂きたいです」


 今から5日で信仰調査のとりまとめまで行うと言う。

 今回に限らず、災害や魔獣、疫病の発生など、最短で王国内の状況を把握するためのスキームは、どの国にでもあるのかなとアレンは勉強になる。




***


 それから5日が過ぎた。

 アレンたちは本日、調査結果が分かると言われ、5日前に来た応接室にセシル、ソフィーと共に待機している。


 アレンは霊力回復リングと霊力が回復する腕輪を活用し、日々、霊力を消費している。

 1日霊力1億弱ほど使用し、霊石も10万個を超える消費しているのだが、アビゲイルたちが獲得する霊石の量は1日平均で300万個に達する。


 原獣の園の竜人たちの要塞も4つとなった。

 居住用スペースもさらに1つ増やして2つとなった。

 とんでもない勢いで霊石が溜まっていっている。


 霊獣たちをかなり広い区間で狩りつくしたため、獣人たちも住まない未開の土地へ要塞や居住用スペースをソフィーの力によって拡充してもらった。


 またメルルたちやアビゲイル率いる竜人たちのおかげで信仰ポイントもかつてないほど貯まっていっている。


 まずまずの状況であると理解している。

 ただ、霊石があっても消費が追いつかないのは霊力の回復量が少ないのかもしれないのは間違いない。


(正直、もういい加減、ロザリナの試練終わってくれ。2カ月経っただろ)


 ロザリナは最大魔力を上げるスキルを有している。

 神の試練を超え、さらに強力なスキルを手にしたのかもしれない。

 最大魔力の上昇は、最大霊力も上昇し、それだけで1日に消費できる霊力量が格段に向上する。

 スキルによる最大魔力アップはレベルアップによるものをはるかに凌駕する。


 アレンは魔導書の日誌項目に、現在の状況を整理する。


【神界での特記すべき出来事】

・4月中旬 神界に到着、クワトロゲット

・4月下旬 5大陸同盟会議、ペロムスの結婚式、グラハンゲット

・4月末  それぞれの試練に臨む、精霊の園へ

・5月上旬 精霊の園のクエスト達成

・5月中旬 ミュラの転職

・5月下旬 神界闘技場、大地の迷宮の攻略本格化、キールの神引き(ロザリナの試練追加)

・6月上旬 原獣の園へ、占星獣師テミの試練開始、ルバンカゲット

・6月中旬 竜人による霊石狩り開始

・6月下旬 レームシール王国で信仰調査結果を待つ←今ここ!!


 ロザリナについてだけ言えば概ね2カ月試練に臨んでいる。

 そろそろ試練が終わったのか、キリがいい所で督促をしに行こうと思う。


「結構かかるわね」


 既に深夜と言ってもよい時間帯に突入し、闇夜となった外の風景を見ながらセシルがつぶやいた。


「まあ、無理に急がせたわけですから」


 アレンはこの場での待機に意識を戻した。


(鳥目だからかな。王都全体で見ても魔導具の明かりも少ないよな)


 他国の王都や王城だと、夜も魔導具などを使い、もう少し明るかったりする。

 こんなに一寸先は闇のような状況にはならない。

 月の明かりも入らない山の中なのも、闇夜の手助けをしている。

 きっと夜は視界が弱い鳥人たちが、夜間で活動するために必要な魔導具だと、かなり大規模な物が必要なのだろう。


 切り立った山の中にあるせいか、日が沈む時間もかなり早いだろうに、レームシール王国の鳥目問題による経済的な損失もあるだろうと余計なことを考える。


 バタバタ


 アレンがS級ダンジョンの1階層に取り付けられていた巨大な明かりの魔導具を思い出していると、廊下を複数の者が走る音が聞こえる。


「も、申し訳ありません。今、調査結果がまとまったのです」


 羊皮紙を握りしめたカラサギ宰相が扉を開けて叫んだのであった。



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