第423話 七不思議

 アレンはS級ダンジョンの最下層に移動した。


『あ! アレン様、いらっしゃいデス!!』


 やってくるなり、霊Cの召喚獣が飛んできた。


「やあ、マリア、生成は順調に進んでいるかい?」


『もちろんデス! 見てくださいデス!! ほら!!』


 30センチメートルほどのフランス人形のような見た目の霊Cの召喚獣は胸を張って、自らの成果を語りだす。

 

 10日与えたメルスの休みは終わり、このS級ダンジョンの最下層での、草系統の回復薬の生成作業に戻った。


 1人では大変だろうと、今回は成長させた霊Cと霊Bの召喚獣にも手伝わせている。


 召喚レベルも上がり、枠が10増えた。

 中央大陸北部で虫Aの召喚獣たちが魔王軍によって一掃されたため、召喚獣枠がかなり空いた。


 お陰でメルスを手伝うことができる召喚獣が増えた。


 メルス、霊Cと霊Bの召喚獣の3体で草系の回復薬の生成を行ってもらっている。

 一応四六時中だとメルスの気が滅入るので、その辺も勘案した労働環境にした。


『メルスも順調か?』


『ああ、問題ない』


(10日間の間に、神界には行けなかったようだからな)


 10日間というまとまった休みだったが、特段行きたい場所もなく、どことなく出掛けてブラブラ時間を過ごしたようだ。


 元第一天使であったメルスの力ではどうも神界には行けないらしい。

 天使の頃も亜神ほどの力もなかったはずなのに、何か特殊なパスポートでもあったのかもしれない。

 双子の妹のルプトには会いたいみたいだが、それも叶っていない。


 この魚人の大帝国であるプロスティア帝国にやってくるのも苦労したが、移動の制限や受け入れを断っている隔絶された国や里はどうも多いようだ。

 アレンはそれを知っただけで冒険心が湧き上がってくる。


 今は特にメルスから不満が出ていないようだ。

 何となく無表情でたんたんと回復薬の生成をこなしている。


 アレンも前世の頃、終わりなき経験値稼ぎ、アイテム収集に明け暮れていたが、これこそ作業ゲーの行きつく先であると思う。


 作業ゲーとは、かなり長い時間、単純作業を求めるゲームのことだ。

 無心で、同じ作業をいかに毎日やれるかにかかっている。

 心は折れてはいけない。

 結果をすぐに求めてはいけない。


 メルスと違って、アレンの腕を引く霊Cの召喚獣はまた召喚してくれるようになって、かなり嬉しそうだ。

 召喚士として召喚獣たちに接しているが、霊Cの召喚獣の態度には口元が緩くなってしまう。

 

 成長スキルのレベルが8に達し、全ての召喚獣のステータスが、Aランクの召喚獣と同等になった。

 これで加護の数値の大小だけでホルダーに入れる召喚獣を決めることが無くなった。

 戦術の幅も無限に広がったと言っていいだろう。


 召喚レベルが上がり、成長スキルの検証が随分進んだので、分かってきたことがある。


【成長スキルが上がった際の召喚獣の特徴】

・1つ目、追加の加護や特技、覚醒スキルは増えない

・2つ目、指揮化の対象はBランクの召喚獣のみ

・3つ目、王化の対象はAランクの召喚獣のみ


 1つ目について、あくまでも成長するのはステータスのみであった。

 Bランク以降の召喚獣は加護、特技などが複数になっていくのだが、低ランクの召喚獣を成長させたからと言って、加護、特技などが増えることはない。


 なお、ステータス依存の特技や覚醒スキルは、成長によるステータス増加の恩恵を受けてその威力は上昇する。


 2つ目と3つ目で分かったことは、召喚ランクと成長ランクは違うということだ。

 Cランクの召喚獣を成長させても、指揮化を使える対象にならない。

 Bランクの召喚獣を成長させても、王化を使える対象にはならない。

 なお、Bランクの召喚獣を成長Aまで上げても、指揮化の対象になる。


 戦術の幅を広げるため、今では全ての召喚獣を1枚以上、魔導書のホルダーに入れている。

 今後のスキル上げをメインに考えているので、魔力が上がる魚系統の召喚獣が多め、次に多いのは転移先の「巣」を確保するため鳥Aの召喚獣、連絡要員の霊系統の召喚獣という順だ。


