第711話 神Sの召喚獣

 アレンは突然現れた第一天使ルプトの指示で霊獣石を天高く掲げた。


『そうか。神殿に戻らねばならぬな』


 朧げに遠くを見つめる霊獣ネスティラドは頭から光る泡に変わっていく。

 タイミングよく掲げた霊獣石が、ネスティラドの魂を回収する。


(ペロムスが命がけで手に入れた霊獣石がSランクの召喚獣たちを収集するのにこれほど使えるとは)


 アレンはプロスティア帝国で魔王軍から命がけで手に入れたペロムスに感謝の気持ちを忘れたことはない。

 しかし、怖がるペロムスを無理やり戦いに連れてきた記憶は既になかった。


『霊獣ネスティラドの魂を霊獣石に回収しました』


 魔法陣を引いていた大天使アウラの前に、巨大なディスプレイが浮く。

 手元にタッチパネルが現れ、カタカタとブラインドタッチですごい勢いで何かを打っている。

 アレンの前に浮く魔導書に文字が現れ、ログが流れていく。


『吸収した霊獣ネスティラドの魂の解析を進めますか』


(アウラという大天使が魔導書にログを表示しているのか。すぐ目の前にいるのにスマホでチャットするような感じだな)


 アレンは声かけてくれたら返事するのにと思いながらも、頭の中で「解析する」を選択する。


『霊獣ネスティラドの魂の解析を開始します』


「あの? 状況の説明をしていただいても?」


『時間がありません。対応に集中してください』


 ルプトから冷たく一蹴される。


(いや解析中ですることなくて聞いたわけで。ん? これは)


 アレンは反省をしたことはない。

 注意されたら言い訳が先行する性格だ。


 トクントクン


 地面には再度ドッチボールサイズまで小さくなったネスティラドの心臓が鼓動している。

 光る泡となった魂を霊獣石が全て吸収したためか、心臓はこれ以上膨張しないようだ。

 アレンは両手で拾い、魔導書を開いた。


『アレンは霊獣ネスティラドの心臓を魔導書に収納した』


(これでセシルのエクストラモードが開放させられるな。入手にかなり苦労したけど。シアの神技がなかったら倒せなかったし、仲間たちの協力がなかったら不可能だったな)


 仲間たちと必死に戦って獲得したおかげで感動は大きい。

 だが、感傷に浸るまもなく、魔導書に次のログが流れる。


『……解析が終了しました。霊獣石ごと魔導書に収納してください』


「終わったか。ほいっと」


 選択肢はなさそうなので、言われるがままに指示に従う。

 どうやらではあるが、ルプトたちはアレンに対しても協力的な行動に思われる。


『月のカケラ、日のカケラを媒体に霊獣ネスティラドの魂の再構築を進めます。……月のカケラ、日のカケラは消費されました。アレンは「神Sの召喚獣」の封印は解かれた。魂と媒体が揃っていたため、すぐに召喚が可能です。召喚しますか?』


(召喚レベル9になったのはプロスティア帝国にベク探している時だったか。結構かかったな。まあ、11カ月かそこらを長いとみるかどうなのか。Sランクで【ー】なのが「神」だったのか)


 召喚レベル9になったのは16歳になったばかりの去年の10月だ。

 聖魚マクリスを召喚獣にすることから始まって、来月17歳になる今、ようやくSランクになって初めての召喚できる系統が開放された。


 アレンの魔導書の表紙に銀色の文字で衝撃的な内容がログに流れる。


(さて、名前はそのままだとネスティラドか随分長いな。ん? ああ、そうか。他のSランク召喚獣と違って、名前が固定になっていないのか。とりあえず、召喚)


 普段なら名前を決めてからなのだが、待ちに待った召喚獣のために急いで召喚する。


 【種 類】 神

 【ランク】 S

 【名 前】 名前を入力してください

 【体 力】 50000

 【魔 力】 50000

 【攻撃力】 50000

 【耐久力】 50000

 【素早さ】 50000

 【知 力】 50000

 【幸 運】 50000

 【加 護】 全ステータス1万、因果律調整(中)

 【特 技】 伸縮自在、不倶戴天、無限天元突、不死属性付与、合体吸収

 【覚 醒】 輪廻転生、因果応報、封印〈頭〉、封印〈胴体〉、封印〈右腕〉、封印〈左腕〉、封印〈両足〉

※特技、覚醒効果は検討中です。こっそり修正されるかも


 口元から顎まで一体となった白く長い髭を蓄えた60歳過ぎの見た目のおっさんが出てきた。

 武器も鎧などの防具も装備していないが、白いギリシャ風のひらひらとした服を着ている。

 老齢のわりに筋肉隆々でパンパンな肉体が見え隠れする。


(ふむふむ、心臓からできた召喚獣だから心臓マンマのデザインだったらどうだろうと思ったけど、人型で助かる。身長は5メートルくらいでなんだか随分尊大で神々しい特技や覚醒スキル名で強そうだな。さすが神Sだぜ)


 前世でいうとギリシャ神話の雷の神を彷彿とさせる。


 召喚獣のステータスや特技によって前衛職、中衛職、後衛職に分かれる。

 見た目やステータス、特技や覚醒スキルでどの立ち位置の召喚獣か分析するところから始める。


 ただ、後衛ならともかく前衛や中衛にとって体のサイズはとても大事だ。


 体が大きすぎると、中衛、後衛の仲間や敵の視界が遮られる。

 身長は5メートルほどで人族にはない大きさだが、他のSランクの召喚獣に比べたらかなり小さい。

 体の大きいと、体格にものを言わせる戦いは優位であるのだが、体の大きさが違い過ぎると、相手の大きさや仲間たちとの戦闘時の配置のバランスもある。


 人型サイズの敵と戦う場合、ハク、マグラ、タムタムなど近距離に詰めて戦われたら、クレナやドゴラなど接近戦をしづらい。


(見た目は前衛だが、創生スキルを組み合わせるとメルスのように中衛、後衛もできると踏んだ方が良いか。創生スキルであれこれ解放されそうだし。まあ、メルスくらいのステータスだと後衛の回復職にさせておくのはもったいないけどな)


 メルスを思い出して新たに召喚できる神Sの召喚獣の前衛という立ち位置の先入観を振り払う。


 創生スキルはメルスを多彩な攻撃をする立ち位置に変えた。

 今では魔法もバフもこなし、ネスティラド戦ではペロムスの幸運を上げる作戦立案の要となり、武器の爪は100連コンボの回数を稼ぐことにも貢献した。


『神Sの召喚獣の封印が解かれたため、『-』Aの召喚獣は『神』Aの召喚獣に変更されました』


(俺の思考を読んでいるようなログだな。実際思考は読まれているらしいけど)


 創生スキルはメルスにとって、武器や防具、さらに特技や覚醒スキルを増やすために使われるようだ。

 創生スキルを見て総合的にどの立ち位置にするのか判断しようと思う。


(さて、名前だな。普通に考えたらマクリスとかマグラ、クワトロのように呼ばれていた名前が良いなら「ネスティラド」だろうけど。いや、実は法の神アクシリオンらしいからって、それだと6文字の名前は随分長いな)


