第492話 竜王戦①

 クレナたちがメガデスから勝利して12日が過ぎた。

 急遽、竜王と戦わないといけないことになり、準備が必要だった。


 魔王軍の拠点を破壊しつくした結果、レベル上げ用の魔神たちは中央大陸にはいない。

 こんなことなら魔神を半分くらい残しておいた方が良かったのだが、それは結果論だ。


 魔王軍拠点強襲作戦はスピードが命だ。

 途中で作戦を止めると、敵陣の作戦を考える時間を与えることになる。

 その結果、味方に無駄な犠牲が出るかもしれない。


 結果、クレナたちをS級ダンジョンでレベル上げをするだけに留めることにした。

 クレナとハクはレベル90までレベルを上げ、ステータスはメガデスと戦うより高くなっている。


・クレナとハクのステータス簡略版

 【名 前】 クレナ

 【年 齢】 16

 【職 業】 竜騎王

 【加 護】 調停神(中)

 【レベル】 90

 【体 力】 9656+9600(真竜心)+12000(真豪傑)

 【魔 力】 5531+4800+12000

 【攻撃力】 11188+9600+12000

 【耐久力】 7362+9600+12000

 【素早さ】 9401+9600+12000

 【知 力】 4850+4800+6000

 【幸 運】 6619+9600+12000

 【スキル】 竜騎王〈6〉、真騎竜〈6〉、真烈檄〈6〉、真竜星剣〈6〉、真竜王牙〈6〉、真竜心〈2〉、真斬撃〈7〉、真鳳凰破〈7〉、真快癒剣〈7〉、真覇王剣〈7〉、真豪傑〈2〉、限界突破〈6〉、超突撃(限)〈6〉、剣術〈7〉


 【名 前】 ハク

 【種 族】 次元竜

 【形 態】 幼体

 【ランク】 S

 【レベル】 90

 【体 力】 30623+40000(竜心)