 これは、成長スキルを手に入れたからではないが、加護についてもルールがあった。


【召喚獣の加護のルール】

・1つ目、同系統の加護は複数あっても重複しない

・2つ目、同系統の加護は上位の加護が優先される


 1つ目のルールについて、霊Bの召喚獣と霊Aの召喚獣は「物理耐性強」の加護がある。

 これは霊Bの召喚獣を何枚持っていても、物理耐性の効果が上がるというわけではない。

 霊Aについても同様に複数持っても効果は変わらない。

 また、霊Bと霊Aをそれぞれ持ったとしても、効果が上がるわけではない。


 なお、この検証のためにアレンは魔獣の攻撃を食らうことにためらいはない。


 2つ目のルールについて、竜Bの召喚獣は「ブレス耐性強」という加護がある。

 竜Aの召喚獣は「ブレス無効」という「ブレス耐性強」の上位互換の特技がある。

 竜Bと竜Aの召喚獣をそれぞれ持っていた場合、竜Aの召喚獣の加護「ブレス無効」が優先されるということだ。


 成長について、戦術が広がる分、合理的な制限もあるということが分かった。


「アレンだ!」


「やあ、クレナ」


 アレンが召喚獣3体による回復薬の生成をいかに効率よくできるか、無表情のメルスや霊Cと霊Bの召喚獣にアドバイスをしているとぞろぞろと人影がやってきた。


 その中で大剣を背中で背負ったピンク色の髪のクレナが、すごい勢いでアレンの下に駆けてくる。

 アイアンゴーレム狩り組のメルルなど他の仲間も同じくアレンの下に向かう。


 アレン軍と勇者軍が今日もS級ダンジョンの最下層で演習中だ。

 お昼すぎになり、アレンのアイアンゴーレムのいる鉄の間から出てきた。

 お昼休憩といったところだろう。


「新しい装備品があるって本当!?」


 クレナが前のめりに聞いてくる。


「ああ、そうだな。マリアから聞いた通りだぞ」


 霊Cの召喚獣から、新しい耳飾りと言う装備品があることを聞いていたクレナが目を輝かせている。


「やったああ!!」


「ほら、これだ」


「ん? えっと、耳だよね」


 魔導書の中から、ペロムスが交渉して手に入れた耳飾りをクレナに渡す。

 汗だくのクレナが『グアシッ』という効果音が聞こえてきそうな凄い勢いで受け取る。

 そして、急いで装備しようとするが、どうやって装備したらいいか分からず、耳飾りを耳に押し当てている。


 ペロムスの交渉力で、宮殿の宝物庫からイグノマスが資金集めで放出した耳飾りを6個全て回収することができた。

 全部で金貨400万枚強になってしまったが、これでも商人たちが当初提示してくれた額の半値程度まで抑えることが出来た。


 イグノマスの売値は相場の半分ほどのたたき売りであったが、商人たちはその4倍以上の値段で交渉を始めようとする。

 相場の2倍前後の値段での取引を成功させたのだが、これは絶対に購入するという前提になるので、ある程度足元をみられる結果になった。


 お陰で同じく金貨400万枚ほど、アレン軍の活動資金を浮かせたことになるのでペロムスは頑張ってくれたと思う。


(アレン軍の活動資金が底をつきそうだけど)


