第175話 ティアモ攻防戦②

 アレン達は、ティアモの街から3キロメートルほど離れた位置にいる。

 高さ1キロの上空にいるので、街にへばりついたように見える魔獣と兵達の戦いが良く見える。


(4つの街とも攻防戦は佳境だな。落ちそうな街はないかな)


 攻防戦が始まっているのはティアモの街だけではない。

 鳥Eの召喚獣の鷹の目で確認すると、ティアモと同じくローゼンヘイム南部を守っている3つの街も、現在魔王軍と応戦中だ。


 ティアモ以外の3つの街でも開戦以前に魚DCBの召喚獣のバフを掛けてきている。

 戦争に絶対はないが、今のところ無難に攻防戦が推移しているように見える。


 アレン達はティアモの街まで500メートルほどの位置に移動する。高度も下げ、地面すれすれの高さで止まる。


「じゃあ始めるか。えっと、あと召喚できるのは37体か」


 アレンは魔導書を使い、出現できる召喚獣の数を確認する。現在召喚しているのは33体だ。


 ・ロダン開拓村に2体

 ・グランヴェル子爵の元に1体

 ・中央大陸北部の応援に15体

 ・ネストの街に2体

 ・ティアモを含む攻防戦中の4つの街に8体

 ・アレン達の乗っている鳥Bの召喚獣5体


 ロダン開拓村には、村の防御のために鳥Eと霊Bの召喚獣を監視と護衛につけている。

 ネストの街を含むローゼンヘイム5つの街にも、それぞれ鳥Fと霊Bの召喚獣を連絡と戦闘要員として置いている。


「37体で大丈夫なの? やっぱり中央大陸の15体は多すぎたんじゃない? 薬も大量に送ったんだし減らしたら?」


 セシルが後ろからアレンの魔導書を覗き込む。

 召喚枠の節約のため、アレンとセシル、ソフィーとフォルマールは2人乗りに変えた。鳥Bの召喚獣は大きいため2人乗りでも問題ない。


「まあ、あっちももうすぐ戦闘が始まるからな。やられて減ればこっちの要員が増えるが、わざわざ減らす必要もないだろう」


 別動隊は何日もかけて中央大陸北部まで行った。回復薬も持たせているので、全て使い切ってやられてからでもいいだろうと思っている。


「ふ~ん」


 それだけ言うと、アレンは虫Bの召喚獣を1体ずつ召喚し始める。ティアモの街南の外壁に沿って、100メートル間隔で30体を召喚する。


 ついでに竜Bの召喚獣も5体召喚する。残り召喚枠は2体だ。


「よし、アリポン達産卵しろ」


『『『ギチギチ!』』』


 召喚しながら移動した距離が3キロメートルに及ぶので、鳥Fの伝達を使い、遠くにいる虫Bの召喚獣を含めて一気に覚醒スキル「産卵」を使わせる。


 すると虫Bの召喚獣の目の前に巨大な卵が100個現れる。全て合わせると30体で3000個の卵だ。


 卵のビジュアルは光る泡となり消え、合計3000体の虫Bの召喚獣と同じ見た目、半分くらいの大きさの召喚獣が現れる。


 虫Bの覚醒スキルは、自らの半分の大きさ、ステータスも自らの半分の子供を100体生むというものだ。アレンはこの覚醒スキルにより生まれた子供を「子アリポン」と名付けた。

 クールタイムは1日で、召喚獣が活動できるのは30日なので最大30回産卵することが可能だ。子アリポンはやられない限り最大1ヵ月間存在可能だ。最大というのは親蟻の最大存在期間だ。子アリポンは、親である虫Bの召喚獣の連続召喚期間を過ぎてしまえば消えるし、また親である虫Bの召喚獣をカードに戻しても消える。


・蟻Bの召喚獣の覚醒スキル「産卵」により生まれた子アリポン

 【名 前】 子アリポン

 【体 力】 1300

 【魔 力】 500

 【攻撃力】 1200

 【耐久力】 2000(親が強化済み)

