第366話 転職ダンジョン②

「随分広い部屋だな」


「そうね。向こうに何かあるわよ。アレン」


 転職ダンジョンの1つ目の課題を受けるための階層に飛ばされた。

 飛ばされた先はかなり広い部屋だった。


 その中央にキューブ状の物体が浮いている。

 とりあえず、何か課題が出るということでキューブ状の物体のところに寄って行く。


『こんにちは。廃ゲーマーの皆様。私は転職ダンジョン課題用システムT10235。皆様には1つの問題を出します。正しいと思う扉へお進みください』


(Tって転職ダンジョンのTか?)


「問題?」


 Tに気になったが、課題に集中する。


『はい。では問題です。回復魔法を使うことができない職業はどれでしょうか?』


「わ! 何か光った!!」


 目の前の空間に何か書かれた文字が光りながら現れる。

 メルルが驚きながらも何かワクワクしている。


① 聖騎士

② パラディン

③ 僧侶

④ 魔法剣士

⑤ 聖者


「えっと、たしかこれは④の魔法剣士よね?」


「ええ、そうですわよね」


 セシルの回答にソフィーも同意のようだ。


 セシルは問題の答えが分かったようだ。

 ④魔法剣士だけ、魔法使いと剣士の派生職業で回復魔法は使えないとセシルは記憶している。


(なるほど。転職についてある程度勉強した俺らじゃないと難しいかもしれないな)


 問題の内容と答えも魔導書にメモをしていく。

 こういった情報もアレン軍に提供する予定だ。

 こんな情報社会でもない世界で正解を見つけるのはそれなりに難しいと思う。


 そして、この空間の奥の壁に5つの扉が現れる。


「扉が現れた! 何か書いてあるよ!!」


 メルルのテンションの高さに、ディグラグニは頑張って作った甲斐はあったなとアレンは思う。

 そして、メルルの指さす扉の前には①から⑤の文字が浮かぶ。

 選択した番号の扉に進めと言うことだろう。


「じゃあ、とりあえず俺は③に進むから、皆は④に進んでくれ」


 アレンは絶対に間違えないだろう③僧侶の扉を選択し、残り4人は④魔法剣士の扉を選択するように言う。


「え? 大丈夫なの」


「まあ、即死するような罠はないだろうし」


(たぶん)


 そう言ってアレンだけ別の扉を選択する。

 まあ、アレンならと皆も強く反対しないようだ。


 アレンは③の扉を開けると長い真っ直ぐの通路になっている。

 背後に獣Aの召喚獣を、横に霊Aの召喚獣を召喚させ、真っ直ぐ進んで行く。


 結構な距離の通路を真っ直ぐ進んで行くとその先に扉があった。


(ん? もう終わりか?)


 行き止まりの先に扉のようなものが見えた瞬間だった。


 パアア!!


「ん?」


『グルルル!!』


 巨大な虎型の獣がいきなり現れる。

 そして、アレンに向かって飛び掛かって来た。


「ハヤテ」


『は!!』


 獣Aの召喚獣はアレンを飛び越え、虎型の獣の喉元を食いちぎる。


(ふむふむ。強化のレベルが9になったのだが、結構粘るな。この強さならランクはAの魔獣か)


 2体の召喚獣によるほとんど一方的な攻撃であったが、敵の強さから魔獣のランクはAと判断する。

 なお、王化は使っていない。

 王化スキルの召喚獣は現在S級ダンジョンでアイアンゴーレム狩りをしているメルスに与えている。

 王化スキルは各系統のAランクの召喚獣当たり1体しか召喚できない。


 そんなアレンの強化レベルは9になった。

 強化の性能は加護となるステータス2つを5000増やすというものだった。

 アレンが邪神教の教祖グシャラを倒して以降、ずっとスキル経験値を稼ぐことに集中していたお陰だ。

 アレン軍について、アレンはアドバイスも方針の説明もするのだが、セシルやソフィーが動いてくれるので召喚スキルを稼ぐことに集中出来ている。

 アレンの召喚レベルを上げることが、魔王軍と戦うためにアレン軍を強化するより最も大事なことはアレンの仲間たちが誰よりも分かっている。


『タイガーロードを1体倒しました。経験値1500000を取得しました』


 経験値100万超えなら明らかにAランクの魔獣だ。

 しかも割とAランクの中でも強い方だと思う。

 才能が無しなら何人いても敵わないし、才能があっても全滅するかもしれない。

 たとえ勝てても苦戦する相手で間違いないだろう。


(罠を踏んだ感じがしないのは、間違いを選択したら、通路の中央に魔獣が出る仕掛けか?)


 倒したままそのまま先に進むと、セシルたちが待っていた。


「ん? 行きつく先は同じなのか」


「あら、やっと来たわね。どうだった?」


「ああ、魔獣が1体出てきたぞ。間違えると攻撃を受けるらしいな」


 間違えた選択をしても魔獣さえ倒せたらいいらしい。

 そして、通路を抜けた先は広間になっており、キューブ状の物体が浮いている。


 通路の途中でAランクの魔獣が出たことを説明する。

 次の階層に行こうとセシルが言うが、通路を戻ることが出来るようなので、他の選択肢も試してみるからと待ってもらう。


① Cランク

② Cランク

③ Aランク

④ 魔獣無し

⑤ Bランク


 ざっと調べた通り、こんな感じであった。

 確かに入るときに説明を受けたとおりCランクからAランクの魔獣が出てくる。

 僧侶だとAランク、聖者だとBランクの魔獣が出てきたので、間違いにくいものには強い魔獣が出る仕様になっているのかと分析する。


 検証は終わったので、通路を進んだ先の広間にいるキューブ状の物体に進んでいく。


『課題の合格おめでとうございます。次の課題に行きますか? それとも転職ダンジョンから脱出しますか?』


「脱出すると、ここから始めることができるのですか?」


『いえ、最初からになります』


 止めたら、1から課題をクリアしないといけないらしい。


「ちなみに課題は皆共通なのですか?」


『いえ、課題の形式も、出題内容もほぼ無限に用意させていただいております』


(なるほど、課題の内容は職業に関わらず色々出てくるのか。課題が問題タイプとは限らないと)


