第655話 天使Sの召喚獣

 竜Sの召喚獣は体格を活かし、多数の敵を相手にしても、仲間たちの壁役に使えそうだ。

 大地の迷宮に封印される前に、世界を征服しようとした竜王なので、意思疎通は念入りにしておかないといけないなとアレンは思う。


「アレン、まだ休まないの?」


 分析を進めるアレンにセシルが心配して声をかける。


「ああ、ここまで調べたらな」


「それは、天使Sの召喚獣ですわね」


 横にいるソフィーもアレンが休むまで検証に付き合うようだ。


「そういうことだ。竜と霊のSランクの召喚獣が揃ったからな」


 アレンは一度、メルスとマグラをカードに戻す。


『天使Sの召喚獣には『Sランクの魔石1個』及び「霊Sの召喚獣」及び「竜Sの召喚獣」及び「聖珠ポイント49ポイント」が必要です。聖珠ポイントを消費しますか?』


 アレンは「聖珠ポイントを消費する」を選択する。

 2枚のカードがSランクの魔石1個で合成され、聖珠ポイントを消費し、1枚のカードがアレンの手元に現れる。


 カードには「天使Sの召喚獣」と書かれている。


(なんか、凄い剣にマグラと立て続けに強くなったな。これが高難易度ダンジョンを攻略した結果か)


 アレンはワクワクが止まらない。


「よし、召喚するぞ! おお! メルスがSランクの召喚獣になったぞ! ……ちょっと大人びたな」


『大人びただと?』


 カードにするために一度消え、再度中空に召喚したのは紛れもないメルスであった。

 だが、Sランクとなって少し雰囲気が変わっている。


 半裸だったメルスの上半身まで白衣で覆われる。

 くせ毛の強い茶髪の髪はそのままで、背中まで伸びてしまいロン毛となった。

 天使の輪は2重の輪となり、翼は3組6枚のままだ。

 背丈は178センチから182センチにやや成長し、見た目は10代後半から20代前半となり、どこか大人びた雰囲気が出てくる。


 メルスの王化の時以上の変化にアレンたちは息を飲んだ。


「メルス、お前だけがいればよかったということだな。BランクもSランクもほかの天使は不要だったみたいだな」


『そうか。俺にも魔導書を見せてくれ』


 メルスは自らの強さを確認したいようだ。


 【種 類】 天使

 【ランク】 S

 【名 前】 メルス

 【体 力】 50000+10000(剣と盾)+5000(指揮化)

 【魔 力】 50000+10000+5000

 【霊 力】 65000

 【攻撃力】 50000+30000+5000

 【耐久力】 50000+30000+5000

 【素早さ】 50000+10000+5000

 【知 力】 50000+10000+5000

 【幸 運】 50000+10000+5000

 【加 護】 全ステータス10000+4000(天使B分)

 【特 技】 属性付与、天使の輪、因果応報、プラズマボール、マジックシールド、剣術〈9〉

 【覚 醒】 裁きの雷、〈封〉、ライトニングスラッシュ


(特技と覚醒スキルに天使Bの特技と覚醒スキルが組み込まれているな。それで言うと剣術スキル分、他のSランクよりも有利か。それにしても相変わらず覚醒スキルが封印されているな。このままSランクの召喚獣を揃えきったら封印が解けるのか)


 ステータスを確認すると、Sランクらしく特技5つ、覚醒スキル3つとなっている。

 天使Bの召喚獣が持っていた特技と覚醒スキルはそのまま、天使Sの召喚獣に移行するようだ。

 剣術のスキルレベルについても移行してくれたおかげで、他のSランクの召喚獣よりもスキルが1つ多い。


(聖殊生成はないのか。まあ、天使だと聖珠ポイントがいっぱい貯まりそうだが、戦闘には役に立たないからな。特技に涙があるけど、この辺りは検証が必要だな。あと王化はできるのか?)


 アレンは念のためメルスにスキル「王化」を発動させた。


『天使Sの召喚獣に王化のスキルは使用できません』


(なるほど、Aランクの召喚獣じゃなくなったもんな。じゃあ、Aランクのメルスは同時に召喚できるのか?)


