第290話 ゴルディノ戦③
回復役には回復役の戦いがあった。
敵は巨大で射程距離がブロンズゴーレムなら数十メートル、ゴルディノやミスリルゴーレムなら100メートルを超えたところからすごい勢いで攻撃してくる。
雨あられのような攻撃の中、2人の獣人が、回復が追い付かないと嘆く。
そんな2人にキールが前衛は自分がやるので、アレンとゼウ獣王子の後衛パーティーだけ回復に努めるように言う。
十英獣には1つの問題があった。
それはヒーラーが足りないということだ。
ゼウ獣王子も含める11人の獣人パーティーの構成は、6人は脳筋前衛、1人はタンク、1人は攻撃魔法、2人は補助、回復役は1人だ。
回復魔法部門の十英獣で、山羊の獣人フイがいる。
しかし、この脳筋多めの構成に於いて、回復役は祈祷師という職業のフイ1人しかいなかった。
ゼウ獣王子はナックルを装備し、脳筋前衛に含まれる。
そこで白羽の矢が立ったのは、ビービーから救った猫の獣人サラだ。
「快癒師」の才能があるサラに「ゼウ獣王子と十英獣」のパーティーにヒーラーとして少々強引に入ってもらった。
ヒーラーの能力が足りなければ、人数の多さで誤魔化してレイドに参加させられるものだとアレンは考えている。
半強制的に連れてこられたサラは現在半泣き状態で必死に回復魔法をかけ続けている。
戦場は広範囲にわたり、後衛も敵に狙われる状況で、とても回復が追い付かないと言う。
そんな十英獣の祈祷師と、快癒師サラに、前衛は任せろとキールは断言した。
キールは獣人の脳筋前衛6人とクレナとドゴラの回復を一手に担うと言う。
(やばいな。キールが完全に開花したな)
戦いの中でアレンはキールに感心する。
今回のS級ダンジョンでアレンの仲間たちは転職をして、装備も向上させ続けてきた。
ソフィーは精霊を扱うなど新たな力を得る中、もっとも成長し力に目覚めたのはキールだろう。
アレンたちの中においてキールは、いわゆるプレイヤースキルと呼ばれる、戦闘のうまさが最も向上した。
回復魔法は、詠唱、発動、回復という行程を経るのだが、知力が高くなれば高くなるほど、それぞれの行程の速度は速くなっていく。
それぞれ行程は数秒の範囲で行われる。
アレンは発動状態になってから数秒は、攻撃を受けたら回復できる状態になることに気付いた。
これは前もって数秒間は回復魔法の予約ができることを意味する。
回復魔法をかけて数秒後に攻撃を受けても回復される。
ならば、攻撃を受けるときに前もって回復魔法を発動させて、攻撃を受けるタイミングで同時に回復させる。
これなら敵の2発目の攻撃を連続で受けても、重傷になるリスクも減らせる。
仲間たちが負傷した状態では攻撃も威力が落ちるがそれも防いでくれる。
次の回復動作にも移れるので、回復の発動に無駄がなく、より多くの回数の回復魔法をかけることができる。
パーティーが安定し、経験値効率がいいのでぜひ取り入れるようにキールには口を酸っぱくして言ってきた。
言うだけなら簡単だ。
キールは完全にその手法を体現しつつある。
「す、すごすぎる。何て速さだ。未来が見えているのか」
「いいから、回復に集中してくれ。知力が足りなくて余裕がねえんだ。後衛まで持てないぞ」
同じ回復役である祈祷師フイが感動して声が漏れるのをキールが諫める。
これがどれだけすごいことか、フイはすぐに分かった。
明らかに攻撃を受ける前に回復魔法を放っている。
ここには現在キールを含めて3人の回復役がいるのだが、半数以上の回復をキールが担っている。
暴れ狂う脳筋前衛の獣人たちと、鳥Bの召喚獣に乗って立体的に動くクレナとドゴラがどう動くか予想し、数秒後に受ける攻撃を見越して回復し続けている。
耐久力の高い者、低い者、良く攻撃を食らう者、躱す者、範囲魔法の回復範囲に誰がいるのか予想しての行動だ。
戦闘開始以来、キールは共同戦線の獣人たちの動きを分析し続け、動きの予想が予知に到達しつつある。
キールの回復役としてのうまさは十英獣が認めるほどの成長だった。
なお、今回、敵は5体同時と聞いて、明らかに攻撃を受ける頻度は多いと判断し、4パーティー全体を通して体力、耐久力を意識した指輪を装備している。
指輪の高い効果と仲間たちの重ね合わさった補助スキルによって、後衛であっても1撃でやられてしまうことはない。
