第676話 獣神ガルム戦①

 シアとゼウが横一列に並びガルムに向かって吠える。


『ぐるおおおおおおおおおおおおお!!』

『ぐるおおおおおおおおおおおおお!!』


 一体となって見定める2人の獣人はまるで双頭の獣だ。


「やりますぞ!!」


 十英獣のホバを筆頭に檄を入れる。

 報酬である神器などを得るため、獣人たちの信仰の拠り所である獣神ガルムと戦わねばならない。


 報酬獲得の条件は、シアとゼウが、この神殿で手にしたそれぞれの神技をガルムにぶつけることだ。

 上位神相手に一切の油断も手加減も許されないが、ここまでのゼウとシアに対する扱いで、士気は最高潮に達する。


・シアのステータス簡易版

 【名 前】 シア

 【体 力】 82483+10000(神器)

 【魔 力】 50073

 【霊 力】 50073

 【攻撃力】 55880+24000(武器)

 【耐久力】 65846+15000(防具)

 【素早さ】 148142+30000(神器)

 【知 力】 51173

 【幸 運】 52871

※金の卵で全ステータス3000上昇

※獣帝化〈7〉で全ステータス35000上昇

※レペのスキル①で攻撃力30%増

※レペのスキル②で素早さ30%増

※レペのスキル③で体力、魔力3000増

※フイの魔法で耐久力30%増


 十英獣を仲間にしたおかげで各種補助を振りまいていく。

 補助が降り注ぐ中、レペの体が陽炎のように揺れていく。


「ふっー、燃えてきたぜ! ガルム様と戦える日が来るとはな! 四獣奏(クレイジーアンサンブル)!!」


 レペ魔力によって作られた大道芸のように口でトランペットを吹き、片手でバイオリン弾きながら、もう片手でタンバリンを振るう。

 足元にも現れた4つのティンパニの上を軽快に踊りながら足先とかかとを使いながら小気味よく叩く。


 1人で四重奏をこなすと音符が舞うように、全員のステータスにバフが振りまかれる。


【レペのエクストラスキル「四獣奏(クレイジーソング)」の効果」

・物理ダメージ30%増

・物理被ダメージ30%減

・クリティカル率30%増

・回避率30%増

・持続時間は消費魔力/10

 ※霊力があれば、霊力も消費する

・クールタイム1日


 レペにはステータスの数値の増加ではないが、この場で必要な抜群のバフだ。

 シアはレペのお陰もあって、十英獣が1人も欠けることもなく、今回の試練を超えてきた。


『ふぉふぉふぉ、まだかの~』


 逆立ちを始めたガルムは退屈そうに両手だけで床石の上で跳ねて遊び始めた。


『ゼウ兄様は左から! ルバンカも合わせよ!!』


『うむ!!』


『ああ!』


 軽く指示だけして、右から弧を描くようにシアが駆け始める。

 ゼウが少し遅れて左から床石を蹴り上げる。

 ルバンカは2手に分かれた中間を攻めるようにガルムの元へ移動を開始する。


 3人で最も先に移動を開始したシアが逆立ちして遊んでいるガルムの元に達した。


『真・粉砕撃!!』


 獣人たちの信仰を集める獣神に対して、一切遠慮のない渾身の一撃が顔面に向ける。


『む? なんじゃあ? ほれ!』


 ペチッ


『馬鹿な!? んんぐううううう!!』


『シア!!』


 ガルムは逆立ちしながら片手を上げ、摘まむように器用に、シアの渾身のスキル「真粉砕撃」を受け止めた。

 全ての勢いを殺されただけではなく、片手で床石の上を逆立ちする格好をしたガルムを吹き飛ばすどころか、1歩も動かすことができないかった。


 あまりの力の差に前進していたゼウとルバンカが驚愕し、その場で固まってしまう。


『威勢が良いのは口だけかの。シアよ、がっかりじゃな』


『ぐぬ! なんて力だ!?』


 ニタニタして優しくシアの手を優しく包み込むように掴むガルムに、どこにそんな力があるのか分からないが、押すことも、拘束を解いて手を引っ込めることもできない。


 上位神と獣人という立場には、圧倒的な力の差があった。


『仕方ない。言うことも聞かない。可愛げもないが獣人は獣人じゃ。ほれ、儂はこの尾しか使わぬ。これなら試練を達成できるじゃろ?』


 シアの目の前に、チンパンジーにしてはとても長い2メートルほどの尾の先端をフリフリとちらつかせる。

 ガルムは力の差のハンデとして、シアとゼウ、ルバンカに十英獣を相手に尾一本で戦うと言う。


『ふざけろ……!?』


 ガルムが掴んでいたシアの拳をパッと離した。

 シアは拳を一旦引っ込めた。

 突然の行動に困惑するが、今は戦いの最中だ。

 自由になった拳、攻防あらゆることが頭の中で巡るが次の行動をとることはできなかった。


『ほい』


 ドムッ


『ぐは!!』


 ガルムが小さく呟いた瞬間、目の前で尾先を揺らしていた尾がシアの視界から消える。

 あまりの高速で目にもとならなくなった尾先が、横殴りの一撃により、シアの左腕の骨を粉砕し、はるか先まで吹き飛ばす。


 ニヤけるガルムが一気に離れていくのを見て、呼吸が止まるほどの衝撃を受けてようやく何をされたのか理解する。


『シア!!』


『我が時を稼ぐ! シアを!!』


 いきなり前方から姿を消し、ガルムに吹き飛ばされたことをゼウが理解する。

 シアの身を案じるゼウが戦闘中であるのだが視界で追ってしまう。

 だが、ルバンカは構わず、ガルムへと拳を振るう。


『単調な攻撃じゃて。ここまで何の試練を超えてみたのじゃ』


 ルバンカの攻撃に合わせて、逆立ちした手で跳ねるように飛び上がり、完全に距離を見切ったと拳を体毛が当たるかどうかの寸前で躱す。

 さらに、シアにお見舞いした尾が横殴りに空気を切り裂き、ルバンカの腕を言葉どおりに弾き飛ばした。


 右側3本のうち、1本は爆散し、1本は引きちぎれ、最後の1本は大きく拉げてしまった。

 それでも尾の威力を殺すことはできない。


『ぬぐ!』


 3本の腕に壊滅的なダメージを与えたガルムの尾がすっぽり入るほど、ルバンカの脇腹深くまでめり込んでしまう。

 30メートルという巨躯を数十分の1という小さな体がシアの側まで吹き飛ばしてしまう。


『ゼウ兄様も下がれ! このままでは勝利はできぬ!!』


 シアはガルムの力を見誤ってしまったことを反省し、策を取ると言う。


『う、うむ!』


 シアはたまらずゼウにも指示を出して、ガルムとの間で距離を取る。


『ふぉふぉふぉ、作戦会議かの』


 その場で片足で飛び跳ねるガルムは圧倒的な力の差があった。


「マジかよ……」


 S級ダンジョンを攻略した時でさえ陽気で、何事にも楽観的なレペでさえ、絶望的な力の差に絶望感を覚える。

 ルバンカの元にワラワラと全員が集まっていく。


「ルバンカ様、回復します」


『まて、丁度よい。「獣の血」!』


 たった一撃で9割近く体力が削られたルバンカは特技「獣の血」を再度、発動する。

 そのタイミングでフイがルバンカの体力を全回復する。

 真っ赤な血のナックルがルバンカの6本の拳に装着される。


『……さすがは獣神ガルム様。闘神3姉妹を同時に相手にして無双したという伝説は本当であったか』


 拳を握りしめながらもルバンカは困惑を隠せない。


『ほう、良く知っておるの。儂があのクソガキ共と戦ったのは遥か昔の話じゃよ。今はその当時ほどの力はないの』


 100万年前、獣神ガルムは法の神アクシリオンの従える十二獣神の筆頭として、創造神エルメアの3姉妹との壮絶戦いをしていた。


 その際、上位神であり、戦闘に特化した戦神ルミネア、武神オフォーリア、剣神セスタヴィヌスを相手に無双するほどの力があったと、神界では伝説になっているようだ。


『そのような話、今更聞かされても遅いぞ。試練を受けると言ってしまったのだからな』


 シアはガルムを倒せるなんてそもそも思ってもみなかった。

 この場には強力なバフを使えるソフィーもロザリナもいない。

 ステータスお化けのハクもいない。

 それでも、幻獣アルバハル、獣神ギラン、獣神クウガ、風神ヴェスとの試練を乗り越えてここまでやってきた。


 ガルムに認められたら試練が終わる。

 単純な覚悟ややる気だけで乗り切れるほど、単純なものではなさそうだ。


『余の2つの神技はどうも決まれば相手を弱体化できるようだ。これは使えぬか?』


『それは本当ですか。ゼウ兄様』


『うむ、余の手にした「虎神柔破掌(こしんじゅうはしょう)」は相手の耐久力を減退さえるようだ』


 ゼウは2階層と3階層で神技と加護を手に入れたと言う。

 神技は敵とステータスに働きかけるもので、2階層のものは特に耐久力を多いに減らすと言う。


『発動条件は何なのだ?』


『10連撃だな。20連撃で発動できる熊神瓦解破(ゆうしんがかいは)なら全ステータスだな』


『ほう、余が手に入れてきた神技と同じか』


 仲間たちだけで10回攻撃をしたら、発動条件をクリアすると言う。

 さらに3階層を攻略した際に手にした神技「熊神瓦解破」は全ステータスを減退させる。


・シアの神技

 10連コンボで豹神無情撃が発動(効果は威力重視)

 20連コンボで風神天地拳が発動(効果は威力重視)

・ゼウの神技

 10連コンボで虎神柔破掌が発動(効果は耐久力減退)

 20連コンボで熊神瓦解破が発動(効果はステータス減退)


『なるほど、弱らせて余の一撃を与えるというわけだな。手数がいるが問題ないな?』


「ゼウ様のためならば」


 シアの視線にホバが答える。

 今、目の前でシアとルバンカが大人と子供以上の力の差でボコボコにやられた。

 そんなガルムを相手に十英獣のお前たちは武器を取り戦えるのかと問う。


 とてもじゃないが力の差は歴然で短期決戦だ。

 チャンスもそんなにないだろう。


 ガルムの一撃で肉片に変わり、この場にいる誰もが明日を迎える保証はない。


『皆、すまぬが戦ってくれるな』


「ご命令を!!」


 改めてゼウが問うとホバが全力で答えた。


『覚悟があるなら準備しろ。素早さを上げてくれ』


 前衛たち全員に素早さ特化の装備をさせる。

 守りなど意味がないほどの力をガルムが持っているからだ。


 聖獣帝フイ、楽獣帝レペ、魔獣帝ラトはコンボの枠には入れないため回復役などをもってサポート役だ。


『まだかの~効果が切れてもやり直しは無しじゃよ。退屈じゃな~』


 バランスよく頭だけで地面にこすりつけ、尻尾で重心を調整しながら下半身を起こして立っている。

 シアはふざけた態度のガルムからルバンカに視線を移す。


『ふむ、あとは風神ヴェス様からもらった力。使う時ではないのか』


『む? 「嵐獣化」か。そうだな。何が出るのか知らんが、試すしかなかろうな』


 シアの問いかけにルバンカは答えるのであった。




あとがき

―――――――――――――――――――――――――――――――――

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