第291話 ゴルディノ戦④

 遠くでヘルミオスパーティーと戦ったアイアンゴーレムと、アレンたちが倒したアイアンゴーレムが宙を浮きこちらにやって来る。


 そして、アイアンゴーレムは大きな2つの足に変形する。


 ブロンズゴーレムは巨大な右腕となる。

 ゴルディノは胴体と頭になるようだ。

 ミスリルゴーレムはいくつもの巨大な砲台と複数の小さな砲台が合わさった左腕になる。

 両肩にはバルカン砲のような砲台が備わる。


 ゴルディノを含めた5体のゴーレムたちと共に超合体ゴーレムとなる。


『力がみなぎってくるぞ! これが我の本当の姿だ。恐怖しろ! 震えながら死んでいくがいい! ふははは!!』


 しっかりキャラが入っており、相変わらず悪役のセリフが似合うなとアレンは思う。


「ゴルディノも超合体しました! 後衛は守り優先で、超合体部隊はゴルディノの動きを止めてください」


 アレンは警戒をしながら、後衛に回復の頻度を増やし守りに徹するように言う。

 また、3体いるガララ提督を含める超合体ゴーレムに超合体ゴルディノの動きを封じるように指示をする。


『ふん! 雑魚がどれだけ群れようが意味のないことだ!!』


(おいおい、ロカネルの吸収が間に合わないぞ)


「メルスもロカネルをもっと出すんだ。吸収が間に合わないぞ」


『ああ』


 ゴルディノは、両肩にある巨大なバルカン砲のような砲台を背中に向け、後ろから迫りくる超合体ゴーレムが近づけないようにする。

 そして、片手にある無数の砲台を駆使し、正面から向かってくるガララ提督の超合体ゴーレムを寄せ付けない。


「ぐあ!!」


 それでも無理して近づこうとしたガララ提督のゴーレムを右腕のドリルパンチが襲う。

 ゴルディノが超合体したせいでブロンズゴーレムが使っていた時より何十メートルも大きくなり、射程も延びた。

 ガララ提督と一緒に乗るメルルを含む4人のドワーフたちは破壊された体を修復するために、魔導盤に新しい石板をはめ直す。


「収束砲撃! 肩の砲台を狙え!!」


『『……』』


 2体の石Aの召喚獣が覚醒スキル「収束砲撃」を放たせる。

 砲台が大きく拉げ粉砕される。


「今か!」


『ぬ? ふん。この程度』


「がは!!」


 粉砕された両肩の砲台を見て、超合体ゴルディノの後ろにいる超合体ゴーレムが勝機と見る。

 一気に詰めようとすると、拉げた方の砲台がメキメキと音を立て修復されていく。

 回復した両肩の砲台から受ける攻撃によって、超合体ゴーレムが大きく損傷する。


 ガララ提督が攻撃した箇所もすぐに治ってしまう。


(む、足が光っているぞ! アイアンゴーレムの修復能力か)


「皆、足を狙ってください! 足を破壊しないと攻撃した傍から回復されます!!」


 アレンの言葉にクレナもドゴラもゼウ獣王子のパーティーも反応する。

 メルスはヘルミオスのパーティーに優先して狙うように伝える。


 ゴルディノが超合体したときに復活させる特技を持つアイアンゴーレム2体が両足になったことを思い出す。


「む! 先ほどより硬いぞ!!」


「ゼウ獣王子殿下、攻撃は通じるようです。攻めていきましょう!!」


 ゼウ獣王子は今まで戦っていたアイアンゴーレムより超合体ゴルディノの足のほうが、耐久力があるように感じる。

 しかし、ナックルによる攻撃で、全力で殴れば凹み、ヒビも入るので全く攻撃が通じないわけではないようだ。

 槌・ハンマーの十英獣であり、熊の獣人のホバ将軍が攻撃を続けるように言う。

 しかし、武器で損傷した部分はメキメキと修復されていく。


(また、スカーレット状態になるのか)


 アレンの中で、攻撃して体力を削る速度より、敵が自然回復する速度の方が速いことをスカーレット状態と呼んでいる。


 アレンはあまりの回復速度に絶句する。


 3階層のSランクの階層ボスであるスカーレットがアホみたいな超回復で、中々倒せなかったことを思い出す。

 しかも、今回の超合体ゴルディノは凶悪な砲台やドリルパンチを持つ強敵だ。

 悠長に敵の体力を削って行けば、危険になるのはこちらだ。


「いや、このままじゃ、埒が明かない。前衛はエクストラスキルも使用して攻め落としましょう。足を破壊しないと、勝ちはないです!!」


 アレンはこのまま通常のスキルの使用では勝てないと判断する。

 エクストラスキルを温存させていて、まだ誰も使っていない。


 アレンの言葉に皆が頷く。


「うん!!」


 クレナの体が陽炎のように屈折していく。

 ゼウ獣王子や獣人たちもだ。


 皆が皆、強力な一撃であったり、ステータス上昇のようなエクストラスキルを持っているようだ。


 さらに強力になった獣人たちが躍動するように突っ込んでいく。

 超合体ゴルディノの足の部分を攻めていく。


 アレンも石Aの召喚獣を生成と強化を繰り返しながら、足や両肩をバランスよく攻めていく。

 両肩の砲台が凶悪過ぎて、無視すると超合体ゴルディノの後ろにいる2体の超合体ゴーレムがやられかねない。


(ふむふむ、かなり攻撃が上がったが、一撃必殺系のエクストラスキルがあるやつも結構いるな。この状況なら持続的にステータス増加するのがありがたいんだが)