 召喚獣のカードを合成していき、天使Aの召喚獣を1枚作り召喚しようとする。


『天使Sの召喚獣が召喚されているため、天使Aの召喚獣は召喚できません』


(召喚はできないか。だが、天使Aは加護も旨いからな。カードに出来るだけでもよしとするか)


 メルスとSランクの召喚獣は同時に召喚出来ない。

 当然カードも1枚しか作れないのだが、とりあえずストックで召喚できる。


 Sランクメルスをカードに戻して、Aランクメルスを召喚したら、普通に記憶も人格も引き継がれていた。


 アレンはいくつか検証した後、仲間たちと共にようやく休んだのであった。


***


 どれほど眠っただろうか、アレンは拠点の魔導具から目覚め、窓の外を見ると上空は真っ暗な闇夜だった。

 話し声と共に明るい談笑の声が聞こえるのは焚火の中、どうやら宴会でもやっているようだ。


「ぶっ!?」


 吹き出すほどの驚きと共に、アレンはかけ布団から飛び起きると、指輪と腕輪を装備して、慌てて魔導書を出した。


「やべえ、久々に寝過ごした。神技発動(アルティメット・サモナー)」


 アレンは神技を発動し、創生スキルを使えるようにしたあと、魔導書をパラパラと動かし始める。

 神技発動の持続時間は1時間で、クールタイムが1日だ。


【神技発動時の呼び方一覧とルール】

・召喚士:アルティメット・サモナー

・竜騎帝:アルティメット・ドラゴン・ライダー

・拳獣帝:アルティメット・ビースト・ファイター

・魔導王:アルティメット・マジック・ソーサラー

・歌帝:アルティメット・シンガー

・竜王:アルティメット・ドラゴン・ロード

・星の数を示す「士」「王」「帝」などは呼び声に含めない


 指輪と腕輪を使ってクールタイムを4分の1にして、6時間にする。


「やばい、終わってしまった」


(お客様の中にルークはいませんか?)


 アレンが血相を変えて、焚火を囲み談笑する拠点用魔導具の外に出てくる。

 仲間たちの挨拶も心ここにあらずとばかりに流してしまいルークの下へ駆け寄っていく。


「あら、おはよって、何よその顔……」


 外ではほとんどの仲間たちがおり、セシルと目が合い、アレンの絶望した顔に呆れられてしまう。

 セシルもほかの仲間たちも一瞬何事かと思ったが


「たまには休んでも大丈夫ですよ」


 着のみ着のままに近い、髪型も寝ぐせがボサボサの状態に、ソフィーが手櫛で手入れをしてくれる。


「おう。スキルの効果を伸ばすぜ」


 ルークが時の大精霊を顕現させると、アレンの神技の効果を伸ばしてくれる。


「助かる……。俺は3回もクールタイムを飛ばしてしまったのか」


 セーブを忘れて、攻略データが飛んだほどの衝撃をアレンは受けているようだ。


 アレンはずっとスキル上げに魂を注いできた。

 クールタイムのある世界なので、夜中に起きて、ノルマをこなすなど日々行ってきた。

 今回は、あまりにも疲労が大きく、攻略報酬による心の緩みから、思いのほか深く眠ってしまったことを反省する。


「もう、攻略した次の日くらいゆっくりしても罰は当たらないわよ。はい、アレンの分」


「ありがと……」


(寝起きに重たいです)


 手櫛で甲斐甲斐しく世話をしてくるソフィーと違い、鶏ほどのサイズで串にさして焚火で焼いたばかりの肉をセシルは渡してくる。

 アレンはセシルの大雑把な優しさを握りしめる。

 香辛料もしっかり効いていて、鼻から香ばしい匂いが抜けるのだが、寝起きにこれは重過ぎる。

 モルモの実で十分なのだが、断るとセシルの拳を味わうことになるので礼を言って受け取ることにする。


 アレンはモソモソと少ない食欲でゆっくりと串にささった肉を食べていく。


「アレン、おはよ。こんなに長く寝てるアレン初めて見たよ」


 学園生活からメルルとはずいぶん長い付き合いとなった。

 昨日早々に眠りについた仲間たちはすでに夕食を済ませ、攻略の余韻に浸りながら、お酒片手に語らっていた。


「ああ、メルルもおはよ」


「それにしても、僕がリーダーの時は62階層まで攻略したのに、何回も挑戦していないのに、……やっぱりアレンがリーダーだね」


 アレンがいないとき、パーティーリーダーはメルルだった。

 ルークやガララ提督、ガトルーガも参加し、メルスも攻略に参加しているのだが、メルルが適任だと攻略を任せていた。


 メルルは人工知能が搭載されたタムタムを操縦しているため、攻略に必要な情報分析を任せることが出来るのも、指示を出す上で有効であった。


「いやいや、俺は前世だと、これ系のダンジョンに1万回以上挑戦しているからな。年季が違うんだよ」


 1000回遊べるゲームが謳い文句だったことを思い出す。


「1万回……。すごいね」


 メルルが絶句する。


「それだと、俺はシューティング系はそこまでやり込めていないから、メルルやガララ提督たちの操作性は本当にすごいと思うぞ」


「提督褒められましたよ!」


「うむ! がはは! そうだな!!」


 アレンがガララ提督たちにもねぎらいの言葉を送る。

 ダンジョン明けで今日はオフの日なので、かなりアルコールが回っているようだ。

 何を聞かれても褒めても「そうだな!」と返ってくる。


 やり込み好きのゲーマーだったアレンにとって、ゲームの種類にも得手不得手があるし、前世の人生35年でやり込めるゲームの本数にも限りがある。

 何年もやり込むということは、不得手なゲームと距離を置くことを意味する。


 人気のあるゲームが出たらなんでも飛びつき、アレン以上に何でも得意なゲーマーはたくさんいるかもしれない。

 攻略が終えるたびに新たなジャンルの人気ゲームに飛びつくのは決して「廃」ゲーマーではない。


 不思議のダンジョン系はアレンがやり込んだと言い切れる数少ないゲームだった。


 シューティングゲームは嗜む程度であったことを覚えている。

 弾幕ゲーで、当たり判定と、画面を覆うほどの攻撃を避けるため立ち位置を駆使して、攻略するまでのやり込みは、決して行ってなかったと記憶している。


 数キロ離れた霊獣の特徴を理解し、無数に沸いた中での優先順位を理解し、体の部位では足の節を狙う。

 メルルやガララ提督のゴーレム操作は、ピンポイント攻撃は、芸術に近いと素直に褒める。


「あれだけの実力を見せて謙遜が過ぎるが、アレンの様子からそうなのだろうな」


 シアが金の器に果実酒を注いで、ゆっくりと飲んでいる。


「得意不得意はあるものだ。それで言うと『格ゲー』はかなり苦手だったぞ」


 MMORPGのようなネットゲームでもアレンは対人戦を避けてきた。

 対戦相手との読み合い、きわどい当たり判定、ここぞという時の溜めておいたゲージによる必殺コンボは、自分では難しく感心したものだ。


「ほう、余にもアレンより得意なものがあったのか」


 格ゲーキャラポジションになりつつあるシアは、自覚がないまま、気分が良いと美酒で喉を潤す。


 アレンたちの談笑にようやく参加する者たちがいる。


「はぁ、儂にも酒をくれ」


「ほれ、ハバラクよ」


 さっきまで大地のハンマーを振るっていたのか、神器を握りしめ頭に巻いた布が汗と油を吸って汚れている。


「助かる。く……っは~~!!」


 前世ならメガジョッキと呼べるほどの大きな木のコップに並々と、水で割らず、氷も入れない酒精の高い酒を一気に飲んでしまう。

 弟子の職人たちもぞろぞろとアレンたちの囲む焚火の周りに、思い思いに腰を落とした。


「どうですか? 新たな神器は手に馴染みそうですか?」


(食事の席にも持ってきて、嬉しそうだな)


 大地の迷宮80階層攻略で手に入れた神器「大地のハンマー」の試し打ちを今の今までしていたのだろう。


「どうもこうもねえぞ。すげえ、儂は最高の武器と防具が打てそうだ! ありがとな!!」


 アレンも含めて、攻略に携わってくれた皆に大きな声でハバラクは礼を言う。

 この言葉にアレンも、はやく自らの新たな武器「アレンの剣」の試し切りがしたいと思う。


「いえいえ、皆のためですよ。でも良かったですね」


「ああ、だが、やはり、大地の迷宮じゃねえとあまり力入らねえな」


 大地の迷宮内にある工房ほどの効果は神器であっても発揮できないと言う。


「あんだよ。仕事のことは忘れて飲むぞ」


「おう。悪いな。注いでもらってばかりで」


 ガララ提督がもっと飲めと言わんばかりに、空になったメガジョッキに並々と酒を注ぐや否や、ハバラクがゴクリと一息で飲んでしまう。

 注がれたら注ぎ返すと、樽に入った酒が尋常じゃない勢いで減っていく。

 ハバラクも加わり、ドワーフたちによる宴が本番を迎えたようだ。


「それで、アレン、次はどうするの?」


 ドワーフたちを後目に、大地の迷宮を攻略した後の話をセシルが振るのであった。

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