 【魔 力】 22423+40000

 【攻撃力】 38823+40000

 【耐久力】 30628+40000

 【素早さ】 38823+40000

 【知 力】 20863+40000

 【幸 運】 20874+40000

 【特 技】 次元の息、煌めく息、業火の息、かみ砕く、切り裂く、踏みつぶす、気配察知〈6〉、竜心〈6〉、ブレス耐性〈6〉、魔法耐性〈6〉、物理耐性〈6〉

 【覚 醒】 竜の魂


 クレナの竜騎王の職業レベルは6まで上げている。

 ステータスを増加させて竜王との戦いに備えるためだ。

 クレナは強くなったが、Sランクになったハクの成長がとんでもないことになっている。


 あらゆるブレスと魔法に耐性を持ち、ステータスは魔神どころか上位魔神を超越している。

 幼体でこの強さだ。

 また、召喚獣と同じく覚醒スキルを獲得した。


「ハク、危ないから『竜の魂(ドラゴンビート)』は使ったら駄目だよ」


『ギャウ!』


 クレナの言葉にハクは力強く返事をした。

 試しにS級ダンジョンで使ってみたのだが、ハクは制御できず大変なことになった。


 準備が整ったので、竜王の神殿に向かうことにした。

 アレンたちは、竜神の里のグルグルとした半島の先端付近にいる。

 今日は神界を目指す大事な日なので、ドゴラはシアも含めたアレンのパーティー全員がいる。

 竜王のいる神殿の敷地の前に設けられた門の前で、竜王の使いが門の前に佇んでいた。


「お待ちしておりました。竜王様がお待ちです」


「ありがとうございます。ご案内お願いしますね」


『ギャウ!』


 ハクもふんすと意気込んでアレンたちの後ろ歩いている。


 竜王の使いの後ろをついていくことほどなくすると、神殿が見えてくる。

 階段を上がった先の床には等間隔で柱が並ぶ。

 天井の高さは、Aランクの竜であっても余裕で建物内を飛ぶことができる。


 この2000年ほどの間、竜王は門を攻略する挑戦者を待っていたことになる。

 竜王は今回の戦いのために2000年間、台座の上から動けなかったとメガデスから聞いた。


 竜王の使いについていくと、神殿の前には数千に達する竜人たちがいた。

 皆、一様に武装をしており、竜王の使いの神兵のようだ。


「申し訳ございませんが、この先にお待ちの竜王マティルドーラ様には、竜とその乗り手であるハク様とクレナ様のみお会いになります」


 竜王の使いはここから先、神殿に入り竜王と戦うのは、クレナとハクのみだと言う。


「え? いや、しかし……」


 アレンは知っていたが、動揺して見せる。


「ご理解ください。我ら竜王に仕える者も、この神殿の中に誰一人おりません」


 神兵や神官だけでなく、神殿には今誰もいないと竜王の使いは言う。

 だから、竜王の手助けはしないので、クレナとハクだけが神殿に入るよう改めて言う。


「……はあ、そうですか。仕方ないですね。クレナとハク、しっかりな」


 アレンはここで待っているぞと言う。


「うん!!」


『ギャウ!』


 アレンが思いのほか、粘らなかったため安堵した神兵も多かったようだ。

 彼ら神兵たちはここでアレンたちと戦ってでも、竜王の戦いにクレナとハクのみ参加させるつもりでいたからだ。


 メガデスから竜王と戦うと聞かされたときから、竜王の神殿には鳥Fの召喚獣を待機させていた。

 この神殿は守りに重きを置いていないので、竜が至る所から侵入できるほどガラガラだ。

 メガデスから、クレナとハクがこれから向かうと竜王に伝えている場面も耳にしている。


 竜王はメガデスの話を受けて、神官も神兵も神殿から出ていくように言った。

 この神殿はこれから激しい戦いの場となるからだ。

 1人の高位の神官が神兵を柱の陰などに隠れて様子を見て、助力しましょうかと提案していた。

 竜王は「ふざけたことを言うな」と高位の神官を鼻息で吹き飛ばしていた。


 気配察知にも優れているのか、竜王はアレンの鳥系統の召喚獣にも気付いているように思える。

 しかし、対処することなく台座に座っている。


 クレナたちはハクと共に、竜王の神殿をまっすぐと歩いていく。

 柱が並ぶこの神殿はシンプルな構造になっているため、まっすぐ進めば、竜王のいる大広間にたどり着く。


 大広間に入り、まっすぐと進むが、竜王が台座の上にいた。

 体格が大きすぎるのか、台座が小さいのか、首が台座からはみ出て床に顔が付いてしまっている。


 その後ろには竜が描かれた巨大な審判の門が見える。

 クレナたちがずんずんと進んでいくと、竜王はゆっくりと首を上げ、クレナたちを見た。


『とうとう来たか。待っておったぞ。クレナとハクよ』


「……うん」


 天井近くの柱の飾りに留まり、羽を休めた鳥Fの召喚獣が見つめる中、竜王とクレナたちの会話が始まった。


『今から戦うと言うのに……。なんだ、その表情は。何故、我を哀れに見る』


「私たちは強くならないといけない。だから、この門を通らないといけない」


 どんな事情があったとはいえ、どれだけの時をこの台座の上に座っていたとはいえ、私たちは負けるわけにはいかないとクレナは言った。


 クレナには強くならないといけない理由があった。


 生まれてから剣を振るうことが好きだった。

 隣に住んでいるアレンと出会い、ドゴラが騎士ごっこに付き合ってくれるようになった。

 学園生活は仲間に囲まれ、皆で攻略したダンジョンも、拠点での共同生活も楽しかった。


 ずっと楽しい日々が続いていけばいいのにと思った。


 しかし、アレンから魔王について聞く。

 セシルは大切な兄を魔王軍に殺されてしまっていた。


 ローゼンヘイムの侵攻をクレナは目の当たりにしてきた。

 避難民が押し寄せたティアモの街の悲惨さは今でも思い出す。

 ローゼンヘイムの街では、エルフの子供たちが家族を探して大声で叫び泣いていた。

 家族を失い、自らもけがを負い、未来に絶望し、ただうつむいたままの人たちも大勢いる。


 やっとの思いで魔神レーゼルを倒しても、まだ終わらない。

 魔王軍が邪神教を広め、何百万という多くの人々の命を奪った。

 魔神キュベルの話では、全ては計画の一部、作戦の一環だと言う。

 とても軽い口調で語るキュベルに強い怒りを感じる。


 シアの兄の騒動で海底に行った。

 とても深い海の底にあるプロスティア帝国にまで魔王軍がやってくる。


 ひどい戦いは終わらせないといけない。

 強くならないといけない理由があることを知った。

 神界に行けばもっと強くなれるかもしれない。


 目の前には老いた1体の竜がいる。

 どうして、神界をこの竜は目指すのだろう。

 今この場に来ても、竜王から自分に対する視線に怒りも憎しみも感じられない。

 もしかして、大事な理由があるのかもしれない。


 クレナの中で、初めて剣を振るうことに葛藤が生まれる

 自分が勝たないといけない。

 仲間たちが自分を強くしてくれた。

 守りたい人たちが大勢いる。


 葛藤を振り切るように戦う理由を口にした。


『……同情しても我が手を緩めると思うでないぞ』


 葛藤を振り切るように竜王はクレナを諫める。


 パタパタッ


 クレナと竜王の視線が交差する中、虹色の虫のような羽を背中に生やした小さな竜がやってくる。


『クレナとハクももやってきたね。じゃあ、最後の戦いを始めようか。神界へいけるのはどっちだろうね』


 顔つきのためにそう見えるのか、にやけた顔をしている。


「私たちが行く」


『ギャウ!』


 クレナの改めた決意にハクも力強く反応する。


『じゃあ、この前も言っていたように、ハクには乗り手であるクレナがいる。これじゃ、公平じゃないよね』


 メガデスが、アレンたちに竜王との戦いの詳細を語った時のことを改めて口にする。


 竜王は1体で戦うのに、乗り手と竜が揃ったクレナとハクでは不公平という理屈だ。


『じゃあ、契約どおりアステルを再現しよう』


 メガデスはそう言うと、メガデスの体全身から魔力が光り輝きあふれ出す。

 1つの魔法陣が床に生じ、1人の竜人の男が光の中から生じる。


「こ、これは?」


 何が起きたのだが竜人にして英雄のアステルは困惑気味だ。


『アステルよ。ここは、君が死んで2000年後の世界だ。これから竜とその乗り手と戦ってもらう』


「え? メガデス様、どういうことでしょうか。っていうか、マティルよぼよぼじゃないか」


『そうだ。我はこの時を待っていたのだ。アステルよ』


 竜王はクレナに見せるとは違う優しい視線をアステルに向けた。


 メガデスは事の経緯を説明し始めた。

 困惑していたアステルはだんだん理解を進めていく。

 アステルに状況を説明するのに時間が掛かると、メガデスから聞いていた。

 クレナたちは成り行きを見守ることにする。


「なるほど、それで僕は蘇ったのか」


『いや、蘇っていないよ。君は時空神様の御力でその魂と肉体を死ぬ直前の状態で留めただけのことさ』


 蘇らせたのとは違うと念を押す。


「そうなのか。今の話だと、何か気が引けるね。これじゃあ、彼女らの頑張りが報われないよ?」


 門を越えることのできなかった自分らが、新たな挑戦者と戦う。

 これで勝ったなら、彼女らの頑張りは何だったのか。


『アステル。お前は相変わらず優しい。だが、我らの夢はどうしたのか。まだ見ぬ世界を共に見ようと言ったではないか。それにこの門を越えるために多くの血を流したのだ』


