第491話 過去に交わされた契約

 クレナのスキル「超突撃」によって、メガデスは大きな一撃を受ける。

 メガデスの体力はスキル「覇王剣」とスキル「真鳳凰剣」によって随分削られたため、倒すには十分な一発であった。


 ズウウウン


 メガデスが地響きを立てながら、背中から大の字になって倒れる。


 クレナとハク、そして途中から飛び込みで参加した調停神によって倒すことができた。

 巨大な扉が少し離れたところに出現し、仲間たちがクレナたちの元に駆けつけてくる。


「長い戦いお疲れさまでしたわ。やりましたわね」


「えへへ、ハクも頑張った!!」


『ギャウ!!』


 胸を張るクレナをマネして、ハクも首をのけ反るように大きく胸を張った。


「流石だな。メガデスに悟られないよう、何順も形態変化をしている中、我慢強く待ったのも良かったぞ」


 アレンもソフィーと一緒にクレナの作戦を褒める。


「そうでしょ。へへ」


「ああ、調停神参加後も、いくつも戦い方を変えて狙いを分かりにくくしたとことか……」


 アレンは今回のメガデス戦を語りだした。


 アレンたちは、クレナたちの勝利を信じて観戦し続けた。

 クレナたちやメガデスがアレンたちのいる場所から随分離れる時もあったが、メガデスや調停神の会話なども聞こえていた。


 調停神の参戦の話はついていたのだが、門の中に入るのに時間が掛かってしまった。

 アクリル板の障壁に角を長時間突きつけていた時にはかなりヒヤヒヤした。

 調停神曰く「少し時間が掛かりますが必ず助力に向かいます」と、絶対に突破するという強い意気込みを感じていたため、信じることにした。

 信じた甲斐もあって、かなりピンチの時に助っ人に入ってくれた。


(それにしても、メガデスは焦ったな。戦闘経験が足りなすぎだろ)


 アレンは戦闘には「経験」がとても大切だと考える。

 あらゆる戦いを経験すれば、初めての戦闘でも攻略の糸口が見つかるものだ。


 メガデスは最後の門番をしているので、戦うので数百年とか、もしくはもっと長い数千年に一回とかだろう。


 戦う相手も竜騎士と竜がメインだ。

 限られた戦闘の中で、形態を変化させ自らを状態変化鱗で完全回復させながら、相手の補助切れやミスを待つ戦いをすると予想する。

 調停神の参戦で何やら欲を見せて判断を鈍らされたのだろう。


 クレナの狙いはアレンとしては分かりやすかったが、態々他の形態でも戦闘方法を変えてみたりと工夫していた。


 最後は、ハクが捕まえため両手を、クレナたちが本体目掛けて転移してきたため元に戻すのか判断に迷いがあったように見える。

 この辺りも、足輪が手に入るダンジョンの門番なのだから想定が足りないと感じた。


 アレンがクレナの戦術を語っていると、セシルから思わず声が出る。


「ちょっと、アレン。こういう時は褒めるだけでいいのよ」


(ん?)


 アレンは仲間を見回すと、さすがにそうだねという視線を送る。


「そうだ。クレナ。でかしたぞ! これで神界に行けるぞ!!」


「アレン、あるがとう! ハクも頑張った!!」


『ギャウ!!』


 ニコニコしながら、改めて礼を言う。

 戦闘中、心が折れかけたハクも長時間の戦いの疲れを見せない元気いっぱいの表情をしている。


『では、約束は果たされました。契約の不履行のないように』


 パカパカ


 門の中に入り、ひとしきり勝利の喜びを分かち合ったところで調停神が口を開く。

 アレンに契約の履行を念を押したあと、この場を立ち去るようだ。

 どこか、いつもより足早に見えるのは気のせいだろうか。

 門を出て、そのままいなくなってしまった。

 恐らくヘビーユーザー島に戻ったのだろうとアレンは予想する。


(調停神はもう行ってしまうのか)


 ヘビーユーザー島に居座り続ける調停神は神界には興味がないようだ。

 アレンたちが調停神の居なくなった先を見つめていると、今度は背後から気配を感じる。


『やれやれ、負けちゃったよ。やはり、時空神様のおっしゃることは正しかったと言うことかな』


 妖精竜の姿になったメガデスが戦いの結果を悔やんでいるようだ。


「時空神?」


『いや、こっちの話だよ。そうと、約束は守らないとね』


 クレナたちとの戦闘中にも時空神がどうのこうのとか言っていたような気がする。

 詳しくは説明してくれないようだ。

 時と空間を司る神から何か言われていたような口ぶりだ。


(先読みができるのか。メガデスがあまり信じていないということは、はっきりと見えないのか? メガデスに全てを伝えていないのか)


