第03話 魔導書
アレンは目の前に現れた大きな本に驚く。
「ふ、ふぎゃああ!!!」
「アレン!?」
(やばい、思わず泣きだしてもうたがな。お、落ち着け、素数を数えるんや)
まだ1歳と感情の抑制が利かない年齢のため、突然のことで大きな声で泣きだしてしまう。必死に自制しようとする。
アレンの住む家は平屋1階建て。土間が中央にあり、その奥に囲炉裏のある居間があり、3人で食事をする。囲炉裏を挟んで両端に部屋が2つあり、アレンは片方の部屋でいつも寝ている。
いわゆる子供部屋だ。部屋の奥に寝かされたアレンの大きな泣き声に反応してテレシアが駆け寄ってくる。
(あかん、この本が見つかってしまう。き、消えてくれ)
「アレン? 大丈夫でちゅか?」
アレンが望むと大きな本はすっと消えた。
「あいあい」
(ふう、赤ちゃん言葉を話すのも苦労するぜ。まあ、口がよく発達していないからまだはっきりと話せないがな)
テレシアに笑顔で問題ないよという風に笑顔を見せるアレン。もう驚かせないでねと言わんばかりに肩をぽんぽんされて、テレシアが土間に戻っていく。
(バレなかったな? いやタイミング的にアウトだったと思うけど。これってもしかすると、他の人にはこの本が見えないんじゃ?)
テレシアの視線的にもタイミング的にも完全に宙に浮く本が見えた気がするけど、視線が一切本に行かなかった。気が付かなかったように見える。
問題ないのであればと思い、もう一度本よ出ろと念じ本を出そうとしてみる。
ブンッ
(普通に本が出てきたな。銀か白の柄があったように見えたけど、真っ黒な分厚い本だ。召喚士だから本を召喚したのか?)
目の前の本がなんなのか詳しく観察をする。それはとても分厚い本であった。真っ黒なハードカバー。国立図書館に所蔵してある分厚い辞典のようだ。背表紙にも表紙にも何も記載がない無地の黒い本である。
(ふむふむ、回れ)
アレンが本に回転するように念じると、くるくると回り始める。同じ要領で近くに寄せてみて触ってみると、普通に本の感触である。
(まるで実物の本が浮いているな、開いてみるか)
1ページ目を開いてみる。宙に浮いているため、1ページ目を開くように念じるのだ。
(お! これはステータスやんけ!!!)
かつてないほどの歓喜がこみ上げてくる。1ページ目にはアレンのステータスが表示されていたのだ。
【名 前】 アレン
【年 齢】 1
【職 業】 召喚士
【レベル】 1
【体 力】 4(40)
【魔 力】 2(20)
【攻撃力】 1(10)
【耐久力】 1(10)
【素早さ】 2(25)
【知 力】 3(30)
【幸 運】 2(25)
【スキル】 召喚〈1〉、生成〈1〉、削除
【経験値】 0/1,000
(ほうほう、これはどう見たらいいだろうか)
アレンの座右の銘は、「ステータスを制するものはゲームを制する」である。
いかに、ステータスから攻略の糸口を見つけるかが肝心なのだ。
(体力横の()とスキル横の〈〉が違うな。これは意味が違うから括弧の形を変えているのか。お? 2ページ目にも何か書いてあるぞ)
・スキルレベル
【召 喚】 1
【生 成】 1
・スキル経験値
【生 成】 0/1,000
・生成可能召喚獣
【 虫 】 H
【 獣 】 H
・ホルダー
【 虫 】 H0枚
【 獣 】 H0枚
2ページ目を確認する。どうやら、召喚スキルの詳細が表示されているようだ。
1ページ目と2ページ目を見比べる。
(2ページ目のスキルレベルが1ページ目のスキルの括弧の中の数字と同じだから、これはスキルレベルを表現しているのか、じゃあ体力の4は括弧内の10分の1だから、おそらく年齢によるステータスの減少を表しているのか?)
アレンの推察では体力や魔力などのステータスは括弧内の概ね10分の1である。大人と赤子では、ステータスに差があるのは当たり前だ。年齢によるステータスの減算分を表現しているのではと推察した。
(これ以上は予想の範囲を超えてしまうな)
答えの出ない分析より、まずは分かることから考える。
視線を2ページ目に移す。
(召喚と生成で違うんだな。召喚にはないが、生成にはスキル経験値というものがあると。今は一度もスキルを使用していないから0になっているのか。分母があるということは、スキル経験値を1000稼いだらレベルアップということか?)
スキル経験値が増える条件は表示されていないから分からない。
しかし、ゲームを遊びつくしたゲーマーにとって、スキル経験値は使用すればするほど上がるというのが常識である。
(見た感じだと虫と獣を召喚できるということか? Hってなんだろう?)
これ以上分からないステータスより、2ページ目の召喚士のスキルについて分析を進める。
(異世界ものだと冒険者にランクがあるな、Sランク冒険者とか。それでいうとSABCDEFGHって9番目ってことか?いやそんなに低いランクから始まらないだろう、せめてEとかだろ。Hランクモンスターとか見たことないぞ)
アレンは現実世界にいたころゲーマーであった。
しかし、ゲームの疲れを癒すためや、通勤中の移動の際に、異世界ものの小説を読むことが日常であった。異世界ものの知識はかなりあるほうだ。
(今わかるのはこれくらいか。あとは召喚してみてから判断するか)
召喚に挑戦する前に、この本の他のページの確認をする。ステータス以外に何か情報がないか探すのだ。
(ページが少ないな。こんなに分厚いのに)
ページ数はそんなになく、白い本の中身が厚くごっそりめくれるのだ。
次に出てきた真っ白なページには凹みがある。縦長の四角形の凹みだ。
(ん? ここに何か入れるのか? 凹みは全部で10個か、ほうほう)
何も説明もなく、ただの四角形の凹みだ。何かカードのようなものを納めるのだろうと推察できる。1ページに凹みが4つあり、3ページにわたって凹みがある。
(これで全部か? ん? 最後のほうのページが光っているぞ)
1枚だけ淡く光るページがあることに気付くのだ。開いてみる。
(こ、これは手紙というかお知らせか?)
『拝啓 アレン様
平素よりお世話になっております。
異世界は楽しんでいただけていますか?
この度は【魔導書】の送付が遅れましたこと、誠に申し訳ございません。
謹んでお詫び申し上げます。
テストが終わっていない職業を選択されましたので、事務手続きが完了しておりませんでした。
スタッフ一同、急遽作成した次第でございます。
なお、本書の質問や職業のキャンセルは一切受け付けておりませんのでご容赦くださいませ。
異世界の神エルメアより』
中身を読むと、この本の送付が遅れた理由が書かれていたのであった。
(なるほど。まあテストが終わっていないっていう注意メッセージは無視して、この職業を選んだのは俺だしな。それに1年もかけて設定した職業ならしっかりしたものができているだろう)
アレンは思いのほか前向きに異世界の神からのメッセージを受け取るのであった。そして改めてこの世界が異世界であることを確信する。
最後まで読み切ると、文字は消え白紙のページに戻った。
(これで全部かな。他に見逃しがないのであれば、召喚をやってみようと思うのだが)
アレンは初召喚に挑戦してみるのであった。
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