第343話 王化

「申し訳ありません。オルバース王。後程、里でご挨拶と今後のお話をさせていただきますので、少し私たちは残って確認することがあります。メルス、送って差し上げて」


「そ、そうか」


 アレンはこれから、とうとう開放された王化の検証をしなくてはいけない。

 別に見られて困ることはないが、相手にはできない。

 来て早々であるが、メルスに里の門まで送らせる。


 魔神は見てのとおり、オアシスごとセシルのエクストラスキルで潰して倒したという話だ。


「それでは加盟の件。よくご検討ください」


「長老会を開こう。回答は少し待ってくれ」


 ソフィーはオルバース王に、別れの寸前に話をする。

 今後のエルフとダークエルフの在り様について、砂漠の邪教徒を討伐する合間に随分話し込んでいたようだ。


 まだ詳細は聞いていないが、今後の2つの種族の関係が変わるかもしれない。

 そんな雰囲気が2人にはあった。

 

 メルスに送られて、オルバース王とダークエルフの兵たちは帰っていく。

 流石に帰ってくれと言われて、残る理由は見当たらない。

 王の広間でも良かったが、無駄な不安を煽る必要もないので、門傍に「巣」を作って、そこに一瞬で移動する。


「シア様」


「どうやら、何らかの力を手に入れたようであるな。アレンとその仲間たちだけが、分かるということか。エルメア様の使徒か何かなのだな」


 ルド隊長の問いに対して、シア獣王女が目を細めてアレンを見る。


 それぞれの種族にはそれらが信仰する神がいる。

 精霊神であったり獣神であったり、もたらされる奇跡も、守らなくてはいけない理もそれぞれの神によって違う。


 上位神である獣神ガルムを信仰するアルバハル家の末裔のシア獣王女は、アレンが何者なのかこの数日さらに詳しく追及した。


 どうも結論から言うと、創造神エルメアの使徒のような存在なのではということだ。

 魔王軍を滅ぼす存在として力を与えられたのがアレンという存在で、アレンとの運命が繋がっている仲間たちがいるということなのだろう。


「ガルム様は何かおっしゃったのですか?」


「何も言わぬ。力もどうも貸してくれぬようだ。ゼウ獣王子には貸してくれたのに。何故余には貸してくれぬのだ……」


「そ、そうですか……」


 アルバハル家は獣人を統べるために特別な力がある。

 そして、精霊神とエルフの関係のように獣神ガルムとシア獣王女はコンタクトを取ることができる。

 これはゼウ獣王子も同じだ。


 アルバハル家などいくつかの末裔と獣神ガルムは対話することができる。


 アルバハル家などと言うのは、獣人国家がアルバハル王国だけではないからだ。

 大国はアルバハル獣王国だが、他にも無数の獣人国家がアルバハル獣王国と同じ大陸にある。

 国を成す一定の獣人国家の長だけということだ。


 なお、その獣神ガルムが魔王軍との戦争にあまり積極的ではない。

 だから、獣人が魔王軍との戦争に協力的ではない。

 ゼウ獣王子は、そんな獣神の意向を無視して道理を優先させた。


 アレンはこの話を聞いて、1000年過ぎたのだが、人間種族へのわだかまりがまだあるのかと思った。


 なお、シア獣王女の部隊であるが、クレビュール王国でバスクに逃げられた後、2000人の兵たちは邪教徒や魔獣の残党狩りをしてもらっているのでここにはいない。


「メルル。長くなりそうだから屋根付きのやつ頼む」


 シア獣王女とルド隊長との会話を余所に、キールがメルルに話しかける。


 アレンの検証が始まった。

 まだ昼間にもなっていないが、アレンのこの様子は恐らく日が暮れるまで続く。

 炎天下での砂漠での検証が長くなると思ったキールがメルルに対して日陰になるよう頼む。


「キール、分かった。むん! タムタム降臨。モードタートル!!」


 メルルは背中と両腕を使い、丸い亀の形を現したアレン命名の「堅牢なる亀のポーズ」を取る。

 降臨させたタムタムは重厚な移動要塞であり戦車の形になる。

 これにバルカン砲を装着したら男は浪漫しか感じないだろう。

 背中の甲羅の部分が可動して、日陰を作るので、シア獣王女たちも含めて皆日陰で観察することにする。


 なお、タムタムのステータスはモードによって変化する。

 イーグルはすばやさと攻撃力高め、タートルは体力と耐久力高めになり他は低い。


(何もない砂漠なのもいい)


 特技や覚醒スキルの効果など何の遠慮もなく検証ができる。

 草原や森林だと遠慮するのかと聞かれたら、それはまた別の話だとアレンは答える。


 ピコン!


 アレンの目の前で魔導書が現れ、ページの一部が光っている。

 アレンは何だろうとページを開いた。


『拝啓 アレン様


 平素は格別の御愛顧を賜り厚く御礼申し上げます。


 早速ですが、スキル「王化」の開放につきまして、スキル「指揮下」の効果を調整させて戴いました。

 指揮下のステータス増加は5000の固定にさせて頂きました。

 なお、効果を下げた結果、クールタイムの上昇、効果範囲の拡大などで対応させていただきました。

 召喚獣の見た目を変えておりますので、検証して頂けたらと思います。


 今後も神界のスタッフ一同サービスを向上させる所存ですので、変わらぬご愛顧のほど、どうぞよろしくお願いいたします。


 なお、お手数ですが、ステータスの調整は真摯に取り組んでいただきますようメルスにお伝えください。


          第一天使ルプト

           スタッフ一同より』


(なんだ、これ。いわゆる下方修正ってやつか)


 王化スキル開放のタイミングで、指揮下スキルが下方修正されている。

 下方修正されたデメリットを別の形で補ってくれたようだ。


『戻って来た』


 そうこうしているうちにメルスが戻って来る。


「ルプトから手紙が届いたぞ。メルス宛にもなっている」


『なに? ……ルプトめ』


 どうやら、メルスとルプトの兄妹感で目指すべき召喚獣像が違っていたようだ。

 色々思うことがあるが、不満顔のメルスに免じて、これ以上の追及はしないことにする。


「じゃあ、とりあえず。メルス、王化使うぞ」


『ああ』


 アレンはメルスが戻るのを待っていた。

 スキル実験1号にメルスを指名する。

 人型の大きさなので、変化を目の前で見ることができる。


「メルスを王化!」


 パアアァ!!


「「「おおお!!」」」


 メルスが輝きと共に姿を変える。

 

 メルスの背中には左右1枚ずつの2枚の羽が生えている。

 いわゆる天使の羽だ。

 その天使の羽が左右3枚ずつで、羽は6枚になった。

 そして、半裸だった衣装が上下共に煌びやかで豪勢な服に変わる。


「大きさは変わらないんだな」


『そうだな』


 メルス自身も自身の変化を手を握りしめるなどをして確認している。

 10代後半の見た目で、茶髪のくりくりとした天然パーマのかかった髪も含めて何も変わっていない。


 ステータスを確認するため、魔導書に目を移す。

 

「ぶ!?」


(え? こんなに?)


 そこにはとんでもない数値が書かれていた。


「ぶ? メルスすごーい!」


 アレンの反応を見て、クレナもどれどれと魔導書を覗き込む。

 

 【種 類】 天使

 【ランク】 A

 【階 級】 王

 【名 前】 メルス

 【体 力】 32000

 【魔 力】 32000

 【攻撃力】 32000

 【耐久力】 32000

 【素早さ】 32000

 【知 力】 32000

 【幸 運】 32000

 【加 護】 全ステータス2000

 【特 技】 属性付与、天使の輪、指揮化

 【覚 醒】 裁きの雷


 全ステータスが1万増えている。

 これまでのどの召喚獣のステータスよりも高い。


「ちょっとあの大岩に裁きの雷を打ってみてくれ」


『分かった』


 セシルの発動したエクストラスキル「小隕石」によって直径100メートルを超える大岩がドーム状になって砂に沈んでいる。

 そこに向かって裁きの雷を放つと、大岩が消し飛んでいく。

 衝撃波が顔面を圧迫する。


 ステータスの増加に合わせて、覚醒スキルの威力が明らかに上がっている。

 この辺りもステータス依存で威力が上がる指揮化と同じに見える。

 同じところ、変更点も見え隠れしている。


(やはり、特技に指揮化が出てきたか。指揮できるのが同じ系統なら、メルスじゃ、その後の検証ができないな)


 アレンは特技にある「指揮化」の表記に気付く。


「オロチ出てこい。王化するぞ」


 王化の能力の考察を続けていく。


『『『グルアアアアアァ!!』』』


「「「!?」」」


「でけえ。なんだこりゃ!?」


 素振りをして斧の鍛錬をしていたのだが、ドゴラもびっくりして見入ってしまう。

 竜Aの召喚獣は全長100メートルの首が5つあるヒュドラの姿をしている。

 元々巨大な竜Aの召喚獣なのだが、王化すると全長が3倍の300メートル、首も3倍の15本になった。

 天にまで届くほどの巨体だ。


「あれ? なんだこれ」


「どうしたの? アレン」


 法則性が指揮化と違うようだ。

 王化した竜Aの召喚獣に指揮化を使わせると、階級「将軍」の指揮化した竜Aの召喚獣が誕生する。

 さらに指揮化した竜Aの召喚獣には特技に「兵化」が現れ、召喚獣を兵化することができる。

 指揮化して大きさは階級が「将軍」だと2倍に、「兵」になると1.5倍になった。


 アレンには1つの疑問が生じる。


「セシル。メルスは大きくなっていないのにオロチはデカくなったぞ。何が違うんだ?」


「さあ」


「ふむ。先に大きさの確認だな。ハッチ出てこい。王化だ。ってあれ?」


 虫Aの召喚獣に王化をしたが見た目に一切の変化がない。


 とりあえず全系統の召喚獣を王化していく。

 ステータス3倍と特技に「指揮化」が付くのは全て共通するが、見た目の変化はそれぞれのようだ。

 共通点があるようで、ないようで今のところ分からない。


 分からないものはそのままにして、検証を進めていく。


『アレン殿。どうやらクールタイムは1時間のようだぞ』


「え?」


(マジで)


