第367話 メルルの転職
「思ったよりいなかったのかしら?」
「まあ、デスゾーンに比べたらな」
キューブにいきなり飛ばされた先にいたのは、Aランクの魔獣が1体、Bランクの魔獣が10体だった。
A級ダンジョンの最下層ボスと同じ程度の魔獣が出てくるようだ。
S級ダンジョンのデスゾーンのようにAランクの魔獣が100体を超え無数に囲まれるということはないようだ。
(8人での戦いなら構成次第で全滅するかな。才能無しがいたらかなり厳しいか。広間の中央で囲まれていたし)
最下層ボスとの違いは囲まれていて逃げ場がないということだ。
今後アレン軍の転職をする際に危険を減らしておきたいが、これといった具体的な対策はなさそうだ。
はずれのキューブがあり、近づくと魔獣のいる空間に飛ばされる。
全部で5つのキューブだったため、5つに1つがはずれで、魔獣のいる別空間に飛ばされるようだ。
確率は低いが、1つ目の課題のように知識があれば何とかなる状況ではないので避けることは難しい。
この転職ダンジョンの課題は運も必要なようだ。
全ての魔獣を倒し、飛ばされた空間の端にいるキューブの方に近づいていく。
飛ばされた時からキューブはずっとその場にいたのだが、魔獣の網をかいくぐってここに来るのは難しそうだ。
『課題の合格おめでとうございます。次の課題に行きますか? それとも転職ダンジョンから脱出しますか?』
キューブに話しかけると、課題は合格していた。
はずれではあるが、1つ目の課題と同様に魔獣さえ倒してしまえばいいようだ。
これ以上検証することはないので最後の課題を受けることにする。
3つ目の課題を受ける階層に飛ばしてもらう。
これまでの2つと同様に広間に飛ばされる。
広間の前後左右の4つの通路がある階層だ。
そして中央にはいつものキューブが浮いている。
『こんにちは。私は転職ダンジョン課題用システムT30235。この階層には転移用システムがおりますので、話しかけることが課題クリアの条件になります。制限は24時間となります』
「む、今度は制限があるのか。制限を超えるとどうなるのですか?」
『課題は失敗と判定します。そして、転職ダンジョンの外に転移させていただきます。また転職ダンジョンの課題は最初から受けて頂く形になります』
自らの意志とは関係なく、ダンジョンの外に転移させられるようだ。
そして、課題は最初から受けることになるとアレンの疑問を前もって教えてくれる。
「とりあえず、みんな正面から向かってみよう」
「うん!」
今回は検証をしながらということもありゆっくり進んでいるのだが、メルルがワクワクした声で返事をしてくれる。
すぐにでも転職したいが、アレンの検証の意味が分かっているので我慢しているようだ。
真っ直ぐ道なりに進んでいく。
「これって迷宮よね」
「そうみたいだ。他の道はもう少し分岐があるようだがな」
「そうなの?」
セシルの問いにアレンが答える。
3つ目の課題の階層は迷宮となっている。
正面の道だけ何故か、分岐せずに道なりに進むが、別の道はいくつも枝分かれしている。
現在、正面の道を進みつつ、召喚獣たちに別の道を攻略させている。
『ほう、真っ直ぐやって来たか。愚かなる人間たちよ』
真っ直ぐ道なりに進み、曲がった先にドラゴンがいた。
そしてその先にキューブがある。
どうやら、このドラゴンを倒さないといけないようだ。
「やれ、オロチ」
『『『おう、アレン殿』』』
『ぬ、グアアアアア!?』
竜Aの召喚獣を召喚する。
強化して攻撃力が15000に達した5つの首がドラゴンに襲い掛かる。
アレンたちも加わりボッコボコにして倒す。
数分もかからず、どや顔でいたドラゴンを倒してキューブの元に向かう。
そうこうしているうちに、強化して素早さ15000に達した鳥Aの召喚獣たちがこの迷宮の全容を把握した。
正面の道は、迷わないがAランクの魔獣がいた。
左の道を進めば、分岐は多いが道は短く、Bランクの魔獣が結構出る。
右の道を進めば、分岐は少ないが道は長く、Bランクの魔獣が結構出る。
後ろの道を進めば、分岐が多く、道も長く、Cランクの魔獣がそこそこ出る。
正面なら歩いても小一時間で課題をクリアできるだろう。
左右の道なら、多少道に迷っても4、5時間で攻略できるはずだ。
後ろの道は、道に迷わなくて10時間以上かかりそうだ。
2つ目の課題の時もそうであったが、魔獣が擬態した宝箱がこの階層には多いように感じる。
霊Aの召喚獣に開けさせているが、殆ど魔獣だ。
誘惑させて、開けた人を襲うつもりのようだ。
転職ダンジョンでは、魔獣の擬態した宝箱がとても多いため、宝箱の報酬が欲しいなら転職してから通常のダンジョンに行った方がいいと魔導書にメモを取る。
今回、転職ダンジョンの3つの課題を受けてみて、分かったことがある。
この転職ダンジョンは才能無しで攻略できる仕様にはなっている。
ただ、2つ目の課題で魔獣の群れの中に飛ばされるので運も必要になる。
3つ目の課題で正面や左右の道を選べば全滅になるだろう。
実際に才能無しでの達成率は1、2割といったところだろうか。
わざわざ死人を増やすつもりもないので、アレンの発案で立ち上げ、運用が始まった冒険者ギルドの情報部にも今回の検証の情報は提供しようかと思う。
