第472話 牙の門①

 クレナとハクの体がメガデスの言葉と共に輝く。


「おお、何か、力が抜けた!」


 クレナは過去に4度も転職を受けている。

 その時同様に、ステータスが下がる感覚を覚えているようだ。

 手を何度も握りしめたり開いたりしている。


「クレナは竜騎士のレベル1になったぞ。ステータスは竜騎兵の半分だ」


 レベルは1となり、竜騎兵の職業は竜騎士に変わった。

 ステータスは半分になり、竜騎兵のスキルはリセットされている。

 剣帝の頃覚えたスキルはそのままだ。

 何も変わらないいつも通りの転職だ。

 転職の概念にはクラスアップとクラスチェンジの2つの概念があるのかもしれない。

 剣帝から竜騎兵になるときは、クラスチェンジで剣帝のスキルが残る。

 竜騎兵から竜騎士になるときは、クラスアップで竜騎兵のスキルは残らない。


 現在検討されている転職ダンジョン改でも、どうも星の数が増えていくクラスアップのみのようだ。

 クラスチェンジだと同じ星の中でも別職に転職することが可能だ。

 もともとノーマルだとスキルが増えにくいので、スキルを増やすだけならクラスチェンジもできる仕様にしてほしいものだ。


(ふむふむ、門番倒した瞬間に報酬としての転職が済むのか。レベルカンストした方が得なんだが。まあ、カンストするのに時間が掛かるけど)


