第677話 獣神ガルム戦②

 シアはルバンカに新たに手に入れた力である「嵐獣化」を使うように言う。


『出し惜しみ無しというわけだな』


『そういうわけだ。次のクールタイムはお前には存在しない』


 ここまでの試練に時間を要したため、ルバンカは次のクールタイムを待たずに召喚期限の1ヵ月を迎える。


『……機会はそう多くはないということか』


 ゼウも、1階層でガルムとシアの会話からルバンカの召喚獣として存在できる期限を十分理解している。


『なんじゃ。まだ何かあるのかの?』


 シアの態度になんらかの作戦があることにガルムは気付く。

 だが、歴然たる力の差があるためか、こちらに向かってくることはなかった。

 尾の長いチンパンジーの姿をしたガルムは、尻尾だけで体を浮かせ、弾むようにピョンピョンと跳ねている。


 ルバンカはシアの指示に力強く頷いて答える。


『……分かった。嵐獣化!』


 ビュウウ!!


 ルバンカの体から嵐のような突風が溢れる。

 覚醒スキル「幻獣化」によっておおわれた蜃気楼のような幻影を吹き飛ばしていく。

 さらに、肉体までも風に変わってしまった。


『な、なんだ力がああああああ!?』


 ルバンカは自らの体の変化、そして、身の中から沸き上がる驚異的な力に驚愕する。

 封印が解けたSランクの召喚獣が真の力を発揮した。


 【種 類】 獣

 【ランク】 S

 【名 前】 ルバンカ

 【体 力】 50000+30000(幻獣化)+50000(嵐獣化)

 【魔 力】 40000+30000+50000

 【攻撃力】 50000+30000+50000+160000(獣の血改)

 【耐久力】 40000+30000+50000

 【素早さ】 40000+30000+50000

 【知 力】 40000+30000+50000

 【幸 運】 40000+30000+50000

 【加 護】 体力5000、攻撃力5000、体力超回復(毎秒4%回復)

 【特 技】 五月雨拳改、阿修羅突改、完全防御改、地殻津波改、獣の血改

 【覚 醒】 幻獣化、聖珠生成、嵐獣化

 ※レペたちのバフは省略

 ※金の卵の効果省略

 ※クリティカル率160%上昇(獣の血改の効果80%×2)


【覚醒スキル「嵐獣化」の効果】

・知力依存により物理攻撃無効

・全ての特技が「改」に変化し、効果を2倍になる

・自らのクリティカル率100%上昇

・1キロメートル周囲の仲間のクリティカル率100%上昇

・体力が秒間3%回復(幻獣化と重複可)