 今回のような状況なら、体力を削り切る必要があるため、クレナのような持続的に攻撃力が上がった方がいいのだが、一撃必殺のような特技の獣人がかなり多い。


 大ダメージを与えるのだが、持続することができないため、回復が追い付いてしまう。


「がは!!」


 ゼウ獣王子が超合体ゴルディノの巨大な足で蹴り上げられ吹き飛ばされる。

 何発も食らわしたゼウ獣王子のエクストラスキルは、通常の攻撃以上に超合体ゴルディノの足にダメージを与えたが、それも修復されてしまった。


 回復役の獣人フイがすかさず回復させる。

 すまぬと言ってゼウ獣王子が立ち上がるが息が切れているようだ。


(しゃあない。これでは攻め切れないな。少し危ないが俺も出るか。それで無理なら撤退と)


 持続的なエクストラスキルも攻め切る前に切れてしまった。


 今回の作戦で、もし回復魔法による回復が追い付かないときは天の恵みを使ってよいと補助役や回復役に配っている。


 天の恵みは1人で1000個も2000個も持てないため、所持できる数に限界がある。

 補助役や回復役の持つ天の恵みが切れたら、作戦や戦法に支障が出る。

 不要なら使わないつもりでいたが、そうも言っていられない。


 アレンは作戦の指揮や戦線の崩壊を防ぐ立ち回りに努めてきたが、前に出る時だと認識する。


「すみません。私も前にでます。サラさん。ゴルディノの攻撃がますます激しくなります。回復が厳しくなったら躊躇わずエルフの霊薬を使って……」


 今までメルスと1人と一体でサポートしていたが、アレンは前に出ると言う。


「……良い。これは余の試練でもある。余が全力を出せば済むことだ」


 ゼウ獣王子はこの状況で諦めていなかった。

 まだできることがあるとゼウ獣王子は言う。


「え、エクストラスキルを既に……」


 既に陽炎のような何かが体から出ていない。

 エクストラスキルはもう切れてしまっている。


 これ以上何があるのだと言おうとした瞬間だった。


『余はアルバハル獣王家の末裔ゼウです。獣神ガルム様、何卒覚醒者になるお力をお貸しください。ガル……。グルアアアアアア!!!』


「ふぁ!?」


 アレンはあまりの変化に驚愕する。


 ゼウ獣王子が小さく何かを呟いたかと思ったら、大きく吠えた。

 そして、上等なマントも光り輝く鎧も、体の膨張に耐えられずメリメリと音を立て始める。

 元々巨躯で2メートルを超える体がさらに大きくなり始める。

 3メートルに達する肉体と野獣のような顔つきに変わっていく。


『ほう、獣王子の段階で「覚醒者」となったか。これは「獣王化」か。獣神ガルム様は随分奮発しているようだ』


(覚醒者だと。獣王化ってなんだ?)


 戦場であっけにとられるアレンを見て、メルスが答える。

 あまりの変化に、獣人たち以外のものが唖然とする。


「む? これは何だ? エクストラスキル以外にも獣人たちは特別なスキルを持っているのか?」


『アレン殿も勘違いをするのだな。まあ、全てを完全に理解するのは難しいか。これはエクストラスキルだ』


(お前や精霊神が情報を開示してくれないからな)


 不満顔のアレンに対してメルスはにやりと笑って言う。


「エクストラスキルが2つあるのか?」


 エクストラスキルは先ほどゼウ獣王子は使っていた。


『そこが勘違いだ。というより、既に答えの近くにあるのに誤った認識をしている。アレン殿よ。エクストラスキルは最大いくつ持てる? 2つ以上のエクストラスキルを発動出来た者を覚醒者と神々は呼んでいる』


「ん? 3つか?」


「そうだ。この世界に来た時、アレン殿も読んだはずだ」


 確かにアレンはこの世界に来る時、サイトの説明文でイージーモードは3つのエクストラスキルをガチャで引けるとあった。


(なるほど。ノーマルモードは最初から1つ与えられるが、その後手に入れることもできる。もしくは、ゼウ獣王子がイージーモードだったか)


「ゼウ獣王子は何モードなんだ? 戦っている感じはノーマルだが」


『もちろん。ノーマルだ』


(ノーマルで2つ目のエクストラスキルか。なるほど。まだまだ、俺の知らないことは多いと言うことだな)


 アレンがメルスと会話する中、戦況は変わっていく。


『ジュウジンタチヨ。ヨニツヅクノダ。グルアアアアア!!!』


 二足歩行の巨大なライオンに変わったゼウ獣王子がそう言って、逞しい両手を天で握りしめ、そして全力で地面を殴った。


 地面の床板が粉砕され、そして巨大な魔法陣が広がっていく。


「おおお! ゼウ獣王子が獣王の資格を得たぞ! 力が、これはとんでもない力が! グルルル!!」


 魔法陣の中に立つホバ将軍が感動しながらゼウ獣王子を見る。


 ホバ将軍も鎧を粉砕し、3メートルを超える巨大な熊の獣人に変わっていく。

 両手で握っていた槌を片手で握り、随分小さく見える。


 十英獣たちがどんどん獣と化していく。


「な、なんだこりゃ どうなっているんだ!?」


 ドゴラが状況に追いつけない。


「いや、多分問題ない。ゼウ獣王子が勝利に向けて力を出してくれたんだ。戦いはこれからってことだ」


 アレンはこの状況に勝機を見出そうとするのであった。

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