 転職のタイミングを確認しておけばよかったと思う。

 前世のゲームでも、ストーリーを進めると後戻りできないイベントや、急に始まるクエストなどがあった。


 ただし、レベル89だったクレナを99まで上げようと思うと半年弱かかる。 

 ノーマルモードのレベルをカンストしようと思ったら経験値2億程度で済む。

 しかし、エクストラモードのレベルをカンストするには41兆の経験値が必要だからだ。

 どこまでコツコツとレベルを上げるべきなのか判断が求められるところだ。


『ワワ!?』


 体を覆っていた光が収まり、ハクの転職も済んだようだ。

 自らの力に違和感があるようで、寝ぼけた子犬のようにドタバタと転げている。


「なんか白竜ぽく無くなったわね」


「黄色くなったな」


 真っ白だった体は黄色を基調とした体に変化する。

 幼体のままであるが、体つきもどこかがっしりとして角の形など変化がみられる。

 アレンはクレナ同様にハクのステータスも確認する。


 【名 前】 ハク

 【種 族】 光竜

 【形 態】 幼体

 【ランク】 B

 【レベル】 1

 【体 力】 1870+2000

 【魔 力】 1230

 【攻撃力】 2510+

 【耐久力】 1870+2000

 【素早さ】 2510

 【知 力】 890

 【幸 運】 935

 【特 技】 光の息、火炎を吐く、切り裂く、竜鱗〈2〉、火耐性〈2〉、氷耐性〈2〉

 【経験値】 0/100


 特技はそのままに、種族としてのランクが上がりBランクの光竜となった。

 耐性も種族が上がると2に上がった。

 これから最大2回、種族のランクが上がっていくのか。

 特技もそのままなのは、スキルや職業がないからなのかと考察する。


「どうしたの?」


 考え込むアレンに、クレナが何があるのか問う。


「いや、光竜になるならハクって名前じゃない方が良かったなって思っただけだ」


 白竜からとった「ハク」という渾身の名前も、光竜になったらなんでハクなのかとなる。

 種族が変わることを教えてくれたら、もっと別の名前にしたのにと思う。


「もう、ハクはハクだよ!」


 顔を膨らませたクレナにメッと怒られてしまった。


「さて、次は牙の門だな。移動するぞ」


「ちょっと、門番倒したじゃない今日はこれで終わりよ!!」


 セシルが休みを要求する。


「いや、俺ら何もしていないだろ」


 クレナが一撃で門番を倒したため、次の門を挑戦しようとアレンは言う。




*** 


 休みは通ることもなく牙の門がある大きな古い遺跡へ向かった。

 門前に向かうと、爪の門とは違うタイプの竜が門から浮き出るように描かれている。

 きっとこの竜がこの試しの門の門番なのだろう。


『……牙の門を越えてきたか。新たな門を望むか』


 門に描かれた竜の口が動いた。

 どことなく門番の視線がファーブルを向いている。

 そんなファーブルは固まったままだ。

 何でも時空神の制約を破ろうとした罰としてフリーズしているらしい。

 1日経てば解除されるとメガデスが言っていた。

 前世で、ゲームのライブ配信の荒らし対策にチャットの速度制限を使う機能があったことを思い出す。


「望みます」


『よかろう。試練を越え、我が前に現れるがよい』


 牙の門番の言葉と共に視界が変わる。

 いつものように天井もある巨大なドラゴンも動き回れる広い空間に飛ばされた。


「何か普通ね」


「ああ、そうだな。セシル」


 とんでもなく暑かったり、寒かったりした場所から変わり平穏そのものだ。

 いつもの薄暗いだけの空間だ。

 この状況にセシルは違和感を覚えたようだ。


『あらあら、本当にもう来たんだ。頑張り屋さんだね』


 爪の門の門番の空間で別れたメガデスが、牙の門に入った先にやってくる。

 そう言って、空間に既にいるメガデスがパタパタと虹色の羽をはためかせながらやってきた。


「はい。まだ時間がありますので」


 この先にメガデスは付いてこないようだ。

 アレンは返事をしながら、空間の出口に向かう。


「ほお、暗い!!」


 クレナが叫ぶ。

 薄暗かった空間から出るとそこは完全な闇夜だった。

 


 この世界は平たい大地に日と月が180度の位置からグルグル回っているらしい。

 だから日が沈み世界が暗くなっていくのと同時に月が闇夜を照らし始める。

 三日月とか下弦の月といったものはなく、常に夜には満月が存在する。


 一切遠くを見渡せない空間に仲間たちは不安に覚え、一瞬進むのをためらう。


 ポポッ


「よし、とりあえず、灯りをともしてと」


 灯りの魔導具を魔導書の中から取り出した。

 一気にあたりが明るくなる。


 冒険者必須の魔導具に、灯り、火起こし、時計の3つがある。

 アレンは従僕をしていたころから、冒険者になる予定だったのでその3つは常備してある。


「すっごい明るくなった!! 僕が使う石板よりも遠くを見通せるね!」


 メルルが魔導盤の石板よりも効果のある魔導具に感動している。


「ああ、せっかく用意したのに海底では使わなかったからな」


 ゴルディノ周回で手に入れた1つで都市も明るくする灯りの魔導具(大)を取り出した。

 大きさとしてはその辺のランタンほどしかないのだが、周囲1キロメートルは昼間のように明るい。


 この階層にもきっと魔獣はいるので、不意打ちを受けるのは避けたい。


 これは、ペロムスがフィオナとの交際のために約束し、行く予定であったプロスティア帝国のために準備した魔導具だ。


 水晶花という存在を知らず、帝都パトランタ内でしか活動しなかったため結局お披露目することなく魔導書の中に眠っていたものだ。


(これくらい明るいなら、魔導コアをはめる必要もないか)


