第460話 宣戦布告
シアの話が一段落つくとラターシュ王国インブエル国王が立ち上がった。
「次に創造神エルメア様からの神託があります。転職ダンジョンの追加について、クリンプトン枢機卿、マッカラン本部長お願いします」
先に転職ダンジョンについて話があると言う。
「はい」
「やれやれ、ようやくかの」
会議室にいるがずっと黙っていた2人がゆっくりと立ち上がった。
1人は見た目40歳くらいの美丈夫で実質的なエルメア教会を動かしているクリンプトン枢機卿だ。
もう1人は冒険者ギルドの最高責任者で、よぼよぼのじいさんのマッカラン本部長だ。
ウイイイイイイイイイン
2人が会議室の前面に移動すると、前面の壁の上部から漆黒の板が下りてくる。
(まるで映画館のスクリーンだな)
「エルメア教会の枢機卿をしているクリンプトンです。5大陸同盟の会議にて皆様に伝えるようエルメア様より神託を受けました。これよりお伝えしますので、目の前の魔導板をご覧ください」
(ふむふむ、たまにこうやって神託の内容を各国に一気に伝えていたのか。合理的だな)
態々こんなことをしなくても創造神なら各国にあるエルメア教会に同時に伝えるくらい訳はないだろう。
しかし、5大陸同盟の会議に態々神託を伝えさせる必要があるのか。
これはきっと、魔王軍と戦ってほしいという創造神の意思があるのだろう。
全ての国が5大陸同盟に加入しているわけではない。
アレンは昨晩読んだエルメア教会について思い出す。
(キールをエクストラモードにできるのはエルメア一択なのか?)
それぞれの職業、それぞれの才能に神がいることが改めて昨晩分かった。
中には魔法神イシリスのように、魔法使い、魔法技師、魔導技師と支配する神が被っている才能もある。
仲間たちをエクストラモードにするには、神にお願いしないといけないこと分かった。
エクストラモードになったドゴラやクレナなど攻撃面の強化が進む中、回復役はぜひ優先して強化したい。
回復の神とか癒しの神はいないらしい。
創造神が回復魔法を管理していると読んだ本で解釈できた。
まるで失った体の一部を創造するように、創造の力は回復の力に置き換えているようだ。
エルメア教会はおかげで、この世界最大の信仰団体となった。
「ほっほっほ。皆さんよりも少し前に神託の内容を見たが、どうやらラターシュ王国の学園都市にもう1つ新たな転職ダンジョンを作るようじゃの」
創造神は学園都市が好きだなと嫌味をマッカラン本部長は言う。
世界最大規模の会議とあって、どこの大陸で会議があっても呼び出されるのは本部長だと言っていたことを思い出す。
齢80歳を過ぎると体に堪えるのだろう。
マッカラン本部長の話ではラターシュ王国による冒険者ギルドの組織再編を行うらしい。
副本部長をラターシュ王国の学園都市に配置する。
2つの転職ダンジョンがあり、今の状態では冒険者、転職ダンジョンの挑戦者などにフォローが厳しいと言う。
マッカラン本部長は、説明は終わりとクリンプトン枢機卿に視線を送る。
「まずは魔導板をご覧ください。決定事項のみ魔導板に映し出しています」
魔導板に転職ダンジョンへの参加条件やルールなどが表示される。
(説明が上からで、言い回しもややこしいな。綺麗にするか)
創造神エルメアの神託を翻訳し、神の言葉として表示しているため無駄な言い回しが多いとアレンは感じる。
魔導書に内容を整理して記録する。
【追加した転職ダンジョンのルール・条件など】
告知内容:才能のある者が転職により才能を強化できるダンジョンの追加
挑戦条件①:冒険者証を携帯していること
挑戦条件②:これまでに転職ダンジョンを1回以上攻略していること
転職条件①:転職ポイントが必要
転職条件②:レベル、職業レベルがカンストしていること
転職条件③:転職ポイントがあれば、星5つまで転職可能
転職ポイント:魔神討伐1体1ポイント、上位魔神討伐1体5ポイントの転職ポイント付与
星2の転職:星3つにするには、転職ポイント1ポイント必要
星3の転職:星4つにするには、転職ポイント3ポイント必要
星4の転職:星5つにするには、転職ポイント10ポイント必要
緩和措置①:元々、星4つの者は転職ダンジョンの攻略は不要
緩和措置②:パーティーリーダーの冒険者証には、これまで討伐した魔神等の転職ポイントがストックされている。また、複数パーティーの場合、各リーダーに働きによってポイントは分散する
日程:今年4月1日
場所:ラターシュ王国学園都市(※詳細場所は別途告知)
注意事項:ダンジョン内にはSランクの魔獣も用意しているため命の保証なし
魔導板の記載内容に気になることは多い。
場所の詳細が決まっていないということは、学園都市内に転職ダンジョンとは別のダンジョンを作ると言うことだろう。
だから更改ではなく追加なのかと思う。
「な!? 魔神を倒せということか!!」
どこぞの王族らしき格好の者が魔導板に表示された内容に驚き声を荒らげた。
発言の許可は出ていないのだが、思わず声が出たのだろう。
「そのとおりじゃな。高い才能を得るには対価を伴う。転職ダンジョンも危険を伴うということじゃ。戦力の底上げをするなら人は選ばねばならぬな」
「ふ、不可能だ。魔神を倒せなどと」
4月に新たに設けられる転職ダンジョンの難易度を理解しているマッカラン本部長が声を荒らげた王族を諭すように言う。
(むむ、エクストラモードへの変更はないのか)
エクストラモードへのモード変更ではなかった。
あくまでも転職による星の数の変更のようだ。
「アレンってまとめるの上手いわね。目の前に書かれているのより分かりやすいわ」
記録が終わり、あれこれ考えているとセシルがアレンの魔導書をのぞき込む。
「うおおおお、分かりやすい」
(クレナは本当か? 後で理解しているか確認してあげるからね)
セシルはともかくクレナが理解できたと思えない。
転職ダンジョンについての話は以上のようだ。
その後、5大陸同盟は支援物資の配分、学園都市の運営などもろもろの話に移行した。
(ふむ、アルバハル獣王国で起きた内乱にはわざわざ触れないと。まあ、ギアムート帝国の皇帝も痛いところつかれたくないだろうしな)
重大議題として予定していたアルバハル獣王国についての話はないようだ。
アルバハル獣王国で内乱が起きたところから、今回の緊急5大陸同盟の会議をする運びとなった。
しかし、内乱自体はベクの死亡という形で既に周知のとおりのようだ。
皇帝レガルファラース5世なら、魔王軍がどのようにアルバハル獣王国の元獣王太子と関与したのか、普段なら責めてくること間違いなしだ。
しかし、ギアムート帝国から魔王が誕生した可能性が多いにあることから無用に突っ込んだ話はしないようだ。
前線となっているギアムート帝国への物資の補給の話になっているのに黙り込んでいる。
補給物資の細かい話を聞いていてもしょうがないので、転職ダンジョン追加にあった転職ポイントについて意識を向け直す。
アレンは転職ポイントが冒険者証に登録されると魔導板に書いてある。
自らが持つ「S」と表示された冒険者証を確認する。
「ん? 24ポイントだと?」
Sの表示に意識を向けると数字の24が表示に変わった。
ランクと転職ポイントの数字の切り替えが可能になったようだ。
転職ポイントが24ポイント溜まっている。
(確かこれまで倒した魔神と上位魔神で、転職ポイントは31ポイントだよな)
・魔神レーゼル
・魔神リカオロン
・ムハリノ砂漠ルコアックのオアシスにいた魔神
・カルロネア共和国首都ミトパイにいた魔神
・魔神教皇
・上位魔神グシャラ
・中央大陸とローゼンヘイムにいた魔神2体
・帝都パトランタ北部魔神13体
・シノロムの研究所魔神1体
・上位魔神ラモンハモン
魔導書のメモ帳を確認すると、魔神21体、上位魔神2体倒した記録がある。
全部で31ポイント溜まっているはずだ。
もしかしてとアレンはペロムスに自らの冒険者証を確認するように言う。
「ん? あれ? 僕の冒険者証に1ポイントってあるよ」
なお、ペロムスはアレン軍の協力によりA級ダンジョンを攻略しまくったため、Aランクの冒険者となっている。
「なるほど。ベクとペロムスが協力して戦った魔神はペロムスのポイントということだな。あとは勇者にポイントがいったということか」
ヘルミオスの冒険者証を確認すると8ポイントとある。
