第371話 兵隊と給金

 今日は午後から5大陸同盟の会議がある日だ。


 ムーハの町に住人を受け入れてから10日ほど過ぎ、5000人にもなる旧カルロネア共和国の住民の移動が終わった。

 フレイヤ教の信者の移住計画は、あとは魚人国家のクレビュールから3000人の魚人を迎えるだけだ。

 魚人には水がとても必要ということだ。

 もともと沼地や湖が必要ということで、地面を広範囲に掘り起こすところから始めているので一番時間がかかる。


「そろそろ荷物の準備はいいか」


 S級ダンジョンの最下層にあるボス部屋に入る前の空間で、アレンはパーティーの仲間たちに声を掛ける。


「ああ、いいぜ」


 ドゴラが昼飯替わりにバリバリと骨付き肉をかじる。

 最近随分食欲が増しているようで、よく食べるなと思う。


 使徒になったことや、エクストラモードになったことで食欲が増しているのか、年頃の15歳なので腹が良く減るのかはわからない。


 前回のバウキス帝国の皇帝に謁見した際と同様に、魔導船は既に5大陸同盟の会議があるギアムート帝国に向けて出発をしている。

 会議に参加するためにわざわざ何日も魔導船の中にいるつもりはない。

 ある程度アレン軍の活動についても、手が離れ始めたので、メルルに遅れてアレンもアイアンゴーレム狩りに参加することにした。

 今回の5大陸同盟の会議は、ギアムート帝国の帝都ベルティアスで行われることになった。

 今回の魔王軍の侵攻が一段落付いたこともあり、このタイミングでの会議のようだ。

 実はアレンはSランク冒険者になった際に、会議への参加要請を冒険者ギルドのマッカラン本部長から受けていたのだが、救難信号を受けてエルマール教国に急行した。

 今回アレン軍を結成することになったので、ついでに軍を作ったことも会議の場で話をすることになる。


 S級ダンジョンの新しく設けた拠点に移動する。


 ここは、S級ダンジョン1階層部分にある街で、ダンジョンの入口がある中心地から若干離れているのだが、2区画分を金貨15万枚を費やして買収に成功した場所だ。


 ここは主に、獣人とダークエルフが活動拠点として使っている。

 獣人は学園都市の転職ダンジョンでの転職が順次進んでおり、済んだ者からまずはS級ダンジョン近くのB級ダンジョンなどでレベル上げをしている。

 その際、レベルがまだ十分に上がっていないダークエルフたちと混成で挑むことにしている。


「よし、シアもルークもいるな」


 そう言って出かける準備が整ったシアとルークを見る。

 2人はまだS級ダンジョンに行けない。


「ああ、もう行くのか」


「ああ、って別に、戦争に行くわけじゃないぞ」


 拳を握りしめ、物思いにふけっていたシアに戦いに行くわけではないことを改めて言う。

 それほどの、戦いに対する覚悟のようなものがシアの表情に現れていた。


(ただ、家族に会うんだよね)


「もちろんだ。よし、いこうか」


 シアは拳をパンと叩き立ち上がる。

 これから獣王やゼウ獣王子と会うことになる。

 ゼウ獣王子は、ローゼンヘイムで十英獣と共に戦争をした後、中央大陸での戦争にも参加している。

 大国の王族自らが、最終兵器とも言える十英獣を引き連れ戦場で活躍を見せた。

 アルバハル獣王国の獣王にと後押しするギアムート帝国の歓待を受けて、ゼウ獣王子は5大陸同盟の会議にも参加するようだ。

 獣人であり、獣王国の王族でもあるシアは、闘争の中に身を置いているようだ。


(ルークはいい感じに軍に慣れてくれて助かるな。まだ一緒のパーティーに入るには早いけど)


 そして、ルークを見る。


 最初に会った時は気持ちが安定していなかったのか、睨んだり不安そうになったりしていたが随分ここの生活に馴染んだようだ。

 どうもダークエルフのブンゼンバーグ将軍の話によると、父オルバースの一言で今回のアレン軍への参加が決まったようだ。

 まあ、最初は不安であったが、レベルも順調に上がり自信がついたのか、こういうものかと思い始めたのかもしれない。


 ルークは他のダークエルフと同様に3つのC級ダンジョンの攻略が終わり、B級ダンジョンの攻略中だ。

 48人で攻略という数の暴力と、指輪によるステータスの上昇、そして攻略速度を上げるため、召喚獣も手伝っているのでかなりの速度で攻略を進めている。


 ルークは心を許したファーブルを撫でまわしている。


「もう荷物の準備は大丈夫か」


「ああ、問題ないぞ」


 ルークとの会話についても、割とラフに話しかけてくるようになった。

 見た目は8歳の褐色少年だが、アレンとは同じ年だ。

 アレンは軍の最高責任者ではあるが、自分に対し敬語の必要はないと言っている。

 一緒に狩りをするのは先になるが、アレン軍のやり方だけは理解してほしいと思う。


 ダークエルフは百数十万人しかいないが、ルークは王族であることに変わりはない。

 精霊王ファーブルも引き連れている。

 十分な立場なので、アレンたちと一緒に5大陸同盟の会議に出席する。


 全員そろったので、魔導船の中に鳥Aの召喚獣の覚醒スキル「帰巣本能」を使って転移する。

 移動中の魔導船の中にも「巣」があれば問題なく転移できる。


 広い場所で金勘定をしているペロムスがいた。


「ああ、すまないな。ペロムスだけ船に乗ってもらって」


「あ、うん。別にいいさ。皆の給金も計算しないといけないからね。ざっと月に金貨15万枚はしそうだな。転職が全員済めばこの倍近くになるよ」


 アレンはそう言って、あれこれ書かれた羊皮紙が何枚も散らばっている状況を見る。

 ペロムスには5000人の兵にいくら給金を払うのか、計算をしてもらっていた。

 このまま行くとS級ダンジョンの2区画を買収するのにかかった金貨15万枚の倍の給金がアレン軍に毎月かかるようだ。


「まあ、やっぱりそれくらいするか」


(まあ、そんなもんだよね)


 アレンたちはヘビーユーザー島を抱え、5000人の軍を持つことになった。

 当然、彼ら5000人には生活があり、地上に家族を残してきた者もいる。

 魔王から世界を救うという崇高な目的があるからといってタダ働きをさせていいかといえばそんなことはない。

 才能があり、相応の立場のあった者たち5000人の兵にそれぞれに見合った給金を払う。

 これは当然のことだ。

 何をするにもお金がいるのだ。


 ペロムスが、考えた給金は以下の通りだ。


・才能による加算額

 星1つは金貨10枚

 星2つは金貨20枚

 星3つは金貨40枚


・軍の役職による加算額

 十人長(10人の長)は金貨5枚

 隊長(100人の長)は金貨10枚

 連隊長(500人の長)は金貨20枚

 将軍は(1000人の長)は金貨50枚

 大将軍は(数千人の長)は金貨100枚


・ダンジョン等で稼いだお金の3割は、参加した軍の隊員に分配

 ダンジョンの攻略のモチベーションのためにも、攻略の一部は軍に還元したほうが良いとペロムスは言う。

 この辺りは傭兵団を抱えるペロムスらしい考えだ。


 アレンは武器や防具、そして指輪や召喚獣により手伝っているので、破竹の勢いでダンジョンを攻略できている。

 その辺りが理由で7割は経費として回収する。

 この7割についても、島を開拓する兵や、非戦闘員などへの経費として使われる。


 なお、参考までにグランヴェル領のゼノフ騎士団長の給金は現在金貨15枚、レイブランド副騎士団長の給金は金貨10枚だ。

 グランヴェル家が男爵家から子爵家に上がったこともあり、給金を増やしたという。

 アレン軍の給金の参考にするためラターシュ王国の王都にいるグランヴェル子爵に確認した。


 ちなみにペロムスは200人の傭兵団を抱えていた。

 ペロムス廃課金傭兵団という名前で、冒険者登録をしている。

 今ではペロムス廃課金自警団になったが同じ程度の給金を払っていたという。

 彼らは才能有りがほとんどで月に計5000枚ほどの金貨をペロムスは払っている。

 ダンジョンに通わせているので赤字はなかったとペロムスは言う。


 なお、自警団についても、その才能や役職によって給金が必要だ。

 もちろん、現在移住が続いている島にいる民の配給やもろもろにお金がかかる。

 それも含めてアレンは問題ないという算段だ。


「ふむ、やはり、獣王陛下にも話をして、予算を出してもらってはどうなのだ?」


「そこは、軍の独立性を持たせたいって話で済んだぞ。シア」


 3000人の部隊を引き連れ、シアは邪神教の教祖の討伐にやって来た。

 その間、アルバハル獣王国が給金を兵たちに払ってきた。

 1000人の兵が作戦の中で死んだのだが、そのための弔い金も獣王国が出している。


 今回、アレン軍に参加すると決めたので、獣王国からの支出は不要と伝えている。

 これはローゼンヘイムやファブラーゼの里についても同様の対応だ。


 兵に対する負担は全て、ヘビーユーザー島の中で完結させる。

 指揮権が移行する可能性のあることは極力避けるつもりであるし、たかだが金貨30万枚や50万枚くらい稼げるつもりでもいる。


『まもなく、ギアムート帝国の帝都ベルディアスに到着します。魔導船が揺れますので、移動しないようにお願いします』


 魔導具による船内放送が流れる。

 魔導船が、ゆっくりと帝都の魔導船発着地に降りる。


「お待ちしていました。アレン様御一行でございますね。王宮に案内します」


 着陸した魔導船から伸びた階段を降りていくと、豪華な馬車の前に騎士団が控えている。

 王宮へ案内する使いの者のようで、アレンたちは、帝都にある王宮まで運ばれていくのであった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る