第368話 町民の受入れ①
メルルが無事に転職してから数日が経ち5月になった。
転職が済んだメルルはS級ダンジョンに通っている。
S級ダンジョンでアイアンゴーレム狩りだ。
アイアンゴーレム1体目を倒したところでレベルがカンストして60になった。
シアは既にレベルが60なので、S級ダンジョン周辺のダンジョンで転職に向けて獣人たちと共にスキルレベル上げ中だ。
アレンは自らのパーティーメンバーを最優先で強化する方針で、ダンジョンの攻略については召喚獣を派遣し全力で協力している。
他の獣人に比べてシア獣王女は、ダンジョンの攻略がほとんど終わっていなかったため、ほぼ1からの攻略になったが、既にC級ダンジョンの攻略を終え、B級ダンジョンも2つの攻略が終わっている。
ルークは、ダークエルフたちと共にS級ダンジョン周辺でレベルとスキルレベル上げ中だ。
スキルレベルだけでなくレベルもほぼ上げ切れていない。
アレン軍に合流した時点でレベル30くらいだった。
これは学園の2年生になったくらいのレベルと同じくらいだ。
C級ダンジョンから攻略を始めてもらっている。
ベテランの獣人に加えて、アレンの召喚獣も派遣しての対応だ。
なお、ルークは家庭教師みたいなものを里から連れてきており、ダンジョン攻略と並行してあれやこれや勉強中であったりする。
S級ダンジョンのあるバウキス帝国への入国について一悶着があった。
シア獣王女率いる獣人たちは特に問題がなかったのだが、ダークエルフの入国に難色を示した。
拝金的な思想の強いバウキス帝国にとって、元々入国を許可しているのは、国益にかなう者たちだ。
だから、入国許可はS級ダンジョンの招待券を持っていたり、貿易などをする商人であったりするのだが、ダークエルフには利益になるものが現時点で何もない。
しかし、アレン軍にはバウキス帝国の利益になるものが大量にある。
魔力の種はもちろんだが、アレン軍にはアイアンゴーレムを狩って大量にあるミスリルゴーレムやヒヒイロカネゴーレムの石板がある。
これからバウキス帝国はミスリルの石板やヒヒイロカネの石板を大量に必要とする。
コンスタントに手に入れることができるのはアレンのパーティーのみだ。
これらをチラつかせたら、バウキス帝国への入国はほとんどフリーパスとなった。
なお、アレン軍の冒険者証の登録は全てエルマール教国の冒険者ギルドで行った。
これで一応、全員の身分証は作成している。
国を救ってやったのだからそれくらいするようにという話だ。
こういった交渉の結果、ダンジョンでのレベル上げについては、エルフは学園を主な活動の場にしている。
獣人とダークエルフはS級ダンジョンを主な活動の場にしている。
大体各種族3分の2はダンジョンに通い、残りはヘビーユーザー島の開拓を行っている。
「こ、ここが、我らが新しく住む場所か?」
「街があるのに誰もいないぞ」
「あ、あの山にフレイヤ様がおわすのか?」
現在、5000人の元エルマール教国の民が出来たばかりの町の中央広場にいる。
ここはアレン軍によって作られた町だ。
ヘビーユーザー島は縦10キロメートル、横8キロメートルの八丈島ほどの大きさの島だ。
この島はそこまで大きくなく、アレン軍も合わせて数万人が住むには土地を有効活用したい。
そのため街ゾーンの建物は基本的に3階建てだ。
10人世帯用、5人世帯用、3人世帯用、1人用など間取りは数パターン用意した。
大通りや、街中央に設けられた広場に隣接した建物など商業区域は、1階は店が開けるようにしている。
「では15時にエールの町の町長、副町長の方々は島について説明をしますので、後程町長宅に集合でお願いします。それまでは番号を振った場所への引っ越しを呼び掛けておいてください」
「う、うむ。分かったのじゃ」
見た目が町長っぽい人がいたので町長に任命した。
そして5000人で1000世帯ほどある新たな島民については、建物および部屋の番号のくじを、ニールの町で既に引いてもらっている。
広場に用意した掲示板に貼った大きな地図と共にワラワラと自分の建物に荷物を運んでいる。
アレン軍の島の開拓組も高いステータスを活かし、引っ越しを手伝うことにする。
昼が過ぎると、鐘が鳴り広場に配給が運ばれる。
当面の間、食事は配給により賄う予定だ。
火の神フレイヤには街で鐘を鳴らしていいかお伺いを立てた。
広場中央には魔導具で作った大きな時計台もあるのだが、時間を伝えるのは鐘が一番だ。
鐘の音が煩わしくないか聞いたところ、「人の営みよ。問題ないぞよ」と嬉しそうに言われた。
気を使ってくれたことが嬉しかったようだ。
それからさらに3時間が過ぎ、定刻になった。
町長宅に会議の参加者がぞろぞろ集まる。
「僕がここでいいの?」
ぞろぞろと集まりだしたころ、一人の青年がアレンに声を掛けた。
「ペロムスが真ん中だから、そこで話を聞いてくれ」
「分かった」
「ん? 俺らはどうするんだ?」
「傭兵隊の隊長のレイブンさんたちはペロムスの横に座ってください」
そう言って、レイブン、リタ、ミルシーがペロムスの横に座る。
