第315話 リカオロン戦②

 メルルのバルカン砲による不意打ちで、魔神リカオロンを吹き飛ばした。


「ふむ、さすが攻撃力3万に達したバルカン砲の威力だ。浪漫しか感じられないな」


「ちょっと。感動してないで、逃げないと。この神殿崩れるわよ!!」


 既に主要な柱がいくつも駄目になり、壮麗な神殿は中央から崩れ始める。

 感動にうち震えるアレンだったが、セシルの言葉で正気に戻され、アレンたちは天井から崩れ始めた神殿から外に出る。

 アレンたちが鳥Bの召喚獣に乗って天井を抜けたあたりで、天井と共に崩壊した壁と柱がドミノ倒しのようになり、完全に崩れていく。


「おい、ニコライ神官が数百年の歴史のある神殿と言っていなかったか?」


 崩壊してしまった神殿を見ながらキールが呆然となる。


「犠牲はつきものだ。まずは魔神を倒すことが大事だ」


 仲間たちには「全て魔神がやった」というように口裏は合わせてある。


『……』


 メルスは無言でいるが、これまでのアレンの行動を思い出しているようだ。


「さて、リカオロンとかいう奴は生きているようだな」


(目撃者は始末しないといけないな)


 魔導書を見るが、魔神を倒したというログは流れない。

 止めを刺す必要があると思っていると、突如崩落した屋根が吹き飛ばされ、血まみれのリカオロンが姿を現す。


 体の右側に大きく火傷を負い、足元もふらついていることから、直撃すれば魔神であっても無事でいられる威力ではなかったようだ。

 素早さ特化の反面、耐久力は他の魔神より低かったのかもしれない。


(まあ、攻撃力3万の通常攻撃ではないからな)


 メルルのタムタムが単純に殴ったわけではない。

 一発放つのに魔力1000も消費するバルカン砲(大)の威力だ。


『き、きさま!! 祭壇を!! グシャラ様に捧げる祭壇を! 殺す! 絶対に殺す! 覚悟しておけ!!』


 不意打ちの攻撃で死にかけたことより、祭壇が跡形もなく吹き飛んでしまったことに激怒しているようだ。

 既に天まで届く光の柱は消えてしまっている。


 リカオロンの姿が凶悪にそして巨大になっていく。

 怒りを前面に出したリカオロンは変貌していくようだった。


(なるほど、この祭壇は力を回収してどこかに運んでいるのか)


 アレンは魔神リカオロンの『グシャラ様に捧げる』という言葉で、ある程度の分析が進んだ。


 リカオロンが祭壇と呼んでいるものは、魔王軍が人々を邪教徒に変えることによって得られる何らかの力のようだ。


 アレンたちが戦う前から、メルスがリカオロンに何度か問いかけても一切答えることはなかった。

 そのため、リカオロンの目の前で祭壇を破壊してみて反応を見ることにした。

 メルルがタムタムによるバルカン砲で倒せたらなお良しといったところだろう。


 メルスに初撃で祭壇を狙わせたのも反応を見るためだ。


 元々凶悪だったリカオロンの顔つきがさらに凶悪さを増していく。

 無駄に角が生え、爪や牙も大きくなっていくリカオロンの変貌する様を見たアレンは、何ともありがちだなと思ってしまう。

 どうやら体の大きさも2回りほど大きくなるようだ。


「かなり怒っているわね」


 アレンと戦う敵はいつも激怒しているなと思いながらセシルは言う。

 そしてセシルたち後衛は、アレンが召喚した鳥Bの召喚獣に乗って上空に上がって行く。

 回復や攻撃魔法の射程距離は結構広いため、割と上空から安全に回復や攻撃ができる。

 それに神殿から出て自由に動き回れるようになった以上、態々地面で戦う必要もない。


「そうだな。そろそろ仕上げに行くぞ。クレナ、エクストラスキルを解放してくれ」


「うん!!」


 陽炎のように体を屈折させるクレナを見ながら、アレンはメルスを見る。

 メルスは後方に下がり、そのままいなくなる。


 瓦解した屋根の上で、変貌したリカオロンとの戦いが再開された。


「あふ!」


 クレナは全ステータスを3000増やしたが、リカオロンが変貌したことで、その力の差は全く縮まっていないようだ。

 リカオロンは振り下ろされた大剣ごとクレナを後衛のいるところまで吹き飛ばす。


「時間稼ぎだぞ。クレナもドゴラも後衛を守ることに集中してくれ」


 クレナと、やったるぞ感の強いドゴラにやり過ぎるなと言う。

 リカオロンが変貌して強くなったのは分かるので、陣形を作り後衛を守るように言う。


『ほう、これまで以上の策があるのか。さっきのような攻撃は受けんぞ』


 リカオロンは変貌を遂げたことで、これまで与えたダメージをほぼ回復させているように思える。

 動きに一切の無駄が無く、油断も感じさせない。

 そして超遠距離からのバルカン砲に警戒し、アレンたちから離れすぎないように戦っている。

 鳥Fの召喚獣の覚醒スキル「伝令」はクールタイムが1日なので、既に新しい鳥Fの召喚獣に生成し直している。

 そして街の外からは、タムタムがリカオロンとの戦いをバルカン砲の銃口を向けながら見続けている。

 このままだと2撃目のバルカン砲は難しいかもしれない。

 しかし、アレンたちの作戦はバルカン砲で追撃することではない。


『連れてきたぞ。これでいいんだな』


 メルスは鳥Aの召喚獣の帰巣本能を使って帰って来た。


「おいおい、なんかすげえところで戦っているな」


(そうだ。全部この魔神がやったことだ。許せないよな)


