第486話 魔王軍拠点強襲戦①

 ここはヘビーユーザー島の上だ。

 アレンたちの前には数千にも及ぶ多くの軍勢がいる。

 5000人を超える軍勢の最前列で、各隊の将軍たちを呼びアレンのパーティーと最後の話をしている。


「ルド将軍、軍の編制や連携は大丈夫でしょうか?」


「問題ない。ゼウ様の軍とも戦えるよう鍛錬は積んできたのだ」


 アレンは、編成が変わったアレン軍について、ルド将軍に調子を尋ねる。

 S級ダンジョンを攻略前に、シアが獣王位の王位継承権を捨てた。

 シアが獣王になるのか、ゼウが獣王になるのかでアルバハル獣王国の中に緊張があった。

 派閥も生まれていたのだが、緊張が解消される出来事となった。


 現在、獣王の席は保留になっているのだが、ゼウ派とはかなり友好な関係を築いている。

 アレンは有効な状況ならと獣王にお願いをしていた。

 これはアレンが試しの門を挑戦する中、並行して進められていたことだ。


 それは現在2000人いる獣人部隊のうち、現在2つ星の兵を3つ星に変えてほしいというものだ。


 元々シアの親衛隊から始まった獣人部隊であったが、才能が星1つで、星2つに転職した者たちが半数ほどいた。


 彼らを星2つの才能で生まれ、転職して星3つになる者と変えてもらった。


 シアはアレンの決断に反対することはなかった。

 そのシアは今回の戦いに参加する。

 ドゴラも同じだ。

 シアはアレンとルド将軍の会話を無言で聞いている。


「……」


 自らの試練という邪神教の教祖を命を懸けて捕まえる頃から共にしてきた者たちをアレンは変更した。

 私情を挟まず、軍の強化を選択した。


 星2つと星3つでは圧倒的に戦力が違う。

 命を懸けた戦いで、星の数により誤差では済まない力の差が生まれる。

 また、ゼウ軍との連帯も強くなり、総合的な利益をアレンは優先させた。


 問題ないことを確認したアレンは、ルド将軍やラス副将軍に指揮をお願いして、別の部隊の下に行く。

 今回新たに加わったラターシュ王国軍1000人の集団だ。

 ライバック将軍もアレンが近づいてきたことに気付いた。


「まもなく戦争を開始します。問題ないですか?」


「うむ。兵は問題ない。やはり我は戦場が合っているようだ。頂いたこの盾を存分使う所存だ」


 時間も十分あったのでライバックは問題ないと言う。

 そして、オリハルコンの大盾を掲げて見せる。


「まあ、将軍には全員オリハルコンを装備させておりますので、これも入隊特典ですね。部隊でも武器や防具などの装備に問題がないか改めて確認しておいてください」


 アレン軍の将軍たちにはオリハルコンの武器を与えている。

 なお、副将軍で唯一、ゼノフにはオリハルコンの剣を提供した。


 また、新しく入ってきたライバック率いる人族部隊の装備もアダマンタイト、ヒヒイロカネを中心に配っている。


 人族部隊のうち500人は盾使いなのだが、盾使いに大事なステータスは耐久力だ。

 守りの要となって最前線で敵からの攻撃を守る。


 耐久力装備はアレン軍では余っていた。

 S級ダンジョンの最下層でアイアンゴーレム狩りをすれば耐久力5000の指輪は落とすし、ゴルディノも耐久力2000や3000の首飾りを落とした。

 使い所が少なかったこういった耐久力上昇の装飾品を彼ら盾使いに引き取ってもらった。


【アレン軍の大まかな編成】

・獣人隊2000人

・エルフ隊2000人

・ダークエルフ隊1000人

・ドワーフ隊200人、ゴーレム隊と魔導技師団各100人

・魚人隊2000人

・人族隊1000人


『こっちも準備が整ったぞ』


 メルスから準備が整った旨の連絡が来る。


『ガララ軍も準備が整ったとのことです。ヒヒ』


 霊Aの召喚獣からも準備が整ったとの連絡が来る。


 メルスの前には勇者軍5000人、ガララ軍3000人もいる。

 今回の魔王軍の拠点強襲作戦に合わせて軍を動かしてもらう。

 彼らも魔王軍の拠点強襲作戦にはぜひ参加したいとのことだ。


(さて、プロスティア帝国攻略中に邪魔が入って、そのままにしていた魔王軍の拠点の有効活用をさせてもらうぞ)