 時空を操る神が神界への道を閉ざしている。

 時を支配している神がどの程度の精度で未来を見ているのか。

 メガデスの態度から、時空神デスペラードの先見(さきみ)の力の程度をアレンは図る。


「それで、報酬をおねがいします。転職と鱗の証を頂けると言う話ですよね」


 時空神の力や未来の話に興味はあるが、今最も必要な報酬の話をアレンは進める。


『もちろんだ。神との契約は絶だ。じゃあ、まずはクレナとハクを転職させよう。ほほい』


 パアッ


「おお!!」


『ギャウ!!』


 クレナとハクが光に包まれる。


 クレナは星4つの竜騎王になった。

 ハクはランクSの次元竜となった。


(順調に成長しているな。結局、クレナの星は1つ下がってしまったけど)


 ハクという仲間が増え、仲間たちの強化も十分できた神界への挑戦だったと思う。

 オリハルコンも結構な量で手に入り、腰帯や足輪、セシルの武器や神技も手に入った。


 魔王との戦いの中で3ヵ月という結構な攻略に時間を掛けてしまった。

 費やした時間に見合った物は手に入ったので、致し方ないだろうとアレンは考える。


『これが鱗の証だよ』


 竜の鱗っぽい光る物をメガデスから頂く。

 ルークが大精霊ムートンをバヨンバヨンと揺らしながらも目を輝かせている。


「やったな。これで、神界へ行けるぞ!」


『うむ、そうだな! 我は早く神界が見たいぞ!!』


 ルークと一緒に興奮するムートンはこの状況をどれだけ待ったかと呟いている。

 皆が新たに始まろうとしている冒険と、足を踏み入れることができる神々の世界に心を躍らせる。

 ルークの頭に乗る精霊王ファーブルだけが、不安そうにメガデスを見つめている。


『……ふむ』


 メガデスがアレンを見つめている。

 どこか、アレンたちの興奮が収まることを待っているようだ。


(何だよ)


「いかがされましたか?」


『勝利に喜ぶところ申し訳ないけど、実は神界へ目指す戦いがまだ終わっていないんだ』


「まあ! 話が違いますわね……」


 ソフィーがメガデスの言葉に驚愕する。

 竜王の神殿で確かに、神官たちが試しの門を3つ攻略し証をそれぞれ手に入れ持ってくると神界に行けると言っていた。

 だから頑張って、3つの試しの門の攻略を進めてきた。


「ちょ、ちょっ……」


「どういうことでしょう」


(なんだよ。負けたからって泣きのもう1回か。切れそう)


 憤慨するセシルの言葉を遮るアレンがメガデスに言葉の真意を問う。


『言葉と通りさ。ここに来るとき聞いた話も別に間違ったことじゃないんだけど、君たちの挑戦の前に交わされた契約があってね』


 アレンたちはそれに付き合ってもらうとメガデスは言う。


「もう少し詳しく聞かせてもらえますか? 条件が飲めないとかそういう話ではなくて状況が良く分かりません」


(ほう、どういうことだ。この野郎。後だししやがって)


 憤慨する仲間たちが多い中、アレンは平静を装う。

 神とは交渉するものだと認識している。


『本来というか、時空神様が設定された神界へ行く条件は、聞いていたとおりのことだよ。だけど、君たちの前に契約をした者たちがいるんだ』


 メガデスは精霊王ファーブルに視線を移して言う。


「今回だけは特別な条件があると? 精霊王が何か契約を交わしているということですね」


『そのとおり。実は精霊王ファーブルと竜王マティルドーラが前回の戦いで命ごいをしてね』


 事情を説明してくれるようだ。


 2000年前、試しの門の門番を務めるメガデスとの戦いで敗れる際、精霊王と竜王が命乞いをした。

 精霊王は、ここで私が死ぬわけにはいかない。

 ダークエルフの未来のためにも、まだやるべきことがある。


「聞き入ってくださったと言うことですね」


『そう。時空神様は寛大なお方なのだ。竜王と精霊王にそれぞれ条件をかけて、命を救ってあげたのさ』


「その条件、聞いてもよろしいですか?」


『そうだね。精霊王には、門番を挑戦する者を連れてきたら助けてあげるといったのさ』


 竜王には、門番を倒し審判の門を望む相手と戦い勝てば、神界に連れていくと言った。


「だとしたら何故沈黙させたのでしょうか」


 メガデスの説明の矛盾にアレンは気付く。


 実際にアレンたちが精霊王を連れてくると言われる門番を倒し、審判の門を望む者たちだったのだろう。

 だが、それなら精霊王の口を塞ぐことはない。


 審判の門に関するあらゆることを精霊王は過去の経緯も含めて語れないようだ。

 これでどうやって、審判の門を目指せと言うのか。


『時空神様が決めたことだからね。だけど、その結果上手くいったのかもしれないね』


(ん? なるほど、帝都パトランタに行く前に試しの門を望むという未来もあったのか)