2ポイントについてはアレンたちと出会う前に倒した魔神のポイントだろう。
・アレン24ポイント
・勇者ヘルミオス8ポイント(内魔神2体はアレンと出会う前に討伐)
・ペロムス1ポイント
(とりあえず、星の低い仲間を優先して転職させよう。いや、ハバラクさんやララッパ団長を転職させ軍を強化するって選択肢もあるか。時間にも制限があるし悩みどころだな)
10ポイント使えば、ハバラクはオリハルコンを錬金することができるようになる。
神器カグツチを除いて、オリハルコンは最強の武器と防具の素材なので更なる強化をしたいところだ。
会議の議題も終わりそろそろかと思った。
会議は細かい外交の話もするので、とにかく長い。
アレンは、会議が終わって誰を転職するか議論をしたい。
さっさと終われと思っていたところだ。
情報の共有にも使っていた魔導板の文字が点滅をし始める。
ザザザザザ
「ん? なんだ、どうしたと言うのだ」
黙っていた皇帝レガルファラース5世も何事だと声を上げる。
盟主たちも騒然とする中、いつも銀色の文字が出る魔導板に真っ赤な文字が現れる。
『余は世界を終わらせる魔王である』
そして、血が流れるような文字で短い文章が表示された。
「何事だ、おい。何だこれは!!」
「魔王だと!!」
「インブエル国王よ。これは何かの冗談か」
各国の代表も声を荒らげた。
「すぐに、どうなっているのか調べよ!!」
「は!」
インブエル国王の発言により、魔導板を準備した役人たちがなんとかしようとするが、どうしようもないようだ。
『愚かな人々よ。ゴミにたかる虫けらのように、その場に集まっていると聞いている』
ゆっくりと皆に読み聞かせるようにおどろおどろしい文字が変わっていく。
『安寧の時は終わったのだ。絶望がお前たちに降り注ぐだろう。どこにいてもそれは変わらない』
(ほう、これは魔導具によるハッキングか。無理やり割り込んできたとかそういうのか。ふむふむ)
アレンは魔王のメッセージを魔導書にメモしていく。
『今一度、世界を征服するため舞い戻ってきたぞ。改めて名乗ろう。余は終わりの魔王ゼルディアスだ』
「なんなのよ、こ…」
セシルの問いに答えきる前に叫ぶ者たちがいた。
「ゼルディアスだと! 今一度だと!! レガルファラースよ、これはどういうことだ!!」
獣王ムザがテーブルの対面に座るレガルファラース5世に向かって激怒して立ち上がった。
あまりの殺気ぶりにヘルミオスが自らの皇帝を守ろうと間に割って入る。
まるで憎悪の対象のように未だに消えない、魔導板の文字とレガルファラース5世を見る。
「こ、これはどういうことかの?」
ププン3世もかなり動揺している。
これは魔導板によく分からない文字が出ているからではない。
魔王の名前は、各国の代表を務める者ならだれでも聞いたことのある名前だからだ。
この世界では、恐怖帝の歴史はどこの国でも学ぶ。
しかし、中央大陸と他の大陸では、恐怖帝が行ったことへの内容も量も全く異なる。
絶望しかない圧倒的な支配を受けた歴史を学ぶのだ。
「ずっと我らは茶番に付き合ってきたということか!!」
自我を失うようにムザが発狂した。
この場にはアルバハル獣王国の行く末を知るために多くの獣人や鳥人などの人族以外が納める国家の代表が集まっている。
ムザの言葉に共鳴し、まるで長年の憎悪の対象が目の前に現れたかのような怒りようだ。
1000年前のことが今起きたかのような激怒ぶりだ。
(なるほど。とうとう魔王が本腰を入れて世界侵略をしていくという開戦の合図か)
魔王が水晶花の上で名乗ろうとする際、キュベルに確認するような仕草をしていたことを思い出す。
神界から神器を奪い邪神教を使い人々の命を集めた。
アルバハル獣王国にも内通しベクが内乱するように仕向けた。
邪神の一部を食べたので、今度は侵攻を優位にするため、5大陸同盟を混乱させる作戦なのかと推察する。
怒り狂ったムザや、ガルレシア大陸からやってきた獣王国の代表などは5大陸同盟の会議室から退席していくようだ。
アレンは、今後の対応と魔王の狙いについて頭を巡らせるのであった。
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