第244話 隠しキューブ
前世の話を聞かせろという皆の抗議を払いのけて、アレンは急いで鳥Bの召喚獣に乗って移動する。
「ちょっと、後で聖騎士について詳しく聞かせてもらうわよ! って返事しなさいよ! アレン!!」
「……」
後ろから強い口調で飛んでくるセシルの言葉をアレンは無言で受け止める。
(ここは嵐が過ぎるのを待つしかない。さて、やっと見つけたぞ。だが聞いて1日目で見つけることが出来たのか。運が良いな)
今日から3泊4日でダンジョンに通うと仲間たちに伝えてある。
転送先の広場は魔獣が湧かないし、他の冒険者のパーティーは1箇所に固まって思い思いに宿泊している。
中にはゴーレムを拠点のように変形させて中で寝泊まりしているパーティーもあったりする。
夜が来れば逃げ場が無くなるが、アレンは問題を先送りにする。
アレンはこの岩山のどこかに『隠しキューブ』がいることを昨晩に聞いた。
場所はギアムート帝国の帝都で、王城近くにあるヘルミオスの邸宅だ。
そこには霊Bの召喚獣が1体いる。
その霊Bの召喚獣をとおして、ビービーも含めてこのダンジョンの攻略において足りなかった追加の情報を求めた。やはり、入ってみて知りたいことは増えてくる。
ヘルミオスは4階層を中心に活動をしていたため、そこまで詳しくないと言われながらも、2階層と3階層についての情報を聞き出すことができた。
ヘルミオス邸だけではなく、アレンは現在、世界中に召喚獣を配置させている。
首都フォルテニアは現在復興中のため、女王と長老たちのいるティアモの街。
ラターシュ王国の王都近郊にあるエルフの外交官が住むことになった館。
グランヴェルの街のグランヴェル子爵の館。
ロダン開拓村。
世界各地に配置している理由は情報収集のためで、ダンジョン攻略中であることも勘案し配置を決めている。
ダンジョンにいるから魔王軍の侵攻に気付かなかった等ならないよう、不測の事態に備えた形だ。
家族のいる開拓村は開拓の手伝いと魔獣からの護衛も兼ねている。
アレンにとって家族の繁栄は、最も大切にしていることの1つだ。
その他にもグランヴェル子爵領及びカルネル男爵領の魔獣討伐のために竜Bの召喚獣を1体配置させている。白竜のハクを育てるのも兼務しているので結構忙しそうだ。
倒した魔獣で食いでが多いのはハクの餌なのだが、とんでもない食欲で食べ続け、日々大きくなっている。
岩山の大穴の中にアレンたちは入って行く。
「良かった。まだ消えていなかったな。皆、話しかけるから気を引き締めてくれ。もしかしたら飛ばされるかもしれない」
見つけた岩山にできた大穴の奥には、広場にいるのと同じキューブ状の物体がいた。
「ふむ。分かった」
そう言うとフォルマールが背中から弓を取り外し、胸元で握り締める。
「じゃあ、いくよ。すみません」
アレンも警戒しつつも、キューブ状の物体に話しかける。
『こんにちは。廃ゲーマーの皆さま。ダンジョン報酬交換システムS302です。石板とメダルの交換をしますか?』
(罠系ではなく、交換系のやつか)
「交換ですか。すみませんが、いくつか質問をしてもいいですか?」
『どうぞ』
アレンはこのキューブ状の物体が何をしてくれるのか詳細に確認することにする。
交換するメダルと石板の種類は両方ともアイアンのみ。
メダルから石板にも、石板からメダルにも交換可能。
交換はメダル3枚に対して石板1つ。
交換は1回のみ。
石板は本体用石板のみで頭、体、右腕、左腕、足からランダムで1つ。
このキューブでは、本体用以外の石板は交換していない。
(何だ。特殊系の交換ではないのか)
ヘルミオスから、キューブ状の物体は階層に1つだけではないと聞いた。
何でも階層のどこかに現れ、時間が経つと階層ボスのように転送を繰り返すという。
2階層なら木のウロの中、3階層なら岩山の大穴の中でよく見かけるがその限りではない。
交換は、本体用石板だけではなく、巨大化用石板、強化用石板、機動用石板、特殊用石板など多岐にわたる石板をメダルと交換してくれる。
必要なメダルの数は交換する石板の種類で変わってくる。
中にはメダル10枚以上必要な交換もあるらしい。
さらに、このキューブ状の物体はメダルと石板の交換だけではない。
無償でメダルや石板をくれることもある。
また、ボーナスステージ、デスステージへの転送など、通常の階層以外の場所への転送もしてくれる。