 【素早さ】 2000(親が強化済み)

 【知 力】 1000

 【幸 運】 900

 【特 技】 ギ酸


「よし、アリポン達、子アリポンを前進させるんだ」


『『『ギチギチ!』』』


 アレンの合図とともに30体の蟻Bの召喚獣は、自らの覚醒スキルにより生まれた子アリポン達をティアモに向けて前進させていく。


 子供と言っても体長が5メートルに達するのが3000体だ。

 また、耐久力と素早さは2000に達する。

 親である虫Bの召喚獣を強化し、耐久力と素早さを4000にした後産卵させたため、強化後のステータスが子アリポンに反映される。


「キール! ソフィー! 補助魔法を掛けて、戦闘に入るぞ」


「おう!」


「分かりました、アレン様!」


 キールとソフィーが防御系の補助魔法を、召喚獣を含めてアレン達全員に掛けていく。

 この補助魔法は子アリポン達にも効果がある。



「ハラミ、フカヒレも補助を掛けろ。覚醒スキルもだ」


『『……』』


 魚Dと魚Cは話せないが、了解したと土の中を泳ぎながらグルっと子アリポンも含めて全体にバフを掛けていく。そして、魔石を惜しまず、覚醒スキルも再作成を繰り返しながら子アリポン含めて全体に掛けていく。


「ゲンブ、タートルシールドとタートルバリアを掛けて回ってくれ」


『ふぉふぉふぉ、分かりましたのじゃ。老骨に鞭を打ってかけて回るのじゃ』


 お爺ちゃん風の語り口調の魚Bが土の中から甲羅だけ出しながら特技を掛けて回る。


 タートルシールドは受けるダメージを2割下げる。タートルバリアは受けるダメージを5割下げる。この特技と覚醒スキルの効果が重なるので、受けるダメージが6割も下がる。


 なお魚Bのダメージ減の効果は物理、魔法、ブレス全てに効果がある。

 タートルシールドは効果が24時間で効果範囲50メートル以内にいる仲間。

 タートルバリアは効果が1時間で、効果範囲は100メートル以内にいる仲間だ。


(うし、勇者のエクストラスキル級の一撃を食らわなければ即死はなくなったな。いくで)


 勇者ヘルミオスと戦った際は、アレン自身と石Bの召喚獣にもタートルシールドとタートルバリアをかけていた。それでも石Bもアレン自身もかなりの重傷を負わされた。勇者の強さが窺える。


「全力で進め!」


『『『ギチギチ!!』』』


『『『ギチギチギチ!!』』』


 補助を全てかけ終わったので隊列を組んだまま、ずんずん前に走らせる。

 子アリポンはアレンの指示を聞くこともできるが、基本的に親である虫Bの召喚獣に任せてある。


 魔王軍の最後尾まで100メートルを切ったが構わず進む。


 そして、ティアモの外壁を見ていた多くの魔獣を後ろから攻める。初撃は竜Bの召喚獣の広範囲ブレスだ。一気に魔獣達を燃やして回る。


 そして、子アリポンが魔王軍に接敵したので新たな指示を出す。


「ギ酸を使え!」


 鳥Fの伝令を使い、東西3キロメートル以上に広がった子アリポン達に一気に指示を出す。

 

 このギ酸は、子アリポンも虫Bの召喚獣も使える特技だ。耐久力と耐性両方を下げる毒をお尻から噴射するというもので、範囲数十メートルにいる敵に効果があり、毒耐性のない魔獣はこのギ酸だけで死ぬこともある。


 溶解液に近い効果があるので、物質系の魔獣に特に効果がある。


「じゃんじゃん掛けろ、掛けまくれ!!」


 アレンの言葉に従って、攻撃することなく特技の使用に終始する。


 外壁にいるエルフの部隊が驚きながらアレン達を見ている。


「あの蟻は援軍だ、攻撃する必要はない。目の前の魔獣だけ狙え!!!」


(あんまりこっちには矢が来ないな。少しは来るかと思ったけど)


