第41話 制作者

「まじか」


 アレンは1人、休耕地の中でつぶやく。Eランクの召喚獣の分析を続けて3日になる。

 3日目にして、やっとEランクの召喚獣がそろった。


 この3日は、魔石収集に明け暮れたのであった。Eランクの召喚獣には魔石が必要であった。魔獣はEランクから存在する。召喚獣もEランクから魔石が必要になるのかと考察する。


 魔石は魔獣の中にある。どうも魔獣の心臓近くにあるらしい。これは村長の息子ペロムスに聞いた。ペロムスは博識で、アレンと違ってなんでも知っている。

 その魔石の使い道であるが、魔道具に使われるとのこと。魔道具の動力源になるという話だ。灯りの魔導具を領主のいる街で見たという話だった。


 その魔石であるが、この村には魔道具がなく、一切の需要がないようだ。DやCランクの魔石なら、領主のいる街に運ばれていくが、Eランクはほぼゴミである。銅貨1枚もしないとのことである。


 その結果、角の生えたウサギを捕まえても魔石を貯めている人もいれば、捨てる人もいる。ゲルダは後者であった。ゴミのように庭に捨てていた。いくつかクレナの家の庭先で拾うことができた。


 Eランクの召喚獣を全て生成や合成するのに、アレンとクレナの家の魔石では足りなかった。そこで朝の水くみに来ている農奴に声をかけてようやく全ての召喚獣が出そろった。あまり価値のない魔石であるし、アルバヘロンの解体を手伝ってくれた農奴たちが快くくれた。


 アレンはどうしても確認したいことがあったので休耕地の青々とした茂みの中にいる。この茂みより召喚獣のほうが大きい。

 外からも丸見えであるが、そんなことなどどうでもよくなるようなもっと重要なことで頭の中が満たされている。


「これが制作者の意図か」


 目の前の召喚獣を触りながら、何かを理解した。


 ゲームというものには、制作側の意図がある。この職業はこのように育ててほしい。戦闘ではこのように役立ててほしい。そういった意図が必ずある。例えば、剣士のステータスは攻撃力や体力が高いので、他の皆を守る盾になってほしいというような。


 その制作者側の意図に敢えて反して遊ぶ者もいる。ネタプレイと言われる遊び方だ。魔法使いなのに本来苦手なメイスで物理攻撃をメインにするなどだ。意図通りのプレイかネタプレイかで、どちらがより強くなるか一目瞭然である。


 制作者側の意図をくみ取ることは、ゲーマーにとって必須だ。


 これが通常のゲームなら攻略サイトなり、口コミなりで調べることができる。しかし、ここは異世界だ。自分で考えないといけない。


 ずっと、召喚士とはなんだろうと考えてきた。7年間考え抜いてきた。自らの職業だ。どんな戦闘スタイルだろう。どう戦えば、より意図をくみ取り、力を発揮できるのかということを考えてきた。


 召喚獣を戦わせるだけではない。これはHやFランクの召喚獣の特技を見たら理解できた。しかし、それだけではなかった。制作者の意図がEランクの召喚獣を揃えることによってとうとう理解できた。もしくは、理解に近づいてきた。


