第712話 誇れること

 アレンが新たにSランクの召喚獣を仲間にすることができた。

 召喚獣本体の記憶が希薄で混濁しているようで、以前の名前を忘れてしまったようだ。


 現在、創造神エルメアが支配する神界人のつけた「ネスティラド」という名前が気に食わないと、獣神ガルムが牙を剝き、吠え立てる。


『儂は名前などどうでもよいのだがの。頭部とやらを取り込んだらどうなるのか分からんが』


(そうだな。名前は後から変更可能だし。だけど、まあ、アクシリオンが良いとかそういう話か。名前が長すぎるのはどうなんだろうな)


 何やら神Sの召喚獣との契約に協力してくれた獣神の意向を尊重することにする。


「ん~3文字か4文字くらいが俺としては希望だけど、フォルマールみたいに長いのはどうかと思うし」


「おい」


 フォルマールのツッコミを流しつつ、短めの名前を考える。


「じゃあ、『リオン』で。今日からお前の新たな名前はリオンだ!!」


(虫Cの召喚獣のピオンっぽい響きだけど。混同はないだろう)


 アレンはビシッと指を差し、困惑する神Sの召喚獣に新たな名前を指示する。

 魔導書のステータスの名前欄が『リオン』となった。


『そうか。何も思い出せぬが儂ゆかりの名前を登録してくれただろう。感謝する』


(魔導書に戻して俺の記憶くらいは共有しておくか。スキルの分析はその後だ)


 魔導書の機能に、カードに戻した際、召喚獣の記憶や体験を魔導書に蓄積させたり、アレンの記憶を共有させる機能がある。

 自らの記憶が全くないと今後戦いに困るので、一旦カードに戻してアレンの記憶を共有させ、常識を理解させることにする。

 雛の刷り込みじゃないが、最初の教育が大事だ。


「全くついていけないんだが。最上位神だぞ……。倒すのにも随分苦労したし」


 アレンが今までの召喚獣と同じように淡々と効率よく進めていく様子を見て理解できないと、キールは言う。


『さて、儂は早々に帰るかの』


(あら、お茶でも飲んでいけばいいのに。あまりいない方が良いのかな)


「獣神ガルム様、ありがとうございました」


『はて? 何の話かの? ちょっと呼ばれて立ち寄っただけじゃ』


 ヒュンッ


 アレンの礼を聞き流した獣神ガルムは原獣の園へとそそくさと戻ったようだ。


『では、私たちもそろそろ失礼するわね。慢心せずに弛まず力をつけなさい』


 絶えず厳しい表情のルプトが撤退の指示をすると、アウラたちも結界を解除し始める。


(お? もう行っちゃうのか。さて。何か聞いたら教えてくれるものなのか。この流れならやるだけやってみるか)


「あの? 少し聞いてよろしいですか?」


『何ですか? 何でも答えてもらえるとは思わない事ですが、話くらいなら聞きましょう』


「残り、虫、草、石のSランクの召喚獣の構成する素体はどこにいるのでしょうか?」


 神Sの召喚獣を契約することができ、残りのSランクの召喚獣は3体となる。

 Sランクの召喚獣は、その元となる魂などが必要だ。


 ここまでの流れでルプトは随分アレンの行動に協力的であったことが分かる。


『……』


『ルプト様。あまり良くないことだと進言します』


 ルプトが口を開こうとすると咄嗟にアウラが制止する。


『虫は貴方も何度か戦ったことがある魔王軍にいるわね。どのように説得するかはお任せしますが、現在把握している虫Sの召喚獣候補です』


(あのメタリックな甲虫みたいなやつか。奴をボコボコにして聖獣石に入れると。こっちにはお前の仕えていたリオンもいることだし、何とでもなるぜ。リオンを仲間にした今なら交渉の余地があると)


「おい、アレン。そいつは魔王の幹部の一角じゃねえか」


「知らないのか、キール。俺の前世では倒した敵陣の駒は仲間にできんだよ」


 将棋にある当然のルールを思い出す。


「初めて聞いたぜ……。ぶっ飛んだ世界から来たんだな」


『おほん。石Sについては現在調査中ですが、アレンよ。あなたも適材がいないか余念なく探しなさい』


「畏まりました」


(おい、石系統はもしかして考えていなかったのか)


『そうそう、草Sですが、神種が芽吹いたと大精霊神イースレイ様より聞いております。用事がなければ挨拶に行くと良いです。神樹ペクタンに会うと良いでしょう』


「お! そうか。とうとう芽吹いたか」


(すっかり忘れていたが、ローゼンとファーブルが生育させていたんだよな。ペクタンか随分可愛い名前だな)


 名前は丁度良い4文字だ。

 他の召喚獣と名前の系統も被っていない。


『では』


 ルプトを筆頭に3体の大天使たちが大きく羽ばたいたかと思ったら、どこかへと消えてしまった。


 怒涛のやり取りが終わり、一瞬沈黙した後、アレンは口を開く。


「さて、今後の話をするぞ。俺は魔法神イシリスにネスティラドの心臓を渡してくる。セシルをエクストラモードにしないといえないからな」


「そうですわね。その後、レベルアップとスキル上げにまい進されるのでしょうか」


「ソフィー、そうなるな。セシルの試練には参加できないようだから、皆は勇者の試練を手伝ってあげてくれ」


「おお! 僕らの次は、ヘルミオスさんの試練の協力だね」


「大精霊神に挨拶もしないとだからな。ソフィーとルークとフォルマールは俺についてきてくれ。神種とやらを見に行かねばな。セシルにレベル上げにも手伝ってもらうぞ」


 大精霊を顕現できるソフィーにルーク、神器と神技で武装したフォルマールの3人が手伝ってくれたセシルのレベル上げは十分可能だと言う。


 アレンが今後の方針を決める。


「もう。次から次へと私はとりあえずお風呂に入りたいわ。もう、泥だらけじゃない! 二度とその特技とやら、使わないでよね!」


 ロザリナにとって魚Fの召喚獣の特技「泥沼」は許されざる効果だったようだ。

 戦いのオチもついたところで、アビゲイルのいる要塞に向かう。


(たらいま~。戻ってきたでよ)