 そのために時空神は竜王の願いを聞き受けてくれたと言う。

 合わせて万を超える竜人とダークエルフの命に報いるためにも、悲願は達成しないといけないと竜王はアステルを説き伏せる。


 話を聞いていてクレナはアステルの優しさを感じる。

 どこか態度や雰囲気が勇者ヘルミオスにも似ている

 英雄とはそういう存在なのか。


「……たしかにそうだね。それで、メガデス様、勝利の条件は何でしょうか」


 アステルにとって大事な問いのようだ。


『条件は殺すなどの戦闘不能にする。もしくは降参させるかだね』


「そうか、なるほど」


 勝利条件を聞いた後、アステルはメガデスから竜王に視線を移す。

 問題ないと竜王は強く頷いた。


「メガデスさん」


『なんだい?』


 クレナからも改めて確認したいことがあった。


「竜王とファーブルに課せられた決まりはこの戦いで、どっちが勝ってもなくなるでいいんだよね?」


 クレナは制約から解放されるのか改めて確認する。


『もちろんだ。どっちが勝ってもなくなるよ』


 その言葉に一瞬クレナは笑顔になった。


「まるで、勝つことが前提みたいだね。僕らは強いよ。覚悟すると言い」


『そうだ。クレナとやら。貴様は貴様と竜の心配だけをしているのだ』


 クレナがまるで自分らが勝つみたいな言い方に、アステルと竜王がけん制を入れる。


「私たちは負けない」


 クレナは大剣を肩から引き抜く。

 アステルも自らの槍を背中から抜いた。


 また、アステルもメガデス戦までに手に入れた武器と防具、装飾品を装備している。

 武器と防具はオリハルコンの輝きをしている。


 竜王は2000年ぶりに台座から前足を出して床に付ける。

 アステルを自らの背に乗せるためだ。


 竜王の下げた首からアステルが軽快に飛び乗り手綱を握る。

 竜王は本気を出し巨大化したメガデスほどの大きさをしている。

 クレナも同じくハクの背に乗り、手綱を片手で握る。

 メガデスが巻き込まれないよう、ゆっくりと距離を取る。


「ハク、行くよ。勝って神界に行くんだ。限界突破(アンリミテッド)!!」


 クレナはスキル「限界突破」を発動させる。


『ギャウ!!』


 興奮しすぎ次元竜となったハクの口からブレスが漏れる。


 竜王相手にハクが宙に浮いたところで戦いが始まった。

 ハクがメガデス戦のように巨大な竜王の周りを旋回する。


『ふん、どこにいようが同じこと』


 竜王は背中に目でも付いているかのように、振り向くこともなく長い尾でハクたちを払い落とそうとした。

 Sランクに達したハクには素早さは竜王の尾の速度を圧倒し、寸前で躱した。


 躱したまま、クレナを乗せたままハクは竜王の首元へ一気に距離を詰める。


「うりゃあああああ!!」


 クレナもハクの移動に攻撃を合わせ、アステルに切りかかる。


「んぐ!!」


 アステルはクレナの一撃を槍で受けるものの、あまりの攻撃力に一瞬顔が引きつる。


『ガハ!?』


 そして、ハクも竜王の首元を蹴り上げ、アステルごと台座の上から吹き飛ばした。

 何度かバウンドしながら、竜王とアステルは柱に勢いよくぶつかる。

 神殿全体が揺れるほどの地響きが轟く。


 クレナたちが追撃せず、台座の上で様子を見る中、竜王が態勢を立て直す。


「さすが、試しの門を攻略した竜とその乗り手だね。このままじゃ勝てないよ」


 アステルはどこか余裕ありげにクレナたちの攻撃を称える。


『そうだな。先輩として我らの神髄を見せるとしようか』


「ああ、共に神界へ行こう」


 竜王とアステルは一言二言会話をしながらも、体全体に魔力を溢れさせていく。

 そして、竜王は翼を広げ、首を上げ、大きく吠えるように叫んだ。


『アルティメット・ドラゴン・ロード!!!』


 体の周りに光が生じ、魔法陣の中に竜王は包まれる。

 竜王の背に乗るアステルも同じように叫ぶ。


『アルティメット・ドラゴン・ライダー!!!』


 竜王とアステルは神技を発動させた。

 神界行きを賭けたクレナたちと竜王たちとの戦いは続いていくのであった。



あとがき―――――――――――――――――――――――――――――――――

本日及び3連休は毎日更新します

明日火曜日の更新もあります


書籍5巻、コミック3巻発売中です

どうしても重版したいですm(_ _)m

何卒、ハム男の執筆活動をご支援いただけたらと思います。


申し訳ありませんが、毎日更新に全力を出すため、先行配信は一時中止します

(*- -)(*_ _)ペコリ

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る