才能無しでレベルをカンストさせるのはかなり大変だ。
経験値でいうと2.5億稼がなくてはいけない。
無理しなければ達成できるという情報も付け加えることにする。
才能がなく、才能が欲しいと願っている者は多い。
最終的に各々が判断してほしい。
歩きながら、半日ほどかけて達成した情報を魔導書にまとめる。
そして、キューブの元に行く。
『廃ゲーマーの皆様、3つ目の課題の達成おめでとうございます。只今より、転職するための空間に転移します』
ブンッ
また別の階層に飛ばされた。
「あなたが転職させてくれるのですか?」
目の前のキューブに話しかける。
『はい。廃ゲーマーの皆様、私は転職システムT0235です。この中で転職が済んでいないのはメルル様だけのようですが、転職されますか?』
以前から聞いていた話のとおり、転職が既に済んでいる者は転職できないようだ。
メルルだけが転職できると言う。
「うん!」
『魔岩将のメルル様は、魔岩王にしか転職できません。それでよろしいですか? なお、転職すると今まで越えてきた神の試練は最初から越えて頂く形となります。ただし、今まで得た力は半分引継がれます』
「分かった。大丈夫です!」
(そういえば、勇者も俺のステータスを鑑定したが、レベルについては触れていなかったな)
レベルやスキルレベルという表現を使わないなとアレンは思う。
レベルが上がったことを「神の試練を越える」というのはエルメア教会が広めたと言われている。
ヘルミオスも恐らくアレンのレベルまでは鑑定できないのだろう。
信仰とレベルアップが密接に絡んでいるようだ。
『では、メルル様を転職させます』
「おお! メルルが魔岩王になったぞ!! やったな!!」
「ほ、本当!?」
ステータスが変わったのでメルルにも何となく実感がある。
しかしはっきりと目に見える形で見たいので、アレンが見る魔導書をメルルも一緒になって覗き込む。
仲間たち全員が覗き込む魔導書には確かにメルルが転職したことが記されていた。
【名 前】 メルル
【年 齢】 15
【職 業】 魔岩王
【レベル】 1
【体 力】 839
【魔 力】 1210
【攻撃力】 391
【耐久力】 659
【素早さ】 391
【知 力】 1210
【幸 運】 752
【スキル】 魔岩王〈1〉、飛腕〈1〉、槍術〈3〉、盾術〈3〉
【エクストラ】 合体(右腕)
・スキルレベル
【魔岩王】 1
【飛 腕】 1
・スキル経験値
【飛 腕】 0/10
「これで僕もヒヒイロカネゴーレムを出せるのかな」
「ここは広いし、出してみたらいいんじゃないのか?」
「うん!」
魔導盤にはめていたミスリルゴーレムの石板を、ヒヒイロカネゴーレムの石板に変えていく。
「タムタム降臨!」
「おお!! 浪漫が出てきたぞ!!」
アレンが思わず声を出す。
【名 前】 タムタム
【操縦者】 メルル
【ランク】 ヒヒイロカネ
【体 力】 25000+15000
【魔 力】 25000
【攻撃力】 25000+10000
【耐久力】 25000+15000
【素早さ】 25000+10000
【知 力】 25000
【幸 運】 25000
(ステータスがかなり高くなったな。これにメルルがスキルレベル3と6でもらえるステータス増加も乗るんだろ。っていうか魔神より強くね?)
アレンは超巨大化して全長100メートルに達した朱色に輝くヒヒイロカネゴーレム「タムタム」を見る。
ヒヒイロカネゴーレムのステータス増加石板は1つでステータス5000上げることができる。
メルルは人類が初めて攻略したS級ダンジョンの攻略報酬として、魔導盤の凹みを両面で20個にしてもらった。
本体用石板、大型用石板、超大型用石板をはめても、10個のステータス増加石板をはめることができるため圧倒的な性能を誇る。
しかし、実際はモードイーグルなどを起動用石板に5つはめたり、バルカン砲を装備して遠距離から攻撃するので、これほどステータスは増やせない。
「これで、メルルがしっかり育てば、ゴルディノ再挑戦だな」
ステータスは今のままでも十分高いのだが、メルルのスキルがほとんど使えない。
「じゃあ、またあのダンジョンに籠る感じなのね」
「そうだな。欲しい装備が揃うまではそんな感じだ」
ヒヒイロカネゴーレム用石板が不足している。
特殊用石板や起動用石板、そしてバルカン砲特大が欲しい。
アイアンゴーレムは所詮最下層ボスではないので、アレン軍の強化には十分だが、アレンたちパーティーの強化としては、そこまでいいものは出にくい。
セシルがアレンの言葉に反応して遠い目をする。
また、あの1日100体挑戦アイアンゴーレムみたいな日々からは逃れらないのねと思う。
ドゴラたちはアイアンゴーレム狩りをしているがメルルがしっかり育てば、S級ダンジョン最下層ボス周回の道が開けそうだ。
「なんだ、この全能感は! ふはははは! ち、力が湧いてくるようだ!!」
メルルがどこかのラスボスのようなことを言い、地響きを立てながらタムタムにカッコいいポーズを取らせる。
そんなメルルのゴーレムを見ながら次なる展望に思いをはせるアレンであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます