第722話 アンドレを目指して①

 アレンはセシルのために80階層ボスで土の化身アンドレを狩ろうと言う。


(仲間たちの中には引っかかるところがあるようだな。俺も作戦を考えたいし)


「よし、皆疲れているだろう。まずは睡眠をとって8時間後に食堂集合だ。そこで話し合おう」


「そうですわね。では失礼しますわね」


 ソフィーは率先してアレンの言葉に賛同し、工房の横にある拠点に向かい休むことにする。

 王城並みの大きさの5階建てで最大で100人くらいの人が来ても大丈夫なよう、巨大な施設がある。

 これは設置が容易な、拠点用の魔導具で大規模パーティー用のものだ。


 仲間たちがシャワー完備の拠点用魔導具にワラワラと入っていく。

 5階建てになっており、工房を利用しているドワーフたちも1つの階層を占有してもらっている。


 住みよい居住空間を大地の神の神域に作っているわけだが、ドワーフの信者を奪いたいという願望があるのか、特段の許可なく居住環境を広げているのだが何も言ってこない。


 更に言うと、夜な夜なドワーフたちがアレン軍の補給物資に入っている酒樽で酒盛りしているのだが、宴会にも参加しているらしい。


(霊獣が「いない」と言えば、俺たちはアイアンゴーレム狩りに戻っていたわけで……。アンドレを狩って欲しい理由があるとでもいうのか)


 大地の神が回答を曖昧に濁した結果、この場に止められたような気がする。

 はっきりとした答えが出ないが、理由があるならアンドレを狩った後、分かるかもしれないと思いながらもアレンも作戦を模索しながら、シャワー浴びて寝ることにした。


 大地の迷宮は回復薬や食料の持ち込みは不可だが、食糧を生成する召喚獣もいないことはない。

 しかし、攻略中に草Hの召喚獣の枠を1つ消費する余裕もないため、大地の迷宮内の店で基本的に強奪しているので、空腹感はそれほどはない。


 前世の記憶でローグライクの食事と言えば、パンかおにぎりと相場は決まっていたのだが、大地の迷宮の食糧は「10秒チャージ」という言葉が聞こえてきそうなパックに入った栄養剤を吸っている。

 風情もロマンもないのは脳筋の大地の神のせいだと考えている。


 8時間に渡る十分な睡眠をとって小腹が空いたところで、仲間たちが集まってくる。

 オリハルコンを手にして鍛冶に入りたいハバラクも食事をしながらの作戦会議なので参加してもらう。


「それでどうすんだよ。前回72階までしかいけなかったのにアンドレは80階にいるんだろ」


「たしかに。あんな耐久力がある敵を倒す時間も考えて余裕をもって攻略しないといけない。実際に前回は倒しきれずにいる。無茶な作戦は困るな」


 パンを食いちぎるように噛みつくルークの言葉に、スープを品よく気のスプーンで流し込むフォルマールは賛同する。


「たしかに。まあ、俺の加護次第の作戦だが、そもそも80階層までボスがいないなら、階段探しをどれだけ早く見つけられるかって作戦になるな」


「それもそうだがよ。アンドレを倒して、その広間を抜けた先にある工房やオリハルコンの鉱脈に行きたいぞ」


 アンドレを余裕をもって倒して、オリハルコンの鉱石をたくさん手にしたいとハバラクがさらなる無理を言う。

 アレンは欲望を全開にするものは嫌いじゃない。


「それでどうするのよ。私、もう少しレベル上げてほしいけど、そんなに無茶は言っていないわよ?」


 実際、エクストラモードになったが、亜神級の霊獣などがいなかったころ、クレナとかドゴラはレベル91前後まで上げて、それ以上は無理してあげようとしなかった経緯はある。

 今はアレンたちに力がついたので、アイアンゴーレムの狩り効率が上がったのでそれくらいでも良いとセシルは言う。


「いいや、時空神の試練を超えるためにもセシルのレベルは高い方が良い。エクストラモードはレベル81以上の成長速度が良いからな」


【エクストラモードのステータス増加速度について】

・レベル61以上は1上がる毎、それ以前の2倍の数のステータスが増加する

・レベル81以上は1上がる毎、60以下の4倍の数のステータスが増加する


 アレンがセシルのレベルを99にしたい理由だ。


「それで階段をアレン様の召喚獣を使った階段探しをするという話ですわね」


「そのとおり、ロゼッタもテミもいないからな。ツバメンを優先した構成になるだろう」


 アレンは細かい作戦を伝えながら、仲間たちに理解させる。


「ふ~ん、そんなの可能なのかな。アレンが大変そうだぞ」


「そうだな。知力的には問題ないはずだ。16時間後の出発までに何かあったら行ってくれ。じゃあ解散だ」


 アレンの言葉に皆が拠点の食堂を後にする。


 ハバラクは工房に向かい今回手に入れたオリハルコンを加工するようだ。

 セシルは魔法のスキルレベル上げをするというので、ソフィーとルークは精霊を出して協力する。


 出発前数時間は仮眠をとり、体力を回復させたアレンたちは大地の迷宮の入り口に集合する。

 土偶の姿をしたダンジョン案内役の下へと全員で向かう。


『大地の迷宮への挑戦ですね。どちらが参加されますか。参加者とリーダーを教えてください』


「この場にいる全員です。リーダーは私です」


【大地の迷宮攻略組の構成48(人・体)】

・アレン(1)

・Sランクの召喚獣(計8)

 内訳:ルバンカ、クワトロ、ペクタン、マクリス、グラハン、マグラ、メルス、リオン

・鳥系統の召喚獣(計27)

 内訳:F(1)、E(1)、A(24)

・セシル(1)

・ソフィーと大精霊(5)

・ルークと大精霊(5)

・フォルマール、ハバラク(2)


『了解しました。こちらはタイマーです。魔導袋や回復薬、食料は持ち込めませんのでお気を付けください。24時間経ったら終了です』


 いつもの注意を聞いてアレンたちは気を引き締める。


(まあ、24時間で攻略できるし、武器や防具は持ち込み可だしな。今思えば、そんなに長時間のダンジョンではないのかもな)


 前世で健一だったころ、1000回以上遊んだ最終問題のダンジョンでは、一度の攻略におにぎり10個以上食べるので実際5日以上の日数がかかっているのだろう。

 それがタイムアタックのように急いで攻略するとはいえ24時間な上に、武器防具持ち込み可のため、もしかしたら、そこまで難易度は高くないのかもしれない。


 なお、持ち込み可能な神器「大地のハンマー」は大地の迷宮内でのスコップやツルハシへの加工に使える上に、使用頻度は無限だ。


 精霊たちのバフにメルスの天使B「ボンボン」に変えて、速度を上げる。

 なお、天使Bや天使Cの武器や防具は装備枠のため変更可能だ。


【武器名:ボンボン(成長レベル9)】

①特技名:ファニーポンポン

・素早さ10000上昇

・スキル発動時間20%減

②覚醒スキル名:クレイジーダンス

・素早さ30000上昇

・スキル発動時間50%減

・クールタイム50%減


「よし行くぞ。転移が頻繁に起きるからな。集中を切らさないでくれ! ソフィーの神技「精霊神の祝福」はすぐには使わない。俺がタイミングを計るからな!」


「はいですわ。アレン様!」


 アレンは隊列を組んで一気に大地の迷宮に入っていった。


 全長100メートルあるマグラの上にアレンたちは乗って、上下と四方をSランクの召喚獣と大精霊たちが囲む。


「よし、T字路だ。12体は俺と反対に進め」


『ピピッ』

『ピピッ』

『ピピッ』


 共有しているので頭で思うだけで鳥Aの召喚獣たちは認識できるのだが、作戦の状況を細かく理解してもらうために敢えて声に出して指揮する。


(さて、頭の負担はどの程度のものか)


 12体の鳥Aの召喚獣と一緒に右手に移動したアレンたちは、今度は十字路を鳥Eの召喚獣が直線3キロ先に捕らえる。


「直線状に十字路だ。4体は俺と直線に進め!」


『ピピッ』

『ピピッ』

『ピピッ』


 アレンたちが直線を進むと残り8体の鳥Aの召喚獣たちが右手と左手にそれぞれ4体ずつ分かれて進む。


 10分もしないうちにT字路になったところで最後の1体の鳥Aの召喚獣たちと別れてしまった。

 現在はアレンおよび24体の鳥Aの召喚獣たちがそれぞれ分かれて1階層を進んでいる。


「どうだよ、アレン。階段見つかりそうかよ?」


「シッ! アレン様は集中していますよ」


「おっと、ごめんよ。アレン」


 ルークは、全ての召喚獣に指示を出しながら自らも進行するアレンに声を掛けたことをソフィーに窘められる。


 そうだったと口を塞ごうとしたところで、アレンが口を開いた。


「2階層への階段を見つけたぞ。転移するぞ!!」


(さて、このままこのツバメンに巣を設置させずに先行させることもできるんだがな)


 鳥Aの召喚獣の1体が階段を見つけたので速やかに「巣」を設置し、覚醒スキル「帰巣本能」を発動する。


【2階層・残り23:42】


 そのまま「巣」を設置した鳥Aの召喚獣と共に階段を下りていく。


 階段を下りた後、次の2手に分かれるまで鳥Aの召喚獣と一緒に移動する。

 残り23体の鳥Aの召喚獣たちは、アレンたちから距離が離れているため、一緒に転移できない。

 これまで移動または引き返した全ての道順をアレンが覚えており、2階層へ繋がる階段へ急いで向かう。


 なお、鳥Aの召喚獣にひたすら進ませたらどうだよと出発前にルークから意見がでた。

 アレンたちを転移させず、このまま遥か下の階層まで進んだところで鳥Aの召喚獣に「巣」を設置させたところで、アレンたちが転移する。

 これも可能な作戦だ。


 しかし、それだと先行した鳥Aの召喚獣が1体で下の階層への階段などを探さないといけない。

 店があっても召喚獣1体では泥棒もできないだろう。


 先行させ過ぎても攻略確率が下がるというのがアレンの判断だ。


 アレンたちが2階層に到着して1分も経たないうちに背後から1体の鳥Aの召喚獣が2階層に到着してアレンたちの後を追う。

 2階層の分かれ道で、この1体にまだ進んでいない通路へと指示を出す。


(さて、よろい蟻の巣を超える高難易度の迷宮攻略が始まったな)


 思考の中、続々と鳥Aの召喚獣たちが2階層に到着して、通路を分かれて進んでいく。

 アレンの頭の中で道順の暗記と必要なアイテムを圧倒的な知力で巡らせていくのであった。




あとがき

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