 制作者側である神の意図を知り驚愕した。


 Eランクの召喚獣である。


・形状は蝶々の虫Eのステータス

 【種 類】 虫

 【ランク】 E

 【名 前】 アゲハ

 【体 力】 25

 【魔 力】 0

 【攻撃力】 20

 【耐久力】 50

 【素早さ】 50

 【知 力】 24

 【幸 運】 28

 【加 護】 耐久力10、素早さ10

 【特 技】 鱗粉


・形状はサーベルタイガーの獣Eのステータス

 【種 類】 獣

 【ランク】 E

 【名 前】 タマ

 【体 力】 50

 【魔 力】 0

 【攻撃力】 50

 【耐久力】 20

 【素早さ】 35

 【知 力】 28

 【幸 運】 21

 【加 護】 体力10、攻撃力10

 【特 技】 ひっかく


・形状は鷹の鳥Eのステータス

 【種 類】 鳥

 【ランク】 E

 【名 前】 ホーク

 【体 力】 23

 【魔 力】 0

 【攻撃力】 22

 【耐久力】 24

 【素早さ】 50

 【知 力】 50

 【幸 運】 27

 【加 護】 素早さ10、知力10

 【特 技】 鷹の目


・形状は枝豆の草Eのステータス

 【種 類】 草

 【ランク】 E

 【名 前】 マメタロウ

 【体 力】 21

 【魔 力】 50

 【攻撃力】 20

 【耐久力】 22

 【素早さ】 20

 【知 力】 13

 【幸 運】 50

 【加 護】 魔力10、幸運10

 【特 技】 命の草


・形状は土壁の石Eのステータス

 【種 類】 石

 【ランク】 E

 【名 前】 カベオ

 【体 力】 50

 【魔 力】 20

 【攻撃力】 33

 【耐久力】 50

 【素早さ】 20

 【知 力】 23

 【幸 運】 28

 【加 護】 体力10、耐久力10

 【特 技】 硬くなる



 あまりの衝撃に、頭が真っ白になった。意識を戻し慌てて石Eの召喚獣をカードに戻す。


 魔導書の各召喚獣の特技に注目する。


(これはもう系統によって、明確な役割があるとみていいだろう)


 メモを使いながら召喚獣の系統別の役割について整理する。


・虫系統

 挑発、吸い付く、鱗粉

 敵の状態を怒り状態にする、吸い付くにより攻撃力を下げる、などから明らかに敵にデバフ効果をもたらす。鱗粉も名前から錯覚や麻痺、眠りなどの効果を敵にもたらすと予想できる。


・獣系統

 特技は、穴を掘る、噛みつく、ひっかく

 唯一の攻撃主体の系統である。高い体力と攻撃力で敵を攻撃する。魔獣を倒すメインは獣になる。穴を掘るは、攻撃ではないが、攻撃型の召喚獣は基本的に高ランクを常に出すことになる。Gランクでは、弱すぎるため便利な特技にしたと推察する。


・鳥系統

 特技は、声まね、伝達、鷹の目

 声まねは他人の声もまねることができる。そして話す内容も変更できる。敵陣への侵入の際に役に立つだろう。伝達があれば、遠くの人に情報を伝えることができる。鷹の目はおそらく索敵系の特技である。諜報及び情報収集が主な使用方法になる。


・草系統

 特技は、アロマ、命の草

 回復を主体とする系統である。命の草は名前から体力を回復するものと予想。これからも回復系の特技が追加されると思われる。


・石系統

 特技は、硬くなる

 石の召喚獣の後ろで敵の攻撃を避けることが出来そうだ。防御を主体とした守りの系統である。


 まだEランクの特技の検証はこれからであるが、系統別の特技によってさらに予想が容易になってきた。


 全ての召喚獣には役割があった。ステータスもその役割を果たすために、最も必要な2つのステータスが高いのである。


(攻撃、守り、デバフ、回復、索敵などあらゆることができるのが召喚士なのか。今後追加される召喚獣の系統はきっと、今できないことが可能になるのか)


 召喚士は1人であらゆる職業を満たしている。剣士のように攻撃もできる。僧侶のように回復もできる。盗賊のように斥候もできる。そして今できない職業についても今後新たな系統の召喚獣が追加され解決されるのだろう。


 これが制作者である神が意図した召喚士の職業。アレンはそう理解した。


 魔導書を開く。そこには収納スキルがある。異空間に繋がっており、薪がいくらでも入るのだ。縦横30センチメートルの入り口に通せる物なら無限に収納できるかもしれない。


(今後は大量の魔石が必要だからな)


 それぞれの系統別の召喚獣に必要な魔石である。


・虫系統 1個

・獣系統 1個

・鳥系統 3個

・草系統 5個

・石系統 9個


 あとから追加された系統の召喚獣のほうが、より多くの魔石が必要な仕様のようだ。石の召喚獣で今回解放された40個のホルダー全て満たそうとするなら360個もの魔石がいることになる。


(何十、何百の魔石を持ち歩くわけにはいかないから、収納スキルが解放されたのか。魔石の大きさもどんどん大きくなっていくしな)


 魔石もランクが高く成れば大きくなる。それを大量に持ち歩かないといけなくなるのだ。


・Eランクの魔石は小指の爪ほど

・Dランクの魔石は親指の1節ほど

・Cランクの魔石はピンポン玉ほど



 目の前にどこかの光景が思い浮かぶ。


 それは召喚士を極めた自分の姿だ。アレンの周りには最強の召喚獣が、アレンを無数に囲んでいる。

 どんな状況下でも、どんな敵とも戦える無双の軍勢だ。全ては召喚獣が行なってくれる。全ての敵を蹴散らし進軍する召喚獣たちに囲まれた召喚士だ。


「無双の軍勢か。これが魔王を超えると言われる召喚士の力なのか」


 思わず、声に出してしまった。

 どうやら今まで以上に召喚士である自らを強くさせることに全力になれそうだ。


 アレンは制作者である神の意図を少し理解したのであった。

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