 それでもアレン軍の金庫はほぼ空になる結果となった。

 一応、ロザリナを優勝させるための、裏工作や装備品を用意させるためのお金があるといった程度にまで減少した。


 アレン軍は、アレンのパーティーの活動を支援する軍隊だ。

 だから、アレンにとって必要だと考えることにはお金を使うのだが、アレンは魔石を大量に消費する。

 活動に余裕をもってということで、余剰でそれなりのお金があったのだが、それらを全て枯渇させてしまった。


 この世界の冒険者の中でここ1、2年の間に、「何か知らないが魔石がめっちゃいい値で売れる。これは何景気だ?」ということを実感し始めている。

 これはアレンがS級ダンジョンでの活動を開始し、かなり手広目に魔石を募集し始めた時期と合致する。

 転職ダンジョンも始まり、転職した冒険者たちが、高いランクの魔獣を狩れるようになり魔石の供給がかなり増えたのだが、それを超える需要がアレン軍にはある。


 目の前のメルスもすごい勢いで魔石を消費して、回復薬を生成し続けている。


 今までは魔力の種を生成していたのだが、今では天の恵みに変更をした。

 その結果、今まで以上に魔石にお金が必要だ。


 なお、魔石を売って資金が貯まり始めた冒険者全体で見れば、資金は豊富になってきた。

 そこで冒険者たちが新たに購入しようと思うのが、指輪、首飾りなどのステータスが上がったり、各種耐性が上がる効果のあるアクセサリーだ。


 ステータスが1000上昇する指輪も手にすることが出来なかった冒険者たちの手が届き始めている。

 さらに上位の指輪を手にすることができるようになった冒険者も出てきた。


 グランヴェル伯爵の話ではミスリルの需要も右肩上がりで、価格がすごい勢いで値上がりしているという。


 アレン軍が指輪、首飾りの提供元だ。

 勇者軍はまだ、提供するほどの数はない。

 あまり多くのものを提供すると値崩れするので、加減が必要であったりする。


 中央大陸北部の召喚獣部隊は魔王軍によって一掃されてしまったが、世界全体で見れば緩やかにであるが、人間側は力をつけつつある。

 そんな状況だ。


「ほら、付けてあげるぞ。 どんな感じか教えてくれ」


「おお! ありがと!! わ、我に力が!!」


 顔をズイッっと近づけたクレナの耳に耳飾りをつけてあげる。


 耳飾りを付けたクレナがぶんぶんとオリハルコンの大剣を振るう。

 全部で6つの耳飾りを今回手に入れることが出来た。

 なんだがS級ダンジョン最下層ボスのゴルディノのような口調をしている。


「俺もつけてくれ」


(ドゴラのくせに、イヤリングしているからな)


 世界七不思議の1つにドゴラのイヤリングがあると、アレンは考えている。

 ドゴラはなぜかクレナ村にいたころからイヤリングをつけている。


「ほれ」


「ありがと。へへ」


 つけてくれというので、ドゴラもつけてあげる。

 あきらかにステータスが上がり、クレナと一緒に武器を振り始める。


「む~。僕も欲しい」


「そう言わないでくれ。これで我慢するんだ」


「は~い」


 僕っ子メルルが、明らかに豪華なクレナやドゴラと違い、質素な耳飾りに不満げだ。

 フォルマールは自分で耳飾りをつけるようだ。


 効果が違うのであれば、全部揃えてからパーティー内の分配を決めようと思ったが、2種類しか効果はなかった。

 違いは前衛用と後衛用の2種類の耳飾りがあるということだ。


・前衛用の耳飾りを4つ 

 物理攻撃ダメージ10パーセント上昇、体力2000上昇、攻撃力2000上昇

・後衛用の耳飾りを2つ

 魔法攻撃ダメージ10パーセント上昇、魔力2000上昇、知力2000上昇


 今回の耳飾りの分配は、前衛用は、アレン、ドゴラ、クレナ、シアが装備する。

 後衛用はセシルとソフィーの予定だ。


 アレンのパーティーはルークやペロムスも加わり11人になった。

 両耳につけることができるので、22個の耳飾りが必要になる。

 足りない分は金貨1万枚程度の店で購入できるものを装備しているが、さらなる耳飾りの入手も必要だと思う。


 メルルのゴーレムは、メルルの装備したアクセサリーでステータスは増えない。

 唯一ステータスが増えるのは、魔導盤をはめる石板と、メルル自身のステータス増加のスキルだけだ。


 圧倒的なステータスのあるゴーレムだが、補助が効かない。

 なお、魔獣の使ってくるデバフも基本的に効果がない。

 装備も効果がないのは、これはこれでバランスが取れていると思う。


 仲間たちの耳飾りをもっと探さないとなと思っていると、勇者ヘルミオスも話しかけてくる。


「やあ、プロスティア帝国は順調かい? アレン君」


「はい。少し、話したいこともあるので、一緒に食事いいですか?」


「もちろんだよ」


 アレンもヘルミオスに会う理由があった。

 アレンも昼食はまだなので、勇者ヘルミオスのパーティーやアレン軍の幹部と一緒に食事をすることにする。

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