 元々、虫Aの召喚獣を中心に中央大陸北部に10を超えて存在する魔王軍の拠点の破壊を試みた。

 バスクなど上位魔神が出てきたためにとん挫していたが、今回満を持して殲滅することにした。


「クレナとハク、これが終わったらメガデスとの戦いだからな」


「うんうん、ハク頑張る」


『ギャウ!!』


 今回の目的はいくつかある。

 1つ目は、3日間のレベル上げでレベル90に上がったクレナとハクを限界まで上げることだ。

 魔王軍の根城となる巨大な拠点には魔神もいると思われる。

 レベルを限界まで上げてメガデス戦に備えることにした。


 レベル上げについては、アレンもシアもレベルアップできるだろう。


 2つ目は、プロスティア帝国で戦った時から動きを見せない魔王軍に先手を取ることだ。

 プロスティア帝国での一件から半年が過ぎようとしている。

 そろそろ、魔王軍が何かしてきてもおかしくない。

 中央大陸の拠点を全て破壊して、敵の出鼻をくじく必要がある。


【魔王軍強襲理由】

・クレナ、ハク、アレン、シアなどレベルアップ

・拠点破壊による魔王軍弱体化

・転職ポイントの獲得


(拠点破壊か。この感覚は久しぶりだな。なんだろう、ゴブリン村やオーク村を攻め滅ぼしてきた思い出が蘇ってくるぜ。さて、最低10体は魔神を狩りたいところなんだか)


 今回の戦いだが、最も装備が整ったアレン軍を中央に、両サイドに勇者軍、ガララ軍が弧を描く様に魔王軍の根城となる拠点を攻めていく戦法だ。

 ヘビーユーザー島やS級ダンジョンの周辺などに待機した各軍を、一気に魔王軍の拠点の目の前に転移させて攻め落とす単純な作戦だ。


「私たちの反撃を始めるのね」


(大人の顔になってきたな)


 16歳になりセシルは随分大人の顔をするようになる。

 子供のころ、セシルは兄ミハイを魔王軍によって失った。


「ああ。遠慮はいらないぞ。ドゴラもだ」


「当然だ」


 アレンの言葉に今度はドゴラが返事をする。

 今回の戦いにアレンのパーティーは全員参加する。


「気を引き締めよ! これから転移を行う。移動後は隊列を維持しつつ、前進せよ!!」


「おおお!!」


「向かってくる者は全てが敵だ! 全てを薙ぎ払え!!」


「うおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」


 アレンの掛け声に合わせて一気に数千の兵たちの士気が上がる。


「では、転移!」


 言葉と共にアレンはヘビーユーザー島からアレン軍全軍を転移させた。

 同時にメルスはアレン軍の両サイドにガララ軍と勇者軍を転移させていく。


 3つの軍がゆっくりと囲むように前進を始めた。

 魔王軍の拠点まで1キロメートルといったところだ。

 1キロメートルも離れているが、既に魔王軍の拠点は見える。


 魔王軍の拠点となる城は、高さ数キロにも達する山ほどの大きさだ。

 蟻塚のように高く、そして山のように裾野があり巨大な要塞となってる。

 要塞の中にも周りにも魔獣が闊歩しており、要塞1つ当たりの魔獣は数十万規模であろう。

 それが中央大陸北部には10数か所点在している。


 だが、このまま単純に囲い込んで拠点を叩くわけではない。


「じゃあ、派手に狼煙を上げてくる」


 ここでアレン軍とアレンのパーティーは別行動をとる。

 アレンたちは既に準備していた魔王軍拠点のはるか上空に転移する。

 要塞では魔獣たちがワラワラと要塞内外を出入りしている。


「なんか頑丈そうね」


 岩盤のようなもので塗り固められたアリ塚のような魔王軍の拠点をセシルは睨む。

 蟻塚のような巨大な要塞から出てくる魔獣の大きさは3~4メートル程度だ。

 この光景も従僕だったころ鎧アリを攻めていた時のことを思い出す。


「これは外壁となる岩盤を破壊しておかないと効果は発揮されないか。モグスケ出てこい」


(ヒビを入れておくか)


『出番ですね、アレン様。はいでゲス』


 成長を積み重ねて、話ができるようになったモグラの姿をした獣Gの召喚獣がアレンの両手の上に出てくる。

 口調に何となく個性を感じる。


「上空から落とすから、拠点の上部とその周りの壁を粉砕してくれ」


「合点承知でゲス」


(しっかり働いてくれ。聖珠ポイントも使ったんだからな)