 メルスは雷を手に纏い、アレンに声を掛ける。

 メルスの覚醒スキル「裁きの雷」はクールタイムが1日あったのだが、それが王化すると短縮されて1時間になっているという。

 日が沈む中、アレンは虫Aの召喚獣を見る。


「もしかして、倒されないために見た目が変わらないようにしているのか?」


「え? どういうことよ?」


 セシルがアレンの思考に返事をする。


「たぶん、これから戦い方が変わっていくと思う。中央大陸とローゼンヘイムはハッチを1体派遣するだけで戦況は変えられる」


 今アレンの目の前には王化した虫Aの召喚獣が特技「王台」で一時間おきに1体の親ハッチを生む。

 そして、王化した虫Aの召喚獣は100体の子ハッチを生み、親ハッチは王台によって生み出される度にそれぞれ100体の子ハッチを生む。

 お陰で1日もしないうちに1000体にもなる子ハッチが誕生した。


 子ハッチでも兵化するとステータスは1.5倍の1万近くに達する。

 これなら1万体の子ハッチの大軍を作るのに何日もかからない。

 とりあえず、数の制限が無限なのか検証のために増やしまくっているが、今のところ問題なさそうだ。


 今アレンは50枚以上の召喚獣の召喚枠を虫Aの召喚獣に割り当てている。

 これは数がものを言う戦争において、数を増やせる虫Aの召喚獣は戦争に特化した能力であるからだ。

 魔獣を使役できる使役針の効果も大きい。


 今後1体の虫Aの召喚獣で万の軍勢を作ることができる。

 恐らくAランクの魔獣すら圧倒するだろう。

 アレンは虫Aの召喚獣を魔導書のホルダーに何十枚も入れておかなくても戦争の対応ができると予想する。


 メルスのステータスに驚いたが、虫Aの召喚獣を、戦争が起こる度に何十枚も入れておく必要が無くなることもかなりでかい。


「見た目で、差別化するのを避けてハッチがやられるのを防ぐ狙いがあるってこと?」


 セシルが答えにたどり着いた。


 親ハッチを生んだ虫Aの召喚獣がやられると、親ハッチも消えてしまう。

 子ハッチを生んだ虫Aの召喚獣や親ハッチがやられると、親ハッチ、子ハッチも消えてしまう。


 万の軍勢が1体の虫Aの召喚獣がやられると消えてしまう。

 もし魔王軍がそのことを知ったら最優先で倒しに来るかもしれない。


「たぶんそうだ。それで言うと、敵陣に潜入して『巣』を作ることもこれから考えられるからツバメンの大きさも変えていないのだろう」


 鳥Aの召喚獣に限らず鳥系統の召喚獣は敵陣に潜入することが多い。

 大きくなったり、目立ったりして狙われることを防ぐ狙いがあるのだろう。


 王化でも鳥系統の大きさは変わらないため、鳥Bの召喚獣を指揮化するためにはアレンが指揮化で召喚獣を大きくする必要がある。


「じゃあ、ソラリンの見た目が変わらないのは?」


「たぶん、変えても意味がないってことなのだろう」


 王化して胸を張るそら豆に手足が生えた草Aの召喚獣は見た目が変わっていない。


「そうね」


 そう言って、自己主張する王化した草Aの召喚獣をセシルは撫でてあげる。

 どうやら本当に見た目を変える理由がなかったとも言える。


 それから何日かの検証で子ハッチの最大数は1万体であることが分かった。

 親ハッチは産めるだけ産んでも良い。


(さて、検証結果はこんな感じか)


【指揮下・王化スキルの特徴】

・王化ステータスが1万上昇

・指揮下ステータスは5000上昇

・大きさは王化「王」は3倍、指揮下「将軍」で2倍、「兵化」は1.5倍

・大きくなる召喚獣は、獣、石、魚、竜

・見た目がゴージャスになった召喚獣は、天使、霊

・変化がない召喚獣は、虫、鳥、草

・王化できる召喚獣はAランクで全部で1体

・指揮化できる召喚獣はBランクで全部で3体

・兵化できる召喚獣に制限はない

・王化した召喚獣から100キロメートル離れたら指揮化は解除される。

・指揮化した召喚獣から10キロメートル離れたら兵化は解除される。

・クールタイムは王化1時間、指揮下3時間、兵化6時間


 こうして、アレンが手に入れた新たな王化のスキルの検証が進んだ。

 そして、アレンたちは検証が済んだその足で浮いた島を目指すのであった。


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