・効果は1時間

・クールタイムは1日

※魔導書がないため、シアたちは文字的な情報で確認はできない


 暴風となったルバンカの体が実態に戻っていく。

 全長30メートルの6本腕のゴリラの召喚獣だが、明らかに体は実体のない風で出来ているようだ。


『……ほう? 試してみるか』


 湧き上がってくる力をルバンカは試したくなった。

 力試しの相手など、この場には1体しかいない。


 ルバンカは風のように体を崩しながらも、一気に加速さガルムに迫る。


『よく分からんスキルじゃの。ほりゃ!!』


 凶悪な尾がルバンカの横腹に襲い掛かる。

 長さ2メートルしかない尾がルバンカの体を真っ二つに切り裂いた。


 ザンッ

『むん!!』


 ドスッ


『むぐ!?』


 ルバンカは見た感じと違いダメージをほとんど受けていなかった。

 半身で切り裂かれたまま、ガルムに対して一方的に拳を殴りつけることができる。

 一瞬吹き飛ばされそうになるガルムは体を縦にくるくると回り、地面に両足から着地する。


『これはヴェスによる風の支配の力……。一体、何を与えたのだ……』


 通過しただけだが、尻尾に残るルバンカの感触から何が起きたのか察する。

 漆黒の目で静かに見つめ、獣神ガルムはルバンカの変化に風神ヴェスの力の片りんを感じているようだ。


『なるほど初陣は我がすべきというわけだな。我が道を開く! コンボを決めるぞ!!』


 胴体を上下に切り裂かれたところが暴風となり、そのまま体がくっつくように戻っていく。

 あっという間に全身が元通りになった。


『ほほ、ただ向かってくるだけかの。ほりゃ!』


 まっすぐ向かってくるルバンカの首元に合わせるよう、ガルムの尾が迫る。

 軽い掛け声で振るわれた尾にはとんでもない力が込められており、想像を超越する威力があった。


 しかし、今回もルバンカにダメージを与えることはできない。

 湯気を振り払うように体を四散させるが、構わずルバンカは攻撃を続ける。

 ルバンカは構わず3本の右腕の指先を揃えるように、渾身の力を込めて特技を発動した。


『①阿修羅突・改!!』


『へ!? ぬぐあ!!』


 一切攻撃が通じなかったことに驚く暇も与えず、ルバンカの3本の指先がガルムの腹を襲う。

 上位神にして獣人たちの信仰するガルムに対して一方的に攻撃ができるようだ。


『よし! 攻撃は通った!! 体勢を立て直す前に皆で攻撃だ!!』


 ここには十英獣たちがおり、コンボを繋げるには十分な数の前衛がいる。

 10回と20回のコンボ後に発動でいるシアとゼウの神技を与えたら、ガルムの試練は攻略できる。


『皆、今こそ試練を乗り越える時だ! いくぞ!! ②真・粉砕撃!!』


 シアが大きく吠えると吹き飛ばされるガルムに向かって距離を詰めた。


 無防備に吹き飛ばされた状態なら攻撃は与えやすい。

 ガルムを吹き飛ばされた先と反対側に拳を使って、ゼウの元へ吹き飛ばす。


 全長120センチメートルにしか過ぎないガルムを、まるでバレーボールをパスするような扱いだ。

 信仰のカケラも感じられないのは、ここまでの試練の扱いによるものだろうか。


『③真・強打! ホバたちよ! 任せたぞ!!』


 シアからガルムのパスを受けたゼウが、今度はホバの元へ殴り飛ばした。


「うむ、皆、絶対に外すなよ! ④爆斬勝上!!」


 巨大なオリハルコンの槌でホバは吹き飛ばされたガルムを受け止めるように攻撃スキルを発動する。


 ホバは、まるでバレーのトスのように槌を巧みに扱い、床石に水平に吹き飛ばされてきたガルムを下から救い上げ、仲間たちが攻撃しやすいようふわりと浮き上がらせる。


 これまで1ヵ月近い試練の中でホバは状況に合わせて、最もコンボの繋がりやすい環境を作り上げてきた。

 阿吽の呼吸のように無防備なガルムに十英獣の1人、剣獣帝ハチが鞘に納めた状態から一気に剣を抜刀する。


「⑤岩盤断絶!!」


 魔力を込められた斬撃の衝撃波がガルムの顎に直撃する。


『かは!?』


 大の字になって吹き飛ばされたままの状態のガルムに、爪獣帝パズと双剣獣帝セヌの2人が飛び上がった。


「⑥海竜爪!!」


「⑦紅蓮双!!」


 パズとセヌが挟み込むように切りつけた、距離を開けたところで、後方にいた弓獣帝ゲンが自らの背に生える針を既に弓につがえている。


「⑧必中矢!!」


 喉元へ矢を駿速の一撃を放った。

 パズとセヌがようやくホバの近くに着地したところでゼウとシアがガルムの側まで挟み込むように距離を詰めていた。


 あれだけいがみあっていたのが嘘のような一体感だ。

 体の動き、拳の繰り出しもスキルも同じであった。


『⑨真・駿殺撃!!』

『⑩真・駿殺撃!!』