「おい!」


 アレンが分析を進めると真横から声がかかる。


「ちょっと、おい! 今の話だとネスティラドを召喚獣にするという風に聞こえたぞ」


 セシルがいないので、キールが代わりにツッコミを入れてくれる。


「え? ああ、ちょっと分析しているから待ってくれ」


「何でお前はこの状況で……」


 キールは呆れてしまうが、変わらないアレンにこれ以上に何も言わないようだ。


「たしかにな。今の話がすべて本当なら旧世界を支配した法の神アクシリオンと聞こえたぞ。ああ、そのために法の神の神器が封印された召喚獣に必要とはそういうことか……」


 獣神ガルムを信仰するシアも、何を召喚獣にしようとしているのだと驚愕している。

 あまりにも人の領域を外れる行為にアレンの行動を思わず自制を促してしまう。


『全くだ。法の神アクシリオンは最上位神だぞ……。ルプト、何を召喚獣にしているんだ!!』


 10万年生き、何事にも落ち着いて達観しているところもあるメルスが、震えるほど驚いている。

 どうやらただの神の1柱を召喚獣にするのも無理だと言わんばかりの態度だ。


(255柱ある神の中で上位神と言われるのは10柱もいない。この世界で存在した最上位神と言われるのは3柱だけらしいな。でもステータス5万か)


 ステータス5万なのはどうしても制約があったと分析する。

 その制約も創生スキルを鍛え、肉体を回収することで解消されそうだ。

 暗黒界に分かれた肉体があるらしいのだが、魔王軍と戦っているからちょっといけそうにない。

 魔王討伐後でクリア後のやり込み要素なのだろうか。


 現在、神界にいる最上位神と言われるのは創造神エルメアだけだ。

 他は過去に創造神と争った法の神アクシリオンと日の神アマンテだ。

 法の神は邪神と呼ばれ、肉体は5つに分けられ暗黒界に捨てられた。

 日の神は暗黒神と呼ばれ、暗黒界に追放されたと言われている。


 魔王軍との戦いの中で神界にやってきた。

 まだセシルや勇者ヘルミオスなどまだ試練が終わっていない者もいるが、成長も最終段階に入ったと思っている。


 分析していたアレンが仲間たちをみると、やれやれと言わんばかりの態度だ。


「まったく。アレンというやつは」


「やっぱりアレンだ。凄いよ!!」


 アレンの非常識を幼少の頃より見てきたドゴラとクレナは応援してくれるようだ。

 そんな状況を黙ってみていたのは神Sの召喚獣だ。


『……ここは? 儂はどうしたというのだ?』


「ん? 何か混乱している感じか? 自分がだれか分かるのか?」


 召喚獣となったのでとりあえず敬語は不要だろうと考える。


『何も思い出せぬ。何故儂はここにいるのだ?』


『アクシリオン様、あなたの当時の記憶のほとんどは頭部にございます。少々困惑しているようですが、たった今、あなたの体はアレンという人族の召喚獣として再構築されました』


『……アレンの? 召喚獣……』


「俺のことだ。よろしく頼むぞ」


(キビキビ働いてもらうからね!)


『儂はお前に仕えたら良いのか?』


「そういうことだ。お前は今日から仲間だ。一緒に魔王を倒すぞ!」


『お前の召喚獣で仲間か。理解に努めよう……』


「細かいことは良いとして、名前を決めないといけないな。記憶があるなら希望を聞いても良かったが、そういうのはなさそうだ。適当に俺が決めて良いか? それともネスティラドとかが気に入ってたりするのか?」


『いや、儂は名前などなんでも……』


 だが、この会話で我慢が出来なかった、過去に法の神に仕えていた者がいた。


『何がネスティラドだ。神界人が勝手につけた名であろう。このお方は紛れもないアクシリオンじゃ。人族の子よ。ふざけたことをするでないぞ!!』


 ずっと様子を見ていた獣神ガルムが大声で吠えるのであった。




あとがき

―――――――――――――――――――――――――――――――――、

※黙々とタイトルを回収する物語を書いています


フォローと☆の評価、何卒よろしくお願いいたします。


ヘルモード書籍10巻発売ですヾ(*´∀`*)ノ

何卒、さらなる応援よろしくお願いしますm(_ _)m

購入特典情報⇒https://www.es-novel.jp/special/hellmode/


コミカライズ版ヘルモード最新話はこちらで読むことができます。

⇒https://www.comic-earthstar.jp/detail/hellmode/

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る