回復魔法の速度的にも、現状の把握的にも知力の指輪を装備したかったが、安全第一でキールは体力と耐久力を上げている。
お陰で、状況判断のための知力が足りないとキールが嘆くが、そんなことは関係ないほどの巧みさだ。
アレンは前世でヒーラーをやってきたことがないからなおさら感心してしまう。
(さて、感心している場合ではないな。そろそろ戦況が変わりそうだ。俺も俺の役割を果たすぞ)
ガララ提督がゆっくり後退しながら、ブロンズゴーレムとミスリルゴーレムを倒してくれたおかげで、2体のアイアンゴーレムの間がどんどん開いていく。
最後尾のアイアンゴーレムをヘルミオスのパーティーが釘付けにしてくれているお陰だ。
ヘルミオスのパーティーが何だかんだで、一番安定している。
メルスが付いているから、さらに盤石だ。
『ぬ、ぐぬぬ』
ゴルディノもこの状況が分かったようだ。
このまま戦況が進めば、アイアンゴーレム2体で復活するという構成がうまく機能しなくなる。
リペアエナジーという復活の特技にどれだけの射程距離があるのか、アレンは完全に熟知している。
「もうすぐだ。もうすぐ敵の復活役が1体になるぞ」
『ぬう、止むを得ん。いったん後退するぞ。後退だ』
ゴルディノは一旦攻撃を止め、再度固まろうと言い、歩みが止まる
「させるか。ミスリルの石板を何枚消費してもいいから、ゴルディノの後ろで押して前進させてくれ!」
「「「おおお!!!」」」
そのタイミングでアレンは鳥Aの召喚獣を使い、十分に空いたアイアンゴーレム2体の間にさらに1体の超合体ゴーレムを間に入れ、後方2番目にいるアイアンゴーレムを全力で押す。
後退しようと思っていたが、さらに間を開けられる。
『き、貴様ら!! 何をしている。こっちに戻って来るのだ!!』
ゴルディノがアイアンゴーレムごと押され、怒りながらも2体のアイアンゴーレムが十分な距離を取られる。
やむを得ぬと、最後尾にいたアイアンゴーレムを戻そうとするが、それは出来なかった。
最後尾のアイアンゴーレムにその余裕はもう残されていなかった。
ヘルミオスと天使メルス率いるパーティーが最後尾のアイアンゴーレムを倒した。
「よし、やったね」
『さて、次に移動するぞ。帰巣本能』
ヘルミオスがアイアンゴーレムの討伐を喜ぶ。
メルスがずいぶん離れてしまった、もう一体のアイアンゴーレムと超合体ゴーレムの間に鳥Aの召喚獣の覚醒スキル「帰巣本能」で一気に移動する。
もう一体のアイアンゴーレムを倒せば、復活させることのできる敵はいなくなる。
超合体ゴーレムの攻撃を受けながらも、ブロンズゴーレム、ミスリルゴーレムを必死に復活させているアイアンゴーレムがさらに激しい攻撃を受けることになる。
そして、さらに数分ほどの戦闘が続く。
2体目のアイアンゴーレムがとうとう倒れてしまった。
復活できなくなったミスリルゴーレムが石Aの召喚獣の収束砲撃で撃墜され、ブロンズゴーレムがガララ提督の超合体ゴーレムとアレンとゼウ獣王子の総攻撃を受ける。
『ぬぐぐ』
ブロンズゴーレムが攻撃を受ける中、ヘルミオスのパーティーとメルスがゴルディノを攻撃し続ける。
(ふむふむ、やはり耐久力もそれなりにあるな。ゴルディノがこの中でやはり一番ステータスの高いゴーレムと。メルスはともかく、ヘルミオスのパーティーではそこまでダメージは与えられないか)
ゴルディノの強さをさらに分析する。
やはり最下層ボスというだけあって、かなりの強さのようだ。
ブロンズゴーレムもゴルディノの後方からの加勢が減って一気に劣勢になる。
攻撃魔法部門の十英獣で鼠の獣人ラトは、「妖術師」の才能がある。
ゴーレムたちの攻撃が減ったので、ラトとセシルが攻撃魔法に集中していく。
加速する攻撃の中で、ブロンズゴーレムは地に沈む。
『き、貴様ら!!』
完全に劣勢になった状態でゴルディノが怒りの声を上げる。
「よし、ブロンズゴーレムを倒したぞ! 残るはゴルディノ1体だ。挟み込んで倒すぞ!!」
倒れたブロンズゴーレムを踏みしだき、ガララ提督の超合体ゴーレムと獣人たちがゴルディノとの戦いに参戦しようとする。
『我を本気にさせたな。集え我がパーツどもよ!!』
その時だった。
ゴルディノの目が光り大きく叫んだ。
すると、今までに倒した4体のゴーレムたちの目が光ったのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます