第344話 最後の問答
アレンたちは連合国の四方にできた光の柱と、それを生む祭壇を破壊した。
砂漠で4つ目となる祭壇を魔神ごと破壊した際、レベルが85になり、今まで封印されていた王化のスキルが解放された。
細かい検証を重ね、いろいろやっているうちに5日が過ぎた。
これでエルマール教国の救難信号をバウキス帝国の宮殿で聞いて、かれこれ1カ月ほどが経過した。
「結局は何も見つからなかったということか」
難しい顔をするアレンに対してシア獣王女は話しかける。
アレンたちはタムタムに乗って連合国のある大陸の中央にある浮いた島の側にいる。
浮いた島に上陸することなく、島から少し離れた位置でタムタム(モードイーグル)の中に、仲間とシア獣王女たちと共にいる。
浮いた島はアレンの予想のとおり、4本の光の柱と、それを生んでいる祭壇を破壊したら光の膜は消え去った。
今では結界のようなものが無くなり、がら空きの状態なのだ。
タムタムの中で最後の作戦会議をしている。
浮いた島は全体的にごつごつとした岩肌になっており、前世で火山の噴火で出来たばかりの島がだいたいこんな感じであったような気がする。
緑も生命の痕跡も何もない無機質で不毛な島だ。
そんな無機質な島の中央には大きな山があり、山の天辺に神殿がある。
この縦10キロメートル、横8キロメートルほどの楕円形の島に構造物と言えば、その神殿だけだ。
山の頂に作られた神殿ということもあって、かなりのサイズ感だ。
神殿の天辺で何かがメラメラ燃えているような揺らぎが見える。
神殿の最上階に何かがありそうだ。
「はい。そうですね。お宝も何もありませんでした」
シア獣王女の問いにアレンは残念そうに答える。
「宝……。いやなんでもない」
シア獣王女はアレンの答えに絶句する。
アレンはどうやら、神殿内の宝を探していたようだ。
実は、王化の検証も2日もあれば済んだので、それから直ぐにこの浮いた島までやって来た。
どうやって、攻略するか、何がこの神殿にあるのか慎重に慎重を期すため潜入調査を続けていた。
神殿の中は、アンデッドや死霊系の魔獣の巣窟になっており、かなりオドロオドロしい。
アレンはダンジョン以外でこんなボス戦感のある所に来たのは初めてなので、とりあえず宝探しをした。
魔王軍のボスの根城ということもあり、ボス戦前に全ての宝箱を開けようとした。
バスクが貴重な装備をしていたので、それくらいのものが神殿内にないか調べたのだが、何もなかった。
宝箱を置かないが、魔獣は多数配置するなどマナーがなっていないなとアレンは怒り心頭だ。
この世界には、ダンジョンや敵の城を攻略する冒険者のために用意する宝箱という概念はないようだ。
そして、この宝箱や敵の情報は霊Aの口頭での回答によって得た。
この神殿はアレンの共有が外れてしまって中が見えないでいる。
どうやら、島を覆う光の膜に近い効果がこの建物にあるらしく、アレンのスキルの影響は及ばないようだ。
霊系統の召喚獣の壁抜けも使用できないので、小さな隙間があれば鳥Aの召喚獣による潜入もさせた。
なお、「巣」の設置もできない。
そのため、召喚獣が見聞きした情報を口頭で聞くという形になった。
検証と調査の結果、神殿を破壊することにした。
わざわざ、魔獣のいる神殿の中に入ってあげる必要はない。
先にマナー違反をしたのはそちらだろうという話だ。
しかし、神殿を破壊することはかなわなかった。
マクリスの聖珠を手にして、精霊王の祝福による知力と魔力を上昇させた、セシルのエクストラスキル「小隕石」は神殿に当たる寸前でかき消された。
メルスの裁きの雷もそうだ。
圧倒的なステータスによる繰り出される破壊そのものといってもいいほどの威力も神殿の天辺の燃えている何かに当たるや否やかき消される。
どうやら、島の周りの光の膜を消すことができたが、神殿には何らかの魔法や魔力による攻撃そのものをかき消す何かがあるようだ。
メルスの話では、かなり強い魔力が込められた結界があり、侵入するには入り口からしかできないらしい。
そうして、現在に至る。
今この場にはアレンのパーティー全員と、バスクと戦った時のシア獣王女と4人の配下たちがいる。
いくつか作戦ごとをきめ、これから潜入する。
「僕は居残りだね」
「メルルはこの場で待機だ。もしかしたらだが、神殿を守る結界のようなものが破壊出来たら、外から攻撃をしてくれ。その時は伝令で合図送るから」
鳥Fの召喚獣で叫ぶので、バルカン砲(大)を持って、神殿から少し離れた位置で待機してほしいという。
「分かった」
入口から入り、中にいる魔神や邪教祖グシャラを倒す。
普通の作戦だが、多分これしかない。
島ごと、地面に落とせないかと、島の下の部分などあれこれ探してみたが、動力源が何か分からない。
神殿の中も探査させたが、それらしいものは見つからなかった。
(さて、そろそろはっきりと言っておかないとな。まずはシア様からだな)
アレンはシア獣王女を見る。
「どうしましょう。かなり厳しい戦いになります。どうも神殿の最上部には魔神が2、3体いるようです」
最上部の階は門があって霊Aの召喚獣では入れなかったが、鳥Aの召喚獣が隙間から中に何があるか見ている。
邪神教の教祖グシャラに魔神バスクもそこにいる。
「当然行く。他に余には選択肢がないのでな」
アレンたちと行動を共にしてきた。
魔神を狩ったのは全てアレンたちだ。
もっと言うならセシルだ。
戦闘に参加しただけで功績は何もない。
その上、邪神教の教祖がいると分かって、戦闘にも参加しなかったでは未来もないという。
「配下もご自身も命が代償になるかもしれませんよ」
「それでもだ」
シア獣王女は気位も高いし、兵への指揮も優秀だ。
しかし、鋼鉄の心があるのかと言われたらそうではない。
配下の死を嘆くし、ラス副隊長が死にそうなときは涙を流した。
ルド隊長が止めないので、「分かりました」とアレンは了承する。
かなり厳しい戦いになると予想されるが、本人が戦うというのであれば止めることはない。
「ドゴラはどうするんだ? 行くのか? メルルと待っていてもいいぞ。中だと転移が効かないし」
「あ? 何言ってんだ。俺は行くぞ」
ドゴラに改めてアレンは参加の意思を確認する。
占星術師テミにS級ダンジョンで最下層ボス攻略前日に占ってもらった内容があるからだ。
ドゴラには、何らかの試練が待っている可能性が高い。
かなりの確率で死ぬ可能性がある。
ここまで光の柱を破壊してきたが、たしかにリカオロンやバスクは強敵であった。
しかし、ドゴラが死ぬほどの絶望であったかというとそんなことはない気がする。
これまでにない魔神の狩りなので、死なない保証はないが、そこまでドゴラにだけ危険なことなのかと聞かれたらそんなことはないとそういう話だ。
アレンの魚系統の召喚獣によって、守りを固めることができるし、キールも補助魔法がある。
そして何より、ソフィーはセシルと違って守りや敵の拘束に特化している。
魔神たちはアレンたちよりはるかにステータスが高いのだが、即死を免れて戦っていけるのは、ソフィーの顕現した精霊たちの守りの力があってこそだ。
しかし、現在複数体の魔神が神殿の最上階にいる。
これまでにない激戦が予想される。
目の前にある神殿こそが、ドゴラが死ぬかもしれない試練なのではとアレンは考えている。
そんな予感がするのはアレンだけではない。
皆も不安そうにドゴラを見つめる。
危険になれば転移させて、ドゴラだけでもドゴラの両親のいるロダン村に飛ばそうと思ったが、それも難しそうだ。
この神殿には「巣」を設置できないということは、中に入れば転移して脱出できないことを意味する。
何百万人という人々を殺した張本人のグシャラがいるので、戦わないという選択肢はないのだが、ドゴラが必ずいないといけないという理由もない。
たしかに王化してメルスが圧倒的に強くなった。
他の系統の召喚獣も王化すればかなりの強さになる。
それでも、テミの予言を一緒に聞いた仲間たちは気が気ではない。
「「「……」」」
「アレン、俺は危険だから戦わないとかそんなことは考えねえぞ。仲間と共に戦うのは当たり前だからな」
メルルと残ってもよいと言われても、ドゴラは怒ったような口調ではなかった。
ただ、静かに強い覚悟を持って、仲間と共に戦うという。
アレンとドゴラが見つめあってしまったため、仲間たちは2人に任せることにする。
「分かった。じゃあ行くぞ!」
ドゴラとの最後の問答はこれくらいにしようかと思う。
最終的には仲間たちそれぞれが参加するのか、ここで待機するのか決めてほしいと、この3日間の間に伝えてある。
アレンがリーダーだが、関係性は対等であり部下や配下ではない。
アレンの掛け声とともに、鳥Bの召喚獣たちに乗って神殿の1階部分にある扉へ移動する。
山頂付近に作られた神殿であるが、入口は屋上ではなく、1階のようだ。
ずんずん中に入って行く。
「なんか辛気臭いところだな。ターンアンデッド!」
神殿の中をアレン以外が見るのは初めてなので、異臭に鼻を曲げながらキールが愚痴をこぼす。
そして、いきなり現れた骸骨の戦士に浄化魔法を食らわせて倒してしまう。
相手になるような強い敵もなく、建物の構造も迷宮になっておらず単調だ。
道順は既に霊Aが調べてくれている。
「中に入るぞ」
「ああ」
「ドゴラ、そんなに気を張らないで大丈夫だぞ」
「分かっている」
扉に手を当てる前に、大斧と大盾をそれぞれ握りしめるドゴラに声を掛けた。
骸骨が埋め込められた巨大な扉に手を軽く触れると自然と扉は開く。
この神殿は完全に密室になっていないので、鳥Aの召喚獣での探索は容易であった。
王化しているので、そこらの魔獣から逃げながらもどこに何があるのか知っている。
この扉の奥には3体いること、祭壇があることは分かっていた。
扉から一番奥にあるのは祭壇である。
4本の光の柱を破壊したときの祭壇よりかなり大きい。
そんな祭壇は盆のように、上で何かが燃やしやすい構造になっているのは、これまで壊した4つの祭壇と同じだ。
しかし、今回違うのは、祭壇の上に真っ赤な色をした皿のようなものが浮いている。
陶器というより何か金属質な感じがする。
(あれが火の神フレイヤの神器か)
メルスの話ではこれが火の神フレイヤから奪った神器で間違いないという。
既に祭壇のある広間に入ってきているのに、アレンたちに背を向けその塊を拝む40過ぎのローブを着た青白い肌の男がグシャラだ。
この男はメルスの話では上位魔神の可能性がかなり高いという。
魔神が様をつけるのは「上位魔神」か「魔王」くらいであるという。
そして、祭壇と扉の間には絨毯が敷かれており、この広間の端には柱が等間隔で並んでいる。
その等間隔で並ぶ柱の一番奥の柱を背もたれにして、バスクが胡坐をかき座っている。
バスクの目の前には2本のオリハルコンの大剣が刺さっている。
そして、もう1体、グシャラの横にエルメア教会の高位の神官が着るローブを羽織った骸骨が表情も分からず立っている。
恐らく見た目からも装備している杖からも骸骨になってしまったエルメア教会の教皇なのだろう。
『お! やっときたかぁ。ア~レ~ン。おせ~ぞ~。お前はいつも俺を待たせてくれるなぁ。いひひ』
バスクとアレンの目が合う。
緊張感もなく、待っていましたという表情だ。
「やっぱり生きていたか。逃げ出したと思ったら、こんなところにいたのか」
アレンはとりあえず、挑発してみる。
相手を煽り怒らせることが勝利に近づくことを知っている。
『そうだぞ。だが、よくもまあぬけぬけと追ってきてたな。それでよかったのかぁ?』
アレンの挑発も聞き流し、バスクがニヤリとするのであった。
こうして、邪神教の教祖グシャラ、魔神バスク、骸骨教皇の3体の前にアレンたちは対峙する。
そのグシャラの後ろで、祭壇の上で怨嗟のような嘆きの表情をしたように見える漆黒の炎が燃えているのであった。
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