 どの程度か知らないが時空神の未来予知ができるようだ。


 ルークを仲間にしたのは、ヘビーユーザー島を手に入れたあたりだ。

 まだ、クレナはプロスティア帝国での魔王軍との戦いで調停神にエクストラモードにしてもらう前の状態だ。


 誰よりも力を望むアレンが審判の門の情報を聞きつけたらなら、確実に目指していただろう。


 もしくは、この2000年の間に、精霊王が別の挑戦者を探すことによる弊害もあったのかもしれない。


 精霊王の沈黙が結果は結果的に、今の状況を生んでいる。


「アレン、どうするのよ。竜王と戦うの?」


 セシルはアレンの決断を待つ。


「ん~。ちなみに戦わないという選択は?」


 利益のない戦いに価値はないとアレンは考える。


『もちろんないよ。これは契約なんだ。黙っていてすまないけど、これが今回審判の門を越える条件だと思っていてくれよ』


(ほう、条件と言ったな)


 アレンの中に悪い事が思い浮かぶ。


「竜王は最後の門番ということですね。クレナたちは時空神様のお与えになった試練がまだあると」


 審判の門の前に立ちふさがり戦わないといけないなら、それはもう門番だ。


『……。その言い方はどうかと思うけど、まあ、そうなるね』


 何か棘のある言い方だが、アレンの言葉は間違っていないとメガデスは同意する。


「では、謹んでお受けさせていただきます。時空神様も懐が深い」


『懐? えっと、何を言っているのかな?』


「私たちは魔王に勝つため、力が必要です。そんな私たちのために新たな門番を用意した……。ということですね」


『……ん?』


 門番はちょっと何を言っているのか分からなかった。


「クレナとハクには門番を倒した暁には、新たな報酬を頂けるとは……」


 アレンが感謝のあまり目を両手で覆うフリをする。

 メガデスは門の攻略をする際、たしかに門番を倒したら報酬が貰えると言った。


『え!? いや、それは、ちょっと!!』


「メガデス様、いかがされましたか?」


 アレンが真顔になってどうしたのか問う。

 アレンの仲間たちが始まったなと静観している。

 メガデスは報酬なんて用意していなかったようだ。

 しかし、アレンの言葉を否定することもできないでいる。


『ちょっと、待ってね。時空神様にお伺いを立てるから』


 メガデスはその場に浮いたまま固まってしまった。


「ほよ、私たち、まだ強くなれるの?」


「そうだ。せっかくだから、もっと強くなろう。ハクもな」


『ギャウ!』


 後だし条件でイラっとはしたが、悪い話ではないとアレンは考えている。

 剣帝の星5つから、竜騎王の星4つにクレナの星の数は1つ減った結果となった。

 魔王との戦いに備えて条件は多い方が良い。


『ぬう、神界はまだ先なのか』


「クレナたちなら問題ないだろ。だって、メガデスをやっつけたんだしな」


『そうであるな』


 夢にまで見た神界にまだいけないと分かり、ムートンは若干残念そうだ。


(そう。メガデスに敗れた竜王と戦うってことだろ。油断は大敵だが、勝率は高いとみた)


 アレンがメガデスの話を飲んだのは、クレナの勝率と門番を倒したときに得られる報酬を勘案しての結果だ。


『ふう、時空神様は構わないとさ。やれやれだと……』


「時空神様の御心の深さ感謝の言葉もありません。ああ、後聞きたいことがあって……」


 アレンは更なる条件がないか問いをメガデスにぶつける。

 竜王との戦いの条件とかも聞いておきたい。


 こうして、クレナとハクはメガデスに勝利したのだが、神界へ行くため最後の戦いを望むことになったのであった。



あとがき―――――――――――――――――――――――――――――――――

本日及び3連休は毎日更新します


書籍5巻、コミック3巻発売中です

どうしても重版したいですm(_ _)m

購入報告もお待ちしています

早々に報告された方、本当にありがとうございます


コミカライズ版ヘルモード新話は神回なのでぜひ読んでください

⇒https://www.comic-earthstar.jp/detail/hellmode/


申し訳ありませんが、毎日更新に全力を出すため、先行配信は一時中止します

(*- -)(*_ _)ペコリ

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