第342話 魔神狩り
巨大な焼けた大岩が半分ほど地面に埋没している。
その様子をアレンたちは仲間たちと共に見ている。
「シア様!!」
シア獣王女の存在に気付いたラス副隊長が駆け寄って来る。
そんなラス副隊長の視線にも目もくれず、シア獣王女はアレンたちを見る。
アレンたちが攻撃の姿勢を崩していないからだ。
「やったのか?」
こんな大岩に潰されているが、あれほどの敵であった。
生きているかどうか分からない。
シア獣王女が思わずアレンに聞いたのは、なんとなくアレンなら分かるのだろうということを、状況が示唆しているからだ。
「今確認しています」
シア獣王女の言葉に返事するように、アレンは答える。
そんなアレンが開いた魔導書をセシルが覗き込む。
「倒してないわよね」
「そうみたいだな」
魔導書には何も流れない。
「……」
どうやら、アレンとその仲間たちだけが見える何かがあるのかとシア獣王女は思う。
(ここは確実に行くか。装備が消し飛ばないでほしいけど。メルル。バルカン砲を放て)
鳥Fの召喚獣を削除、再作成し覚醒スキル「伝令」を使う。
バスクの装備は欲しいが体力を回復する手段を持っていたら今までの作戦が無駄になる。
身を潜めて攻撃の機会を伺っているかもしれない。
「うん! バルカン砲発射!!」
タムタムに乗り待機していたメルルが、大岩に沈んだバスクに対してさらにバルカン砲(大)を放つ。
大岩は融解し、消し飛んでいく。
それでもバスクを倒したというログが流れないため、何度も放ち殆ど原形が無くなってしまった大岩の元に行くと、そこには何もない。
「どうやら、逃げられたということか」
他に考えられないとアレンは呟いた。
「アレンみたいに転移が使えるってこと?」
「恐らくだな。セシル。スキルか装備による効果なのか知らないが、たぶん逃げ出せる方法も準備していたということだろう」
「むぅ」
(く、くやちい。俺の装備とレベルアップが)
クレナも不満そうだが、装備目当てであったアレンが一番悔しい。
標的にして逃げられたことは初めてかもしれない。
「そ、そうなのか。これからどうするのだ?」
あれほどの魔神を作戦通り攻め立て、逃走させたことを誰も誇りに思っていないことに、シア獣王女は驚く。
「そうですね。とりあえず、あの祭壇はどうもよくないことに使われているようです。ですので、この大陸にある祭壇は全て破壊します。当然、祭壇にいる魔神もついでに狩ります」
「つ、ついでに」
兄のゼウ獣王子からアレンに常識は存在しないと聞かされていたが、ここまでかとシア獣王女は思う。
魔神とはついでに狩るものではない。
「シア様。これからどのように?」
ルド隊長とラス副隊長もシア獣王女の今度の動向を確認する。
「当然、アレンに同行する。邪教祖を取り逃がしている事実は変わらぬのでな」
元々獣王に与えられた試練で邪教祖の討伐にこの大陸にやって来た。
その邪教祖グシャラ=セルビロールはまだ生きている。
魔神バスクとの戦いでは結局何もできなかった。
このままでは、アレンたちが魔神を狩るのを見学しただけになってしまう。
アレンがそのようなことを吹聴するようには見えないが、そんな事実を残すわけにはいかない。
「畏まりました。私たちはどこまでもついていきます」
幼少のころから、シア獣王女の世話役をしてきたルド隊長が同意する。
ラス副隊長も同意見のようだ。
それから3日が過ぎた。
アレンたちは、カルロネア共和国の首都ミトパイにいる。
「こ、これは……」
ミュハン隊長が絶句している。
カルロネア共和国はそこまで大きな国ではなかったが、平坦な地形が続いている。
そんな土地を利用して、広く大きな外壁を作った街づくりをした。
魔王軍や高ランクの魔獣との戦いを想定していないので、塀が随分低く、建築の労力が低かったのも外壁を広くできた要因の1つだろう。
ここは、首都ミトパイの一角に設けられたグシャラ聖教という名の邪神教を祀る神殿だ。
エルマール教国やクレビュール王国と違い、グシャラ聖教の神官たちが作った国ということもありしっかりとした神殿があった。
ミュハン隊長が絶句したのは変わり果てた首都ミトパイの風景だ。
それは邪教徒たちが跋扈したために破壊されたのではない。
目の前にいるアレンが先導する作戦によって破壊された。
「うしうし。今度は確実に倒したぞ」
魔導書には魔神を1体倒してレベルが84になったことが表示されている。
前回、バスク戦において逃げられたということもあり、確実に倒すことを優先させた。
