第72話 成長
「ぐふふ、ミスリルの剣はサクサク切れるぞ!」
今日は、アレンの休日だ。グランヴェルの街からずいぶん離れた場所で喜びの声を上げる。
先日、マーダーガルシュを街から遠ざけた褒美と、馬車にいた親子を救ったお礼として、金貨20枚を頂いた。これに貯金から金貨5枚を加えて、金貨25枚のミスリルの剣を武器屋で買った。
まだ9歳ということもあり、そこまで長くはない剣だ。ショートソードと短剣の間くらいの長さで調整をしてくれた。そのためショートソードなら金貨30枚のところ、少し安く抑えることができた。
(ふむふむ、外皮はかなり硬いから、傷をつけることはできるが突き通すことはできないと。それでも、鎧の中の外骨格ならさくさく切れるようになったな)
硬い鎧アリでミスリルの剣の試し切りをしながら、ドゴラから貰った銀貨50枚の短剣との違いを確認する。
(これで魔石を回収できるな)
以前鎧アリをしとめた時、切り出すことができなかった魔石の回収ができる。
体高3メートルになる鎧アリの上に乗る。
(相変わらず大きいな)
鎧アリを見て、何年も前から思うことがある。初めて疑問に思ったのは6歳の頃だった。
翼竜かと思うほどに大きい体長2メートルのアルバヘロンは、見た目に反してDランクと低いランクの魔獣だった。
その後も疑問が湧いてくる。
体高3メートルにもなるグレイトボアは、10年もそれを狩り、レベルがかなり上がったロダンに一撃で致命傷を与える。
グランヴェルの街にきてその疑問はさらに大きくなる。
筋肉ムキムキの狂暴なゴブリンはDランクの魔獣。体高3メートルにもなる、生半可な攻撃を受け付けない鎧アリはCランクの魔獣だ。オークも2.5メートルもあり武器を持つ強敵だ。
そして、Bランクの魔獣マーダーガルシュは、騎士たちも冒険者も二の足を踏む、強敵なんて言葉ですまない魔獣であった。討伐出来たら金貨200枚も頷ける。
(なんだろう、うまく言葉にできないな。異世界に来て、魔獣なんてここでしか見たことないけど、何か思っているより一回り強いというかそんな気がするな)
言葉にできないものを無理やり言葉にしようとする感覚に襲われる。
(おっといけない。今日はどうしても検証しないといけないことがあったんだ。マーダーガルシュに追われて、せっかく気付いたことがあるんだから)
検証をしないといけないことがあるから、今日の狩りは抑えめにしようと考えている。マーダーガルシュに3日3晩追い回されて、検証したいことを発見した。
アレンは空を見上げる。鳥Eの召喚獣が何体も回るように上空を飛んでいる。今まで魔獣や冒険者を発見したら知らせるように伝えていたが、マーダーガルシュを発見してもすぐに伝えるように指示をしている。マーダーガルシュが白竜の麓からどこに行ったか分からないからだ。狩りをしている際にまた襲ってくる可能性がある。
そのマーダーガルシュであるが、基本的に村や街は襲わないということ。あくまでも街道などのフィールド上に現れる魔獣とレイブンから聞いた。これを聞いて、何かゲームで弱い敵しかいないところに突然現れる通常ボスだなと思った。
前世でやったゲーム中の通常ボスとは、イベントやストーリーとは無関係に、フィールドに点在しているボスのことだ。倒してもまた現れる。弱い敵しかいないところに突然現れて、まだ成長しきれていないプレイヤーを倒してしまうという、作成スタッフの遊び心によって生まれた敵だ。
アレンは上空を飛ぶ鳥Eの召喚獣を見る。
(ホークたち、2体降りてきて。1体は5分ほど遠くに行ってからここに戻ってきて)
2体の鳥Eの召喚獣が降りてくる。アレンは2体のうち1体の召喚獣をカードに戻して握る。1体のホークが指示を受けてアレンの上空から離れどこかに飛んでいく。
アレンは実験を始める。
(ホーク、これを見てて)
カードに戻していない鳥Eの召喚獣の前で、収納から麻袋を取り出し、袋に何もないことをアピールする。そして、モルモの実を1個収納から取り出し、麻袋に入れる。
麻袋を地面に置き、その麻袋の前に、モルモの実、干し肉、干し芋を置いていく。
(さあホーク、どれが麻袋に入っているか分かる? 嘴で選んで)
すると、目の前でモルモの実を入れるところを見ていた鳥Eの召喚獣は、容易にモルモの実を選択する。
(よし、分かったな。さて、ホーク出てこい。どれがこの麻袋の中に入っているか当てるんだ。勘で当てたら駄目だよ。分からないときは選ばないで)
モルモの実を麻袋に入れた時、カードになっていた鳥Eの召喚獣を召喚する。その召喚獣に麻袋に入っている物を当てさせる。
すると、カードになっていた鳥Eの召喚獣は、モルモの実を麻袋に入れるところを見ていないが、容易にモルモの実を嘴で選ぶ。
(やはり分かるのか)
検証結果は今のところアレンの予想通りだ。
そうこうしているうちに、5分ほど遠くに行かせていた鳥Eの召喚獣が、アレンのもとに戻ってくる。
(降りてきて)
遠くに行っていた鳥Eの召喚獣を地面に降ろす。同じように麻袋に何が入っているか当てさせる。
(この3つの中のどれが入っているか当ててみて。分からなかったら首を振って)
すると遠くに行っていた鳥Eの召喚獣は、首を振った。分からないようだ。
(よしよし、分からないと。次は生成と)
魔石を1つ使い鳥Eの召喚獣を生成し、召喚する。話を理解できるように強化で知力を上げ、同じように麻袋の中に何が入っているか当てさせる。
すると、モルモの実を容易に選択する。
(やはり、新しく生成した召喚獣も中に何が入っているか分かるか。次にポッポ出てこい)
鳥Fの召喚獣を召喚する。強化で知力を上げ、同じように何が入っているか当てさせる。
同じように新しく生成した鳥Eとは異なり首を振った。分からないようだ。
(やはりそうか、分からないか。マーダーガルシュに追われることにも意味があったんだな)
アレンは寝る暇もなく、追われ続けた。その際に、鳥Eの召喚獣の特技鷹の目を使い、マーダーガルシュの位置を捕捉しながら行動をしてきた。マーダーガルシュにも知能があるのか、アレンのもとに戻る鳥Eの召喚獣目掛けて迫ってくるようになった。
鬼ごっこの鬼役であるマーダーガルシュは、なんとしてでもアレンを発見しようと執念深く注力したのだ。
そこで苦肉の策で、鳥Eの召喚獣がマーダーガルシュを発見してもアレンのもとには戻さないことにした。新たに生成した鳥Eの召喚獣にマーダーガルシュの位置を確認させたところ、その位置を知っているかのように迷わず飛び立ったので気づいた。命を懸けた鬼ごっこは、その対価に金貨以外にも大きな発見をもたらした。
驚いたアレンはここから、召喚獣の知識や情報はどのように繋がっているのか。何と繋がっているのか検証する必要があると感じた。
(さて、今やった実験を整理するか)
モルモの実を麻袋に入れる様子をある鳥Eの召喚獣に見せた。それとは異なる召喚獣で、モルモの実が麻袋に入っていることを分かる条件、分からない条件で整理する。
モルモの実が分かる条件
・カードになった鳥Eの召喚獣を召喚した
・新しく生成した鳥Eの召喚獣
モルモの実が分からない条件
・カードになっていない鳥Eの召喚獣
・新しく生成した鳥Fの召喚獣
(こういうことじゃないのかな)
考察を進める
・召喚獣が経験した情報は、生成した際に全て同期し更新される
・情報の同期と更新が行われるのは、同じ召喚獣に限られる
(これは50メートルルールがなければもっと便利になるんだけど)
50メートルルール
・召喚及びカード化できるのは、アレンから50メートルの範囲内
・特技の指示もアレンから50メートルの範囲内
アレンの指示を待つ鳥Eの召喚獣を見る。
(お前たち召喚獣は常に成長する存在なんだな。召喚士と共に歩み、その情報の全てを蓄え成長を続ける存在であると)
召喚獣は自我があり、知識は絶えず更新をし続ける。召喚士がいる限り、死すら超越し成長する召喚獣であることが分かったのだ。
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