 無数にある課題と、同じ種類の課題でも問題が異なるのであれば、対策するのは結構難しいと思う。

 よく考えているなと感心する。


「では、次の課題をお願いします」


 魔導書に聞いた内容を記録する。

 傾向と対策をどうしようか考えながら次の課題を受けることにする。


『では2つ目の課題に転移します』


 アレンたちの視界が変わった。


 そこはかなり広い空間だ。

 前後左右360度の視界がはるか先まで続いている。

 そして、何か障害物のようなものがポコポコと視界の先にいくつか見える。


「これが次の課題か?」


『はい。私は転職ダンジョン課題用システムT20235。どこかにある転移用システムに話しかけることが課題クリアの条件になります』


 そうかとアレンは鳥Eの召喚獣を上空に飛ばす。

 覚醒スキル「千里眼」を使って、キューブ状の物体を探すと数キロメートル先に何体か浮いており、個々のキューブもキロメートル単位で離れている。


 どうやら1つではないようだ。


「あっちにキューブがあるぞ」


「何か、アレンと一緒だと課題にならないんじゃないかしら?」


 セシルからしたら、アレンに対しては容易な課題だなと思う。

 見つけたキューブの中から適当に一つを選んだアレンを先頭におもむろに進んでいくと、ポコポコとした出っ張りは岩であることが分かり、何メートルもの幅のある水路が行く手を阻んでいた。

 中は水で満たされており、数メートルの大きさの魚影が見える。

 どうやら水系の魔獣が泳いでいるようだ。

 

 近くにレバーのようなものが置いてある。

 レバーを動かすと、水路の水が流れ歩けるようになった。


「たぶん、こういったレバーを動かしたり、あそこに見える岩を水路に落としたりして先に進んでいくと思う」


 周囲の岩は水路に道を作ったり水をせき止めるためにあるようだ。


「なるほど、素晴らしいですわ。アレン様」


「でも、転職と何の関係があるのかしら?」


 1つ目の課題は、転職に関わる職業を答えるものだったから分かる。

 しかし、こんなパズルのように、レバーを引いたり、岩を動かしたりして移動することに、何か転職と関係があるのかとセシルは思う。


「え? 課題を解かないと転職できないぞ」


 アレンにはセシルの疑問が理解できなかった。

 意味や関連のないクエストを前世でひたすらやらされてきた。

 お使いクエストみたいに、町に行ってアイテムを買いに行くことが、何故レベルの上限を上げることになるのか疑問に思うことすらなくなった。


「だからって、なんでこんなことしないといけないのよ」


「だから、課題を……」


「もういいわよ!」


 どうやら、これ以上会話することは難しいとセシルは判断する。

 こういったことがアレンとの会話でしばしば生まれる。 


(才能無しで攻撃力がそこまで成長しないタイプの人だとあの岩を運ぶのは難しいんじゃないのかな)


 気を取り直して課題に集中する。

 とりあえず、鳥Bの召喚獣に乗れば何分もかからず課題をクリアできるのだが、今後参加するアレン軍のために真面目に課題を解くことにする。


 よく見たら水路の中に宝箱があったりと誘惑するものも多い。

 召喚獣を使って開けさせるとほとんどが擬態した魔獣だ。

 Bランクの魔獣ミミックだけではなく、Aランクの魔獣アビスボックスまでいる。

 きっとこういったものを取ろうとして、命を落とす冒険者なども多いのだろう。

 宝箱の魔獣の確率についても記録する。


 真面目に解くと思いつつ、既に鳥Eの召喚獣がゴールであるキューブのありかを捉えた後なので、逆算するように答えから何をすべきか導いていく。


 そして、1時間もかからないうちにキューブ状の物体の下にたどり着いた。


「何か戦闘なかったね」


「そうだな」


 メルルも何事もなくアレンの後を歩いて課題が終わったなと思った。


『課題の合格おめでとうございます。次の課題に行きますか? それとも転職ダンジョンから脱出しますか?』


「ん? ああ、ちなみに転移システムはあなただけですか?」


 転移してもらう前に思いついたことを質問する。

 

『それはお答えできません』


(なんだと?)


「みんな、ちょっと、他のキューブにも話しかけてみる」


「ええ、分かったわ。検証ね」


 セシルも同意してくれる。

 鳥Bの召喚獣に乗って、さっき発見した他のキューブにも話しかけていく。

 最初に見つけたキューブと同じことを言われ続ける。

 これで最後かなと思った5つ目のキューブに話しかけようと思ったその時のことだった。


 ブンッ


 キューブに近づきまだ話しかけていないのに視界が一気に変わる。


『『『グルルル!!』』』


「なんだか魔獣の群れの中に飛ばされたみたいだな」


「……そうみたいね」


 巨大な狼型の魔獣に囲まれる。

 魔獣の群れがアレンたちに襲い掛かってきたのであった。

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