第713話 剣神を驚愕させた者
アレンの提案を守主のアビゲイルが断った。
「申し訳ない。ついた嘘はきっと竜人のこれまで戦いを否定することになる。我らは正直に自らの種族とその役目と向き合ってきたのだ」
「そうですか。では竜人たちの思いを尊重します。言いましたがこの戦果は竜人の努力あってこそです」
「なんかアレンってそういうの拘るわね」
「当然だ。現場で戦うだけが功績じゃない。彩る宝石も編まれた服も才能のある職人たちが作ってきたものだ」
「たしかにそうかもしれないわ。ロザリナ、難しい話嫌いよ」
アレンは健一だったころ、自ら職人や作り手となった経験はほとんどない。
仲間を集め、自らと共に成長し、ダンジョンを攻略して、ボスを倒すという遊び方は、アレンとなった今の在り方にも引き継がれている。
今回、竜人は10万を超える軍勢を率いて霊石を回収し、アレンたちに提供した。
どれほどの装備が手に入り、スキルが上がり、最終的にネスティラドを倒す貢献をしてくれたか。
「竜人を思ってくれたことは感謝する。我としては今でも竜人たちの立場を向上していただいたことに感謝するがそうだな。……それではすまないが、鎮魂祭に参加してくれぬか?」
「ちんこんさい?」
「これだけの力ある霊獣が魂の循環の流れに戻ったのだ。神界人のそれなりの立場の方をお呼びして鎮魂を願う祭りを行いたい。もしかしたら神々の参加もあるやもしれぬ」
霊獣とは神界と人間界の魂の循環から外れた存在だとメルスから聞いた。
竜人とは霊獣を狩り、魂の還元をあるべき姿に戻す役目があるのだとか。
(神界人も呼ぶなら結構先になるのかな。っていうか、鎮魂祭か。ネスティラドを召喚獣にしたこと言いそびれたな。召喚獣となって存在は生き続けるみたいな話になるとややこしくなるかな。そういえば、結局レベルアップしなかったことにはしっかり苦情を申告せねば! 250でレベルが止まるなど聞いていないぞ!!)
『……』
アレンの意識を共有したリオンが魔導書の中で、黙ってアビゲイルとの会話を聞いている。
天空大王への謁見に何日も待たされた記憶がある。
今日の明日のでは鎮魂祭はできないだろう。
具体的な日にちが決まったら、お誘いくださいと伝えた。
なお、アレンはネスティラドを確実に倒し、その魂を回収し、召喚獣に変えた。
この時、レベルが1も上がっていない。
過去の経験なら10は上がってもおかしくない上に召喚獣はかなり弱体化しておりステータスが5万しかない。
ルプトが成長要素を盛ってくれたお陰で今後の強化に期待だが、もっと強くてもおかしくない召喚獣だ。
ステータスの限界があって、それを見越しての創生スキルであるならよく考えられていると思う。
一風呂浴びて休憩を取り、昼食を取ったら、その日のうちに行動を開始した。
「ちょっと、ロザリナ。もう少し寝ていたいの」
「大丈夫。ついたら起こすから」
『ギャウ!』
ロザリナだけお昼になっても食堂にやってこず、どうやら砦の仮眠室で寝ていたため、クレナに頼んでミノムシ状に布団で包んでもらってハクに運ばせる。
全身を使って跳ねるように不満を言うロザリナの声はクレナには届かないようだ。
全員揃ったところで、アレンたちはまず神界闘技場に転移する。
ここは剣神セスタヴィヌスが治める武具の神々のための神域だ。
斧神や弓神などの神がそれぞれの武道場を持つ中、アレンは剣神の治める武道場へ向かう。
武道場の観音開きの入り口を開くと、天使たちが剣術の稽古をしていた。
『セイ!』
『セイ!』
『セイ!』
『しっかり脇を閉めぬか! そこの! 踏み込みが甘いぞ!! ……む? アレンか』
(なんかRPGの道場のような一幕だな)
一列に並び掛け声を必死に訓練をする中、大天使ムライが天体たちの背後をゆっくりと歩きながら叱責していたが、アレンたちの到着に気付く。
「はい。また来ました。ヘルミオスさんの訓練に同行する仲間を連れてきました」
『またか。あまり大勢でやってこられても武神オフォーリア様はお困りになるだろうに。……まあ、良い。こちらだ』
道場の反対側にも扉があり、抜けると、いくつもの武道場に繋がる渡り廊下がある。
その中の一角に剣神のいる道場があった。
第一天使ケルビンが門の前にいる。
ムライがアレンたちを連れてきたことに気付くと、扉から数歩横に避けてくれる。
どうやら中に入っても良いようだ。
コンコン
ムライが扉をノックする。
『おう、入れ』
『失礼します』
一礼して開けると道場の中央には胴着を着た女性が腰に剣を刺して正座している。
上位神にして闘神三姉妹の末っ子の剣神セスタヴィヌスだ。
『……お前らもあの勇者のガキの手伝いか』
『そのようでございます』
『そうか。きっちり揉まれてこい。応援者だからって加減してもらえるなんて思わねえことだぞ』
(相変わらず、常に殺気が凄いんだけど)
ポニーテールで綺麗目な顔から出たとは思えないドスの効いた言葉に仲間たちに緊張感が走る。
『ドゴラよ。気合い入れるのだぞ。オフォーリア様はそんなに甘くない』
「ほう、おもしれえ」
胸の前で腕を組み強者感溢れるドゴラの背中から神器カグツチが警告する。