呼ばれた町長、副町長とそして引っ越しが無事に終わって鍛冶に勤しんでいる名工ハバラクを含めた鍛冶職人たち、話し合った内容を軍にも共有するため各軍の将軍、隊長格に集まってもらった。
S級ダンジョン組を除くアレンの仲間たちもアレンの横にいる。
今回は、今後の方針を決めるのでシアとルークにも戻って来てもらった。
「では、市長からまず挨拶をお願いします」
「ぼ、僕だよね。僕はラターシュ王国に本店を置く『ペロムス廃課金商会』の代表を務めておりますペロムスといいます。これからはこのヘビーユーザー島にある4つの町の市長も務めることになりました。よろしくお願いします」
丁寧な口調でペロムスが挨拶をする。
ペロムスが頭を下げたのでレイブンたちも頭を下げる。
すると、そうですかと理解が追い付かないまま町長、副町長たちも頭を下げた。
「商人なのか、随分お若いようだが」
「ん? ペロムス商会だと? あの貿易で稼いでいる商会か?」
「市長とはなんだ?」
(お? 商人かな。既にペロムス商会の名前を知っている者が現れ始めたか。さすが、世界87位の会社だ)
何だろうとざわざわしてしまった。
その中でも既にペロムスの会社の名前くらいは知っている者はいたようだ。
なお、アレンは、ペロムスが会社を動かしていく上で、手伝いが必要だろうとレイブンたちを紹介した。
ゴブリンもいなくなったことだし、炭鉱で働こうか迷っていたところでのアレンの声かけだ。
2つ返事で了承し、会社が大きくなっていく中、ペロムスをサポートしてきた。
今では、傭兵団長のレイブンを筆頭に、リタとミルシーも200人ほどで構成される「ペロムス廃課金傭兵団」の幹部だ。
「こほん。ペロムス市長より挨拶が済みましたので、まずざっくりとこの島の運用について話をしていきます」
そう言って、お手元の資料を見ながら話を聞いてほしいとアレンは言う。
この資料も、開拓組のエルフたちに手伝わせたものだ。
この世界は通貨と言語が基本的に単一のようなのでとても助かる。
まず、この縦に長い楕円形の島の中央には山があり、山の上には神殿がある。
火の神フレイヤを祀る火鉢があるので決して山には登らないように言う。
恐れを知らずに大概のことが許されるのは使徒となったドゴラのみで、火の神フレイヤの怒りを買うので決して近づくなという。
「も、もちろん近づきませぬのじゃ」
エールの町の町長は絶対に近づかないと言う。
「ハクという白竜が山の中腹にいますので、そちらも注意してください」
「白竜、ドラゴンがいるということですか!?」
「はい。まだ幼体のドラゴンですが、火の神の使いとして現在育成中です。幼体ということもあってか、人を見るとかなり寄ってきますので、目が合ったら背中を見せずゆっくり後退してください」
山からハクが降りてきたときの話もする。
熊に遭遇したときと同じ対処法を伝授し、速やかに町に待機させている霊Aに対処を依頼するように伝える。
竜AとBの召喚獣がコツコツ育てた甲斐があってか、ハクは今のところ人を襲うことは一度もないのだが、人懐っこい性格をしている。
子犬のような性格で、誰かいることを発見すると地響きを立てて駆け寄って来る。
ハクについては、そのまま白竜山脈の麓で育てるより、ここで一緒に育ててしまった方が、召喚獣の枠も減らずに済むということで島に連れてきた。
火の神フレイヤに対する畏れを、ドラゴンを山の中腹に置くことで、増やせばいいかなといったところだ。
島のマスコットとして育ってほしいと思う。
「皆様にはできれば朝晩、火の神フレイヤ様に向かってお祈りを捧げていただきたく存じます」
強制はしないが、火の神フレイヤの神殿に向かって祈ってほしいとアレンは言う。
夜になれば、火鉢の炎が大きくなるので町からも見えると言う。
「もちろんですじゃ。このような温情を頂き本当に感動しております。毎日祈らせていただきます」
そう言ってアレンにも町長は頭を下げた。
「フレイヤ様の神殿は、そちらにいらっしゃるハバラクさんを筆頭に火を扱う職人方が対応をします」
今回10戸の工房で、鍛冶職人たちが島への移住を決めた。
鍛冶の工房の建物ごと引っ越してもらった。
来たいというので受け入れた体なのでバウキス帝国の許可はいらないと思っている。
しかし、筋として職人たちを島が受け入れたとはバウキス帝国の関係部署に伝えてある。
火の神フレイヤを祀る神殿や、火鉢にはドワーフの鍛冶職人たちに対応してもらう。
彼らにはそれぞれ10人以上のお弟子さんもいるので、代わる代わる山に登って神殿に入り掃除やお供え物などのお世話をする。
元々火の神フレイヤを信仰していたのは彼ら旧メルキア王国のドワーフたちだ。
元からの信者たちがせわしなく世話をしてくれて、火の神フレイヤはかなり機嫌がいいと聞いている。
山のすそ野に鍛冶職人の工房群を作り、そこで鍛冶を行いながら火の神フレイヤの世話をするという話だ。
こうして、町長たちとの島の受入れの説明が続いていくのであった。
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