 シアとゼウは最も速度の速いスキルを選択し、10連コンボを決めた。

 シアとゼウの拳が輝きだし、神技発動の条件を満たしたことを継げている。


『うおおおおおお!! ⑪虎神柔破掌!! シアも決めよ!!』


 ガシャン


 霊力を込めた拳を繰り出す、ゼウの神技「虎神柔破掌!」がガルムの腹に吸い込まれていく。 

 ゼウの拳が当たるともう一度、神技の効果が発動し、ガラスが砕けたような効果音と共にガルムの耐久力を削るようだ。


『ああ!! ⑫豹神無情撃!!』


 ガルムは背を向けている上に、霊力を込めたシアの拳に込められた神技「豹神無情撃」は発動している状況だ。


「ぬおおおおおおおおおおお!!」


 ホバが思わず、緊張感と期待が籠るこの状況で思わず喉の奥から叫び声を轟かせてしまう。

 今の10連コンボをあとたった1セットしたら、獣神ガルムの試練は達成される。


 他の十英獣の皆も、ガルム相手に試練達成の希望を持ち始めた。


『ぬ!?』


 だが、正面に顔を向けているゼウだけが、ガルムのにやけた視線と目があっていた。

 まるで目が後ろにあるかのように、ガルムは何もなかったかのようにシアの拳を避けてしまう。


『躱されたか!!』


 今回初めて共闘したゼウと十英獣との連携技の全てのタイミングが合っていただけに悔しさを口にする。

 シアの神技を放つ前に今回のコンボは失敗に終わったが、ガルムの行動はそれだけではなかった。


『ふう、痛い痛い。危ないの~。残念賞じゃ。ほれ!』


 ドバシャッ


『がは!?』


 ガルムは尻尾だけは今回の試練で使うと言っていた。

 その尻尾で軽く叩くように、攻撃を躱され体勢を崩したシアの顔面に襲い掛かった。


 シアは顔面の皮がめくれ、片方の目と牙を大きく損傷し、首の骨が砕けるほどの一撃によって、目の前が真っ暗になり、一瞬意識が飛びそうになった。

 素早さを特化していたシアにとって、上位神である獣神ガルムの一撃はあまりにも重たかった。


『し、シア!? フイよ! 回復を!!』

 

 時間にして1秒に満たない刹那の瞬間だ。


 ゼウが叫びフイに回復魔法を使うように叫ぶ。


 絶望する程の力の差は決して縮まることはなく、残酷なほどにもあった。


 シアは片目で、自らの顔面にこれだけのダメージを負わせたガルムの尾を見ていた。

 叩いた時の反動でゆっくりとシアの方に戻って襲い掛かる。

 反対にシアは殴られた衝撃で今にも吹き飛ばされそうだ。


『シアよ、なにをやっておる!!』


『母上……』


 この瞬間、シアの中に走馬灯に近い、過去の記憶と叫び声が耳元で響く。

 すぐに誰の声か分かった。

 暗闇の中でも忘れない母の声だ。

 幻覚なのか、死にかけたため、意識がおかしくなっているのか、我が耳を疑う。


 かつて、怯え、畏怖し、それでも愛憎に溢れ、心のどこかで繋がっていた母のミアが耳元で叫んでいる。


『シアよ! 食いちぎれ! 獣帝王を目指すのじゃ!!』


 既にコンボも途絶えた。

 スキルの連携はもう適用されない。

 そもそも人の域をはるかに超えた存在だったのだ。


 だが、母のミアの声が生存本能を刺激する。

 

『ぐるる!!』


 ガルムが軽く叩いただけで顔面の右側部分が半壊してしまったが戦意は衰えていない。

 衝撃で傾いた姿勢を正すこともなく、吹き飛ばされる衝撃に抗うよう首を伸ばし、口を大きく開けた。


 ブチッ


『ぎゃあ!! な、なんじゃ!! わ、儂の尾が!?』


 シアは獣神ガルムの尾を食いちぎったのだ。


『し、シア!?』


 ゼウたちも何をしたのか分からなかった。


 尻尾を咥えたまま、ガルムの尾を受けた衝撃で吹き飛ばされ、受け身も取れず床石に激突する。


『なんじゃい。儂の尾を食いちぎりおった……』


『ぐるる!!』


 ガルムはお尻を両手でなで、失った尾を改めて感じながら恨めしそうにシアを見る。

 そんなシアは顔面の半分が損壊したが、戦意を喪失していない。

 尾に犬歯を突き立てたまま、ゆっくりと起き上がった。

 そんなガルムの尾はトカゲの尻尾のようにまるで生きているかのように大きく触れている。


 メキメキ


 活力のある尾から神力が犬歯を伝ってシアの中に流れ込んでくる。

 同時にシアの体が何かが沸き上がってくるのか躍動を始めた。


『む? これは神獣化(ザ・ビースト)か……』


『うおおおおおおおおおおおおおおおお!!』


 シアの全身の毛が大きく逆立ち、毛皮の下の筋肉が動き出す。

 ガルムの尾を奪ったシアは新たな力を手にしようとしているのであった。




あとがき

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