第74話 共有①

 セシルの兄のミハイが帰った3月の終わりから、時が流れ今は7月の上旬。

 アレンは1人、街から歩いて1日以上離れた場所にいる。


(よしよし、街からかなり離れたし検証するぞ。今日は魔力も満タンだからな、がっつり検証の日にするとしよう)


 アレンはとうとう召喚レベルを5にすることができた。召喚レベルが上がり、朝のスキル経験値のための魔力消費は行っていない。1日掛けて新たに手に入ったスキルやら召喚獣を検証する。


 魔導書のメモを確認する。魔導書の表紙のレベルアップの表示は一定期間過ぎると消えてしまうので、メモに転写した。


『合成のスキル経験値が1000000/1000000になりました。合成レベルが5になりました。召喚レベルが5になりました。魔導書の拡張機能がレベル4になりました。共有スキルを獲得しました』


 アレンはステータスを確認する。


(召喚レベル5で新たに獲得するスキルは共有か)


 【名 前】 アレン

 【年 齢】 9

 【職 業】 召喚士

 【レベル】 30

 【体 力】 688(765)+150

 【魔 力】 1062(1180)+200

 【攻撃力】 374(416)+140

 【耐久力】 374(416)+20

 【素早さ】 701(779)+60

 【知 力】 1071(1190)+40

 【幸 運】 609(779)+200

 【スキル】 召喚〈5〉、生成〈5〉、合成〈5〉、強化〈5〉、拡張〈4〉、収納、共有、削除、剣術〈3〉、投擲〈3〉

 【経験値】 2,516,810/3,000,000


・スキルレベル

 【召 喚】 5

 【生 成】 5

 【合 成】 5

 【強 化】 5

・スキル経験値

 【生 成】 10/10,000,000

 【合 成】 0/10,000,000

 【強 化】 680/10,000,000

・取得可能召喚獣

 【 虫 】 DEFGH

 【 獣 】 DEFGH

 【 鳥 】 DEFG

 【 草 】 DEF

 【 石 】 DE

 【 - 】 D

・ホルダー

 【 虫 】 E2枚

 【 獣 】 E14枚

 【 鳥 】 E4枚

 【 草 】 E20枚

 【 石 】 

 【 - 】 


(召喚レベルを1つ上げるのに2年以上かかったのか。次の召喚レベル6にするには3000万の経験値が必要なのか。随分果てしなくなってきたぞ)


・1歳00か月 魔導書獲得、召喚レベル1、召喚獣Hランク

・1歳10か月 召喚レベル2、合成スキル獲得

・3歳00か月 召喚獣Gランク

・5歳11か月 召喚レベル3、強化スキル獲得、召喚獣F

・7歳09か月 召喚レベル4、収納スキル獲得、召喚獣E

・9歳10か月 召喚レベル5、共有スキル獲得、召喚獣D


 召喚レベルが上がったときは、毎回のように魔導書に記録を取っている。自らがこの異世界で歩んできたアルバムのような記録だ。


(さて、まずはホルダーの確認だな。拡張しているってことは、次は50枚かな)


 拡張レベルが上がると毎回所有する召喚獣のカードの枚数が10枚ずつ増えていく。前回40枚に拡張されたので、今回は50枚と予想する。


(やはり、50枚か。これで随分加護が増えるな)


 さすがに召喚レベルが上がる度の拡張なので、そこまでの感動はない。Dランクの加護が50枚になったので、所有できるカードが増え加護によるステータス増加を見込めそうだ。


(さて、Dランクの召喚獣の分析は時間がかかりそうだし、新スキルの共有について確認するか)


 召喚獣は新たに6体も追加された。時間をかけて6体の召喚獣を確認するより、共有スキルの効果を先に行う。


(それにしても、強化みたいに召喚獣を強くするスキルではないのか)


 狩る魔獣のランクは上がっていく。今はCランクの魔獣を主に狩っている。しかし、なるべく早くBランクの魔獣を狩れるようになりたい。


 なぜなら、レベルがずいぶん上がり、それに伴い必要経験値もかなり上がってしまったからだ。レベル30にするには300万の経験値がいる。1レベルを上げるのにオークなら2000体狩らなくてはならない。1日探し回ってせいぜい40から50体しか狩れない。高い経験値を稼ぐため高いランクの魔獣を狩る必要がある。また、この辺りをうろつくオークも最近減り始め、絶滅の一途をたどっている。


(収納もすごいスキルだったし、これは期待するしかないな。共有か、名前的に召喚獣と何かを共有するってことか? ホーク出てきて)


『ピィー』 


 検証に必要なため、目の前に鳥Eの召喚獣を召喚する。


(よしよし、共有!)


 共有スキルを発動してみる。


「え!? 俺か??」


 すると目の前にアレンが現れる。


 グランヴェル家の館には姿見の鏡がいくつかある。使用人用の食堂にも身だしなみ用に大き目の姿見が配置されており、アレンも従僕になってから自らの顔を見る習慣ができた。


(おおおお! ホークの視界を見ることができるぞ!! 視界の共有か)


 鳥Eの召喚獣の視界を共有することができるようだ。


(なんだこれ? 俺とホークの視界が両方、全く違和感が無く見えるぞ。ホークちょっとあっちこっち向いてみて)


 鳥Eの召喚獣の視界が見えるようになったからと言って、アレンが見ていた視界が見えなくなったわけではない。アレンは違和感がないことに違和感がある。ホークはアレンの指示により、首を動かし、辺りを見回す。


(ほむ、ホークの視界がガンガン動くのに、俺とホークの視界を同時に見ることができるな)


 視界が増えたのに負担がなく、違和感すらない。同時に別の視界を見ることができ、同時に別の視界を理解することができる。


(よし、ホーク。空を飛んで!)


 ホークは空へ飛び立つ。アレンも上空に上がっていく、ホークの視界を共有しながら、空から世界を見下ろすことができる。今まで木が邪魔で見えなかった地平線が見える。


(す、すげえ! なんか感動するんだけど。良し、ちょっと移動してみて)


 アレンの指示により、鳥Eの召喚獣は上空でゆっくり前に飛ぶ。アレンも一緒になってその視界を把握する。


(すごいな、なんだこれ、ホーク特技使って、おおおおお!!! まじか鷹の目のスキルの感覚まで共有できるぞ)


 鳥Eの召喚獣は特技鷹の目を発動する。すると、さらに一気に視界が広がる。数キロメートル先まで見える。数キロメートルの円状の領域に何がいるか、鳥Eの召喚獣の感覚がそのまま直接アレンに伝わってくる。共有できるのは、視覚だけではなく、特技の効果も共有できた。


(まるでホークに乗り移ったみたいだ。もしかして、50メートル離れても指示ができるのか?)


 1つの考察が進むと、新たな疑問が湧いてくる。


 鳥Eの召喚獣に、もっと遠くに行くように指示をする。そして、アレンより50メートル以上離れた場所まで飛んでしまった。


(よし、指示ができる最大エリアを離れたかな。今使っている鷹の目の特技を止めてみて)


 これまでは召喚獣の指示はアレンを中心に50メートルの範囲内であった。今回、共有した状況でどこまで指示ができるか確認した。


 すると、鳥Eの召喚獣は鷹の目の発動を止める。50メートル離れていても指示ができるようだ。そして、視界の共有も継続したままだ。


 アレンは驚愕する。そのまま、いくつかの指示をする。50メートル離れていても、アレンの指示が伝わり、上空を旋回させたりなんでも指示ができる。


 視界の共有によって、指示の状況がダイレクトに伝わる。


「これはまるで多重起動ではないか! もしかしてそれ以上か?」


 あまりの興奮で声を張ってしまう。ゲーマーだったアレンにとって、この共有の特技の状況に既視があるからだ。


 アレンは前世で健一だった頃、ゲームで2キャラ操作してプレイすることがあった。これを多重起動と呼んでいた。ゲームの配信会社によっては、操作するアカウントが増える分、月額配信料を払ってくれるので推奨するゲームもある。


 なぜ月額配信料が増え、ゲーム機やテレビを複数買ってまで多重起動するのか。それは、狩りで手に入ったアイテムは1人で狩れば全部自分のものになる。他人と一緒に狩りをしないので、仲間を募る時間もかからず時間効率も良い。


 そんな環境を手に入れるべく、テレビゲームならゲーム機とテレビを複数用意した。別画面を動く2キャラを交互に見ながら、2つのコントローラーを必死に操作した記憶がある。


 しかし、今のこの状況は遥かにそんな状況を超えている。


 まるで、右目と左目で見るかのように、瞬時に鳥Eの召喚獣と自らの視界を理解できる。見ている景色が上空と地面の上からで全然違うのに一切の違和感がない。


「なるほど、これが共有の効果か。ん? もしかして、これってとんでもないんじゃないのか?」


 1つの可能性に気付いたアレンは、召喚士としての活動が大きく変わる予感がするのであった。

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