 これまでのギリギリの敗走による帰宅と違い、これまでにない達成感がある。

 守主のアビゲイルが守人の竜人たちを引き連れ、外壁の上から内階段をつたって、凄い勢いで駆け降りてくる。


(守主になったけど前線に立つタイプなんだよね)


 神界にやってきて初めてやって来た時、守人長であったアビゲイルであるが、アレンの勧めと協力で守主になった。

 シャンダール天空国内にある10に分かれた竜人部族には、それぞれの部族が神界にいる霊獣を狩るため防衛団を結成している。

 守人と呼ばれる竜人であるが、アビゲイルはソメイ族長の下で守人長として守人を束ねる立場であったが、今では全ての守人、守人長を束ねる守主だ。


 本来であれば50万人ほどいると聞いている守人のトップであるため、守主は大将軍級以上の肩書だ。

 一線から引いてしかるべき相応の立場であるのだが、今でも前線に出てアレンたちにとても協力的だ。


「あ、あの、もしかしてネスティラドを倒したということか……」


 アレンたちの様子からすぐに察したようだ。


「はい。何度とない挑戦でしたが、仲間たちの協力を得てようやく倒すことができました」


 霊障の吹き溜まり自体は無くなるわけではないのだが、理不尽な脅威がいなくなり、随分活動しやすくなりますねと伝える。


「あ、あの。本当かどうか確認できるものはあるのか?」


「確認? ……そうですね」


 アビゲイルはその真面目な性格から「不可能だ。嘘をつくな」「倒したと言うなら証拠を見せよ」という感じではないのはすぐに分かった。

 守主の立場から霊獣ネスティラド討伐を確信する勤めがあるのか、理解が追いつかないのか、困惑気味の表情からその両方なのだろう。


 トクントクン


 安定して小さく鼓動する霊獣ネスティラドの心臓を魔導書から取り出して、アビゲイルに見せる。


「お、おおお……」


 両手でぎりぎり触れそうな位置まで差し出したアビゲイルは、あまりの衝撃に膝から崩れ、そのまま二回りは小さいアレンよりも頭が下がってしまう。


 竜人は神界人の代わりとなって溢れる霊獣を狩る役目があるらしい。

 霊障の吹き溜まりで稀に発生する亜神級とか神級も討伐の対象だ。


 当然、神界では十分な素材や資源がなく装備品を揃えることがままならないため、竜人たち亜神級以上の霊獣を狩るなど何万年に1回あるかないかだ。

 当然多くの犠牲を積み上げ、竜人たちは命がけで狩りをすることになる。


 今回アレンたちが倒した霊獣ネスティラドは、シャンダール天空国で絶対に倒せないと言われる上位神級かそれ以上の力のある霊獣だったと思われる。


 奇跡を目の当たりにしてアビゲイルの背後の竜人たちもガチガチと歯を鳴らし震え出してしまった。


「ああ、そうだ。竜人たちの協力もあって霊獣ネスティラドを倒したと神界人に伝えていただいて問題ありません」


(幸運とは振りまくもの。戦果も一緒だ。分け合うことにしよう。まあ、倒したって情報は神々からよりも、竜人から神界人に伝え聞いた方が竜人たちにとって良いだろうし)


「何だと?」


「実際、アビゲイルさん指揮の下、霊石狩りをしていただいて得た力の結果でもありますし」


 魔法神イシリスが信仰ポイントと引き換えに霊力回復リングやスキル経験値獲得装備など便利グッズを提供してくれた。

 アレンのスキル上げなどあらゆることに信仰ポイントが必要だった。


 その結果もあって霊獣ネスティラドを倒すことができたのだが、それ以上に、戦果を誇ってよいとアビゲイルに伝える。


 アレンの話を聞いたアビゲイルは、あまりうれしくなさそうだ。


「たしかに大軍を指揮し、霊石は集めた。だが、それだけのこと」


(頑固だな。だが、竜人にとって徳しかない話だからな)


「良いですか。霊獣ネスティラドは魔法の神イシリス様の命の下、竜人たちが地上の民と協力して倒した。倒した証は魔法の神様に捧げられますが、このことは天空国全土に武勲は広がり、天空大王の耳に入るでしょう」


 アレンは鼓動するネスティラドの心臓を両手で持ちながらアビゲイルに語り掛ける。


 今後何万年も先まで称えられるほどの戦績だ。


 神々とも連絡を取り合える天空大王なら、第一天使ルプト経由でもネスティラド討伐の事実を聞くことになる。

 証拠を見せることも天空大王への献上も不要だが、確実にその武勲を誇ることができる。


 神界では竜人の立場は神界人に比べてあまりにも低い。

 武勲は竜神の神界での立場を大いに向上させるだろう。


 アビゲイルは困惑する配下の守人の竜人たちを見た後、アレンに向き直って口を開いた。


「……アレン殿、我は誇れることしか口に出来ぬ」


 アレンの提案はアビゲイルによって断られるのであった。




あとがき

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