 今一度アレンは獣Gの召喚獣のステータスを確認して、はるか上空から魔王軍の拠点のてっぺん目掛けて両手から解き放った。


 無音の静けさの中、獣Gの召喚獣が拠点上部目掛けて落ちていく。


 【種 類】 獣

 【ランク】 G

 【成 長】 S

 【名 前】 モグスケ

 【体 力】 30000

 【魔 力】 20000

 【攻撃力】 30000

 【耐久力】 24000

 【素早さ】 28000

 【知 力】 22000

 【幸 運】 25000

 【加 護】 体力1000、攻撃力1000

 【特 技】 穴を掘る

 【覚 醒】 穴に暮す


 拠点の天井部分に当たる瞬間、獣Gの召喚獣は大きく発達した前足の爪を振りあげた。


 ズガガアアアン


 拠点はやはり、遠距離攻撃からも耐えられるようかなり強固に塗り固められていた。

 そんな拠点の天井に10メートルを超える大穴が空く。

 獣Gの召喚獣が凶悪な爪を振るい、天井の一部を粉砕した。


 あまりの衝撃音に魔獣たちは気付き、ワラワラと獣Gの召喚獣に集まっていく。

 しかし、魔獣ごと獣Gの召喚獣は拠点の内部に向かって、掘り進めていく。

 集まってきた魔獣もろとも岩盤のような魔王軍の拠点となる外壁を粉砕しながら、中へ中へ進んでいく。


「セシル、準備は整ったぞ」


 既にマクリスの覚醒スキル「ロイヤルオーラ」を受けたセシルに攻撃の狼煙を上げるようにアレンは言った。


「小隕石(プチメテオ)!!」


 巨大な火球が生まれ、ヒビが割れ脆くなった魔王軍の拠点に向かって落ちていく。

 轟音が遥か先まで響き渡り、魔獣が蠢く拠点の中央を押しつぶしていく。


 何事だと魔獣たちが燃え盛る外壁の隙から溢れ出てくる。

 拠点の周辺にいる魔獣たちも敵襲に気付き、戦闘態勢に入っていく。

 自らを取り囲む軍隊に気付く魔獣たちもいる。


 上部へ攻撃を開始する魔獣たち。

 前進するアレン軍たちを迎え撃つべく、集団となって拠点から前進を開始した魔獣たち。

 この一撃で魔王軍も一気に戦闘態勢に変わっていく。


 空を飛べる魔獣も結構いるようで、上空に飛び出てきた魔獣は、セシル、ソフィー、フォルマールら遠距離部隊に任せる。

 召喚獣たちもガンガン出し1体残らず殲滅させていく。


「思ったよりも飛べる魔獣がいるぞ!! クレナ、メルルも全て殲滅だ」


「分かった」


「うん、行くよ、タムタム!!」


『ギャウ! マンマ任せて!!』


 航空戦力はここで削っておきたい。


 ハクに乗るクレナと、タムタムを操縦するメルルにも飛び立つ魔獣を殲滅するように言う。


 そうこうしているうちにアレン軍ら軍隊と、拠点を取り囲む魔獣たちが激突した。

 去年より転職を重ね、装備を整えたアレン軍たちの敵ではない。

 アレン軍を中心に魔獣たちを蹴散らしていく。


 その中で、魔王軍の拠点から1体の巨大な100メートルを超える片目の巨人が大斧を持って、アレン軍に突っ込んでいく。

 明らかにSランクと思われる魔獣のようだ。


 アレン軍に加わったライバック率いる人族部隊の盾使いたちが身構える。

 10年戦場で死線を越えてきた部隊に一切の恐怖はなかった。


「我が行く。隊を乱すな!」


「は!!」


 ライバックの言葉に戦場にいたころからの配下は力強く返事をした。

 一つ目の巨人による、一振りで数百人は消し飛ぶのではという大振りがアレン軍にお見舞いされる。


 陽炎のように揺らぐライバックはオリハルコンの大盾を掲げ叫んだ。


「我は王国を守る者! 絶対忠誠(ナイツオブラウンズ)!!」


 盾の上に丸い光の障壁が生まれる。


『ヘギャッパ!?』


 振り下ろされた大斧の全ての衝撃が、全て吸収され一つ目の巨人に反射される。

 ライバックのエクストラスキル「絶対忠誠」を受け、五体が粉砕され爆散し、血の雨が降る。


「前進せよ。敵を一体も逃がすな!!」


 ライバックは自らの部隊に号令をかける。

 1つ目の巨大な魔獣がやられても魔獣たちは戦意を失っていない。

 再度、魔獣たちがひしめき合うように距離を詰めてくる。

 その様子にゼノフも前に出る。


「そうだ。我の戦いは終わっていなかったのだ。金剛斬(オーラブレード)!!」


 上段から振り下ろされるゼノフのエクストラスキルによって、100メートルを超えて、大地をめくりあげ魔獣たちを殲滅させていく。

 何百と言う魔獣が衝撃に飲み込まれていく。

 剣聖となり、装備を整えたゼノフの放った威力は、ダグラハとの戦いで見せた時の数倍の威力だ。


 その後もアレン軍ら軍隊は優勢に戦いを進めていった。

 

「よし、軍は問題ないな」


 アレンは視線を両手に移し、バッタの姿をした虫Hの召喚獣と、ネズミの姿をした獣Hの召喚獣を両手の上に召喚した。


「待たせたな。お前たちの出番だ。デンカ、チョロスケ」


 アレンたちの魔王軍の拠点襲撃は続いていくのであった。

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