第252話 ドゴラの尻①

 アレンたちは4階層を目指す。

 今日は4階層初挑戦の日だ。


「……」


 拠点から歩いて10分のところにある2階層に行ける神殿の門番が、無言でソフィーを見つめている。


 門番の視線の先にはソフィーが赤ちゃんのように抱っこする真っ赤なオオサンショウウオのような見た目の火の幼精霊サラマンダーがいる。


「ああ、ちょっと、大人しくしてくださいね」


『アウアウ』


(相変わらず赤ちゃんだな。それにしても、門番はまだ見つめてくるな)


 たまにソフィーの腕の中で手をバタバタと動かし暴れたりする。

 そんなサラマンダーを門番は表情もなく静かに見つめる。


 初めて、サラマンダーを抱えてこの神殿に入ろうとしたとき、門番に止められた。

 何を抱えて神殿の中に入るのか、魔獣を連れているのかと言った話であった

 アレンの足を止めた門番は、中に入れる者、断る者をしっかり選別するようだ。


 「この子は精霊です」とソフィーが言うと、怪訝な目で見て立ち塞がったまま動かない。


 そこでフォルマールの登場だ。

 「バウキス帝国は精霊を受け入れない国であるということで良いのか?」と門番に詰め寄った。

 「キスするの?」と思うくらい睨みつけたまま顔間数センチのところまで迫った。

 次期女王最有力候補のソフィーの護衛であり、側仕えのフォルマールは、ローゼンヘイムでもかなりの立場であったりする。


 しかし、毅然とした態度で門番はその場で動かないので、ローゼンヘイムから連絡があるだろうと、その場で精霊を仕舞った。

 その日のうちにローゼンヘイムからバウキス帝国宛てに、女王から正式なルートを通じて通達させた。


 通達内容は、バウキス帝国は精霊を無下に扱わないようにというお願いの話だ。

 バウキス帝国内での精霊への扱いについては5大陸同盟の会議でも話し合わせていただきますと付け加えた。


 そこまでしたので、数日後の次回も当たり前のように精霊を抱きかかえてソフィーが通ったら、門番は何も言ってこなかった。

 バウキス帝国はすぐに対応してくれたようだ。


 アレンたちが戦っているのは何かを考えれば、致し方ないことだ。

 精霊との親和性は、出来るだけ長い時間顕現させ、心を込めて接することでしか向上しないと精霊使いガトルーガが言っていた。

 ソフィーには起きている間はずっと、精霊を顕現させ共にいるように伝えてある。


「ここか? 聞いていた通り何かの葉っぱの上って感じだな」


「そうね。踏むと少し柔らかいわね」


 アレンたちはメダルを使って初めて4階層に移動した。


 4階層の地面は緑であった。

 どこか葉っぱのような感じがするのは、葉脈のような筋が地面に走っているからだろう。

 弾力があるものの、足に力を込めても破れる気配がないので、結構な厚みがあるようだ。


(この辺は勇者に聞いていた通りか。ホークを出して全体を見てと)


 4階層は勇者ヘルミオスパーティーが活動している階層だ。

 階層の状況については既に確認をしている。


 しかし、アレンは聞いた話の通りか確認するため、鳥Eの召喚獣を召喚する。


 上空から見たアレンの足元は確かに池などに浮いている蓮の葉のような葉っぱの上だった。


 上空から見ると、4階層に転送された場所は1キロメートル四方ほどの大きな蓮の葉の上だ。

 そして、覚醒スキル「千里眼」で広範囲を見回すと、水面に蓮の葉は点在していて、その葉の上に魔獣であったり冒険者が活動していることが分かる。


(4階層は水の上ってことか)


 4階層は広大な水上の地形だった。

 その上を葉っぱが点在、水面や葉っぱの上を移動して攻略を進めると聞いた。


「どうやら、ヘルミオスさんから聞いていた通りだな。まあ、俺たちはグリフに乗って移動するから、水面でも砂の上でもどっちでもいいんだけどね」


「そう言われてみたらそうね。じゃあ、あのキューブもヘルミオスさんと同じことを言うのかしら?」


 アレンがキューブキューブ言うので、パーティーの仲間も言い方が伝染している。


「そうだな。セシル。一応確認してみるか」


 話に聞いていた通りの階層であった。

 キューブ状の物体が視界に入っているので、次の階層へ行く条件を確認することにする。


『こんにちは。廃ゲーマーの皆様。ダンジョン階層管理システムS401です。次の階層に行きますか? それとも1階層に戻りますか?』


「次の階層に行きたいです」


『5階層ですね。ブロンズメダル、アイアンメダル、ミスリルメダルをそれぞれ5種類お出しください』


(5枚じゃなくて、5種類か)


 2階層でも3階層でも次の階層に行くのに求められてきたのは「枚数」だった。


「それぞれ同種類の5枚では行けないということですか?」


『はい。その通りです。それぞれ絵柄の異なるメダルを5枚ずつ頂かないと5階層へは案内できません』


「2階層から4階層の階層ボスは何種類いるのですか?」


『それぞれ5種類です』


「やっぱりSランクの階層ボスを倒せってことね」


 次の階層に行くには異なる全ての階層ボスを倒さないといけない。

 それは2階層のビービーと3階層のスカーレットのSランクの階層ボスも含まれることになる。


 だから、勇者ヘルミオスは5階層に行くことを断念していると聞いた。

 今のパーティーの仲間たちと無理をすれば、Sランクの階層ボスを倒して次の階層に行けるかもしれない。

 しかし、無理をすると言うことは仲間を失うかもしれないということだ。


 ヘルミオスは二の足を踏んだ。


「次の階層への条件は確認したぞ。とりあえず、4階層がどんな感じか見て回るか」


 このまま、この階層に留まるのか、1つ前の階層に戻るのか判断するため4階層を散策することにする。

 鳥Bの召喚獣を出して、葉っぱの上から上空に舞い移動を開始する。


「ここもドワーフが活動しやすいようね。なんかすごいわね」


「ああ、セシル。元々ドワーフたちは海上で魔王軍と戦っているみたいだからな」


 海上ではドワーフが操縦するゴーレムが海上用に変形している。

 砂の上を走るのと同じ形状のようだ。


 魔王軍との戦いもこのように海上を制して、戦いを有利に進めているのかなと思う。


 アレンの前にはメルルが1人で乗る鳥Bの召喚獣が見える。

 メルルが合流してからしばらくは、大盾を持たせて後衛の仲間たちを守るため一緒の鳥Bの召喚獣に乗っていた。


 しかし、メルルがアイアンゴーレムを手に入れてからは、クレナとドゴラ同様に前衛を務めることになる。

 特に巨大なゴーレムを操作するメルルはそれだけで後衛の仲間たちにとって巨大な盾になる。

 小回りの利くクレナとドゴラとの違いが戦術に一層の多様性をもたらした。


 そして、「メルルがいなくなったわね」とセシルがアレンの後ろに当たり前のように座る。


 最後衛がキールと、ソフィーとフォルマールの2人乗り組なので、アレンがいる中衛ポジションの方が攻撃しやすいようだ。


「む、あっちに魔獣がいるぞ!!」


 距離があるので大きな声でアレンが叫んだ。

 鳥Eの召喚獣が葉っぱの上で休む3体のイモリとドラゴンの中間のような見た目の魔獣を発見する。


(この階層は水棲の魔獣が多いんだっけ)


 この階層は水の階層に合わせた水生の魔獣が多いとヘルミオスから聞いている。

 そして、4階層はほとんどAランクの魔獣だという。

 

 クレナ、ドゴラ、メルルが魔獣に距離を詰めていく。


「タムタム降臨!!」


 メルルが鳥Bの上で魔導盤を両手で掲げ叫んだ。

 巨大な魔法陣が葉っぱの上に浮き出て、一気に巨大なアイアンゴーレムが出現する。

 そして、メルルは慣れたように鳥Bに乗ったまま魔導盤をアイアンゴーレムの胸部にある水晶部分にかざし、吸い込まれるようにゴーレムの中に入って行く。


 魔獣たちも既にアレンたちの接近に気付いているので、3体とも臨戦態勢で突っ込んで来ている。

 接近した魔獣の一体を20メートルに達したメルルが操縦するアイアンゴーレムが押さえ込む。


 【名 前】 タムタム

 【操縦者】 メルル

 【ランク】 アイアン

 【体 力】 3000+1800

 【魔 力】 3000+1800

 【攻撃力】 3000+5800

 【耐久力】 3000+3800

 【素早さ】 3000

 【知 力】 3000+1800

 【幸 運】 3000


 3階層でアレンたちは巨大化用石板を手に入れた。

 石板2つ分の大きさのあるこの石板をはめると、10メートルあったアイアンゴーレムが20メートルになった。

 そして、全ステータスが2倍になった。


 メルルのスキル経験値とスキルレベルがカンストしたこともあり、アイアンゴーレムはAランクの魔獣も抑えておけるほどの耐久力を得た。


 攻撃面ではクレナやドゴラの方が武器も揃っているため優勢だが、十分タンクの役目を果たしている。


 メルルが抑え込み、魔獣達の動きを封じている間にクレナとドゴラが魔獣たちを狩り取っていく。


 セシルやフォルマールも遠距離から応戦するので1体また1体と数を減らしていく。

 そして残り1体になったところであった。


「よっしゃ、お前で最後だああ!!」


 ドゴラが勢いよく魔獣に突っ込んでいく。


「って、ちょっと。待って。お待ちくだ……」


 ソフィーからただならぬ声が聞こえる。


(ん? って!?)


「おい、避けろ。ドゴラ! 後ろから来るぞ!!」


 アレンも慌てて大きな声を出す。


 ずっと戦闘に参加していなかったソフィーの胸元にいたサラマンダーが真っ赤で巨大な炎の塊になって、魔獣に向かって突っ込んだ。


「そ、ソフィアローネ様!!」


 ソフィーが一瞬意識を失ったのか、項垂れてしまい、後ろにいたフォルマールが心配の声を上げ、ソフィーが地面に落下しないよう両手で押さえる。


 ソフィーの全ての魔力をサラマンダーが吸い取ってしまったようだ。


「ん? おあっち!!」


 鳥Bの召喚獣をアレンは必死に操作したが間に合わなかった。

 鳥Bの召喚獣がサラマンダーの攻撃を受けて光る泡になって消えていく。 

 ドゴラのお尻が燃え、漫画のように飛び上がる。


 最後の1体の魔獣はサラマンダーの攻撃を受け瞬殺され、葉っぱは水面が大きく見えるほど焼け焦げ、水面は広範囲で沸騰している。


「も、申し訳ございません。ま、またやってしまいました」


 意識を取り戻したソフィーがこの惨状を必死に謝る。

 そこは、広範囲に焼けた葉と、沸騰して煮えたぎった窯のような湯気で視界が悪くなった地獄絵図と化していた。


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