 魔導コアはS級ダンジョンの最下層ボスゴルディノから手に入れることができる貴重品だ。

 むやみやたらと使うとあっという間になくなってしまう。


「ここもなんか浮いたところだな」


 ルークはファーブルを抱きかかえたまま、空間から出た先の通路から下を覗く。

 明るく照らして分かったが、ここは爪の門1階層と同じく何もない場所に箱状の物体から伸びた回廊が浮いているようだ。


 遥か下は光が差さず真っ暗になっている。


「暗いだけか。じゃあホロウたちに次の階層へ行けそうな何かを発見させよう」


 アレンは闇夜でも辺りを見渡すことができるフクロウの姿をした10体の鳥Dの召喚獣を召喚する。

 全て成長レベル8まで上げてある。

 さらに鳥Dの召喚獣と1体1でコンビとなる10体の鳥Aの召喚獣も召喚する。

 何かあれば鳥Aの召喚獣に巣を設置させるためだ。

 強化スキルも使った20体の召喚獣たちは10組となって、すごい勢いで遥か先まで飛んで行った。


「じゃあ、これで後は待つだけね」


「ああ、って、ん?」


 ここは暑くも寒くもなく召喚獣を遠くへ飛ばしてもやられることはない。

 爪の門1階層と同じく、召喚獣たちに次の階層へ行くための魔法陣を探させればよい。

 そう思っていたら、何か遠くの方から飛んでくる物体たちがいる。


 バサバサ


『グルオオオオオオ!!』


 叫び声を轟かせ、漆黒の竜がこちらにやってきた。

 その後ろには、大型の蝙蝠や蛾の魔獣が竜に惹かれるように付いてきている。


「かなりの数だ! 戦闘準備に入れ!!」


 アレンの掛け声と共に、皆戦闘態勢に入る。

 全員が背後を庇うような陣形に、中央にはセシル、ソフィー、キール、ルークの4人が陣取る。

 8人とあって、守りに穴が出やすい時はアレンの召喚獣たちが活躍する。


「おりゃああああああ!!」


『グハアア!?』


 ハクの頭に乗ったクレナの剣が振るわれる。


 十分な一撃であったようで、回廊の先まで吹き飛ばされた漆黒の竜はそのまま遥か下の方へ落ちていった。


『ダークドラゴンを1体倒しました。経験値3200万を取得しました』


(お? 結構な経験値だな。Aランク上位の魔獣ってところか)


 これまで爪の門は魔獣の経験値が低かったのだが、一気に経験値が増えた。

 この1体のダークドラゴンだけで、ハクのレベルが一気に42まで上がる。


 コウモリや蛾の魔獣はBランクの魔獣のようだ。

 数がかなり多いが、敵じゃないとセシルの魔法や、メルルが扱うタムタムのバルカン砲で撃ち落としていく。


 それから2時間ほど経過した。

 魔獣たちが無限にやってくるので、レベル1になってしまったクレナとハクのレベル上げにと狩り続ける。

 連戦続きで戦っていると1体の鳥Dの召喚獣が浮いた箱状のものを発見する。


「お、何か見つけたぞ」


 アレンが何か箱状の物体を見つけた。

 鳥Aの召喚獣は特技で「巣」を設置し、覚醒スキル「帰巣本能」を使い仲間たち全員を移動させる。


 アレンたちがいた場所同様に、箱状の物体に回廊が伸びていた。

 中に入っていく。


「お、宝箱だ!!」


 視界に宝箱が見えたと同時にキールは駆けていた。


(宝箱系の魔獣だったらどうするんだ)


 一度痛い目を見た方が、キールのためかもしれないとアレンは本気で考える。


 爪の門では一度も見なかった宝箱を開けると、魔獣ではなく真黒な腕輪が入っていた。


「ふむ。腕輪だな」


 アレンはキールの手から腕輪を取ると、魔導書の中に入れる。


『常闇の腕輪を1つ、魔導書に入れた』


(腕輪か)


 魔導書に入れても名前しか分からないので、装備してみることにする。


「呪いに注意しなさいよ」


「ああ、分かっている」


 この世界には呪いの攻撃もあれば、呪いの装備もある。

 エルメア教会に行けば、基本的に金を払えば解除してくれる。

 世の中、金でだいぶ解決できるようだ。


【常闇の腕輪の効果】

・精霊顕現速度半減

・闇属性の効果2倍

・魔力+10000


「これは完全に精霊使いというかルーク専用だな。メガデスの言っていたことは本当だったんだな。かなりいい装備だ」


 メガデスが言っていた、次の門からアイテムが良くなるということは本当だったようだ。

 闇属性の精霊を扱うルークにぴったりの装備だ。


「ちょ! どういうことよ! 見せなさい!!」


 鼻息を荒くしたセシルがアレンから常闇の腕輪を奪い取る。


 セシルは自らが装備しても、知力の上昇が感じられない。


「だろ? ルークに装備させるぞ」


「おう、ありがとう。へへ」


 自分専属の装備とあってルークは嬉しそうだ。


 最近仲間たちがどんどん強化していくのでうらやましかったのかもしれない。

 その後、次の階層へ行く魔法陣を発見し、その日のうちに牙の門1階層を攻略することができたアレンたちであった。

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