「なんだか十英獣が安くなってきている気がするが気のせいか?」


『!?』


 リカオロンがメルスと共にやってきた獣人たちに一瞬たじろいて見せる。


 メルスには、ローゼンへイムで既に作戦行動をとっていた楽術師レペと占星術師テミに無理を聞いてもらい、セシルたちのいる後方まで連れてきてもらった。


『それにしても2人だけで良かったんだな。まだ、いたんだがな』


「問題ない。レペさんテミさん、申し訳ありません。補助お願いします」


「はぁ、まあ、そういう話だったからな。でも何だか、世界の常識は違うんだなって思ってたが、それはお前だけみたいだな。アレン」


 楽術師レペが呆れながらも、楽器を奏でて補助をかけてくれるようだ。

 ずっとアルバハル獣王国にいたレペであるが、世界の常識は獣王国と違うんだなと最初は思った。

 ヘルミオスやドワーフたち、そしてローゼンヘイムでエルフたちと話していくうちに、どうもアレンだけがおかしいのではないかと答えに近づいてしまったようだ。

 テミもレペの演奏に合わせて補助を掛ける。


 補助がかかったことでクレナの動きが格段に良くなるが、まだまだリカオロンの相手ではないようだ。


「さて、ソフィー。精霊王の祝福をお願い」


 ドンドン指示を出していく。

 今日の戦いについては、倒すまでの作戦を昨晩までに一通り立てている。


『ははは。うまくいくといいね』


 ソフィーの指示を受けた精霊神ローゼンが腰を振りながら「精霊王の祝福」をかけてくれる。

 レペ、テミのバフに精霊王の祝福によるステータス3割増だ。


「クレナ、足だぞ」


「うん、やあ! 覇王剣!!」


『ぐぬ!!』


(おお! やはり、レーゼル同様にようやく攻撃が通じるようになったか)


 エクストラスキル「限界突破」の発動がまだ切れていないクレナは、クレナのスキル「覇王剣」を使い、巨大になったリカオロンの大腿部に強力な一撃をお見舞いする。


 大剣は深くめり込み足の太さの半分以上のところまで達し、リカオロンは変貌しても分かるほどの苦痛の表情をにじませる。


「メルス、次だ」


『ああ』


 そう言うとメルスは全力で蹴りを入れる。


 ゴキッ


『足を狙うだと? ぐ、何のつもりだ!』


 ステータスが上昇したのはメルスも同様だ。

 上昇したステータスで、クレナが切りつけた方とは反対の足を蹴りつけ、リカオロンの足をへし折った。


 両足に攻撃を受け、何か作戦のために足を折られたことにリカオロンは気付く。


「セシル、準備はいいか?」


「大丈夫よ」


 そう応えたセシルは、鳥Bの召喚獣に乗った状態で上昇を始めた。

 体が屈折し、陽炎のようになっていく。

 アレンはそのままリカオロンの方に駆けて行く。


『はは!! 両足を失えば、魔法が当たると思ったか!! 馬鹿め!!』


 素早さ特化で機動力の高いリカオロンの両足を破壊し、魔法で倒す。

 そんなシンプルな作戦だと理解した。

 もうこれ以上足にダメージは与えさせぬぞと、リカオロンは拳を握りしめ、迫って来たアレンに強力な一撃を繰り出す。


 アレンは必死に寸前で躱す。

 極めて寸前だったため、躱し切れずに触れてしまった横腹から出血するが、構わず再接近する。

 そしてリカオロンの腹に手のひらを当てた。


 『何をする? どういうつもりだ』とリカオロンは言おうとした。


 そんなリカオロンの視界が一気に変わる。

 どこか分からないが、街の外だということは分かる。


「おらよ! そして、じゃあな!!」


 リカオロンが状況を理解しようとした一瞬の隙をついて、アレンはさらに一撃腹に攻撃をお見舞いする。

 そして、アレンの姿が目の前から消えた。


『ぐ!? って、な!?』

 


 アレンの攻撃はそれほどのダメージではなかったが、直に何をされたのか、どういう作戦であったのか分かる。

 両足を破壊され、街の外に飛ばされ、上空から焼けた巨大な岩が降ってくる。

 セシルがエクストラスキル「小隕石」をアレンの作戦通りの位置に放った。

 100メートルを超えたその岩をとてもじゃないが、この足で躱せそうにない。


 リカオロンは両手で受け止める選択をする。


『ぐのおおおお! こ、こんなことが、ば、馬鹿なあああ! アレンめ、これで終わったと思うなああ!!』


 両腕を燃やしながら必死に抵抗するが、巨大な体は埋没を始めている。

 それでも大岩の威力を殺せそうにない。

 リカオロンはひねりつぶされていく。

 怒りの中に一瞬の笑みを浮かべたが、アレンはその様子を見ることはできなかった。

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