デスステージへの転送は話しかけた瞬間、パーティー単位で魔獣が大量にいる別空間に強制移動になるという。
その結果、Aランクの魔獣の群れに囲まれ全滅することもあり、これもダンジョンで死亡者が多い理由の1つらしい。
「隠しキューブには実力が無いのに話しかけてはいけない」が冒険者の常識らしい。
「ではアイアンメダル3枚で交換します」
アレンはためらうことなく収納からアイアンメダルを3枚出す。
(メルルのゴーレムは遊び心の塊だな)
朝から3階層を走り続けて手に入れた3枚のメダルを惜しげもなく交換するアレンの行動を、仲間たちは誰も止めはしない。
アレンが常に仲間のために最善の強さを求めてきたことは学園にいたころから知っている。
『確認しました。ではお受取り下さい』
アレンの手元からアイアンメダルが3枚消失する。
そして、重力を失ったようにアイアンの本体専用石板の頭部分がふわりと浮いている。
「これは頭か。これで1つ目だ。あと4つだな。頭の部分が被ったらすまんな」
次に宝箱で頭部分の石板が出て被ってしまったらすまないと思う。
(まあ、こういうものは最後の1つが出なくて被り続けるものだけど)
「……ありがと」
午前中かけて探し回り、魔獣と戦って倒して得たメダル3枚を惜しげもなく交換する。
迷いない行動に、メルルは動揺してしまう。
「ほら、石板をはめてみて」
「う、うん。おお……」
魔導盤の本体用石板をはめる箇所の頭部分に、手に入れた鋼鉄製の石板をはめる。
申し訳ないと思っていたメルルであるが、一歩前進することが出来て表情が不安から喜びに変わる。
「アレンはこんな感じじゃない。なんたって聖騎士なんだもん。きっと器が大きいのよ。そう、あの時も聖騎士だったからか……」
「なるほど、王族や貴族に対して慣れているのは、それが理由か」
セシルは聖騎士が気になるようだ。
過去のアレンの行動や発言に何か納得するものがあるらしい。
キールが、セシルの言葉にさらなる納得感を与える発言をし、他の皆も頷いている。
(何かどんどん勘違いが広がっていくな)
学生時代にカッコいいだけで選んだとは言いづらくなったアレンは無反応に努める。
騎士がカッコいいと言えば、今度はクレナやドゴラが強く反応しそうだ。
2人に騎士への道へ連れて行かれることになるのは容易に想像がつく。
キューブ状の物体がゆっくりと輪郭を失うように消えていく。
(お、役目を終えると消えるのか。さて次だな)
「じゃあ、次の岩山に行くぞ。あっちに宝箱があるから消える前に回収するぞ」
「さすが、アレン様です」
褒める役のソフィーが、両手を胸元で握りしめ感動してくれる。
セシルたちの勘違いもフォローしてほしいとアレンは切に願う。
S級ダンジョンに入り始めて2日目で、これだけ攻略の糸口が見え始めた。
アレンは常に召喚獣を使い、岩山の中を確認させ続けている。
他の冒険者パーティーは、移動中に魔獣が砂の中から攻めてくるので、それに対応する陣形で移動しなくていけない。
岩山の中に魔獣がいるかもしれないので、ここでも一度陣形を組む必要がある。
お陰で、時間はどんどん過ぎていく。
しかし、アレンたちはそんなことをする必要はない。
10体以上の召喚獣が、時間をロスすることも無く、そして休まず岩山の中を探し続けている。
(え? 視界が一気に変わったんだが)
仲間たちと共に鳥Bの召喚獣に乗って移動している途中、共有していた魚Bの召喚獣の視界が変わった。
「む? って、ここは空中か? ゲンブが空を飛んでいるぞ」
「どうしたの? アレン」
メルルがアレンの異変に気付く。
「って、また、なんで止まるのよ!」
空中でブレーキを掛けたので、セシルが後方から抗議する。
「いや、一瞬だが朱色の長い胴体が見えたから『スカーレット』だと思うが、ゲンブがやられそうだ。ちょっと行ってみるぞ」
「え? スカーレットって、この階層のSランクの階層ボスよね? 大丈夫なの?」
「無理ならまた逃げる。ちょっと、どういう魔獣か見ておきたい。皆ここから近いぞ!」
(Sランクなら必ず負けるとは限らないし、倒せるなら倒してしまいたい)
2階層の階層ボスで、Sランクの魔獣ビービーに敗走したのは昨日のことだ。
アレンが行き先をSランクの魔獣に変更することを決めたので、仲間たちの表情に緊張が走るのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます