第309話 ニール②

 アレンは巨大な蜂の姿をしている5体の虫Aの召喚獣を召喚した。


「よし。ハッチ、そのトロルキングを使役しろ」


『ギチギチ』


 トロルキングはAランクの魔獣で、Bランクの魔獣のトロルの上位体だ。

 トゲトゲした金棒を大振りに振り回すが、虫Aの召喚獣は強化して12000に達した素早さで躱す。


 そして、お尻から伸びた針をトロルキングの首元に深々と差し込む。


『グルゥ』


 トロルキングは、振り回していた金棒を力なくだらりと握り、棒立ちのような状態になる。


「よしよし、この大陸の巨人系統も問題なさそうだな」


「うまくいっているの?」


『虫の召喚獣はトロルキングを使役しました』


 魔導書にトロルキングを使役したというログが表示される。


「ああ、うまくいっているようだ。Aランクの魔獣は殲滅しないでくれ。こっちの手駒にしたい」


 覗き込むように後ろから尋ねてくるセシルにうまくいっていることを伝える。

 ついでに普通のオークキングやオーガキングは「再生」のスキルを持っているので、殺さなければ大概の傷は自然に治してしまう。

 だから、殺さなければ遠慮はいらないということもセシルに付け足す。


(さて、手駒も足りないし、ハッチには活躍してもらうと。とりあえず、このニールの街を防衛拠点の1つにしないとな)


「ハッチ。産卵して、子ハッチを生んでくれ。子ハッチには使役針でAランクの魔獣を使役するように指示してくれ」


『『『ギチギチ』』』


 5体の虫Aの召喚獣はそれぞれ特技「産卵」を発動する。

 地面に巨大な100個の卵が一瞬で現れ、中から白い芋虫みたいなものが出る。

 卵から這い出た芋虫のような幼虫は、一瞬で蛹になり、そしてすぐに羽化すると、虫Aの半分の大きさの同じ姿で誕生する。


 この虫Aの召喚獣の特技、「産卵」によって誕生したものを、虫Aの半分の大きさなので子ハッチと名付けた。


 虫Aの召喚獣だけ何故か複雑な能力と特徴があるので、調べるのにずいぶん時間を要した。

 ローゼンヘイムの魔獣掃討をしながら、効果の検証を進めてきた。

 特徴を調べた結果、虫Bの召喚獣の完全上位互換であることが分かった。


・使役針

 刺された魔獣が虫Aの召喚獣の言うことを聞くようになる。そのため、アレンが直接指示することはできない。使役期間は最大1ヵ月。

 ランクを問わず使役することができるが、使役針にも攻撃力やダメージがあるようで、Bランク以下の魔獣では耐えられず、死んでしまうことが多い。

 効果抜群なのは、虫系統、獣系統、巨人系統の魔獣だ。

 竜系統はたまに効果があり、植物系統、死霊系統、鎧や物質系統など生き物ではない魔獣には全く効果がない。


・産卵

 100体の子ハッチを生む。生まれた子供は生んだ者の半分のステータスを引き継ぐ。

 特技は使役針のみ引継ぐ。

 虫Aの召喚獣をカード化したり、1ヵ月の連続召喚の期限が切れてカードに戻ると消えてしまう。クールタイムは1日。


・王台

 虫Aの召喚獣と全く同じステータスと特技を持ったものを1体産み落とすことができる。

 名前は虫Aの召喚獣と分けるため、親ハッチと名付けた。

 生んだその瞬間から産卵をすることができる。クールタイムは1日。


・使役魔獣

 使役された魔獣。

 経験値は使役成功時点で入る。使役の成功は、魔導書のログに流れるため、確認が可能。

 1カ月間もしくは、使役したハッチ、親ハッチ、子ハッチが死ぬと使役は解除され死亡する。

 一定以上ダメージを受けても死亡する。


・虫Aの召喚獣の特技「産卵」により生まれた子ハッチ

 【名 前】 子ハッチ

 【体 力】 4500

 【魔 力】 2000

 【攻撃力】 4450

 【耐久力】 6000(強化済み)

 【素早さ】 6000(強化済み)

 【知 力】 3350

 【幸 運】 2750

 【特 技】 使役針


・虫Aの召喚獣の覚醒スキル「王台」により生まれた親ハッチ

 【名 前】 親ハッチ

 【体 力】 9000

 【魔 力】 4000

 【攻撃力】 8900

 【耐久力】 12000(強化済み)

 【素早さ】 12000(強化済み)

 【知 力】 6700

 【幸 運】 5500

 【特 技】 使役針、産卵


 虫Aの召喚獣がやられると、産み落とした親ハッチや子ハッチは消えてしまう。


 産卵して生まれた500体の子ハッチとともに、ニールの街の外壁にへばりつく魔獣たちの殲滅を開始する。


 どうも、街の周りにはかなりの数の魔獣がワラワラと跋扈しているようで、これからニールの街にやってくる邪教徒や巨人系統の魔獣もいるようだ。


 それらを殲滅しつつ、Aランクの魔獣は使役して行きながら、街をぐるっと囲むように金の豆を植えていく。


「こ、これはどういうことだ」


「助かったのか」


 外壁の上で必死に槍を握りしめていた兵たちは何が起こったか分からなかった。

 空を飛ぶドラゴンのように巨大な虫の魔獣が現れたかと思ったら、壁にへばりつく魔獣たちを針や大顎で粉砕し倒していく。


 新たにやって来た魔獣たちも、外壁の内側に植えた金の豆の木が発育するとともに、近づけなくなった。


 2手に分かれたこともあり、1時間もかからず外壁周りの殲滅が終わった。

 助けられるか分からない邪教徒も全て倒した。


「結局倒しちゃったわね」


「仕方ない。何が正解か分からない」


 倒しても仕方なかったとセシルに言う。

 念のため、何度か天の恵みと香味野菜も使って邪教徒の状態から人間に戻せるか試してみたが結局駄目であった。

 

「これからどうするの? キールたちのところに行く?」


 セシルがこれからについて聞いてくる。

 外壁を2手に分かれて魔獣の殲滅をしてきたので、キール、クレナ、ドゴラを残してここには全員いる。


「いや、ちょっと待って。召喚獣たちに新たな指示を出す。助けるのはこの街だけじゃないだろうし」


 門が破壊されたところで到着したニールの街は、ぎりぎり助かったと言えるだろう。

 だが、今なお滅びそうな街や村は多いだろうと予測した。


 魔獣たちの強さも分かったので、使役した魔獣を残して全ての召喚獣、親ハッチ、子ハッチを探索と殲滅に行かせる。

 転移用に鳥Aの召喚獣、Aランクの魔獣がいたので金の豆を霊Aの召喚獣に持たせる。


「よし、あまり時間がないな。お前の出番だ。ハヤテ」


(これくらいの強さの敵と数なら昨晩考えていた作戦で問題ないかな)


 アレンは獣Aの召喚獣を10体召喚する。

 すると、フェンリルが姿を現した。

 北欧神話に出てくる、白銀の姿に15メートルの巨体、どう猛な目と長く鋭い牙、筋肉質な手足には凶悪な爪が生えている。


『ようやく我の出番のようでございますね。アレン様』


 獣、魚、竜、霊系統は基本的に言葉を話せる。

 Aランクになって話せる召喚獣の系統が天使系統のメルスも増えた。


「ああ、今は時間が惜しいからな。優先順位は分かるな?」


『はい。魔獣の討伐より村や街の救出優先ですね。地図は既に頭にあります』


「ああ、そうだ。邪教徒なのか逃げているだけのただの人なのか分からなければ無視すればいい。あと地図には大きな街しか載っていなかった。近隣の村や小さな町も助けられるなら助けてくれ」


 優先順位を伝えていく。

 獣Aの召喚獣たちにはこれから走って救出に向かってもらう。


 【種 類】 獣

 【ランク】 A

 【名 前】 ハヤテ

 【体 力】 10000

 【魔 力】 8000

 【攻撃力】 10000

 【耐久力】 7000

 【素早さ】 9800

 【知 力】 7500

 【幸 運】 6600

 【加 護】 体力200、攻撃力200、クリティカル率アップ

 【特 技】 疾風撃、縮地

 【覚 醒】 瞬狼殺


 加護は体力と攻撃力が上がり、陸を疾走する速度は、他の空を飛ぶ召喚獣をも凌駕する。

 10体の獣Aの召喚獣の背中には、霊Aと鳥Aの召喚獣を乗せて走り、街や村の救出を急がせる。

 霊Aの召喚獣には金の豆と天の恵みをそれぞれ複数個持たせている。


 アレンの合図とともに、まばらに木の生えた自然豊かな大地を獣Aの召喚獣は走り出した。

 虫Aの召喚獣、親ハッチ、子ハッチも50体程度の集団ごとに移動させる。


「まだ、助かる街があるかしら」


「4日前に教都テオメニアで何かが起きたらしいからな。とりあえず、ニールの街を襲った魔獣くらいしかいないことを祈るしかないな」


「そう。テオメニアは今どうなっているの?」


 セシルの心配事にアレンは答える。

 4日前に教都テオメニアで何かが起き、魔獣と邪教徒が溢れた。

 教都テオメニア周辺には大小さまざまな大きさの街や村がある。

 そんな中救出すべきは、4日で魔獣たちが移動できる距離にある村や街だ。


 移動と素早さに特化した獣Aの召喚獣なら、魔獣たちの動きに追いついてくれるだろう。

 既に走り去って姿が見えなくなった獣Aのいた跡を見つめながらアレンは答える。


 そんなアレンに、セシルはテオメニアの状況を確認する。


「多分生存者は絶望的だな」


 メルスと共有した視界には荒廃したテオメニアが映し出されている。

 少し前に、メルスもテオメニアに到着したのだが、生存者はいなさそうだ。


 そこには焼け焦げた街並みが広がっている。

 邪教徒がフラフラと徘徊している姿が映し出されており、生存者は発見できそうにない。


(あれは何だ? 神殿の奥に何かが舞い上がっているな)


 テオメニアの広場に炎の柱が上がっていたと聞いている。

 広場に行くが、事態の中心地であったのか、広場の処刑台も観覧席との間に設けた柵も消し炭になっているが、既に火の柱は無くなっており、誰もいない。


 しかし、メルスと共有した視界には、創造神エルメアを祀っていると思われる神殿の奥で、天を衝く勢いの青白い光の柱が立っていた。

 そして、青白い炎の柱は上空で角度を変え、地平線の先に向かって飛んでいっている。


「そう。かなり厳しいわね」


「ああ、とりあえず、キールたちと合流しよう」


 今後の方針を決めるため、キール達と合流しようと言うアレンであった。

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