 将軍達が口々に召喚獣達を攻撃するなという。

 エルフの兵達は分かりましたと、目の前の魔獣への攻撃に専念する。


 耐久力も耐性も下がった魔獣達を竜Bの召喚獣達が消し炭にしていく。

 全ての耐性を下げるので、ブレス耐性も下げる。そしてアレンの後ろにいるセシルも風魔法で攻撃をする。


 これは、ギ酸を掛けた上での竜Bのブレスでも死なないということは火属性に強い耐性を持つ可能性があるので、別の属性攻撃をするためだ。


 常に相手の耐性を考えて攻撃することが戦いの基本だ。セシルは、アレンが竜Bの召喚獣を出すようになってから、火属性以外の魔法を使うことが多くなった。


 子アリポンをぐいぐい食い込ませて前の方の魔獣にもギ酸を掛けて回った。耐久力が落ちた魔獣がエルフ達の矢で今まで以上に死に始めた。


「絶対に逃がすな。全て殲滅しろ!!」


 アレンは1体も逃がすなと声を上げる。


 今回の戦いは、街の防衛は当然だが、敵の殲滅を目指している。

 それも東西南北どこでもいいので、1辺の壁の敵を全て殲滅したい。

 北は本陣が現在も移動しておらず、南が確実かつ一番魔獣が多かったので、南側を攻めた。


 目的は魔石だ。


 Bランクの魔石は、ティアモを含む4つの防衛線を引いている街に配る天の恵みで、すごい勢いで減っていく。


 今回の防衛戦でBランク魔石が底をつく。現在、天の恵みはほとんど配ってしまい、魔石は1000個かそこらしかない。


 魔石を回収するために魔獣を倒しても、解体して回収しなくてはいけないので魔獣が他にいては回収できない。魔獣を全て殲滅して回収できる状態にしなくてはいけない。


 魔獣達は負けると分かれば、知恵があるのか退却もすると聞いている。1匹も逃がさないために今回挟み込む形にした。


 クレナとドゴラも全力で武器を振るう。


 魔獣の一部が状況を理解し退却をしようとする。

 しかし、それを子アリポンが邪魔をする。


 子アリポンのステータスは全般的にマーダーガルシュより高い。

 攻撃力はそこまで高くないが補助が掛かり、その辺のBランクの魔獣を蹂躙できる力がある。


 一匹も逃がさないぞと魔獣達を子アリポンが大きな顎で砕き始める。


(やはり戦争で一番輝くのはアリポンだったな。数は力だ。覚醒も強化もできないが、これだけの結果を生むとは)


 子アリポンに対しては強化、共有、覚醒のスキルを使用できない。召喚獣のバフとキールやソフィーの補助魔法は効くが、召喚スキルは不可となっている。


 しかし、それ以上の戦果を挙げている。


 1時間かそこらで子アリポンが外壁に達した。

 外壁前は魔獣の死体で埋め尽くされている。


(ふむ、普通に殲滅できたな。Sランク級の魔獣はいなかったか。そんなにいないのか)


 アレンが戦果を分析する中、エルフ達の勝利の雄叫びが外壁の上から聞こえる。


「ドラドラ達とアリポン達は、東と西側の外壁に応援に行け。あんまりいると魔石の回収に邪魔だからな」


 アレンの指示で東西に半分ずつ分かれて、まだ戦っている東西の魔獣を狩りに移動を始める。


 数百体の子アリポンは南側に残し、魔石を回収しやすいように魔獣の腹部に顎で切り口を入れてもらう。あとで霊Bの召喚獣達に袋を持たせて回収させるためだ。


 それから1時間もしないうちに、囲い込めなかった東西の魔獣達は北部に逃げていくのであった。


 外壁に上がるエルフ達がその様子を見てさらなる歓喜の声を上げる中、ティアモ攻防戦は勝利という形で終わったのであった。

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