ミュハン隊長の話によると、カルロネア共和国は既に国家の体をなしていない。
共和国ということもあり、大統領もいたらしいのだが、既に統治機関も大統領もいなくなっており北にあるカルバルナ王国に今後吸収されるようだ。
セシルのエクストラスキルに、メルルのバルカン砲にと、遠距離攻撃も首都内でがっつり使ったお陰で、街は一から作った方が良さそうなほど半壊している。
少々首都が粉砕されても、もういいよねということだ。
エルマール教国の神殿と違い、この街にきっとカルバルナ王国も思い入れはないだろうと思った。
ミュハン隊長やカルバルナ王国の兵たちが呆然とする中、アレンたちは次の作戦に移る。
カルロネア共和国で魔神を倒して3日が過ぎた。
エルマール教国も含めて3つ目の柱を破壊したアレンたちは砂漠の中に佇んでいる。
アレンもメルスもいなかったということもあり、一番時間がかかったソフィーのチームを最後にした。
「あそこに魔神がおるのだな」
「はい。オルバース王」
アレンはダークエルフのオルバース王の問いに答える。
ダークエルフの長老に、明日、この砂漠地帯にいる魔神を狩るという話をしたところ、戦闘に参加すると兵たちを引き連れやって来た。
実際に魔神を倒すところを見てみたかったし、ソフィーが入っているパーティーのリーダーであるアレンを見てみたかった。
『お前が闇を振り払う光の男か』と言われたが、アレンは返事に困った。
とりあえず『私はアレンです』と答えておいた。
オルバース王は将軍を引き連れ万の大軍と共にアレンを見つめ続けている。
そして、その横のメルスを見ている。
「じゃあ、ソフィー。精霊王の祝福を」
「はい。承りましたわ」
『はは。今日もいきなりだね』
精霊神ローゼンが腰を振りながら精霊王の祝福をかけてくれる。
「じゃあ、セシル始めるぞ。準備はいいか」
「任せておいて。プチメテオ!!」
セシルが鳥Bの召喚獣に乗ってしっかりと狙うべき対象を確認する。
セシルが振りかざした手の平の先には、この砂漠地帯に数十年前にできたオアシスで、ルコアックという街がある。
そんなルコアックの街の中にある神殿に狙いを定める。
光の柱がその神殿から上がっている。
そこ目掛けてプチメテオを放つ。
マクリスの聖珠を装備し、ソフィーにも精霊王の祝福を使ってもらったので、セシルの魔力はとんでもないことになっている。
「「「おおお!!」」」
ダークエルフたちに動揺が走り、目の前に起きた事実から身震いしてしまう。
天から100メートルをはるかに超える真っ赤に焼けた大岩が降って来るからだ。
あまりに巨大な大岩はオアシスも街も神殿ごと吹き飛ばしてしまう。
この砂漠地帯で起きたことの諸悪の根源であるルコアックの街も消し去ることにした。
もう何十日も経っており、とりあえず昨晩は霊Aの召喚獣とメルスに街中の生存者がいるか調べてもらったがそんなものはいなかった。
「どう? やったかしら」
セシルを乗せた鳥Bの召喚獣はゆっくり下降する。
「ちょっと待ってな。って、おおおお!! レベルが上がったぞ」
『魔神を1体倒しました。レベルが85になりました。体力が100上がりました。魔力が160上がりました。攻撃力が56上がりました。耐久力が56上がりました。素早さが104上がりました。知力が160上がりました。幸運が104上がりました。王化の封印が解けました』
今回、アレンは魚Cの召喚獣による特技と覚醒スキル、あとは鳥Bの召喚獣による高い位置からの攻撃の補助だけだったが、経験値の対象になった。
魔神のため、経験値は数値ではなくレベルが1上昇した。
なお、実験で鳥Bの召喚獣に乗せたセシルが魔法を放つだけでアレンも経験値取得の対象になる。
これはメルルの話で、ゴーレムに乗せたドワーフたちが何もしていなくても経験値取得の条件を満たすことと同じだと言える。
「本当ね。っていうか、王化解放されたじゃない」
「本当だ! 王化だ!!」
セシルとクレナがアレンのスキル解放を自分のことのように喜ぶ。
「「「……」」」
オルバース王、シア獣王女など多くの者たちが見つめる中、アレンのパーティーが魔神を倒したこととは別のことで喜んでいる。
何が起きているのかと頭の整理が追い付いていない。
こうして、3体の魔神を狩り、魔神バスクだけ逃がし、4つの光の柱とそれが発生する祭壇を破壊したアレンたちであった。
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