強敵であるネスティラド戦でも前衛としての役目を果たし自信を増やしたようだ。
「ドゴラ、油断するなよってフレイヤ様は言っているんだ……。おっと!? 剣神様いかがされましたか?」
分かっていないドゴラを窘めようとすると剣神の視線を感じる。
視線を剣神に戻すと、20メートル近く離れていた剣神が目と鼻の先に立っていた。
いつの間にか覗き込むように見つめていたことに気付いたアレンが慌てて数歩後ろへ飛んだ。
『……へえ。アレンって言ったよな。何か雰囲気変わったな。最近何かあったか?』
剣神がこれまで見たことのない驚きを表情に見せ、アレンに問い詰めてくる。
「え? そ、そうですね。シャンダール天空国にいたネスティラドという霊獣を倒したからでしょうか」
とりあえず、霊獣ネスティラドを召喚獣にしたのは隠した方が良さそうなので黙って置く。
『ん? お!! ……マジかよ。あの不死の霊獣を狩ったっていうのか。冗談じゃなさそうだが……』
(不死って。神界的にも絶対に倒せない対象だったってこと? 俺なんかやっちゃいました)
創造神エルメアの子であり、武具八神を束ねる剣神セスタヴィヌスが驚愕している。
「ちょ、そ、そうですね。魔法神の試練を受けたもので戦わざるを得ず。……なんとか、獣神様の頂いた力が功を奏したようです。いやいや中々厳しい戦いでした」
何度も挑戦し、限界までバフとデバフを効かせ、100連コンボを達成して倒した。
『そうかよ。そんなことがあるのかよ。まあ、ガルムの猿公(えてこう)が動いたならそんなこともあるのか……。まあいいや。だが武神の試練は甘くねえぜ。ついてきな』
そのままぺたぺたとアレンたちと反対側の神棚へと向かう。
和風な神棚には創造神エルメアを称えるように舞う3人の女神の絵が描かれている。
『ほらよ!』
(毎回無造作にめくるね。エルメアは父ちゃんだからか、ありがたみはないのかな)
バリっと無造作に引きちぎると、その先は虚無の亜空間へとつながっていた。
何でも、この先に武神オフォーリアの神域に繋がっているらしい。
「この先でガララ提督たちも頑張っているんだね」
勇者ヘルミオスは、自らのパーティー「セイクリッド」とガララ提督のパーティー「スティンガー」が武神の試練を協力中だ。
竜王マティルドーラも老齢に鞭打って協力してくれている。
なお、ローゼンヘイム最強の男は女王を守る必要があると言って、大地の迷宮以降、人間界に戻った。
「……じゃあ、行ってくる。アレンたちも待ってるからな」
「頼むぞ。キール、パーティーを任せた」
キールはアレンがいない場合のパーティーの副リーダーの立場になることが多い。
(大の大人が1人は入れるほどの空間の穴だけど、全長100メートルのマグラも当たり前のように入れたしな。この辺の転移の仕組みも時空神デスペラードが構築したのかな)
全長2メートルほどの異空間の入り口だが巨大なハクも大丈夫なことは確認済みだ。
ぞろぞろと仲間たちが掛け軸の裏側にできた武神の神域へと向かう。
『おい、ちょっとまて。お前、俺の貸してやったアスカロンを使っても役に立たなかったようじゃねえか』
「……う、うん。何かネスティラド強くって」
『おいおいおいおい、俺が力を与えた人間がそんなんでどうする!』
戦いが終わってから少し元気がなかったクレナが思いを口にした。
どうやらネスティラドがあまりにも強すぎて、活躍できなかったことをクレナが悔やんでいるようだ。
(いや、そんなことないぞ。ドゴラよりはやれていたはずだけど。コンボの数はドゴラが上だけど働きは決して負けていないぞ)
「おい!」
「何だよ、アレン!? 俺が悪いのかよ!!」
お前が自信満々だからクレナが凹んだんだろと、アレンがドゴラに理不尽に叱責する。
「ごめんなさい。もう一度、鍛え直してほしいです」
『しゃあねえな。乗りかけた船だ。覚悟しろよ』
「ありがとうございます!!」
「じゃあ、クレナは剣神様の下へ修行し直しだな。終わって余裕があれば勇者の下へ行ってくれ」
「ごめんなさい」
「いやいや、皆が強くなる。そのための試練だからな。さらなる修行があるのであれば、是非やってくれ」
「分かった!」
アレンの言葉にクレナに笑顔が戻る。
アレン、ソフィー、ルーク、フォルマールはこれから霊獣ネスティラドの心臓を魔法神イシリスに捧げ、セシルの強化に協力する予定だ。
クレナも剣神の修行に向き合うようなので、アレンの横でこの5人以外にもう1人、武神の神域に行かない者がいた。
「頑張ってね」
人間界に戻りたかったのだが、神界闘技場へ流れ出来てしまい、ペロムスは皆頑張るように手を振っている。
ようやく一仕事を終え、人間界に戻り、新妻のフィオナに会うことを思っているようだ。
「は? ペロムス。お前も来るんだよ」
「へ? ちょ、ドゴラ!?」
ワシャッと首根っこを掴まれたペロムスの小柄な体は、ドゴラの凶悪な手によって足が床板から離れるのであった。
あとがき
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